ワープワーヴのロープは直径最大5メートル。
小さいように思えるかもしれないが、今ここにいる6人くらいの男性ならば一気に跳ばすことが出来る。
この場に残るのは、転々寺さんと《ヒーリングハンズ》ともう1人のサイドキックのみだ。
「保須市中心街に跳ぶ。そこからの行動は事前連絡通り、分壊ヒーロー《ブレイカー》の指示に従うこと!!」
他のサイドキックに再び指示を出している中に、ブレイカーと振武もいた。
ブレイカーはもうマスクをつけている。もっとも外付けで取り付けられていた声を変える機械は外しているので、その声は少しこもったように聞こえるだけで壊の声だと分かる
「位置情報の確認は?」
「済ませてある。転……ワープワーヴさんが飛ばしてくれる場所から、ちょっと距離があるけど、ルートも確認した」
ここの全員を、敵が現在暴れている3つの場所から出来るだけ近い中間点に転移させられる。本当ならば近い場所に自分だけでも先に転移させてもらおうと思ったのだが、振武は今ワープワーヴの元で研修を受けている学生の身分。
『プロと一緒に現場に急行したまたま戦闘をしてしまった』という建前を守らないければいけない、最初の数分であれ数秒あれ、転移に付き合わなければいけないのだ。
「そうか……振武、やっぱり、」
「今の俺は《ヘルツアーツ》だよ、《ブレイカー》」
離れるのはやめないか。
そう言おうとしたブレイカーを、振武は止める。
「俺は、友達を救けに行く……大丈夫、無事に帰ってくる。
それが出来なきゃ、俺の目指すヒーローになんかなれない」
与えられた位置情報にいるのは、恐らく飯田、緑谷、焦凍の3人。
どこまで彼らが怪我をしていないかで、一緒に逃げれるかが決まる。戦っている相手が脳無であれステインであれ、あの3人ならば逃げれなくなる程の重傷は負っていない……と信じたいが、行ってみないと分からない。
だが、今回は逃げる前提。
「……そうか。
《ヘルツアーツ》、僕は他人を信頼するのに慣れていない。人は裏切るし、簡単に死んでしまう。
でも今回は、君の流儀に従おう。現場到着後、即座の単独行動を事前に許可しておく――一緒に帰って、一緒にご飯食べよう」
心配そうな顔を掻き消そうと必死な笑顔を浮かべる父の顔が、仮面を透過して見えるように感じた。それに、振武は笑みを濃くする。
「うん……饂飩とかが良いなぁ」
そう言うと、今度はブレイカーが笑った。
「あはは、実は帰った時に食べさせてあげたいと思って、準備はしてあるんだ。手作り饂飩」
「良いな、それ。この3日ホットドッグばっかだったから、早く食べたいよ」
ようやく親子らしい会話をした。
よく考えてみれば、この三日間どころか、その前から壊とこんな風に会話する機会が減っていた。そのくだらない会話が、今の振武には少し嬉しい。
「じゃあ、俺は皆を送ったら、すぐに車で移動します。
加勢出来るかどうかは解りませんが……ブレイカー、お願いします」
「ああ、分かった」
それだけ答えるのを確認すると、ワープワーヴさんが手からロープを出し、その輪は一瞬で広がって、振武達の頭上に投げられる。
ワープというのは不思議な感覚だ。
輪を境に、一瞬で景色が塗り変わっていくのだから。あっという間という言葉の文字通り、周囲の世界は廃墟の中から街の中心部に様変わりした。
脚に力を込める。
振動が体を震わせる。
体調は――万全とは言えないが、戦える。
手があって脚がある。
俺は――、
「行け、《ヘルツアーツ》!!」
――大丈夫だ。
周囲の景色が後方に高速で流れていくのを見ながら、振武は走り出した。
仲間の元へ。
◇
振武が走り出すのを見届けてから、ブレイカーは行動を開始した。
「戦闘、拘束が出来る者とで隊を三つに分ける。
2チームはそのまま他の現場で人員をフォロー。俺の指示が無くても、臨機応変に対応しろ」
ブレイカーの言葉に、すぐに頷きやハイという力強い返事が返ってきて、あっという間にチームが出来上がっていく。
ブレイカーと彼らにはそれほど面識はない。そもそも単独行動を基本としていたブレイカーにチームの指揮や集団行動を取るのは難しい。
ならばこの集団を3人チーム2つに分け、自分は更に単独で1現場に向かう。
……人間、すぐに変わる事は出来ない。連携が取れないメンバーと行けばどんな問題が発生するか分からないのだ。自分は距離を置いた方が良い。
「俺は単独で動く。何か問題があればすぐに連絡しろ、駆けつける。
では、皆無事に帰ってこい――散開!」
――ごめん、振武。今のお父さんにはこれが精一杯だ。
