plus ultraを胸に抱き   作:鎌太郎EX

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また最新話投稿が早い……熱が止まらない……でも学校サボれない……。

今回も少し短くなりましたが、この話だけは長く出来なかったというか、したくなかったです。
ダラダラ書いてしまうと、なんとなく良さを殺してしまうんじゃないかと思ったので。

それでは、どうぞ本編をお楽しみください。


episode6

 その神社の決まったお祭りや地区毎のイベントでもない限り、神社は日頃人気が少ない場所の1つに挙げられる。特に信仰心というものが薄くなっている日本人は、信仰の象徴である神社に日々好き好んで行こうとは思わないだろう。

 キリスト教みたいに日曜の礼拝やなんかがあれば、また少し違ったのかもしれないけど。

 お寺にも見られるが、木々が多く、ちょっとした森のようになっている場合もある。

 だから――近所の神社は、内緒で個性の練習をするにはうってつけだった。

 

「よっし、もう1回っ」

 

 林以上、森以下の木々の中で、俺は拳を突き出してまた個性を使ってみる。

 

 ヴヴヴヴヴヴヴ。

 

 小さな羽虫が飛んでいるかのような低い連続した音が()から聞こえ始める。

 前に父親に説明してもらった通り、俺の個性は〝超振動〟。腕や手に持ったものを振動させ、攻撃力を底上げ出来るようになる個性だ。

 だから最近の俺はここに来て、こうやって個性を使ってみて、どんな事が出来るのかを試している。

 父さんと母さんには秘密だ。

 本当は隠し事がいけない事は解っている。でも、多分あの2人だと、言ってもやらせて貰えないんだよなぁ。妙に心配性なんだから。だって普通に他の子で個性使ってる子割といるもんなぁ、出力は子供らしいけど。

 それに、俺の個性、親に聞いただけの個性ではないようだ。

 試してみて分かったことは、まず振動数を上げられる。つまり強弱をつける事が出来るらしい。

 そして、腕限定で振動させる事が出来るというわけではないらしい事。それが4日程いろいろ試してみて分かった事だ。頭を少しだけ振動させて見たけど、めちゃくちゃ酔った。

 ……これを両親があえて隠したのか、本人達も知らない事なのかは解らない。前者にしても別に俺を蔑ろにしている訳ではない、俺の事を思っての事だろうし、後者であればもうしょうがない。

 それに、

 

 ヴヴヴヴヴヴヴヴゥヴヴウッ!

 

「ぐっ――」

 

 体の内側からやってくるような独特な熱と腕の痛みを感じ、すぐに振動を止める。

 ――個性とは、コミックで登場するような超能力と大きな違いはない。だから物理法則的デメリットが最初は頭に入っていなかった。

 摩擦熱と、振動させる体の部位の暴走の危険性と耐久の限界だ。

 物体を高速で振動させれば、当然空気との摩擦熱で熱が発生する。俺の場合腕の骨や筋肉を振動させているせいで、その熱がその部分に溜まり、体内で火傷を負うというややこしく辛い状況になる可能性がある。

 そしてもう1つは、俺の腕や足が振動している場合それを制御するのは自分自身という事だ。どんなに微細でも毎秒何万と振動しているであろう自分の手足を制御するには、筋力も練度も足りないし、子供の腕では長く使ったり振動を強くすると、あっさり腕が折れる。

 両方とも最初の時に失敗しかけた事例だ。慌てて止めなければ、結果はそうなっていただろう。

 

「……やっぱり、今は難しい、か」

 

 持続時間は40秒が限界。振動数も測る機械がないから解らないけど、それほど多くはない。

 今はやっても、大人の腕を払いのけたり、道端の石ころのヒビを入れたり穴を開けたりする程度の威力だ。

 それでも充分、前世から考えれば凄いけど。

 

「どちらにしろ上手く扱うには、練習あるのみだよなぁ」

 

 正直1人だけだとどこまでやって良いのか怖いし、振動がはっきりと見えるわけじゃないからちゃんとした成果を感じにくい。

 個性を鍛えるのは一旦止めて、地力を鍛える事を優先すれば振動数や持続時間は伸ばせそうだけど、その体を鍛えるというのもやはり1人では難しい。変な鍛え方をして体を壊したり、効果が薄ければ意味がないのだ。

