うっかり書けちゃいました!!
と言うわけで、どうかお楽しみください
『ラッシュラッシュラッシュ!! 爆豪の激しい爆破攻撃を、切島がしっかりとガード。こいつはシヴィー!!』
『爆豪の攻撃は強力だが、切島の防御を突破すんのは今の状況じゃ難しいのは確かだな』
モニターから実況と解説の声が聞こえてくる。画面の中では、猛攻で爆炎を散らす爆豪と、それを受け止める切島の姿が映っていた。
鋭児郎の硬化の個性は、正直振武も突破するのが難しい。出来なくはない、というのが爆豪と少し違うところだが、それでも強力な事に違いはない。
だが、
「爆豪も、充分凄い奴だからな」
戦闘におけるセンスは、十分天才と言える域だ。
戦闘の中で相手の弱点、弱い部分を見つけ、そこを突いて相手を倒す。
本人がそういう勝ち方が好きなのもあるのだろうが、それは簡単に出来る訳ではない。戦闘という一種の極限状態の中で、冷静に分析する自分を確保しておくというのは、案外難しい事だ。
鋭児郎には申し訳ないが、ここで爆豪が敗退する絵が想像出来ない。
「となると、飯田対爆豪かぁ。読めないなぁ」
速さの飯田、爆発力の爆豪。
自分の得意分野をどこまで活かせるかが勝敗の鍵だが……そう思いながら、振武は控え室で次の試合を待っていた。
準決勝。
相手は――轟焦凍。
「――ようやっと、か」
ようやく、今日やっと一対一でぶつかり合える。
ようやく、静かに話せる。
……いや、静かかどうか分からない。個性の特性を半分封印しているとは言え、焦凍は簡単に倒せる男ではない。
勝ちをもぎ取るのだけでも、こっちは必死の覚悟で挑まなければいけない。
しかも、今回はそれだけではない。
焦凍に自分との過去をまず、思い出してもらわないといけない。
「……我ながら、難題だよなぁ」
自分で設定しているのだから世話はない。
魔女子にも一緒に考えてもらったが、それでも上手く行くかは分からない。
人の心が、はっきりとそのように動くなどという予想なんて出来ないし、自分達は結局一度、失敗している。
『大前提は……振武さんが本心でぶつかる事。言わなくても分かるかと思いますが、装飾は一切なし、ガチンコ勝負で行くしかないのは、確かですね』。
魔女子の言葉に従うわけじゃなく。
自分の本心を、ぶつける。
今までだって嘘ではなかったけど、やっぱり「救ける」と思っていたから。
焦凍を救けるヒーローであると思っていたから。
どこかに装飾があったのは、そうだったかもしれない。
正直自覚はない。
「――うっし!」
自分の心に喝を入れ、頬を叩く。
ここでじっとしていると、自分を信用出来なくなっていく。
そもそも、振武はじっとしているのは性分ではないのだ。
「……トイレ行っておくか」
まだ次の試合が終わるまで少しだけ時間がある。
用を足して、そのまま会場に行けば良い時間だろう。振武はそう思いながら、パイプ椅子から立ち上がる。
それが、あの男と出くわす要因になるとも知らずに。
どうしてこうなった。
振武は自分の心の中でそう愚痴っていた。
トイレに行って、それから舞台に向かう通路で待つ。トイレに行ったまでは良かった。その通路が一般用に手配されている観客席にも繋がっているのは知っていたが、その時の自分は思いもしなかった。
トイレから出て、舞台への出入り口に通じている通路の中で――この男に出会うのを。
男は、文字通り燃えていた。
スーツの一部分、そしてマスクと顎の部分から燃え上がる炎。炎熱系個性として最強を誇るとされている個性の持ち主。
No.2ヒーロー《エンデヴァー》に出会うのを。
轟焦凍を狂わせた元凶と。
こんな場所で。
こんなタイミングで。
「………………」
エンデヴァーは何も言わず、ただ行く手を遮っているだけだ。
まるでこちらを観察するような。何かを探しているような印象を受けるその目に、振武は嫌な印象を受けた。
だからなのだからなのだろうか、思わず、
「……すいません、ちょっと邪魔なんですけど、オジサン」
普通のプロヒーローだったら口が裂けても言えないような事を、あっさりと言ってのけた。
「っ……ハッ、そういうところまで親譲りか。
威勢が良いのは結構だが、親の品位を疑われるぞ」
一瞬動揺したように目を見開くが、すぐに偉そうな笑みを浮かべてこちらを見下してくる。物理的にという意味もあるが、精神的なものも含まれる。
自分以外は弱い。
そう言い切るような自信と傲慢に満ちている目をしている。
「ハァ? 親譲りって……あぁ、そっか。
母さんと知り合いだったもんな。まぁ、そりゃそう思うよな」