心の中で息子に謝罪しながら、チームが目的地に走り出したのを確認してから、自分も1番近くで暴れている敵の元に走った。
フレイムヒーロー《エンデヴァー》は見ず知らずの老人ヒーローと共に戦っていた。
ひょろっとした体格の脳無。通常の贅力ではなく、舌をまるで大きな木のように枝分かれしさせ攻撃し、エンデヴァーの炎を吸収・放出する個性すらも持っている。
「ザコ個性などいくら寄り集めた所で大した事はないな」
炎を滾らせながら、エンデヴァーは笑みを浮かべる。
最近の自分には嫌なことが多く起こっている。
息子が雄英体育祭で敗れ、3位入賞。しかも相手は自分が嫌いな女と自分の手を取りもしなかった自称親友の息子。おまけにアイツは未だに自分を見ようともしない。
苛立つ感情をそのまま炎に変えて敵にぶつける。
ダメージは確かに受けている。だが同じくらい吸収もしている。攻撃すればするだけ相手に武器を与えているようなものだ。
しかしそれでも、エンデヴァーの不敵な笑みは崩れない。
「消えろ、ザコ個「ごめん、炎司。肩借りる」――なっ!?」
最大火力を放とう。そう思い口を開いたのに、聞き慣れた声がした。それを頭の中で整理出来る前に、エンデヴァーの肩に軽い衝撃が走る。
飛び上がったのは、黒いコスチュームに、半分泣いて半分笑っているというふざけた仮面の男。自分の苛立ちの元凶、友だと嘯く男。
分壊ヒーロー《ブレイカー》の姿がそこにはあった。
脳無はすぐにそれに反応した。
一瞬で体が盛り上がり、その贅力が上がったことを示す。木のように分割された舌は、まるでタコの触手のような柔軟性を持ち合わせている。何十本ものそれがブレイカーを襲う。。
勝てる。
自我の薄い脳無ですら確信する。回避出来ない空中での攻撃。
だが、それはブレイカーの足場にしかならない。
トンッ、という軽い足音を立て、攻撃として振るわれた舌の上を跳躍し、脳無の顔に手を届かせた。
届けば良い。
この両手が届く範囲は、
「――壊れろ、
ブレイカーの
彼の手に触れた場所を中心に、まるで蜘蛛の巣のような裂傷が脳無の体を駆け巡る。傷口は派手だが、死に至るものではない。
ただ動けなくさせるだけの攻撃。
それを一撃放っただけで、脳無は四つある目を同時に白目に変え、倒れた。
呆気ない倒し方。
まるで児戯の様にそれをこなしてから、
「やあ、炎司、奇遇だね。君が保須まで出張しているとは思っていなかったよ」
ブレイカーは出来るだけ明るい声で、呆然とするエンデヴァーに話しかける。
何故ここにいるのか。
何をしているのか。
そういう疑問がエンデヴァーの頭の中に浮かび上がっては消え、最終的に、
「フンッ!!!!」
とりあえず炎を放った。
「アツツツ!! ちょ、炎司!! 敵はもう倒したからもう炎いらないってっ」
下手をしたら敵どころか自分すら焼き尽くしそうな炎を分壊しながら叫ぶブレイカーに、エンデヴァーは怒鳴る。
「ふざけるなこのど阿呆!! よくも俺の前にノコノコやって来れたな!!」
「え、もしかして体育祭の件? いや、ごめん、あれにはちょっと事情が、」
「あったとしても知るか!! そもそもその事情があったとしても俺に話さんだろう貴様!!」
「そりゃあそうかもしれないけど、ちょっと僕も色々あって反省しているんだって!」
「反省だとぉ? 何を反省したというのだ!?」
「えぇっと、もっと炎司に頼れば良かったなぁとか、」
「イマサラ!!? 俺が散々言ってきた言葉を、しかもまた俺の関係ない所で!?」
「ご、ごめん、」
「謝罪などいらんから取り敢えず一発殴らせろ!!」
「理不尽!!」
「いい加減にしろ小僧っ子ども!!」
脇で黙って聞いていたグラントリノがブチ切れて2人に拳骨を落とした。彼の個性であるジェットでの加速も込みのその拳は、鍛えられている2人の頭にも十分ダメージを与える。
「ご、ご老体、貴様ぁ」
「いったー……って、グラントリノが何故ここに? 山梨にいらっしゃるのでは?」
グラントリノとの面識があるブレイカーがそう言うと、面倒そうに鼻を鳴らす。
「弟子から預かった子と都心で実地訓練するはずだったんだが、騒動に巻き込まれてなァ。お前は?」
「似たようなもの、と思って頂ければ……でも、貴方がいてくださるならば心強い」
グラントリノはオールマイトを育てた人間。当然普通のヒーローとは比べ物にならない。年齢を重ねたとは言え、実力はトップクラス。
戦力として申し分ない。
ならば、
「グラントリノ、申し訳ありませんが、今から指定する場所に行っていただけますか?