 やっぱり母さんに頼んで鍛えて貰う……のは、難しいなぁ。母さんは本当に忙しいから。結局長期休みが終わってしまったらほとんど会えなくなってしまうくらいだ。

 勿論母さんがヒーローとして活躍している姿は大好きだし、俺の為に仕事を休ませてしまうのは他の方に申し訳ない。お母さん俺が言ったら本気で休んじゃいそうだし。

 だとしたら、――やっぱり、祖父しかいないだろうなぁ。

 祖父の話は聞いていても、記憶が戻ってからは1度も会った事はない。だからどんな人なのかいまいち解らないんだけど……イメージ的に考えれば、現代を生きる侍レベルの武人なんだよなぁ。

 なにせあの母さんが、『お祖父ちゃんと個性抜きでまだ1回も勝った事ないのよね』なんてボヤいてたくらいだ。

 母さんの戦闘能力はそもそもが個性で得られている強さじゃないんだから、それに勝てるお祖父ちゃんもトップクラスのヒーローと同レベルだって事だって事だ。

 そのレベルになるまで鍛錬を積み重ねている老人……もう俺の中では強くて厳しい人という想像しか出来ない。その人に5歳の孫がお願いして、果たして武術を教えてくれるんだろうか。

 この場合、孫にだけは甘いお祖父ちゃんの可能性はあるが、そんな希望的な部分にかけるのはどうかと思う。

 

「……想像し始めると、どんどん頼み辛くなってくるんだよなぁ」

 

 そういうの苦手だからなぁ。

 でも他の武術を学ぶってのも、と考えてしまう。どうせだったら母さんが習得した格闘技を学んでみたい。

 今度、母さんに会ったら頼んでみよう。

 

「よっし! じゃあ今日はもう1回だけ試してみてから帰――」

 

 

 

「ねぇ、ここで何してるの?」

 

 

 

 ――突然聞こえてきた声に、振動を使っていないのにビクッと身体が震えた。疚しい事がある人間ってのは、どうしてもいちいちビクついてします。

 ギギギ、と油をさしていない扉のような音が幻聴で聞こえてくるくらいぎこちなく振り返ってみると、そこには1人の男の子が立っていた。

 俺と同い年(まぁ精神年齢は勿論違うだろうけど)くらい見える。右半分が白、左半分が赤い、前の価値観で言えばかなりパンクな髪で、表情は今の俺と違って実に子供らしく眼がキラキラしている。

 にしても、この髪もきっと地毛なんだろうな……流石だなぁ。世界が違うとこういうのも変わるんだなぁ。

 

「ねぇねぇ、何してるの?」

 

 俺が黙っているのがお気に召さないんだろうか、少し不満そうにもう1度聞いてくる。

 うわぁ、興味津々だ、面倒くさいなぁ〜。

 

「……逆に、何してるように見える?」

 

 大人の秘技・「質問返し」!

 これにより聞かれた内容を明言せずに話を進められるし、上手くいけばうやむやに出来るし、最低でも違う答えを出させて「あはは〜実はそうなんだよ」と誤魔化して結果真実を明かさないことが出来る技だ。

 前世の親戚の子供にも通用したこの技だ。この子にもきっと上手く――、

 

「う〜ん……あ! 分かった! こせい使うれんしゅうしてたんだ!!」

 

 ――いかなかった〜。

 しかも、ずばりその通りだ〜。

 なんだろう、もしかして親戚の子が馬鹿だったんだろうか。それとも、この子の頭が良いだけなんだろうか。

 

「…………」

 

「? どうしたの?」

 

「いや、なんか思考が一瞬回ってもしかして俺が馬鹿なのかなって思っちゃってちょっと凹んだ」

 

「? ??」

 

「何を言ってるんだろう」みたいな顔で首を傾げている。純粋な目線で見られるとちょっと困るけど。俺は小さく溜息をつく。

 うん、まぁ、バレても大丈夫かな。もう口調も誤魔化し忘れて手遅れだし……まぁ本人は気にしない性格みたいだ。それにこの近くで見かけた事がない子だから、違う場所に住んでいるのかもしれない。

 なら、この子の口からうちの両親に伝わる事はないのかもしれない。

 多分、おそらく、あるいは、maybe……。

 

「……うん、あんまり使い慣れてないから、個性の練習してたんだ。

  そういう君は? こんな所で何してるの?」

 

 気を取り直して、彼の質問に肯定しながらも、つい気になった事を聞いてみる。

 俺は個性の練習のために神社に来ているが、普通の子供が特に何もない日に神社に遊びに来るってのも、ちょっとピンとこない。本当に何もないしね、ここ。

 強いて言うなら虫とりくらいかな、自然も多いし。でも今の時期出てくる虫って、子供に人気が出るような感じじゃなかったような気がするけど。

 

「え、え〜っと、その、ね、」

 

 俺の質問を想定してなかったのか、一瞬ポカンとした男の子は、すぐに理解が出来たのか落ち着きがなくなった。

 なんだ、そんなに危ない事でもしようとしているんだろうか。

 

