plus ultraを胸に抱き   作:鎌太郎EX

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episode9 お互い様

 

 

 

 ――その試合に題名をつけるならば『高速(スピード)』と名付けるだろう。

 それほどに、この戦闘ではスピードが決め手だった。

 

「くっ――」

 

 飯田が足を踏み出し加速する。

 飯田の足のエンジンは試合を開始してからずっと稼働し続けている。

 レスプロ・バーストは使っていない。あれは速攻を仕掛けるのには良い方法だが、中期・長期の戦闘には向かない技だ。

 当然だ。

 飯田の加速についてこれる人間は数少ない。反射神経抜群の爆豪や、ノーモーションで攻撃出来る焦凍、瞬刹を利用する振武相手ならば当然初撃から全力で行くが、そうではない相手には通常のスピードアップで有効だ。

 実際、1回戦で戦った芦戸には有効だった。

 ……だが、どうやら百には有効ではなかったらしい。

 

「ハッ――!」

 

 飯田の動きに合わせるように、百が加速する。

 足には、個性把握テストでも使ったエンジン付きのローラーブレード。

 雄英初日にはわざわざ時間をかけて作ったが、これだけであれば別に時間もかからない。飯田の個性と同じほどの加速は出来ないが、その代わり小回りが利く。

 試合開始からずっと、百は逃げ切っていた。

 

『ハッハー!! さっきのちょっとした陣取りゲームみたいな試合から一転、こっちは追っかけっこだ!! お前んとこの生徒は器用な奴多いな!!』

 

『まぁ実際そうだが……少し八百万の行動がぎこちないのが気掛かりだ。今のあいつには飯田を止める方法が思いついていないのも原因の1つだろうな』

 

 ……その通りだ。

 相澤の言葉は、百の今の動きを正確に捉えていた。

 ――焦凍・魔女子戦は、こちらにも影響を与えていた。残念ながら控え室のモニターは全国放送しているものと同じで音声までは届いていない。

 だから、何を焦凍と魔女子が話していたかは分からない。

 でも、魔女子が何か焦凍に対して思っていたのか、なんとなく分かるし、

 それが焦凍に拒否されたことも、表情などを見ればなんとなく分かる。

 全部が全部、理解することは出来ない。

 でも不思議と、その苦しみは理解することが出来た。

 相手から拒絶される。1番傍にいたいと願った相手に拒否されるその気持ち。

 もし、百が振武に拒絶されたら……そう考えただけでも悲しくなってしまうから。

 ――答えは、見え始めている。

 だが、はっきりと断言出来ない、形容しがたいモヤモヤとした感情と、その答えの正体がそうだった(・・・・・)とするならば、自分はなんて見当違いの感情を魔女子に向けていたのだろうという罪悪感が百の心の中で滞留する。

 それが百の体に、動きに、思考に影響を与えて、鈍らせていた。

 

「っ――レシプロ・バースト!!!」

 

 目の前の飯田が、今までにない速度に加速する。

 同じ騎馬だったから分かる。あの加速に対応出来る技も道具も自分にはない。

 後から考えれば、出来る事は多かったはずだ。

 飯田の動きを限定し、その限定された動きの中で通るであろうルートに罠を仕掛けるとか、同じくルートに突っ込んできた瞬間に物理的な網で捕縛するとか。

 だが、加速した後では対応出来ない。

 それほど彼の速度は速いのだ。

 

「すまない、八百万くん――俺は、ここで勝たせてもらう!!」

 

 先ほどまでそれなりの距離を取っていた自分の目の前に、飯田は既にいた。

 認識する前に距離を詰められる。

 それは呼吸が止まるほどの動揺を百に与える。

 そして、――唐突な浮遊感。

 首元を掴まれて投げられる実感。

 視界が奇妙な角度で流れる。

 

 

 

 あぁ、私は負けたんだ。

 

 

 

 そうはっきりと、現実が告げた言葉を、心の中で繰り返した。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「まったく、「話があるから席を外していただけますか?」とかあの坊やが言うから何事かと思えば……あんた、分かってんのかい? 小さな生き物であればフィードバックが最小で済むとはいえ、一万匹が瞬時に凍らされたんだ、下手をすれば廃人になってもおかしくないんだよ?

