plus ultraを胸に抱き   作:鎌太郎EX

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ここで、塚井魔女子を救う事は出来ない。
そもそも、救うなど、動島振武には烏滸がましい。
たとどう動こうとも、何をしようとも、人はそう簡単には変われない。
だが、



〝友達〟として。
それを〝助ける〟事が出来たなら。


episode8 友達と

 

 

 

 

 目を覚ますと、そこは医務室だった。

 目を覚まして一瞬呆然とする。幻痛は感じない。寝てもしばらく残る事もあるのだが、リカバリーガールが何とかしてくれたのかもしれない。

 だが、すぐに悲しみが自分の胸を締め付けてくる。

 失敗した。

 自分ではダメだった。

 1番救いたい人を救えなかった。

 

「……おう、目、覚めたか?」

 

 枕元から聞こえてきた声のした方を見ると、振武がベッドの脇に備え付けてある椅子に腰掛けている。

 普段の自分だったら笑ってしまうほど渋い顔をしている。

 ……当然だろう。

 こんな事になったのは、自分の所為なのだから。

 

「……こんな所にいちゃダメです、動島くん。私はもう大丈夫です。八百万さんの試合を観てあげてください。

 動島くんが観ていなかったと分かったら、彼女きっと落ち込んでしまいます」

 

 乾いた喉で必死に喋る魔女子に、振武は小さく首を振り、置いてあったペットボトルの蓋を開ける。

 

「俺がどこにいようが俺の自由だろ。まぁ、百には悪いが、優先しなきゃいけない事があるんだよ」

 

 ほら、水、と言ってぶっきら棒に渡してきたペットボトルの水を、魔女子は躊躇する事なく飲み始める。

 体に水分が染み込む。

 これを経験するとは、思っていなかった。

 

「っ……ハァ、優先しなければいけない事?

 あぁ、私の事ですか? お気になさらず、こんなの日常茶飯事です。私が誰かに拒否されるのなんて」

 

 ……頭の中は冷静だ。

 悲しい、悲しいが仕方がない。何せ自分は、轟焦凍にとってその程度の人間でしかなかったという事に他ならない。

 当然だ。

 自分は、その程度の人間なのだから。

 

「――失敗、してしまいました。」

 

 切り離していた感情が、

 押し込んでいた気持ちが、

 決壊する。

 破裂する。

 止めなければ、そう思う冷静な自分は、その激情にいとも簡単に押し流される。

 

「いつもと同じように、上手く出来ていたと思ってたんです。轟くんが決勝に行けるようにという事も考えました。私は動島くんと同じように、比較的あの人の側にいる人間だと、自分では思っていました。

 だからきっと届いてくれるだろう、そう思ったんですが……ダメですね、最後の最後で詰めが甘い」

 

 愚痴の中に弱々しく被せられた虚勢。

 振武はそれに何も反応しない。

 ただ真っ直ぐに魔女子の目を見ている。

 いつも射抜かれそうで怖いその目を。

 

「私は、何を間違えていたんでしょう? なんで、失敗してしまったんでしょう。

 なんで――こんなに、悲しいんですか?」

 

 頬を伝う何かの感触。

 涙の感触。

 母が昏睡状態になってからずっと出てこなかった涙が、今までどんな言葉を向けられても流れなかった涙が、今までの分も含めていると言わんばかりに流れ続ける。

 

「おかしいんです。普段私、悲しいと思わなかったんですよ? 辛いとも思いませんでした。

 失敗したからですかね? 犠牲に報いることが出来なかったからですかね? 1番救けたい人を救けられなかったですかね? 何が理由なのか、私には解らないんです」

 

 心臓を締め付ける悲しみも、

 呼吸を止めてしまいそうになる苦しみも。

 全てが未知だった。

 

「……何が悪いんだよ」

 

 すすり泣く魔女子の声に、振武の言葉が乗る。

 

「悲しんで、何が悪いんだよ。何がいけない事だっていうんだよ。

 お前は、確かにやり方も姿勢も間違えたよ。誰かを傷つけたかもな。結果なんも得ることはなかったかもしれない。

 でも、お前は轟が好きなんだろう。

 好きな奴に否定されりゃ、そりゃ悲しいはずだ」

 

 振武の静かな言葉が、魔女子の耳朶を打つ。

 好き?