どうやら俺の子供も含め、結構危険なことをやらかしているみたいなので。僕と炎司は、他の2つに行きます……どうやら、こっちはこっちでヤバいので」
耳に付けられた通信機器からは、リアルタイムの情報が流れてくる。
脳無と呼ばれる改人の1体はパワー型で、他のヒーローでも対応するのが難しい状況。もう一体は飛行していると聞く。
空を飛んでいる相手に自分はどうにも出来ないので、そこは遠距離に炎を飛ばせるエンデヴァーに行ってもらい、自分はパワー型の相手をする。
そうすれば状況も早くかたが、
「――待て。貴様に命令される筋合いはない」
痛みに堪えていたエンデヴァーがいきなりブレイカーの腕を掴む。
「貴様には後でたっぷり話を聞かねばならん。逃す気はない」
「炎司、今はそれどころじゃ「分かっている」」
ブレイカーの言葉を遮る。
「敵がどれほどの力か分からない。どちらにしろ一緒に行動すればより手っ取り早く片付くだろう。空を飛んでいる輩は俺のサイドキックが対応しているはずだ。仮に倒せなかったとしても足止めくらいは出来るだろう。
俺達でまずマッチョの奴を叩き潰す――出来ないとは言わせんぞ。お前と俺なら多少の問題は払い除けられる」
真剣な表情で語られるそれは、冷静に状況を判断して得られたものだけではない。
エンデヴァーは――轟炎司は、目の前の男に怒りを覚えている。今まで散々友人だと言いながら肝心な所で頼らず、結局自分を傷つけながら生きてきた目の前の男を許す気はない。
だが信じている。
どんな長い年月現場に出なかろうが、どんな態度で自分と接しようが、轟炎司の呼吸と戦いに合わせられるのは動島壊――いや、炎司から言わせれば触合瀬壊しか居ないのだ。
そして2人で共闘すれば、どんな敵も叩き潰せると信じている。
「……信じて、くれるの?」
ブレイカーの情けない声に、エンデヴァーは鼻を鳴らす。
「フンッ、お前がどういう定義で「世界で1番信頼する友達」と俺を呼んだのか知らんが、俺にとってそれは「どんな事をされても信じて動ける人間」だと考えている。
詳しい話はここを潜り抜けてからだ――倒すぞ、壊」
その言葉に、壊は頷く。
涙を流さないように堪えながら。
――戦いは、始まったばかりだ。
◇
江向通りの細道。
そこでは、ギリギリの戦いが繰り広げられていた。
一度倒されかけた飯田、出久はすでに立ち上がっていた。ステインの個性で拘束されていたのが解けたのだ。倒れているのは、ネイティブというヒーロー1人。
3対1。
最初はそう思っていた。
だが思わぬ所で伏兵が現れたのだ。
「――此方は《
その小さな体躯には見合わない大きな刀を振るい、焦凍の氷の群れを薙ぎ払って登場した少女は、まるで瞬間移動で現れたように突然だった。
この状況には合わない、フリルで飾られているノースリーブのシャツとミニスカート。頭の先から足まで、皮膚が露出しているところには奇妙な幾何学模様が浮かび上がり、常に蠢くように動いてその形を変化させ続けている。
不気味さと、不快感。
何故か見ているだけで、そんな感覚を覚える少女だった。
「ハァ……手出しをせず、離れた場所で見ていろと言ったはずだ、ガキ」
「私は『ステイン様を観察し教えを受けよ』『必要あらば助けろ』『本当にダメな時は単独で逃げろ』という命令を賜っております。
ここは『必要あらば助けろ』の状況に符合していると思います」
ステインの言葉に、オートマーダーと名乗った少女は機械的な返事をする。
「それに此方はインゲニウム様のご令弟に質問があります。是非ご教授願いたい事があるのです」
そう言いながら、刀を無造作に持ちながら飯田の方を見る。
まるでガラス玉でもはめ込まれたような無機質な目に、飯田は少し動揺する。こんな目をする人間がいるのかと。
「何故貴方はあそこまでステイン様の殺害に拘っていたのに気持ちを変えられたのですか?