 私の教え子に対処法を心得ている子がいたから、なんとか幻痛は治ったけど……それでも、あんまり心を激しく動かすのは、良い事じゃないね」

 

 医務室で、枕を背もたれにしてベッドに座っている魔女子に、リカバリーガールは不満そうに小言を漏らしている。

 魔女子の幻痛は特殊だ。

 使い魔との感覚共有から来るそれは、リカバリーガールの治癒も何も効果はなく、事前に防ぐ事も出来ない。使い魔に攻撃されないという予防しか出来ない。

 受けてしまったものは、基本的には自然に治癒――勿論、体についた傷ではないので、少し違うのだが――するのを待つしかない。

 だが、雄英体育祭には、全国のヒーローが集まっている。

 リカバリーガールの教え子の中にいた、精神操作系個性を持つ人が、魔女子の幻痛を緩和した。

 あくまで、緩和だ。まるで頭をシェイクされたような少しの酩酊感のようなものは残る。だがそれでも、魔女子からすれば全快と言っても良いくらい気分が良い。

 

「あれは動島くんが勝手にやった事なので、私の所為にされましても、」

 

「あんたが意固地なのも原因だろう? それならあんたも同罪みたいなもんだよ」

 

 リカバリーガールにそう言われて、言葉が詰まる。

 確かに、と納得してしまう自分がいるからだ。

 魔女子のこれは、まるで固まってしまったコールタールの塊だ。そう簡単には壊せない。壊せたとしても、それは小さな破片となっただけで、魔女子の心に残り続ける。

 しかし凝り固まった根幹部分を、動島振武がぶち壊していってくれたのは確かだった。

 ……かなり無茶苦茶な言い振りだったし、思い返せばあれで自分が納得しなかったらどうするつもりだったんだろうと思う部分はあるが。

 懐柔されてしまった自分がそれを言う資格はない。

 

「……まぁ、少しでも心の枷を外せて良かったよ。あんたもそうだけど、今期の一年、特にA組にはそういう厄介な子が多いからね。

 はぁ、まったく、養護教員をしていて本当の意味で忙しいと思うのは久しぶりさね」

 

 リカバリーガールは、年相応な笑顔を浮かべて、魔女子の頭を優しく撫でる。

 まるで祖母のようだな、となんとなく思った。

 自分の祖母ではない。あの家の人達は、父と母、そして弟以外は典型的な上流階級のような考えを持っている人達だったので、このように優しくされた経験はない。どちらかといえば、自分の両親よりも厳しい人達だった。

 彼女が思い浮かべるのは、普遍的にイメージとしてある「優しいおばあちゃん」の姿と、なんとなくリカバリーガールが重なっただけだ。

 ――魔女子は、自分で考えていた以上に、誰かに心配されていたようだ。

 

「……ありがとうございます」

 

 それしか言えなかったが、それでもリカバリーガールは嬉しそうに頷いた。

 

「――で? あんたは扉の前に突っ立って何をしているんだい?」

 

 リカバリーガールが振り返らずにそう言うと、扉の前の影――珍しいことに、魔女子は言われるまで気付かなかった――がビクリと反応する。

 躊躇うような静寂。

 だが観念したのか、ゆっくりとその扉が開く。

 気まずげに立っている、八百万百だった。

 その表情と、体の擦り傷を見るに、答えは容易に想像出来る。

 彼女は、負けてしまったのだ。

 

「え、えぇっと、治療をお願いしようかと思ったのですが、何やらお話中でしたし、私が踏み入る訳にもいかないのではないかと、「あぁはいはい、そういうのは良いから、こっちにいらっしゃい」……はい」

 

 あたふたと、まるで先ほどまで自分の相手だった飯田のように手を様々な形に動かして言い訳を言い続けるが、リカバリーガールの言葉に素直に、ベッドがある場所から、診察用に用意された机がある場所まで移動したリカバリーガールの後に着いていく。

 

「う〜ん、ちょっと擦り傷がある程度で、大きな怪我は無さそうだね。

 リカバリー出来るけど、ああいうのは使い過ぎない方がいいからね。普通の処置で済ませるのが良いだろう」

 

「あ、はい、そうですわね……」

 

 リカバリーガールの診療にも、百は気もそぞろな様子だ。

 というか、魔女子の方に視線がチラチラと向けられているのが、見なくても分かる。

 ……そう言えば。

 自分の試合の時彼女は控え室で、終わればすぐに試合だった。

 つまり、まだ一言も話していない。

 

「……はい、これで良いよ。

 私は、ちょっとお菓子が足りないから買ってこようかね。その間、八百万、あんたも待ってなさい……塚井、あんたはまだ安静にしてな。ベッドの上から一歩でも出たら、説教だからね」

 

「あ、はいはい、正直もう少し休んでいたいんで大丈夫ですよ」

 

「え!? そ、そんな、私は、」

 

 魔女子の適当な言葉も、百の制止の声も聞かず、リカバリーガールは外に出ていく。

 杖をついて歩いているとは思えない速度で出ていってしまった。

 ……医務室を、静寂が支配する。

 魔女子はマイぺースに、ベッドに腰掛け、

 百は相変わらず気まずそうに、視線を彷徨わせている。

 ……もっとも、気まずいのはお互い様だった。

 

(……どうすれば良いんでしょう?)