エンデヴァーと会ったのは1度、母の葬式でだったし、それ以外は全てメディアで見た姿と、焦凍をあんな風にしたという事実しか知らない
悪い人間ではないのではないか。
そう思っていたのだが、目を見て、やはりあまり相性が良い相手ではなかったと改めて思う。
自分の性格が母に似ているとは思っていないが……それでも、母ならこの人の事を気に入らないと判断しそうだ、とは思う。
少なくとも、子供を大事にしない人は嫌いな人だったから。
「……
「……何が?」
どこか訝しげな言葉に振武は一瞬気になったが、エンデヴァーはそれを聞かずに頭を振る。
「まあ良い。あの気に入らん女の息子と俺の息子が戦うとは。だが、テストとしては悪くない」
「……テスト?」
商品テストでもするかのような言い回しに、振武は小さく反応する。
反応したのが悪かったのだろうか。エンデヴァーはニヤリと笑みを浮かべた。
「あぁ、そうだ、テストだ。
何より、お前の母親は、一時期「戦闘能力のみで言えば比類なし」なんてくだらない謳い文句があったくらいだ……息子のお前も、焦凍の強さを確認する上での踏み台としてはちょうど良い」
「……なぁ、あんた勘違いしてない?
俺、母さんじゃないんだけど。アンタがどんな風に母さんの事思ってたか知らないけど、妄執なんざ他人に押し付けず、1人で勝手に抱いてろよ」
相手は、No.2のヒーロー。
実際に会う事を想定していたわけではないが、それでも冷静に、丁寧に話をしようという気持ちがあった。相手は一応立場があるのだ。例えやっていることがクズでも、それでもちゃんと礼儀は弁えなければいけない。
いけないと思っていたのに。
口から漏れる言葉は、礼儀というオブラートを被せる気がない、本心からの言葉だった。
「ハッ、センシティなどどうでも良い。
あいつは所詮、ヒーローになりきれなかった女だ。俺が目指すべきなのはNo.1の座だ。それを取る事を辞めた女を、俺が気にかける必要がどこにある?」
取る事を、辞めた?
「それも聞かされていないのか……あいつは、随分お前に甘いようだ。
貴様の母親は、ヒーローとしては三流だ。奴は結局、家族という存在を、個人として大切なものなんていうくだらない事にかまけ過ぎた」
夫と、息子。
彼女の中で掛け替えのない存在は、しかしヒーローという仕事の中では障害になる事も多い。
他のヒーローもそうだ。
誰かを救ける。
危険な場所に、いの一番で乗り込む事が多い。
1つの隙が命を奪う可能性がある状況の中で、それに気を取られ過ぎると、その可能性は現実に姿を現わす。
「実際、貴様の母親はそういう女だった。いつもいつも、夫を大事に、子供を大事にと、壊れたように何度も何度も……
その言葉に、右の拳が疼く。
あの日に負った傷が泣く。
「貴様は〝枷〟だ。
動島、振武、だったか? 無知は罪だ。お前は知らないうちに他の人間の〝枷〟になっている。他人の行く道を遮り、動きを鈍らせ、時にはその命も奪いかねない。
――正直俺にとっては、邪魔な存在だ」
エンデヴァーの言葉が、廊下に響く。
体の、顎の、マスクの炎が煌々と燃え上がる。
まるで怒りの具現。
今、日本で2番目に強いヒーローが振武に怒りをぶつけている。
「せいぜい、良い訓練を焦凍にさせてやってくれ。
――貴様を倒して、焦凍は
その言葉と同時に、
振武は思いっきり拳を振るった。
◇
BOOOOM!!という特徴的な爆発音が会場中に響き渡る。
まるで地雷原の中心で、地雷原が勝手に鋭児郎の元に集まり起爆するような、そんな非現実的な錯覚を起こしそうになる程、爆豪勝己の猛攻は激しい。
だが、その爆破がダメージを与えているのは、その爆炎で焦げ付いているのは、鋭児郎の体操服だけ。本人は至って平気そうにしている。
「効かねーっての、爆発さん太郎があ!!」
吹き飛んだ服の裾から、硬化している体が見える。
まるで切り出された石のようになっているその体は、石以上に硬い。実際ただの石ころであれば、爆豪が爆破出来ない事はないのだ。
「――流石にかてぇな」
泣き言ではない。
賞賛でもない。
あくまで事実の確認として、小さく呟く。
どうしたら倒せる。
どうすれば倒せる。
爆豪は戦いながら相手の弱点を見つけようとしていた。
――不思議な感覚だ。
爆豪勝己はいつも誰かに苛立っていた。苛立ってない時は自分が1番であると証明した時のみ。その時だけは気分が良かった。
だから今だって、苛立って仕方ないはずなのだ。
モブだと思っていた目の前の硬化の男を、捩伏せる事が出来ない今の状況は、苛立ってしょうがないはずなのだ。
だが爆豪の心は、嘗てない程静かだった。
なんの所為だ?