「なんだよ、言い辛いなら別に言わなくても良いよ?」

 

「そ、そうゆうのじゃないよ、その、実はね」

 

 恥ずかしそうに少し頬を染めながら言った。

 

「ぼ、ぼくもこせい、れんしゅうしたかったんだ」

 

 

 

 

 

 彼の子供らしい拙い説明を要約してみると。

 この子の父親はヒーローをやっているらしいのだが、この子に対してとても厳しい人らしい。将来強いヒーローに育てるため、毎日激しいトレーニングを課しているらしい。聞いていると止めに入った母親に対しても暴力を振るっているようだ。

 そしてその唯一の味方である母親に本人も最近様子がおかしいらしい。「もしかしたらぼくが早くヒーローになれば、おかあさんもげんきになるかもしれない」と考えて、家から離れたこの神社でこっそり練習しようとやって来たらしい。

 ……聞いているだけで、胸糞悪くなる話だ。特にその父親がクズ過ぎる。

 うちの母さんもヒーローだけど、そういう重圧とかには一切縁がない人だから……まぁ、うちの親はうちの親でかなり変わっているから、もしかしたら、彼の父親みたいな人も結構多いのかもしれない。でも、子供に無理矢理何かを押し付けるってのが良いことじゃないのは確かだ。

 でも、それでもこの子は自分の意思でヒーローになりたいと思っているらしい。

 父親にそんな厳しくされて、ヒーローなんていうものに嫌気がさしても、誰も咎めないはずなのに。5歳とは思えないほどの根性だが、それもまたお母さんがいるから頑張れるんだろう。

 

「ほらっ、見て見て! こおりも、ほのおも出せるんだよ!」

 

 だからだろうか。結局俺も練習に付き合う事になってしまった。

 多分、そう簡単にまた会えるわけじゃないだろう。この子だってたまたまここに来ただけで、次の日から来ないかもしれない。

 けど何故か、俺の中で最初から放っておくって選択肢はなかった。

 右手から冷気を出して空気中の水分を凍らせたのだろう、そこには手の平サイズの氷が握られていて、対する左側には小さな火の玉のようなものが出ている。

 それを見てから、俺は出来るだけ優しく微笑む。

 

「そうだね、凄いや。ヒーローになっても活躍しそうな個性だね」

 

 俺の言葉に「へへ、そうでしょ〜」なんて自慢げに語っているけど……正直言えば凄いぞ。

 何せ相反する物を両方使用できるって事だろ? 個性としてはかなり破格だ。見た目も派手だし、これから訓練を積み重ねればもっともっと出力は上がるだろう。普通に行けば、そこら辺の弱いヴィランだったら簡単に倒せるヒーローになれる。

 

「羨ましいなぁ、俺もそんな派手な個性だったら良かったのに」

 

 別に今の個性が気に入ってない訳じゃない。ただ派手さは全然ないからなぁ。

 まだまだ使い方を分かっていないからなんだろうけど、それでもここまで派手にはならないだろう。

 

「きみは、どんなこせいなの?」

 

「ん? あ〜俺はね、超振動っていう個性なんだ」

 

「ちょうしんどう? なにそれ?」

 

「あ〜、どうやって説明したら良いかな……良く見ててね」

 

 不思議そうな顔ををする彼に言いながら、俺は足元にあった石を拾い上げる。5歳児が持てる石のサイズってのは大人からすれば小石なんだろうけど、今の俺には結構大きい石のように感じる。

 俺はその石を握りこみながら、個性を使ってみた。

 

 

 ヴヴヴヴヴヴヴ――バキンッ!

 

 

「わっ、いし割れちゃった……」

 

 小さな振動音がしたと思ったら、いきなり石が割れたのに驚いて彼は目を丸くしているけど、出力としては多分かなり弱い。

 う〜ん、やっぱり地味だ。振動音も少しカッコ悪いし、何とかしたいんだけ、

 

「――すごい、すごいよ! ちからを強くするこせいなの!?」

 

 と考えていたのに、思考を妨害するレベルの大きさの声ではしゃぎ始めた。

 力を強くする個性、か。まぁこれだけ見れば、そう見えるかもしれないな。

 

「いや、俺の力は腕をうんと沢山振動させて、攻撃力を上げる個性で、」

 

「それってちから強くするこせいと何がちがうの?」

 

「え〜っと、参ったな、説明が要らないと思って実践したのに、」

 