 えぇ、勿論そうですよ?

 でも、

 

「ダメなんです……それでは、ダメなんですっ」

 

 必死に呼吸をしながら言う。

 嗚咽を押し殺して。

 嘆きを噛み殺して。

 

「それが許されたら、私は……なにも、出来なくなってしまいますっ」

 

 感情をそのままにしては、自分は何も出来なくなる。

 だってそうだろう?

 好き好んで嫌われたい人間なんてどこにも居ない。人は誰だって自分の幸せが欲しくなってしまうし、好かれたいと思ってしまう。

 だがそれでは躊躇する。

 誰かを救う魔女は、笑顔で居続けなければいけないのだ。

 

「……いい加減にしろよ、お前」

 

 振武の顔は、いつの間にか表情が置き換わっていた。

 痛みを必死に堪える表情。

 まるでこちらの痛みが、あちらに移ったかのように。

 

「救けたい? 笑顔を創り出す? 笑わせんなよ。

 何でなんだよ、なんだよそれ、誰がお前に救けて欲しいなんて頼んだよ? ヒーローごっこかよ」

 

「それ、は、」

 

 振武の言葉が、焦凍の言葉と重なる。

 やめて、また同じ事を言うの?

 分かっている、私が勝手だというのは分かっている。

 だからそれ以上言わないで。

 

「お前、一体どこから話してるんだよ。普通はもっと近いところから話しするもんだろうがよ、1人でやるからそうなるんだよ――なぁ、鈍感でいるのもいい加減にしろよ。

 お前、誰も見てないのか? 何も感じる気がないのか? 自分の気持ちに蓋して隠して、誰も頼らず1人でやろうとして、失敗してウジウジして――ふざけんなよ!!

 

 

 

 なんで、「救けてください」の一言も言えねぇんだよテメェは!!!!」

 

 

 

 呆然とする。

 理解できず頭がクラクラとする。

 

「わ、私は、私なんて、」

 

「なぁ、普段のお前どうしたんだよ? お前だったら「私轟くん好きなんですよ」ってあっけらかんと言って、「もし良ければ、協力してもらえますか?」とか気軽に言えるだろうが!!

 なんでこう言う時だけその器用な舌が動かねぇんだよこの人付き合い下手!!」

 

「こ、これは、私が自分でやりたいと思っただけで、関係ない人は巻き込めない、それに、私みたいな人に協力しようなんて人、誰も、」

 

「そこだ!!」

 

 そう言うと、振武は手を差し出す。

 その形は、影絵で使われる狐のジェスチャー……に似ているが、違う。

 あれは、そう、

 

 ペチンッ

 

「いったぁ!?」

 

 デコピンだった。

 痛い。

 死ぬほど痛い。

 普通のデコピンであればそれほどではないのだろうし、音的には大変可愛らしい音だが、威力が段違いだ。

 

「まずその前提条件を何とかしろ! 過去に何があったかなんて俺は知らねえ!! お前のことだ、どうせそのヘンテコリンな感性で厄介なこと考えたんだろうよ!!

 でもなぁ、ハッキリ言わせてもらうぞ!!」

 

 痛みで震えている魔女子の肩を掴んで、無理やり自分と視線を合わせる。

 その顔は、怒っているとも、悲しんでいるとも、どれとも形容し難い。

 強いて挙げるならば……痛みを堪えているような顔。

 

「〝みたいな〟とか〝なんて〟とか、お前いちいち自己評価が低い! なんでそうなるんだか、俺は一個も意味が分からない!!」

 

「でも、それは、私が、普通じゃないから、」

 

 普通に話して、

 普通に笑って、

 普通の学校生活を送り、

 普通の友人関係を築き、

 普通に――恋をする事も出来ない。

 良い人間じゃないから。

 自分にとっては当たり前で、自分では消し去ることが出来ないその気持ちを、

 

「知ったことか!!」

 

 振武は力任せにぶち壊し始めた。

 

「どこの誰がんなもん決めた!! 普通がどうかなんて、んな曖昧なもんでてめぇは自分を下げてんのか!? お前やっぱちょっと変わってるわ!

