秋雨前線にやられた(風邪)ので、少し更新が遅れてしまいました。
ちょっとクオリティ下がっているかも……と思いながら更新です!!!
あぁ、優しい言葉が欲しい……w
狭いスタートゲート。
ぎゅうぎゅう詰めになる
すでに
「ってスタートゲート狭すぎだろ!!」
誰かの……確か、峰田とか言った葡萄頭のクラスメイトの声が響く。
そうだ、この人数が走る為には狭すぎるスタートライン。一斉に走り出した生徒達は、まるで数週間前に起こった食堂での混乱と同じように、押し合いへし合いで前に進んでいる。
設計ミスと考える人間もいるだろう。
そりゃそうだ、これでは皆が順調なスタートを切れないのだから。だが、むしろこの場合これが正しい。
つまりここが、
「――最初のふるい」
全力で走りながら、左側で生み出した冷気が地面を這う。
焦凍の個性、〝半冷半熱〟。
そしてこの場での有効な手段は他の全員の足元を凍らせる事。
個性を知らない競争相手には、これを避ける方策がない。
「ってぇー!! なんだ凍った!! 動けん!!」
「寒みー!!」
ピキピキと空気との温度差で軋みを上げる氷結に体を侵されている生徒達が叫ぶ。
氷結とは厄介だ。陽気がいいとは言え気温がそれほど高くない今、自然と解けるのを待つと時間がかかる。下手にくだこうとすれば凍りついている腕ごと傷つける。
自分と同じように氷を解かす個性を持っているか、回避するしかない。
これで全員が動けなくなってくれれば。
そう思ったが、
「――そう上手く行かせねぇよ、半分野郎!!」
爆豪の怒号が会場いっぱいに響く。
爆破での跳躍。とてつもない反射神経を持っているが故に、爆豪は焦凍の妨害を回避したのだ。
当然、彼だけではない。焦凍の個性を知っているクラスメイトの全員、そして何人かの他のクラスの人間も、妨害を回避してこちらに走ってくる。
腕から棒を作り出し飛び上がる者、氷を解かせる個性を持っている者、……自分の手足のように動かせる動物を使役し回避した者。
方法は様々だが……思った以上に避けられている。
思わず舌打ちをしそうになって――気付いた。
「……あいつは?」
「余所見すんな、轟」
「っ!?」
思った以上に近い距離で聞こえた声に、驚いて振り向く。
振り返っても足を止めなかったはずだ。
自分が振り返った時にはそこにはいなかったはずだ。
だが振武は――まるで最初から一緒に来ているかのように、自分の横にいた。
『ワオ!? 実況お願いしてる間に何故か現在1位の轟に動島が並んでるぜ!! どういう事なんだイレイザー!?』
『お願いはされていないが……そりゃあ、あの群衆の中にはいなかったんだろうさ。
――あいつ、すげぇ当たり前みたいに壁と天井使ってショートカットしやがった』
――振武は、そう難しい事をしている自覚はないし、ルールにも抵触してはいない。コースはしっかりと守っている。
ただ、密集している通路の地面より、上の方が走りやすそうだ、と思っただけだった。
壁と天井を蹴り、前に進む。まるで重力を無視したようにジグザクに跳躍を続けて進むその姿は、まるで人の形をした雷のように見えたかもしれない。
それほどの速度。
ゲートを抜ければ、いつも通り瞬刹と、少し前まで月歩モドキと呼んでいた技――
本人が聞いていれば、こう答えただろう。『練習すれば誰でも出来る』と。
『オイオイ、ちょっとそれは始めっからクレバーだな動島振武!! ニンジャかよ!?』
テンションが上がっているプレゼントマイクの声が響く中、焦凍は振武にジリジリと距離を離されていた。
轟は個性だよりだけではなく、身体能力、運動神経もそれなりに鍛えてきた。今も普通の人間に比べればずっと早く走っている。
だが一歩。
近接戦闘を念頭に置いて鍛えられた振武とは、地力にどうしても差があった。
――ここで凍らせて妨害を。
一瞬そんな考えが頭をよぎるが、しかしそんな事をしている余裕はない。一度足を止めれば距離はずっと離されるし、何よりそう簡単に妨害を受けてくれる人間ではない。
憎悪を、怒りを押し殺してみれば、振武は優秀だと、冷静な自分がハッキリと断言する。
「っ」
足に力が入る。憤りが、ほんの少しだけ振武との差を縮める。