いえそれ以前に何故ステイン様を殺そうとしたのかも今止めようとしているのかも此方には理解出来かねるのです」
何故かといえば、とオートマーダーは続ける。
「人の死に意味も価値もないからです」
まるで当たり前のことを話すようにそう言った。
「不可解なのです。
人の死は当然の事です。『因は違えど皆等しく死という果を得る』と此方は教わりました。それは不可避で絶対。そして意味もなく価値もないと。
意味もなく価値もないものをインゲニウム様のヒーローとしての誇りとご令弟の誇りを取り戻すのと等価だと仰るのであれば――それは無価値という事ですか? 無意味という事ですか?」
無機質、無感動、無感情。
その言葉を音にするならばこういう事なのだろうと、この場にいる3人全員がそう思った。何もない、機械で作っただけの声のような音声を聞いている。そんな感覚。
人は、人の死にここまで鈍感になれるのかという事実が、3人を圧倒する。
「此方はこうも教わりました。『信念など力と暴力を丁寧に装飾する為の飾りに過ぎない』と。つまりインゲニウム様のご令弟は飾りの為に殺すのですか?」
「――っ、飾りなんて言うな!!」
絶句する飯田の代わりに、出久が怒声をあげる。
「信念や、思いは、皆にとって大事なんだ!! どんな人もそれを否定しちゃいけないんだ!! 確かに殺すのはやり過ぎだけど……でも、それを侮辱して良い事にはならない!!」
出久の魂の叫びにも、オートマーダーは表情を変えない。
だがそれでも分からないのか、動作だけは小首を傾げている。
「いつ私が『殺すのはやり過ぎ』と言ったのでしょう。
人を殺すのは別に良いではありませんか?」
――空気が、凍る。
無垢な狂気。言葉として走っているそれを目の前にして、肌が粟立つ。
(こう言うことか、動島くん)
飯田は頭の中で、自分に忠告してくれた友人の言葉を思い出す。
人を殺せば、その人は人間ではいられなくなる。
もし目の前の少女がそうであるのならば――頷ける。
目の前の少女は、もはや人間ではないと思ってしまったから。
人を殺す事になんとも思わない――悪鬼に見えたから。
「人が人を殺す――当然です。力がぶつかり合えばどちらかが死ぬ。力の強い方が生き残り力の弱い方が死ぬ。当然の流れです。問題はそこに何故情動が持ち込まれるかです。
そんな事関係がまるでないのに」
刀を持っている手をかざし、オートマーダーは続ける。
「『力をこそ全て。全ては力を得る為に必要なパーツでしかなく、1つ欠けたところで強さに支障が出なければ問題はない』――師匠のお言葉です。
我ら動島流は強くあらんとする為に戦い。強くあらんとする為に心を持ち。強くあらんとする為に生きる――それが全てだと此方も思います。
なのに皆さんは複雑です。信念が心が他の何かが邪魔をして強くいられないならば――何故切り落とさないのですか?」
切り落とせないならば、
「――此方がお手伝い致します」
構えた瞬間、すぐに攻撃は放たれる。
一瞬の動作。滑らかなその動きは、構えから技が使われる時間を0にした。
「動島流刀術――
オートマーダーの両手に握られた刀を、まるで地面に向かってフルスイングするかのように振るう。その切っ先が地を擦ると、斬撃はまるで生き物か何かのように真っ直ぐに飯田に向かっていった。
それを、
「っ、させねぇ!!」
焦凍の生み出した巨大で分厚い氷壁が遮ろうとする。
普通に刀を振るえば通じるはずがないほど堅牢な防御。
しかし斬撃を防いだものの、その氷壁は簡単に破られる。
真っ二つ。
そのような言葉が実際に再現された状態の氷壁。だがそれ以上に、焦凍は驚愕する言葉を聞いた。
動島。
自分の親友の名を冠する武術。
「テメェが何故それを使う!!」
未だ調整が未熟な
空気すら焦がすその炎は、ステインと自動殺戮を巻き込むようにして放たれ、
「動島流刀術――
避けるように斬り防がれた。
有形無形関係なく、一刀の元全てを終わらせる剣術。
動島流刀術を、彼女は使っていた。
「此方がこれを使うのは極めて当然。習ったからです。師匠から」
刀の熱を冷ますように振るうと、少女は背後にいるステインに聞く。
「ご指示を。まずは誰を斬り殺しますか?」
その言葉に、ステインは顔を顰める。
頼る気はさらさらなかった。