 でもな、その変わってんのが良いと思ってんだろうが!!」

 

「なっ、」

 

 そんなはずはないのだ。

 そんなことはあり得ないのだ。

 

「でも、だって、私は、全然表情も変えませんし、簡単に酷い事を言いますし、マイペースで相手に合わせられないし、それに、それに、――友達だって、1人も、」

 

 いない。

 そう言いたかったのに、

 

 

 

「俺とか、百とか、そういう奴らは――友達じゃねぇっつうのかよ!!!!」

 

 

 

 その一言で、言いたかった事は全て吹き飛ばされてしまった。

 

「……友、達?」

 

「おまっ、流石にその反応は酷いぞっ。

 つうか、何だと思って今の話聞いてたんだ!? 友達だからこうやって心配して怒って話ししてんじゃねぇか!! 俺は知らん奴にまで説教してやるほど親切じゃねぇんだよ!!」

 

 振武が何故そんな事を呆れ顔で言うのか解らない。

 今までこんな風にストレートに友達と言われた事はないから。

 冗談で言う事はあっても、こんなに感情的になって言われた事はなかったから。

 

「で、でも、私、ちゃんと笑えないです!」

 

「お前の場合雰囲気で笑ってんの分かるわ!」

 

「私、普通の話だって出来ません!」

 

「面白いから良いんだよアホ!」

 

「い、いっつもマイペースで、人に合わせるのとか苦手です!」

 

「良い加減慣れたわ!」

 

「しゅ、趣味だって人と違います!」

 

「動物系ドキュメンタリー見るようになっちまったわ!」

 

「でも、でも、」

 

 言葉が続かない。

 というか、まるで答えでも用意していたかのようにスラスラ言ってくる。

 

「いい加減に分かれ! 普通に俺はお前のダチなんだっつうの!!

 百だって言ってたぞ、「塚井さんにご紹介いただいた動物百科が面白い」って!!」

 

「う、嘘です!

 何が目的ですか!? お金ならありませんよ!?」

 

「困ってない! なんでそこで頑固なんだよお前、流石にちょっと引くぞ!?」

 

 ひとしきり叫んで疲れたからだろうか、お互い肩で息をする。

 もはやこれは説教でもなんでもなく、普通に喧嘩だった。

 友達が、するような――。

 

「でも、でも、私は、酷い事をしてきました」

 

 自分を信頼して協力してくれた発目、尾白の2人を、あっさり裏切った。

 正しい事を言っていた上鳴を煽って倒した。

 心証がいいはずが無い。

 むしろ、自分は最悪の女と思っている可能性だってある。

 

「……中学校の頃はどうだったかは知らないけど、多分ここ最近起こった事なら、解決出来るかもよ?」

 

「はい?」

 

 魔女子の戸惑いの言葉を無視して振武は扉に向かう。

 外をチラッと確認するように扉の覗き窓を見てから、一気に開ける。

 

「うぇい!?」

「ちょ、上鳴やっぱバレたじゃん!?」

「うわぁ!」

「おわぁ!」

 

 ドサドサという重いものが崩れ落ちるような音とともに、扉から4人の人が、まるで団子のように連なって倒れこむ。

 どうやら扉に寄りかかってこの部屋の様子を伺っていたらしい。

 だがそのメンバーは、魔女子には意外なメンバーだった。

 

「尾白さん、葉隠さん、上鳴さん、それに、耳郎さん?」

 

 4人の名前を丁寧に呼ぶ。

 尾白、上鳴はなんとなく分かる。何せ自分達を卑怯な手で倒した女の様子は気になるところだろう。

 だが葉隠は微妙だ。入試の時に、実は魔女子は彼女と同じ会場だった。その関係で少しだけ話をしているが、学校ではほとんど話すことが出来ていなかった。少し知り合い、程度の関係性。自分を気にする必要性はない……もしかしたら、尾白の付き添いという可能性もあるかもしれないが。

 耳郎もそうだ。一度も話した事はないのだが、上鳴とは仲が良いはずなので付き添いの可能性はある。

 いや、もしかしたらこの4人でこちらに文句を言いにきたのだろうか。

 彼らにはその権利が「いや、待て、多分お前は物凄い勘違いしてる」。

 

「勘違い、ですか?