絶対に負けられない。
勝って、自分が正しいと証明する。
その気持ちだけで、焦凍の足はより速く動いていた。
◆
(――上手くいって良かった)
足を動かしながら、振武は心の中で安堵の溜息をついていた。
体を動かすついでにやっているパルクールで使っていた技が功を奏した。個性を使い、あれほど長い距離出来るか不安ではあったが、取り敢えず成功した。
だが、それでも安心は出来なかった。
後ろをちらりと見る。
すぐ近くには、何時もよりもずっと険しい顔の焦凍。その後ろから続く、クラスメイト達。
今余裕を稼げているとしても、他の部分で個性を有効に使ってくる奴らが必ずいる。それらから余裕を持って逃げれるように距離を稼がなければ。
先の行動を考えながら足を動かしていた……その思考が止まる。
「――って危な!!?」
耳に入ってきた機械が駆動する音と、重いものが振り上げられる風切り音に、半ば反射的に個性が発揮された拳を振るう。
鉄と人体がぶつかり合ったにしてはあまりにも硬質な音を響かせ、迫ってきた鉄の腕を破壊した。
懐かしい感触……のように感じたそれは、勘違いではない。
「入試の時の仮想敵!!?」
後ろから追ってきた緑谷の叫びが答え合わせになる。
入試の折に対峙したロボットが、今度は群れをなして自分たちの進路を阻んでいた。ただの仮想敵達だけではない、あの試験で猛威を振るっていた0ポイント仮想敵が、まるで山のように何体も聳え立っている。
足元にも大量のロボットが配置されているこの状況でただ突き進むのは至難の技。
『さぁいきなり障害物だ!!
まず手始め……第1関門、ロボ・インフェルノ!!』
プレゼントマイクの声に、その障害に直面した生徒達の表情は厳しいものに変わる。
攻撃、突破、妨害。
全てを自分1人で出来る人間は、数少ない。
……彼は、その例外の中にいた。
「せっかくならもっとすげぇの用意してもらいてぇもんだ――」
手を回し、冷気をその手の中に集中させる。
触れただけで体の芯から氷に作り変えるほどの膨大な冷気。この一瞬で生み出されたそれを焦凍は、
「――クソ親父が見てるんだから」
目の前に聳え立っている0ポイント仮想敵に叩きつける。
変化はすぐに訪れる。鉄と氷の軋む音が響き、氷で造られた前衛アートのような姿で0ポイント仮想敵は静止した。
瞬殺。
この場にいるヒーロー科の生徒の殆どが苦戦したその巨体を、焦凍は呆気なく打ち倒した。
何のことはない、こんなものは本気を出さなくても倒せる。
「あいつが止めたぞ!! あの隙間だ! 通れる!」
動きが止まった巨大ロボの足元は、丁度トンネルのようにがら空きだ。
漁夫の利を狙っていたのか、それともたまたま視界に入ったからなのか。数人の生徒が、焦凍の後に続いて通ろうとする。
「やめとけ。不安定な体勢ん時に凍らしたから、」
しかし焦凍の冷静な言葉を合図にしたかのように、その巨体は大きな音を立てて、
「倒れるぞ」
何人かの競争相手を巻き込み、まるで計算されたかのように道を阻んだ。
そしてここにも1人、例外がいた。
「瞬刹っ、踏空!!」
空中を当然のように駆け上がる。
入試の時から振武の瞬刹と踏空も進化し、もはや切島に勢いを付けてもらう必要がない。1人でその巨体を駆け上がる。
攻撃力と防御力は確かに凄い。
だがその小さな体を捉えるには、0ポイント仮想敵の手は大きく、鈍かった。
「――入試ん時は、ちょっと雑な倒し方しちまったからな」
0ポイント仮想敵の頭の上に着地してから、拳を作る。
自分の腕を引き換えにした破壊。結果だけを見れば上手くいった。だが足りない。もっと綺麗に倒せたはずだ。
――この技を、あの時使えていたら、
「震振撃――
振るわれた拳は、当てた部分から粉々になり、大小様々な瓦礫の雨が他の競争相手を妨害する山を作る。
ただ拳をぶつけるのではなく、全体に満遍なく衝撃を広げ、
透閃と同じく作られた、震振撃のバリエーションの1つ。
「悪りぃな、邪魔しちまって」
拳の衝撃で飛び上がった振武は、その勢いを殺さないように着地し、走り始める。
この2人が、ほぼ同時に、第1関門を突破した。
『1−A轟&動島、攻略と妨害を一度に!! こいつはシヴィー!!!