だれの所為だ?
――動島振武だ。
徒競走、騎馬戦、そしてトーナメント。
あそこまで引き出しが多いとは思わなかった。
あそこまで圧倒的だとは思いもよらなかった。
あそこまで、――強いとは。
それが何故か、無性に嬉しかった。
あぁ、そうだ。
そうなのだ。
自分の叩き潰す存在が、雑魚では意味がない!!
今まで本当の意味で勝てない人間は1人もいなかった。
雄英に入って、自分と同じくらい、いや、自分より強い人間に会ってきた。
今まで雑魚だと思ってた人間が強くなった。
計画が全部パアになったような気持ちにさえなった。
だが、今はそれが〝楽しい〟。
「――おい、切島ぁ」
「んだ、爆発さ――え?」
不意打ちだった。
初めて爆豪勝己が自分の名前を呼んだ。
それが、一瞬の隙になる。
「悪りぃな、俺はアイツと勝負しに行きてぇんだよ。
テメェは――邪魔だ!!!!」
鋭児郎の力みが解けた瞬間、
個性が解けた瞬間、
爆豪勝己がノーリスクで放てる最大火力を、切島鋭児郎の腹にぶちかました。
◆
相手を殴る気はさらさらない。
そもそもヒーローを殴るなんて問題だし、目の前のオトコは殴る価値すら無いと、少なくともこの時の振武は判断した。
だから吹き飛ばした。
目の前でメラメラと、邪魔にちらつくその炎を。
個性など使っていない。
こんな所で使っては問題になるから。
だから、――自分の持てる技術と、素の力だけで吹き飛ばした。
「――――っ」
消えたのは一瞬で、すぐに炎は復活する。
だが、エンデヴァーは息を呑む。ただ拳を振るっただけで、その拳で引き起こした風圧だけで、どんな激しい戦闘の中でも消えない自分のスーツの炎を一瞬だけでも消したのだ。
――まるで、あの女のように。
エンデヴァーはそう思っていた。
だが振武からすれば、それすらもどうでも良い。
「……一応言い訳すると、別に怒った訳じゃ無いっすよ?
あんたのその目障りな炎で、目がチカチカするんです。流石に、試合前に目ぇやられちゃ敵わないんで」
電気消すようなもんです、と振武は言う。
実際はそんな簡単なことでは無い。だけど虚勢をはる。
目の前のこの男には、一歩も引きたくないと考える。
「……正直、あんたが何を言ってるか分かりません。
無知が罪ってのは、なるほどこういう事かって思います。あんたがどんだけうちの母さんが嫌いかも、知ったこっちゃありません。だから、どんなに否定したって俺の言葉は軽すぎる」
実際、あの事件で自分は間違えた。
自分を守る為に母が死に、その母の死を悲しんで父が泣いた。
どうしようもない事なのは確かだったが、自分が無知で弱い存在だったのも事実だった。あの日から、取り零さないように鍛えて勉強して、それでもまだまだ、全然足りていない。
ゆっくりとした足取りで、エンデヴァーの横を通り過ぎる。
ちょうどエンデヴァーの真後ろに立ち、振武は、
「でも、これだけは言えます。
――1番近いもんも大事に出来ねぇ奴が、ヒーローなんて名乗ってんじゃねぇっつう話です。
事件解決数史上最多とか、No.2とか、どんなにあんたが偉かろうが。俺の大事なもん踏みにじった時点で……あんたは、俺の敵です」
――守る世界に大切なものが1つもなければ、守る価値などない。
母などは本気でそう思っていたんだろうな、と思う。
振武も同じだ。
父が、
祖父が、
よく話しかけてくれる道場の皆が、
転々寺が、
相澤やオールマイト、リカバリーガールなどの先生達が、
鋭児郎や尾白、出久といったクラスの仲間達が、
焦凍が、
魔女子が、
百が。
こんな人達が、もしこの世界にいなかったら。
「誰かを守りたい」なんて思っている自分もいないし、ヒーローを目指す自分もいないし、そもそも世界のことなんてどうでも良いと思っていたかもしれない。
いや、昔の自分だったら間違いなく、そう思っていただろう。