 

 人と話すのはそれなりに慣れているつもりだったが、〝友達〟と話す経験は少ない。

 いや、そもそも八百万百は本当に自分を友達と認識しているのか、それも疑わしくなってくる。その情報は振武や耳郎から少し聞いただけで、魔女子からしてみればまだ実感が湧かない。

 振武も、先ほどほんの少し話しただけの耳郎も、ヒーロー科在籍らしく優しい人だ。

 もしかしたら自分の気持ちを慮って嘘をついている可能性も、

 

「あの……塚井さん。ちょっと、お話ししてよろしいでしょうか」

 

 長年の経験から慣れてしまった思考を、百の声が遮った。

 

「……えぇ、構いませんよ。もっと近くにズズイと寄ってくださいな。

 生憎、今の私はベッドから出るのを禁じられた身ですので」

 

 魔女子が取り敢えず冷静にそう言うと、「そ、そうですわね」と言いながら、ベッド近くに備え付けてある椅子に腰掛け直す。

 

「取り敢えず、試合お疲れ様です。残念ながら私は見れていませんが、その様子を見るに少々不満が残るものだったご様子ですが?」

 

「……正解ですわ。言葉を選ばず言えば、今回の試合の私は精彩さを欠いていた部分がありました。

 あんな事があった後で大変申し訳ないんですけど……話を、聞いていただけますか?」

 

 百の言葉に、小さく頷くと、百は俯いていた顔を上げ、魔女子と目を合わせる。

 ……自分の周りは、どうしてこんな真っ直ぐな人が多いんだろうか。

 その目を見て、ついつい先ほどの振武を思い出した。

 

「まずは謝罪を。

 私、塚井さんに見当違いの嫉妬心を抱いていました」

 

 それは……確かに。

 百に言われるまでもなく、なんとなく分かっていた。

 彼女からの視線を感じる時が今回多かったのは、その所為だと思っていた。

 ――塚井魔女子は、自分で言うのもなんだがそれなりに優秀だ。

 運動はダメだが、それなりに勉強も出来るし、個性だってそれなりに優秀だ。その所為で難癖をつけられた事も一度や二度ではない。

 だから、百にそのような感情を向けられても「しょうがない」と思ってしまった。

 

「別に、気にしませんよ。八百万さん、貴女はとても優秀な方です。私なんかよりもずっと凄いヒーローに、「あ、あの! そうではないのです」……はい?」

 

 百制止のの言葉に、思わず呆然とする。

 そうではない?

 ならなんだと言うのだ。

 

「あ、あの、その……最初は、そうだと思っていました。

 貴女は、私より優秀な部分が多いです。だから、私の不甲斐なさを棚に上げ、嫉妬しているのだと……でも考えてみれば、そうではありませんでした。

 そもそも、個性は似たり寄ったりはするものの、個々の個性はオンリー・ワン。比べる事は出来ませんし、冷静な判断能力や戦術眼は、鍛えられます。ここで羨ましがってもしょうがない事だと私自身納得出来るので、違うことが分かりますわ」

 

「は、はい」

 

 予想外の展開に少し動揺している魔女子に、百はそのまま話を続ける。

 

「だから、必死で考えました。どうして私は塚井さんを羨ましいと思っていたのか。

 答えは、実に単純で、でも想像も出来ない事でしたわ……私は、いつも振武さんの側にいる貴女を、羨ましいと思ったんですわ」

 

「それは、つまり、」

 

 嫉妬は嫉妬でも、

 

 

 

「はい――私、多分振武さんを、女性として好きになってしまった。

 つまり、その……愛してる、という言葉が適切なんだと、そう思いますの、えぇ」

 

 

 

 気恥ずかしさを噛み殺しながらも、全く噛み殺せずに顔を赤らめる。

 その姿は、まさしく恋する乙女の姿だった。

 それを見て、魔女子が最初に抱いた気持ちは、

 

 

 

 え、いまさら?