つうかあれだな!! 2人してなんか、あれだな……ズリィな!!』
プレゼントマイクの実況に、その時ばかりは強く全員が同意した。
◇
「やれやれ、お二人とも急いでらっしゃいますね」
「……そういう塚井さんは、随分ゆっくりしているようですけども?」
どこかマイペースな魔女子の言葉に、0ポイント仮想敵を倒すための大砲を作っている百はどこか苛立ちを隠せていない。
競技中の緊迫した状況。
それだけだったならば、百もここまで苛つかないだろう。魔女子と振武が入場前に、何か親密そうに話しているその姿を見てから、百の気持ちが晴れないというのが、ある意味大きな要因だった。
羨ましいと恨めしいは、紙一重。
どこかでそういう言葉を聞いた気もするが、百のそれはどちらなのだろう。
「ここで焦っても仕方がありません。例年、この予選を通過出来るのは40名前後ですから。ここで焦って倒れてしまっては意味がありませんから」
魔女子は魔女子で、本心を隠しながら百に話す。
全くの嘘というわけではないが、それ以上に重要な事がある。
……この先の戦い。
何本も揃えた雄英体育祭の膨大な資料を見て、今回の体育祭で一体何の競技が採用されているのかと予想する。それが準備期間2週間の内の大半を使った魔女子の準備だった。
(予想が正しければ、次は団体競技でしょうしね……)
ヒーローは、競争する職業だ。
人気、権力、No.1という称号を争うライバル同士。だが時には共通の目的の為にお互い協力しなければいけない。
例年その資質を確かめる為か、必ずと言っていいほどチーム戦が企画される。
ならば重要なのはここで上位入賞を狙うのではなく、のちのちを考えたチームアップのメンバーを考えなければいけない。この障害物競争も大事ではあるし負けられないが、それでもある程度の順位にいける自信がある。
……周囲を観察する。
最初に面白いと思ったのは、紫色の眠たそうな顔をした少年だ。確か放課後、魔女子のクラスに宣戦布告しに来た、普通科の生徒。パッと見では、実に不思議な行動をしていた。
スタート直後、あの殆どが身動きが取れない状況で、まるで胴上げでもしているように、全員が協力して彼を運び出していた。
その眼はちゃんと観察すれば、正気のようには見えないだろう。
(精神操作系の個性。発動条件は気になりますが――〝チェック〟)
心の中で呟く。
もう1人は、彼も魔女子のクラスに宣戦布告してきた、ヒーロー科B組の生徒。魔女子のクラスの切島鋭児郎と似たような個性を持っている男。
うるさいが、しかし焦凍の崩していった瓦礫の中から復活したあたり、防御力はかなり高いと考えられる。
(防御役には打ってつけ。熱血真っ直ぐで扱い易い――〝チェック〟)
そして、今目の前で戦っている少女に目をつける。
かなり中性的な少女だった。
天然なのか毛先が丸まっているショートボブの青い髪の毛を持ち、同じ色合いの眼はやる気のなさそうに半眼になっている。身長は魔女子より高く、プロポーションも平均的。
そんな彼女は、徐に手をかざす。
お金を表す時のハンドサインのように、親指と人差し指をくっ付けているその指の間には、光の反射ではっきりとそこにナニカがある事が分かる。
――そう、それは、シャボン液で出来た膜のような。
「――〝バブルショット・ファランクス〟」
少女はその呟きにより、強いとはとても言えない息を、そのシャボン液の膜に吹き掛ける。
そうした瞬間、幻想的な光景が広がった。
まるでその名の通り、ファランクス隊形のように広がるシャボン玉はファンシーで、……その光景以上に、凶悪だった。
バコンッと金属を叩く音が連発する。
弾けたシャボン玉1つ1つが炸裂し、群れている小型の仮想敵達を次々と破壊している。
「……よゆー」
どこか気怠げな声を発しながら、何度も何度も息を吹きかけ、破壊しながら進んでいくその姿は想像を超えた衝撃を与えてくれる。