 そもそも自分の個性の原理ってあんまり理解できてないんだよなぁ。普通の超振動カッターってどうやって振動させてたっけか。

 工学系の友人は確か、超音波がどうたらとか言ってたっけ。つまり超音波が出ているのか? でも腕とかこんな大きなものを超音波で振動させたら耳キーンってなりそうなもんだけどなぁ。

 

「すごいな〜いいな〜、まるでオールマイトみたいだ!」

 

 どうやら俺が悩んでいる間に、彼の中ではもう俺の個性はオールマイトと似たようなもんという結論が出ているらしい。流石子供、理屈は一切通用しないな。

 まぁ、オールマイトと一緒と言われて悪い気はしないけど。

 

「……うん、でも俺は君の方が羨ましいけどね。派手でカッコイイってのは本当。

 俺のは、ちょっと地味だし」

 

「え〜そうかな〜? ぼくも自分のこせいすきだけど、でもやっぱりオールマイトみたいになりたいし、いいなぁっておもうよ?」

 

 オールマイトが目標か、流石No.1ヒーロー、子供の人気は抜群だ。まぁあれはちょっと話聞いているだけで規格外過ぎて、目指そうと思うのは躊躇われる。

 それに、やっぱり母さんの方がカッコいいしね。

 

「そっか、オールマイトみたいになりたいんだ。じゃあいっぱい練習しないとね」

 

「うん! ――ねぇ、君はどんなヒーローになりたいの?」

 

「……っ」

 

 すぐに返事をする事が出来なかった。

 何せ俺は、まだヒーローになろうとは思っていないから。いや、そうじゃない。

 前に進もうと。もう立ち止まったりする事はやめようと。そう決めたけど、まだ俺にはヒーローになると口に出来るほど、前の自分の影響が抜けきっているわけじゃないからだ。

 ヒーロー。

 前世の父親に否定されたもの。

 自分自身が諦めてしまったもの。

 ……素直に言えば、なりたいと思う気持ちはある。

 母さんや転々寺さんみたいなヒーローに。俺もなれるならなってみたい。

 でもそれを考える度に、俺の心の底で前世の父親の声が聞こえる。

 

『あれは創作物であり、ただの作り物だ。実在しないし、なれるものではない』

 

 ……もう、俺の世界は変わった。

『超常』は『日常』に。『架空(ゆめ)』は『現実』に変わった。

 ここでどんな道に進もうとも、誰も怒ったりはしないだろう。父さんも母さんも、転々寺さんも。きっと馬鹿にせず、何も言わずに応援してくれるはずだ。

 でも、それでも、

 世界も、環境も、自分の心すらドンドン変わっているのに。

 『心の奥底(こんてい)』だけが変わっていない。

 

「……どう、だろうね。実は、どうしようか迷ってるんだ。ヒーローは憧れるし、なってみたいけど。俺、実は弱虫だし、個性だって地味だし、無理なんじゃないかなって」

 

 つい口から弱音(ほんね)が零れ落ちる。

 本当は言いたくない。こんな自分を見て幻滅して欲しくない。

 でも傷付くのが、頑張って頑張って、それでも結局なれなかった時の苦痛が怖い。今まで避けていた分より敏感になってしまったのか、受けた時の恐怖を受けていない今感じてしまう。

 なんだよ、ちくしょう。

 変われていたなんて、本当は嘘で、

 本当は何一つ、変わってない――

 

 

「えぇ〜そうかな? ぼくはきっと、きみはすごいヒーローになれるとおもうよ?」

 

 

 かわって――え、

 

「なんで……そう、思うの?」

 

 困惑気味にそう訊くと、その子は少し思案顔をしてから、すぐに満面の笑みを浮かべる。

 

「だってねぇ、ぼくと同じとしくらいなのに、あたますっごく良いし〜、クールだし〜、こせいだって、オールマイトみたいでカッコよくってつよそうだし〜、それにね、

 

 

 

 今日、ぼくからはなれないで、いっしょにいてくれるから!」

 

 

 

「……それ、ヒーローに全然関係ないじゃん」

 

「え〜、だって、ぼくがこまってたから、たすけてくれようとしたんでしょ? ふつうだったら、そんなふうにはなしきいたり、いっしょにいてくれないよ? でもきみは、ぼくをたすけてくれようとおもったんでしょ?