だが時間がないことも事実。あと数分もすればヒーロー達が駆けつけてくるかもしれないこの状況では、早めに済ます事こそ大事な事だと思えた。
だから、
「……赤と白の髪の毛の奴と、緑色の奴を相手しろ。
ただし、ハァ……そいつらは殺すな。インゲニウムの弟と偽物のヒーローを殺したら、すぐにここを離れる」
それだけを命じた。
「――拝命しました」
自動殺戮もそれだけを答えた。
「させない!!!!」
最初にそれを聞いて動いたのは、緑谷出久だった。
フルカウルと名付けられた全身を
急遽路線変更したグラントリノの訓練は、成果を見せていた。
それでも、勿論上がったのはたったの1%。だがそれでも、出久の速度は常軌を逸するものだ。
間合いは、一瞬で詰まり、
拳を振り上げ、
「SMA――、」
技を叫ぼうとして、
「――――止マレ――――」
なんの脈絡もなく、その振り上げた腕からミシリッという、聞き慣れた音がする。
「グギッ!?」
個性を手に入れてから、個性を使う度に感じていた痛みを、今出久は感じていた。
個性はちゃんと制御出来ていた。
それなのに、腕は小枝のように2つ、3つとへし折れている。
まるでそこに、何かの打撃が加えられたかのように。
「ガハッ――」
背後からも、空気を吐き出すような悲鳴が聞こえる。
必死で腕を抑えながら振り返れば、そこには、
出久の前にいたはずの自動殺戮が、刀で焦凍を殴り飛ばしている姿があった。
「な、ぜ、」
焦凍は確かに見ていた。
出久に殴られそうになっているオートマーダーを確かに見た。
瞬きすらしていない。
だが、奴は一瞬でこちらにやって来た。
それだけではない。出久の腕をへし折り、自分の腹に一撃綺麗に入れていったのだ。
仮に出久や飯田、それに振武のように行動出来たとしても、単純な直線距離にいる訳ではない自分達を移動しながら的確に攻撃するのは、無理だ。
「それをお答えする義務は負っておりませんが師匠から『そう聞かれた時はこう答えろ』と回答を授かっております。
――『時を止めているようなモノ』だと言えと」
「時間操作って、……ありえねぇだろうが、」
個性は確かに昔〝超能力〟と言われていたものが多い。
通常の人間では出来ない事。
同じような個性でもそれぞれに違いが現れる事。
そんな事は既に常識で、当たり前だ。
だが、時間操作に関しては違う。
この個性は有史以来見つかった事すらない。つまり超常が日常と化してしまったこの世界でも「ありえない」のだ。
「どう考えて頂いても結構です。ですが此方はそう答える以外に答えがありません。
――貴方方を殺すなと命令されています。なので四肢を折るくらいにしておきます。そうすれば動けませんよね?」
そう言うと、刀を振りかざす。
奇しくもそれは、ステインとほぼ同じタイミング。
ステインが飯田を斬り殺そうと、
オートマーダーが焦凍の骨をへし折ろうと、
「ごめん、遅くなった」
まるで黒と銀色のナニカ。
それが、オートマーダーとステインの間を縫うように駆け抜ける。
オートマーダーのそれとは違い、視認出来る速度。
だがそれは一瞬。
流星が空を駆け抜けるように、一度瞬きをした程度で見失ってしまうほどの速さ。
その速さを伴いながら、オートマーダーとステインをほぼ同時に吹き飛ばした。
「グッ――ハァ、新手か」
「――――――っ」
ステインの囁きのような言葉と、オートマーダーの息をのむ音が路地に響く。
その2人を正面に置きながら、その少年は構える。
黒いコスチューム。
鉄の怪しい輝きを湛える
「間に合って良かった――じゃ、いっちょやろうぜ!!」
動島振武がそこにいた。
おまけコーナー「印象調査!?」その3
Q 動島振武はあなたにとってどんな人間ですか?
焦凍「暑苦しい時もあるが、一緒にいて悪い気分はしねぇ……友達ってのがここまで良いもんだって事を気付かせてくれた、大事な親友だ。
……ただし、蕎麦をバカにする事は許せねえ」
A 安定の蕎麦オチ
う〜ん、今回のはちょっとごちゃごちゃっとしましたかね。
書きたいことが多いとちょっと困ります。
さて次回からステイン戦本格始動!! 戦闘シーン頑張ります!!
次回!! オートマーダーが丁寧にお辞儀するぞ!! ゆっくり待て!!
感想・評価心よりお待ち申し上げております。