(指先で作られたシャボン液と息で空気を圧縮している?……どんな原理にしろ、範囲での突破力あり、――〝チェック〟です)
次々と目に付いた使えそうな人間を頭の中のリストに書き込んでいく。
ヒーロー科、普通科、サポート科、経営科。その貴賎なく自分が勝ち上がる上で使えそうな人間をリストアップしていく。
……この時点で熱をあげている人間がバカだとは思わない。
ただ甘いとは思う。ここはほんの始まりに過ぎない。
愚直に前だけを見て走る振武も、
それに対して意地になる焦凍も、
自分を気にしながら努力する百も、
対抗心丸出しで1位にしがみ付く爆豪も、
今までにないやる気をここで見せている出久も、
どの人間も先が見えていないと言わざるを得ない。そもそも目的も手段も違う人が多いのだから当然だが。
「……どうせなら、本戦で轟くんと当たるまでに、疲れたくないですし、ね」
隣で大砲を創り終え、けたたましい破裂音とともに打ち出された砲弾を見ながら、その音に隠すように、小さく魔女子はつぶやいた。
◇
アリの巣のようだ。
観客席から会場を見ている転々寺位助……転位ヒーロー〝ワープワーヴ〟はそう思った。
下を見れば、暗い闇に染まっている。パッと見ただけでは、どれくらい底が深いのか分からない。目の前には、申し訳程度のワイヤー。
『ザ・フォーーーール!!!』
簡単に言えばただの綱渡り。
だが、そう簡単に片付けられるものではない。慌てて急いで渡れば落ちるし、ゆっくり慎重にしていると、後ろから来た競争相手に背中を突かれる。
ワイヤーのかずはそう多くはない。いくら広く、様々な所に設置されていたとしても目的地は皆同じ。どこかで渋滞が起こって、やり合っている間に纏めて落ちる。
「なかなか性格悪いよなぁ、雄英も……俺、この学校出身じゃなくて良かった」
じゃなかったら、俺ヒーローやれてないかも、などと小声で言いながら、先頭集団を見る。
先ほどまで氷結の個性を使っていた少年……噂を信じるならば、あのエンデヴァーの息子らしい彼は、個性を使わずに普通にワイヤーの上を走っている。
そう、走っているのだ。普通の人間だったら、平均台の上だってまともに走れないのに。
そして振武は、――跳んでいた。
まるでバッタのように、設置された小さな浮島のような地面に着地し、時たま足を休める為なのかこちらも普通にワイヤーの上を走っている。
『オイオイ、イレイザー!! お前のクラスの生徒また飛び跳ねてんぞ!? もはや趣味か!!?』
『言っている意味が分からねぇよ……だが、彼奴は個性と技術で何でもこなす奴だからな。あれくらいじゃ驚かん』
「……まぁ、動島だしね」
実況の声と会話するように、ワープワーヴは小さく呟く。
動島振武。つい最近まで子供だと思っていた少年は、もはやプロヒーロー顔負けの活躍をするようになっていた。自分の元上司であるセンシティの息子だ。一筋縄では行かない子供に育つだろうと予想していたが、その予想は既に軽く超えている。
「一位と二位、ダントツだな。個性の強さもあるが、2人とも素の身体能力も判断力がずば抜けてる。しかも今飛び跳ねている奴、体力別格だぞ、ありゃ」
「そりゃそうだろ。あっちの一位の方は、武闘ヒーロー〝センシティ〟の、二位の方はフレイムヒーロー〝エンデヴァー〟の息子さんだよ」
「……そりゃ道理でな。No.2の血と、今でも武闘派の中じゃトップだって噂のNo.10の血か。すげぇサラブレッドだ」
「早くも
近くで噂している言葉に、眉を潜める。
こういう話は誰もが好きだと理解しているものの、どうもワープワーヴは好きではない。血が如何の斯うのというのは、ヒーローとしての資質に関係ないだろう。そんな事を噂する人間も判断に加える人間もワープワーヴは好きにはなれ「まぁまぁ、熱くならないで、転々寺くん」
「――っ」
いきなり隣から聞こえた声に、息を殺す。
……1人の仮面の男がそこにいた。