 だったら、きっとカッコいい、だれかをたすけられるヒーローに、なれるよ!」

 

 ――ったく、なんだよそれ。

 理論としては全然噛み合ってないよ、それ。これが前世の俺だったら、否定するか、聞いたふりして流してしまう。そんな、めちゃくちゃな話だ。

 でも、

 

『振武は、そういう意味じゃヒーローになれるんじゃないかな』

 

『貴方は、なりたい自分に、何にでもなれるわ』

 

『君もきっと誰かの心のヒーローになれるさ』

 

『あんたはきっと、大物になるよ、私が保証してやるよ』

 

 今まで会ってきた人に、励ましてもらった。

 こんなどうしようもない俺なんかに、多くの可能性と希望を見せてくれた。きっと彼らにとっては何でもない言葉もあったんだろうけど、それは今は関係ない。

 僕がどう感じたかで、僕がどうしたいかだから。

 ――今度は、俺が誰かに、可能性と希望を見せる番だ。

 それが出来るのは、まだまだ先だ。いっぱい特訓して、資格もとって、今までの自分じゃ想像もつかないような困難がたくさん待ち受けているんだろう。ヒーローってのは、そういう職業なんだと思う。

 それでも前に進んでいける。結果は必要になってくるけど、今の俺には結果より過程の方が大事だ。

 俺は、ヒーローに、なる。

 母さんや転々寺さんみたいに、信念を持って、誰かを漏れなく救おうとする。それが出来るヒーローに、俺は将来絶対なってやる!

 これが俺の夢だ! 前世なんて、知ったことか!!

 俺は――もう、動島振武なんだから!

 

「……ありがとう。そう言ってくれて、嬉しいよ」

 

「? そうなの? ぼくがおもったこと言っただけなのに」

 

 彼は不思議そうな顔をしながらも、俺に笑顔を向けてくれる。

 ……参ったな、最終的に背中を押してくれたのが、たった5歳の子供かぁ。人生分からないもんだなぁ。

 

「……そっか、君にとってはそうなのかもね。

  ねぇ、じゃあ、約束しよっか」

 

「やくそく?」

 

「うん、約束」

 

 そう言いながら、俺は彼の右手をとって、小指だけを出させる。俺の右手も同じように小指を出して、それを彼のと絡ませた。

 指切り、だ。

 一瞬握手にした方が良いかなとも思ったけど、きっとこの子にはピンと来ないだろう。なら、分かりやすい指切りの方が断然良い。

 

 

 

「いつか、2人が誰かを助けられるヒーローになったら、また会って、一緒に戦おうって。

 その為に、今日指切りして、名前を教えあって、バイバイする。それからお互い、約束を守る為に、頑張るんだ」

 

 

 

 ――こんなの子供騙しだろうか。子供騙しなんだろうな。

 彼の名前も知らない、彼がどこに住んでいるのか分からない。彼も俺の名前も知らなくて、俺がどこに住んでいる子供なのか分からない。

 このまま2人ともヒーローになれるかも、この先どうなっていくかも。

 全部が予測出来ない事で、そもそも再会出来るのか。再会しても、お互い今日の約束を覚えているか、解らない。

 でも、別にそれでも良い。俺たちは実際子供だし。

 それに、ここで誰かと一緒に誓うってのが大事なんだ。

 まずはその約束を果たす為に、俺がヒーローになる為に。

 俺が俺に課す、最初の目標だ。

 

「――うん、うん! それすごく良い!!

  やくそくするよ! 大きくなったら、いっしょにヒーローとして、たくさんの人をたすけよう!」

 

「あぁ、きっとその時は、笑って一緒に戦えるように、頑張ろうな!

  ……俺の名前はね、動島振武。君の名前は?」

 

 俺が指切りをしたまま自己紹介をすると、その子は慌てて表情を作る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しんぶくん、ぼくの名前はね!

 とどろき、しょうとって言うんだよ!」

 

 

 

 

 

 

 この日はちょうど、俺がこの世界で記憶を取り戻してから、1ヶ月を迎える前日だった。

 初めて、ヒーローになると宣言した日。

 初めて、友達が出来た日。

 その友達と約束した日。

 俺は、この日を一生忘れないだろう。

 きっと約束を果たせた後だって、鮮明に思い出せるはずだ。

 

 

 

「「ゆっびき〜りげ〜んま〜んうそついたらはり千本の〜ます! ゆびきった!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてその次の日。

 俺の人生が、俺の家族が。

 あんな事になるだなんて。

 俺はこの時、全く予想出来なかった。

 

 

 

 

 

 




彼らの約束は、この物語の重要な部分を占めます。
正直、最後のこのシーンを書く為に一連の流れを作ってきたという感じもあるかもしれません。
もしかしたら原作ファンの方からは、轟くんなんか違うとか、その他諸々あるでしょうが、どうかご容赦を。振武くんにはどうしても必要なシーンでした。


さて、動島振武のオリジンももうそろそろ終わりに近づいてきました。
皆さんどうか、温かく見守ってくださると幸いです。
では、また!

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