世界など、所詮好きに出来ない檻のようなものなのだから。
――でも、違う。
父が、祖父が、道場の皆が、転々寺が、相澤が、オールマイトが、リカバリーガールが、鋭児郎が、尾白が、出久が、焦凍が、魔女子が。
百が。
振武を励まし背中を押して、一緒に走ってくれるからここまで来ているのだ。
そんな人達が後ろに、隣に、前に、いてくれるから自分はここに立っていられるんだ。
それを、口が裂けても〝くだらない〟なんて言えない。
言わせない。
だから、エンデヴァーに、宣戦布告する。
エンデヴァーを超えるのは焦凍ではない。〝まずは〟自分だと。
「まずは、あんたの〝妄執〟ってやつを、ちょっと叩き潰してきます。
まぁ勿論、友達として轟に話したい事があるってのもあるんですけど……俺だって、勝ちに行ってるんですから」
振武はゆっくりと歩き出す。
目指すは〝完全無欠のハッピーエンド〟。
その為に必要なことはどんな事だってする。
No.2ヒーローにだって喧嘩を売る。
それが、振武が決めた数少ないことの1つだった。
『サアサアいよいよ大詰めに近づいて来やがった!! テメェら、準決勝を始めるぜ!!』
「大会中ずっと元気だよなぁ、マイク先生……あれでよく疲れないよ」
実況担当の盛大な声に、振武は苦笑を浮かべる。
先ほど、取り敢えず言いたい事を言いたい相手に言えた事もあってか、気持ちの上では万全だった。過度の緊張もしていなければ、気が抜けすぎてもいない。
戦う上で非常に良い、ニュートラルな精神状態。
そういう意味ではエンデヴァーに感謝しても、
「いや、絶対に感謝しない」
心の中で思った世迷言を慌ててかき消す。
おそらく人生でエンデヴァーにありがとうと言うなどという事は、人生で1番ありえないだろう。父親のことを「パパ」と呼ぶこと以上にありえない。
『さぁ、超エリート対決だ!! 武闘派ヒーローの息子と、No.2ヒーローの息子とのガチンコ対決!! マスメディアは涎垂らすんじゃねえぞ』
『汚ねぇし余計なこと言うなタコ』
……実況担当、黙ってもらえないかな。煽られると困るんだけど。
振武はゆっくりと体をほぐしながら、正面を見据える。
轟焦凍。
その顔は、酷いものだった。
他人から見れば冷静な顔、の一言で片付けられてしまうのかもしれない。だが焦凍を知っている人間が見れば分かる。
今のあいつには、父親への憎悪と自分の夢への固執しかないんじゃないのかと思える目。
……いや、それはないだろう。
何せ今、振武は思いっきり睨まれているから。まるで親の仇にでも会ったかのような眼だ。
「……そうだよな、ごめんな。
お前にとっちゃ、酷いこと言ってきた奴だもんな。怒るよな、そりゃ」
ごめん。
今まで、振武は焦凍をちゃんと見てこなかった。
救う相手としか認識できていなかった。
聞いていないかもしれない。聞いていても無視しているのかもしれない。焦凍は自分を睨む事を辞めない。
それでも良い。
怒られるような事を言ってきたんだ。
怒られるような態度で接してきたんだ。
だから、怒られても良い。
「ごめん。
それでも俺は、お前の友達でいたい。
ワガママだけど、自分勝手だけど、それでも話を聞いてほしい」
殴られても、
酷い言葉を浴びせられても、
否定されて、
拒絶されても。
「〝助けさせてよ〟――しょうとくん」
『動島
戦いの火蓋は、切って落とされた。
いよいよ大本命です!!
正直これを書きたいと思って必死に書いていた気がします……いや、勿論この戦いが終わってもまだ章は終わらないし話も終わらないですけどね。
というか、振武くんはこんな、No.2ヒーローにガッツリ喧嘩売って大丈夫なんだろうか。
……次回 振武、笑う。どうぞご期待ください。
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