 というか、何故心を?」

 

「読んでねぇよ……こいつらだって別に悪い奴じゃないって話だ。

 で、お前らどこまで聞いてたんだ?」

 

 どこか意地悪げな表情をしている振武に、上鳴が慌てて立ち上がって答える。

 

「いやいや、全然! 「いい加減にしろ」って動島の声なんて全然聞いてない!」

 

 嘘をつくときでも、上鳴のバカは健在だった。

 

「殆どじゃねぇかよ……それで? なんでお前ら来たかきっちり話せ、じゃないとこっちも話が進まねぇんだよ、認めないから」

 

「お、おう……」

 

 振武の言葉に戸惑いを見せる上鳴、耳郎、そして尾白の3人。

 それはそうだ。

 そんな事を言われて堂々と魔女子を糾弾することなど、

 

「魔女子ちゃん、大丈夫?」

 

 すぐ側から声がして、思わずびくりと反応する。

 空中に浮いている体操服。

 葉隠だ。

 

「大丈夫、とは、」

 

「決まってるじゃん! 轟くんからすっごい攻撃食らってたでしょう? 大丈夫なの!? もう痛くないの!?」

 

 体をペタペタと触る透明の手は、まるでこちらのことを気遣うかのように優しげだ。触られただけで涙が出そうになる程、優しい。

 それを必死で堪える。

 泣いてはいけない。

 この人達の前で、泣いてはいけない。

 泣く資格などないのだから。

 

「お、お気になさらず、私の事なんか、気にしないでください、本当に、」

 

「気にするよ!!」

 

 紡ごうとした言葉が断ち切られる。

 いつも元気で、明るくて、透明だけど誰もを笑顔に出来る少女が、珍しく鋭く言う。

 

「――気付かなかったかもしれないけど、私もう魔女子ちゃんの友達のつもりだったんだから!!」

 

「……そう、だったんですか?」

 

「そりゃそうだよ!! 私、友達認定広いし!!」

 

 見えていないはずなのに、手で「グッド!!」のジェスチャーをしているのが見えるような勢い。

 魔女子がそれに圧倒されている間に、今度は尾白がベッドの脇に近づいた。

 

「うん、俺も。

 そりゃあ騙されたのはちょっと堪えた。けど、試合見て、今の話を聞いて、塚井さんもなんか事情があるんだなって分かった。

 俺は残念ながら、動島が言うような聖人君子じゃないから、納得できない部分も勿論あるけど……でも、君と友達になれるチャンスを、俺にもくれないかな?」

 

 こんな機会なきゃ、多分塚井さんと話すことも無かったし。

 どこか照れ臭そうに言う尾白の顔を、魔女子は信じられないと言う顔で凝視する。はっきりと信頼を裏切った相手に、こんな笑顔を向けられるだろうか?

 

「あぁ〜……ウチも、良いかな?」

 

 続いて、耳郎が近づいて来て、魔女子の手を取って優しく握りしめる。

 

「ウチ、この通り趣味とか性格、普通じゃないよ? 男っぽいしガサツだし、音楽大好き過ぎって自覚ある。だから、普通じゃない者同士、これから仲良くできないかなって。

 実は、百から色々聞いてて気になってたんだ。私が余計なこと言って、あの子混乱してるみたいだけど……あの子も多分、塚井さんの事好きだよ」

 

 耳郎とは、授業でもなんでもぶつかった事も、組んだ事もない。

 話も、した事はない。

 でも、そんなに簡単に自分のような人間を認めて良いのか?