 

 

 

 という呆れを通り越して笑ってしまいそうになる言葉だった。

 

「振武さんと塚井さんは、その、とても強い絆があります。

 それが私は、羨ましくて羨ましくて、それで嫉妬していたんです……それに、その、てっきり塚井さんも、その、振武さんの事を少なからず想っているのだと、」

 

 おい、何故そうなる。

 思わず心の中の自分が叫び出しそうになったが、なんとか押し留めた。

 

「わ、私どうすれば良いのか分からなかったんです。昔から憧れていた殿方と、付き合いそのものは短いですが、その、ごく普通の友人になれた方との三角関係なんて、どんなドラマのような状況なのかと。

 ですが、前の試合を見まして、塚井さんがそうではないと知って、私ちょっとホッとしてしまいましたし、でも塚井さんは轟さんとの関係が悪化してしまったのを見てどういう言葉を掛けていいか分かりませんし、もう私、頭の中が破裂しそうで。

 言い訳じみてしまいますが、それで試合中も気もそぞろだったのです……」

 

 百の口から出される言葉は、どれもこれも今の魔女子にとっては衝撃的なものばかりだった。

 頭の処理がなかなか追いつかない。

 というか、この子もか。

 この子も魔女子(じぶん)と同じ、振武から言わせれば「考え過ぎて一周バカ」の類なのか。

 思わず大爆笑してしまいそうになるほどだ。

 なんて単純な問題だったのだろう。

 というか、魔女子が崇高なものだと思っていた『友達』というものは、そんなアッサリ言ってしまえる言葉だったのかという衝撃もあるのだが。

 

「だから、その諸々も含めて、塚井さんには謝らなければいけないと」

 

「えぇっと、ちょっと待ってください、1個ずつ整理させてください」

 

 思わず目眩を感じながら、手を上げて百の言葉を止める。

 

「まず……えっと、私は、八百万さんとお友達だという認識で、本当によろしいんですか?」

 

「? はい……え、違いますの?」

 

 あっさり言いやがった。

 

「ですが、私は、あまり普通とは言えない人間なのですが、」

 

「それは……私、人のことはあまり言えませんの。ちょっとその、感覚がズレているのは確かですし。

 学校でも、あんまり仲の良いお友達は少なかったですし……お、お友達と、このように恋の相談をする事もありませんでしたし」

 

 その言葉に、ストンと納得してしまう自分がいた。

 同性同士の友人は、時に恋バナをする。知識としては知っていても、それは魔女子にも初めてな体験だった。

 だが、これは恋バナの範疇に入れても良いのだろうか。

 

「……そう、ですね。お友達なら、そういう話をして良いのかも、しれませんね」

 

「は、はい、お友達ですわ」

 

 2人とも、その距離感に慣れていないせいか、どこか気恥ずかしそうで、ぎこちない。

 まるで心の隅をくすぐられているような、奇妙な感覚だ。

 

「え、えぇっと、それでですね、まず、貴女の好意の話をしましょう。

 動島くんを八百万さんが好き、という話ですが、「えぇっと、出来れば、下の名前を呼んでいただけますか、ま、魔女子さん」……そ、そうですね、も、百さん」

 

 崩れかける思考にまたも強烈なストレートパンチを食らったような気分に陥りながら、魔女子は話を続ける。

 

「コホンッ、ハッキリと言うのは申し訳ないんですが……それはただ単純に百さんが自覚しただけで、好意は最初からあったと思います。

 そこら辺は、自覚していらっしゃいますと思いますが」

 

「それは、確かに。正直、最初は尊敬の念だと思っていたのですが……どうやら、普通にその、男女の恋愛感情を、尊敬の念と誤認していたようですわ」

 

 恋バナというには、どこか硬い会話が続く。

 まるで恋愛感情というものを科学的見地から分析しているような言葉だが、2人とも慣れていないのだからどうしようもない。

 

「はい、なのでその件に関して私に言える事は「え? いまさら?」という言葉しかお送り出来ません」

 

「そ、そうなのですか? そんなに、バレバレでした? 私」

 

「はい。ですが爆豪さん的に表現するならば「クソ朴念仁」である振武さんはまだ気付いていないようですが」

 