黒いパンツとガッシリとしたブーツ、黒いノースリーブのような形をした、しかしそれ以上にしっかりとした装備をつけている。
半分は泣いている顔。
半分は笑っている顔。
シンプルで、しかしどこか狂気じみても見える仮面をつけた男。
気付かなかった。
これだけ会場が騒がしいというのはあるだろうが、ワープワーヴは現役のプロヒーローだ。今では中堅として必ず名前が上がるレベルまで、実績を積み重ねてきた。
それでも、声をかけられるまでそこに居るとも気付かなかった。
「……今日は、情報収集には行かないんですか?」
「行くさ。でも後で良い。折角の晴れ舞台だ、会場で見た方がいいだろう?」
仮面の男は、さも当然と言ったようにワープワーヴに言いながら、熱心に競技を見ている。
こんな姿でそんな暖かな家族の言葉を聞いても説得力がないな、と思いながらも、ワープワーヴは何も言わない。これでも空気は読める方だ。
「というか、本名で呼ばないでください。何で貴方達は、ヒーローの常識を身につけていないんですか」
「えー、別に良いじゃないか。大きな違いはないだろう?」
「あります……というか、俺のヒーロー名ちゃんと覚えてます?」
「覚えてるって覚えてますよ……えぇ〜っと………………ワードローブ?」
「誰が衣装部屋ですか一文字と伸ばし棒しか合ってないじゃないですか」
いつもの軽口に、少し安心する。
この装備を身につけている時の彼――ヒーローとしての彼は、同じヒーローであっても隣で一緒に談笑するには緊張する相手だ。
敵にも容赦しないが、味方にも容赦がない人だから。
「暫定一位か……あの子が強い事は分かっているけど、はてさて、上手く結果を残してくれるかな」
「大丈夫です、あの子は強いですから。きっと最終トーナメントまで来ますよ」
「どうなるか分からないのが、この雄英体育祭だからね」
もう何年もスカウト目的でここに来ているワープワーヴも、そこは同感だ。個人的な強さだけで乗り切れるほど甘くはない。
だが、それも込みで、ワープワーヴも隣にいる男も、まるで彼の事を疑っていない。
彼の強さと、ヒーローとしての素質を。
「……どんな結果になっても、この前話した通りで良いんですね?」
ワープワーヴの言葉に、仮面の男は小さく頷いた。
「あぁ、構わないよ。
もしも何かあった時は、知らぬ存ぜぬで構わないから……迷惑かけるね」
「……そこは、別に良いです。でも、俺は全然納得していません」
仮面の男の目論見がそのまま実現して仕舞えば、きっと振武は傷つく。
もしかしたら、ヒーローとしてどころではない。人として再起不能に陥る可能性だってあるのだ。それを何度も仮面の男に言ったが、それを聞いてくれる人ではなかった。
夫婦揃って親子揃って……頑固なのだ。
「構わない。納得して貰わなくてもいい。これはあの人にも言っていない、俺の独断専行、勝手にやる事だから。俺は俺が信じた通りにやるだけだ。全部は振武の為。振武が生きていけるのであれば、俺は何もいらないよ。
……いやー、本当は君に迷惑かけたくなかったけど、紙面の上では俺は君のサイドキックだからね。しょうがないけど、付き合ってくれよ」
覚悟。
信念。
少しの悲しみと、狂気。
仮面の裏でどんな表情をしているか分からないが、仮面で隠れているからこそ、その体から漏れる気配で何を思ってるか分かる。
隣にいるこの男は、嘘を吐けない性分なのだ。
……深すぎる愛は、反転すれば狂気のそれだ。
「……相変わらず、イカれてますよ。
分壊ヒーロー〝ブレイカー〟」
「イカれていなければ、ヒーローなんてやってられない」
動かないはずの仮面が、どこか怪しく笑った気がした。
如何だったでしょうか?
あの競技風景を文章に落とし込むのは難しく、描写不足になってしまった事をお詫びします。
やっぱり力量不足ですね、精進します。
次回! 振武くんが驚く! 口をあんぐり開けて待て!!!
感想・評価、お待ち申し上げております。