 

「俺は!……正直、納得いってない」

 

 上鳴が少し気まずそうに言う。

 

「俺が言った事が、間違いだとは全然思わねぇ。やっぱり、ああいうやり方は、ダメだと思うんだよ……でも、塚井ちゃんに言われた事も事実だったし、俺も言い過ぎたとこあるし……だから、一回仲直り! 仲直りしてから、友達になろう!!」

 

「いや、友達じゃないなら仲直りにならなくない?」

 

「いやいや! ニュアンスニュアンス!!」

 

 耳郎の言葉に、上鳴は必死になって言い返している。

 なんだ、これは。

 なんなんだ、この状況は。

 夢なのではないか。自分はまだ医務室のベッドで寝ているのではないか? そう思えるほど、現実味がない風景。

 

「ど、動島くん、何をしたんですか!?」

 

 魔女子の動揺の言葉に、振武は笑みを浮かべる。

 

「いや、俺は何も」

 

「う、嘘です!! こんな都合のいい事があるはずありません。

 皆さんに何をしたんですか!? 心操さんを使って洗脳ですか!? 賄賂ですか!?」

 

「信用ないなぁ、なんで普通にお前と友達になりたいと思っているって結論にならないんだ?」

 

 そんな事はあり得ないのだ。

 そんな、ご都合主義的展開はあってはならないのだ。

 だって、自分は恨まれるだけのことをして来たんだ。

 

「お前が思っていた以上に、このクラスの人間は強かったって話だ。

 良いじゃん、ご都合主義。皆笑ってハッピーにして何が悪いんだよ」

 

 ――勿論、全部が全部、何もなくハッピーが降って来る事はない。

 医務室に来る直前、振武は尾白と上鳴に頭を下げた。

『俺の後、医務室で話聞いててくれないか!? あいつが悪い奴じゃないって証明する!! あとでちゃんと謝らせる!!

 それでも許せないなら、納得し切れないならそれで良い! けど、もし少しでも思ってもらえたら、』

 そんな頼み込んでいる振武さえ、無理だと思った。

 だって、そうだろう? それなりに酷い事をしてるんだから。

 だが、あんな戦い方をするような少女が、

 泣いて何も出来なかったと言う少女が、

 自分は人間失格と言って救いの手すら遠ざけようとする少女が、

 

 

 

 悪い奴だってのは、それこそあり得ない。

 

 

 

 そこにだけは自信があった。

 ……もっと正直に言ってしまえば、呼んでいない葉隠や耳郎がいる方が驚きだし、そこまで感化されていたとも、振武は思っていなかったのだが。

 

「でも、そんな簡単に友達になれるわけがありません!!」

 

「お前も頑固だよな……ま、でも言いたい事はわかるし、実際そりゃそうだろ。

 お前がしなきゃいけない事はある。1つだけだけどな」

 

 振武は苦笑しながら、はっきりと言う。

 まずは最初の言葉。

 友達になるために必要な、大事な言葉。

 

 

 

「〝ごめんなさい〟って言う事」

 

 

 

 考えれば当たり前だ。

 何か悪い事をしたら、ごめんなさい。

 どんな関係でも大事で、単純明快だが、言うのが酷く難しい言葉の1つ

 

 

「――ごめん、なさい」

 

 

 

「私は関係ないけど、全然オッケー!」

「――うん、今回は俺も悪いしね。でも、今度は利用じゃなくて、信頼して使ってくれ。塚井の指示、しっかりしてて安心するし」

「ウチも葉隠と同じだけど……今度から、自分大切にして。大切にしなきゃ、ウチが悲しいし」

「あぁ〜……もう、こういう事考えんの嫌だしな! 馬鹿みたいだし」

 

 

 

 ここにいる全員の言葉が、暖かく魔女子の心を包む。

 

「――ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいっ」

 

 何度も何度も謝る。

 もう何に謝っているのか、分からなくなる。謝ることが多すぎて。

 尾白たちだけではない。

 振武にも、

 ここにいない百にも、

 素直に救けさせてほしいと、言い切れなかった焦凍にも。

 零れる涙とともに、何度も、何度も、謝った。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「……ああいう感じになってなんですし、自分で言うのも何なんですが、私はそう簡単に変われません」

