……思ったより長くて、次回予告クリア出来なかったー!!
今度から気をつけます!
それでは本編をどうぞ。
午後になり、教室に戻ると、教室の空気は浮き足立ったものになっていた。
雄英高校に入学して、初めてのヒーロー基礎学の授業。期待と興奮、そして少しの不安感が教室を支配している。いつも偉そうに机に足を乗せているはずの爆豪も、今日に限っては普通に座っている。
何をやるのか、何を学べるのか。
皆そればかりを考えている、と言わんばかりだ。
「皆緊張しているみたいだなぁ……」
「しょうがないです緑谷くん。ここにいる皆さんは、これを学ぶために雄英高校に来たと言っても過言ではありませんから」
「そ、そうだよね、塚井さんっ(ま、また女子と喋っちゃった〜!)」
ちょうど席が隣同士の塚井と緑谷は、そう言って自分たちの緊張を紛らわすために談笑している。振武の見る限り、緑谷に関しては逆効果にも見えなくはないが。
ヒーロー基礎学と言っても、その内容は多岐にわたる。それは昼食を食べている時にも思い出したものだ。だが実際何をやるのか、教師がどんなものを求めてくるのか分からない。
(戦闘訓練で、ヒーロースーツ着るってのは1巻の最後に描いてあったけど……あれ、着れるのか)
興奮と嬉しさで振武も落ち着かず、何度も居住まいを正す。
被服控除。
自分のデザイン案などを学校に送れば、雄英高校ヒーロー科専属のサポート会社が、それに見合った物を作ってくれるという至れり尽くせりなシステム。
自身がヒーローとなった時のスーツだ。
振武も考える時はワクワクして作った。機能面デザイン面ともに、自分の中で最高のものが出来たと思っている……絵の勉強をもう少ししておけば良かったと少し後悔もしたが。
もしあれが要望通り作られているのだとしたら、振武の継戦能力や振動制御は飛躍的に上昇する。震振撃・十六夜や瞬刹の回数向上も期待できる。
(まぁ、瞬刹はさて置くとしても、十六夜は使う事がないだろうなぁ)
あれは諸刃の剣だ。実戦ならばともかく、訓練で使う事などないだろう。
「……動島くん、ずいぶん楽しそうです」
1人で考え事をしていると、魔女子が振武の様子を見て言う。
「そりゃ、ヒーロー基礎学だからな。何やるにしても、これからヒーローとして頑張っていける実感っていうか、そういうのが感じられるよな」
振武の期待に満ちた言葉に「そうかもしれませんね」と相変わらずのクールな返事が返ってくる。それなりに振武は魔女子との付き合いがあり、笑顔などの表情の変化は見た事があるが、「激情」と言えるほどの感情は見た事がない。
いつも冷静な判断をしてくれる魔女子をありがたいと思う反面、そういうのはどうなんだろうな、と疑問に思う事がある。
あえて抑えているのか。
それとも元々そういうのを感じないのか。
……塚井魔女子という存在の謎は深まっていくばかりだ。
キーン…コーン…カーン…コーン…
そのように2人で話している間に、チャイムが鳴る。
そして次の瞬間には、
「わーたーしーがー!!
普通にドアから来た!!!」
勢いよく扉が開くと同時に、圧の強い顔をした男が現れた。
金髪の逆立った髪、何故か立っている2つの触覚。目は窪んで見えないが、その力強さはその目が窺い知れなくても分かる。自分を遥かに超える体格で、マントと独特の柄をしたスーツを着込んでいる。
No.1ヒーロー、平和の象徴。
オールマイト。
生で初めて見たその姿は想像していた以上に、
(……威圧感すげぇ!)
威風堂々としたものだった。
「オールマイトだ…!! すげぇや、本当に先生やってるんだな…!!!!」
「アレ、
「画風違いすぎて鳥肌が……」
(画風違いすぎ……は、ちょっと分かるなぁ)
なんだ、あの彫りの深い顔。日本人じゃあんな風にならない……いや、そも同じ人類だと思えない。考えていた以上に、その姿はあまりにも自分達とは違い、それと同時にそれを鼻にかけたり逆に気にしたりしている様子は欠片もない。
あれが個性解除するとガリガリに……振武にはその変化がまったく想像できなかった。あの姿を見る事は自分にはないのだろうが、一度はお目にかかりたいものだ。
秘密を握りたいとかではなく、実際とイメージの差異を確認してみたい。
ざわざわと動揺している空気にまるで動揺する事なく、オールマイトは教卓の前に立つ。
「ヒーロー基礎学! ヒーローの素地をつくる為様々な訓練を行う科目だ! 単位数も1番多いぞ!!
そして早速だが、今日の内容は、――コレ!!」
拳と腕に力を目一杯力を込めるようなジェスチャーをして、出したプレートには、『BATTLE』という文字が大きく書かれている。
『戦闘訓練!!!』
その言葉に、オールマイトの言葉を聞こうと静かになっていた教室が再び騒然となる。
初日の授業でいきなり戦闘訓練だ。動揺するのも当たり前だ。振武も少し知っていたが、それでもやはり緊張と驚きがある。
振武にとっては得意分野と言ってもいいだろう、戦闘訓練。
問題は、内容。どのような形で行うかによって、振武が何を出来ないで何を出来るのかが変わる。
(1対1、もしくは1対多数なら得意なんだがなぁ)
もっとも、そう簡単に自分の思い通りになるとは思えなかったが。
「そしてそいつに伴って、……こちら!!!」
オールマイトの合図と共に、教卓側の壁がゴゴゴという重苦しい音共に稼働し、4つの棚のようなものが迫り出されていく。中には番号が振られたカバンらしきもの。
「入学前に送ってもらった個性届けと、要望に沿ってあつらえた……
『おおお!!!!』
興奮でいても立ってもいられなかったのか、切島などの数名が立ち上がる。
振武も思わず身を乗り出してしまった。
壁からコスチュームが迫り出される機構。
(……かっけぇ!! 漫画で見たのの何倍もいい!!)