 その言葉に、百は大きく安堵の溜息を吐いたが、それは魔女子も同じだった。

 ……これが百の悩んでいた問題なのだとしたら、振武1人で解決するには荷が重すぎる。

 というか、無理だ。関わってはいけない類だ。

 何せ百が好意を持っている相手本人なのだ。彼が問題に首を突っ込んで言ったらややこしい問題になる。

 ……いや、それはそれで面白いが、百の気持ちの問題もあるのだ。

 ここは、魔女子がなんとかしなければいけない問題だと感じた。

 

「……そして、嫉妬の件についてです。

 私はこれに関しては、謝罪を受け取る義理はありません」

 

「え、そ、それは許していただけないという事ですか!?」

 

 お、お友達じゃなくなる、と悲壮感漂う表情になる。

 百だけに、百面相だ。

 ……魔女子が言ってしまうのもなんだが、友達慣れしていない人間の典型のような反応だ。

 

「ご心配なく、そういう事ではありません。

 私は貴女に謝ってもらえる資格がないというだけです」

 

「? どういう、意味ですの?」

 

「いえ、実に簡単な話ですが、

 

 

 

 私も、嫉妬心を持っていました。

 貴女にではなく、動島くんに対してでしたが」

 

 

 

 ……誰がなんと言おうと、今1番轟の心の中を占めているのは動島振武だ。

 1番影響力があり、何とか出来るのは、現時点において彼しかない。

 それを、魔女子は最初から分かっていた。

 分かっていたから、魔女子は自分が焦凍を救けたいと思ったのだ。

 動島振武よりも、塚井魔女子の方が、轟焦凍の傍にいると思いたいが為に。

 勿論、轟焦凍を救けたいと思う気持ちは本物だし、それまでにしてきた努力に一点の曇もない本心からくるものだったのは事実だ。嫉妬心はキッカケに過ぎない。

 

「私も貴女と同じです。動島くんよりも、私の方が轟くんを思っているという……ワガママでした。

 それも、私がダメだった理由なのでしょう」

 

 どんなに中身が崇高なものだったとしても、キッカケがそれではいけない。

 邪な感情では、いけなかった。

 

「……魔女子さん」

 

 どこか悲しそうな顔をする百に、魔女子は小さく微笑む。

 ぎこちなくないだろうか、そう心配にはなったが……それでもそれは、本心からの笑みだった。

 

「安心してください、大丈夫。今は私も見当違いだったと分かっています。

 人間、そういう感情はどうやっても消せません。それはしょうがない事です。

 だから、私に謝罪はいりません。それより、」

 

 すっと手を出す。

 握手を求める。

 言葉でも不安になってしまう不甲斐ない自分のために、ここまで話しても不安そうにしている彼女に、ちゃんと形があるものとして示したい。

 

「お友達として、約束しませんか?

 お互い、好きな人がいるんです。お互いがお互いの相手と上手くいくように、これからも相談し合いましょう」

 

「え、で、でも、」

 

 百は気まずそうに魔女子の顔と差し出された手を、交互に見る。

 そう、百も分かっているのだろうが、魔女子は手酷く拒否された。拒絶された。

 そこで普通の人間なら止まってしまう。諦めてしまう。

 だが、残念ながら、塚井魔女子は普通の女の子ではないのだ。

 

「私は諦める気はありません。

 一度手酷く振られました。正直ショックはまだ消えていません。

 でも、諦める気もありません」

 

 だって好きだから。

 どうしようもなく好きだから。

 これ以上の人に巡り会える事はないと、魂が叫ぶから。

 ここで手を離す気も、

 傍を離れる気も、

 恋心を捨てる気も、

 ない。

 

 

 

「女の子は強いんです。

 ですから……もし良ければ、一緒に頑張りましょう、百さん」

 

 

 

「――はい!!」

 

 

 

 2人の手は、固く、しっかりと繋がれた。

 ずっと先の未来まで続く、1番仲のいい、同性の友達。

 この2人が、天然鈍感を絵に描いたような男性2人に協力して猛アタックをかけて行く事になるのだが……それはまだ先の話。

 まだ、開かれていない未来。

 それが開かれるのは――たった1人の、男の拳。

 

 

 

(――決めたんだったら、最後までやり通してくださいね、動島くん)

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回は百と魔女子メインの話になりました。
ちょっと話の展開が急かなと思わなくもありませんが、物語の流れとしては必要ですし、長くし過ぎるとあかんと思いまして。
女の子同士の会話って、100%妄想になってしまいますよね!?


次回! エンデヴァーのお髭の炎がメラメラ燃える!! 顔スゲェ


感想・評価心よりお待ちしております。

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