 

 皆が戻っていくと、魔女子は真っ直ぐと振武を見て話す。

 その目は涙で赤くなっていたが、それでも今までとは違う、ちゃんと話していると感じられる真摯な目。

 もう、隠す気はないらしい。

 

「正直挙げていけばキリはありません。結局轟くんに否定された事は変わりません。

 ……それに、今の私の言葉が届かなかったのは、単純に私の所為だと思います。上から目線で救けようとしたから」

 

 目を伏せ、悲しそうにする魔女子。

 ……それに関しては、振武も同じだ。リカバリーガールに言われるまで気付かなかった。

 他人に上から目線で自分の信じていたものを否定されれば、誰だって嫌な思いをして、それを否定しようとがむしゃらに突っぱねるだろう。

 自分だって、自分の信じているものを否定されれば……とは思う。

 だが、

 

「……届かなかった、って事はないんじゃないかな?」

 

「――でも、私ははっきり否定されました」

 

 魔女子のさらなる言葉に、振武は首を振る。

 

 

 

「本当に届かないなら、その言葉に反応したりなんかしない」

 

 

 

 どうでも良いなら無視する。

 適当にあしらって流す。

 でもそれも出来ないと言う事は、魔女子の声はしっかりと焦凍には伝わっていると言う事だ。

 

「……多分、あいつは今めっちゃ意固地になってるんじゃないかな?」

 

「意固地? いえ、そんな単純なはずが、」

 

「さっきまで頑固に否定してた人が言うかね、それ」

 

「………………」

 

 図星を突かれたからか、魔女子は何も言わなくなる。

 さっきまでの魔女子も、焦凍もそうだ。

 今まで抱えていた価値観を、信念を、守りたくて必死なだけ。それが悪い事ではないけれど、結局それは自分自身も傷つける。

 だから、〝助け〟させてほしい。

 救ける事は出来ない。これは、ヒーローとしての救いの手なのではない。

 友人として行う、何か手助けしたいと言う気持ちなのだ。

 

「なにか、良い考えが?」

 

「……正直、ふんわりとしか考えられてない」

 

 言うのは簡単だが、実行しようとすると途端に難しい。

 振武は頭は悪くないが、基本感情で走るタイプだ。考える事は、どちらかと言うと苦手だ。

 

「貴方は……絵に描いたような脳筋。

 ……私も一緒に考えます。友達、ですから」

 

 まだ言い慣れないのか、友達という言葉だけでどこか恥ずかしそうにする。

 無表情で頬を染めているだけだが……まぁ、少しずつ直していけば良い。

 

「その前に、動島くん。1つ良いですか?

 貴方は、この一連の問題をどうしたいんですか? はっきりとしたゴールがなければ、考えも浮かびません」

 

「ゴール、か」

 

 ゴール。

 いわば結論。

 ようは結末。

 

「――〝完全無欠のハッピーエンド〟」

 

 焦凍の問題も、

 魔女子の残った問題も、

 百が隠す問題も、

 他の奴の気持ちも、

 勝利も、

 何もかも、纏めて引っ括めて解決する。

 

「いや流石に無理あるでしょ。というか子供ですか」

 

 魔女子の言葉に、今度は振武が恥ずかしそうにする。

 

「い、良いじゃねぇか。俺達はヒーロー志望だぞ?

 

 

 

 出来るだけ、取りこぼしたくなんか、ない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 振武の信念の種子が、初めて芽吹いた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




正直何回も書き直して書き直して、こういう形にしか出来ない自分の文才のなさをお許しください。
この章は全て焦凍くんの問題が全て直結しています。
だから、全ての問題の答えは、最終的には焦凍くんとの戦いを経て。
どう振武くんが戦っていくのか、暖かく見守っていただけると幸いです。



次回! 百さん、貴方何言ってるんですか? 乞うご期待!?


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