……精神的年齢が何歳であろうとも、男はいつまでたっても童心を忘れないものだ、と今日知った。
「着替えたら、順次グラウンドβに集まるんだ!!」
『はーい!!!』
さぁ、楽しい着替えの時間だ。
どれほど要望に沿っているのか、今から楽しみだ。
◆
グラウンドβ。
雄英の実技入試も行われた演習場で、オールマイトは1人で生徒達を待ちながら、生徒達の顔と名前を一致させるために再び名簿を確認していた。
何せヒーロー科だけでも1クラス22人もいるのだ。教師1年生であるオールマイトが覚えるのには一苦労だった。勿論今の段階で既に殆どの名前と顔を覚えているが、予習復習は何度しても足りないくらいだ。
勿今の段階で必死になって覚えなくても良い生徒もいる。
まずは、緑谷出久。
オールマイトの個性、ワン・フォー・オールを託した少年。
無個性ながら誰よりもヒーローらしい熱い心を持った少年だ。雄英に教師として赴任する事が決まった当時では考えられないが、彼ほどワン・フォー・オールという個性に相応しく、また自分の信念を託すに相応しい人間はいないと、今では思っている。
そしてもう1人。オールマイトにとってどうしても忘れられない苗字を持っている少年。
動島振武。
ヒーロー業界でも小規模ではあるものの名前が知れた流派宗家の直系であると同時に、入試1位、個性把握テスト1位という好成績を叩き出した生徒。
教師陣の中でも彼はかなり注目されている。
彼の身のこなしや戦闘能力、そして振動という個性を様々な形で活かせる応用力などといった点において現段階でA組の中ではトップだろうと言っても過言ではない。
良い意味でも悪い意味でも名の知れている動島流で幼少期から学んでいる、生粋の戦士と言っても良いだろう。
「……まったく、縁が本当に深いものだ」
入試の際、別室で試験の様子を見ていたオールマイトは驚かされたものだ。
出久と同じように0ポイント仮想敵を倒した少年に、強烈な既視感を覚えたからだ。名簿を確認して、苗字が動島であった事で、すぐに答えを出せた。
あの子の、息子。
会った事は一度もないが、話に聞いていた少年は確かに目が母親似だった。
あの眼で睨まれて怯えない
『まるで黒豹に睨まれた時のように静かで、だが鋭い殺気が篭っていた』と。
動島という家系と浅からぬ縁があるオールマイトからすれば、想像出来ないものではなかった。あれは人間の枠を超えて一種の獣、自然的機能美を実現させようという流派だ。
特に修めてしまった者ほどその傾向は強いだろう。
「あの家系の人達は、なかなか極まっているからなぁ。
下手したら、グラントリノより凄かった……」
自分で出した名前に、思わず身震いする。
あの時の事は極力思い出したくはない。何せ
その娘が、そしてさらにその息子が、自分と同じ道を歩んでいる。
彼もまた、オールマイトが導かなければいけない人間の1人だ。
緑谷出久と同じく、特別扱いをするつもりはない。この雄英高校ヒーロー科に入った瞬間から、皆と同じ一生徒だ。
だが、
「……いつか、思い出話をしてあげたいものだな」
普段マッスルフォームでは出さない優しい声が、オールマイトの口から零れる。
彼の母がどれほど凄かったのか。
彼の親族がどれほど強かったのか。
そしてまた、彼自身がどれほど大きな繋がりの中で生きてきたのか。
いつか来るであろうその日を想像して笑みを浮かべていると、入り口の方から複数人の足音と人の気配を感じる。
来たな、さて、気合いを入れなければ。
そう思い、緩んでいた表情を引き締め、威風堂々といった姿で子供達を迎える。
「格好から入るってのも、大切なことなんだぜ、少年少女!!
自覚するのだ!!!! 今日から自分は、」
さぁ、先生を始めよう。
まだまだ卵の彼らを孵化させ、飛び立てるようにする為に。
「ヒーローなんだと!!!!!」
さぁ、始めようか、有精卵共。
◇
着た戦闘服は、思った以上に軽いものだった。説明書には防弾チョッキにも使われる炭素繊維が編み込まれていると書かれている。それを薄手のタイツのような物と、一見するとシングルのライダーズジャケットのような詰襟の上着を重ね着することで軽量で防御力も底上げしているそうだ。
当然、上着にも炭素繊維を編み込まれたもので、しかも袖部分がない。腕の動きが楽だ。さらに見た目以上に軽い。
下はこれもまた炭素繊維を編み込まれているのだろう、黒いパンツ。
顔は下に着ているタイツのようなものと一体になっているマスク部分で首と口元を覆っている。
そして何より重要なのが――
先ほどちらりと見た爆豪のそれよりずっと小さいが、鍛錬で使っている物よりは無骨なそれは、腕は肘近くまで、足は膝すら金属で覆っている。
試しに腕を振ったり拳を作ったり、さらにその場で飛んだり跳ねたり反復横跳びしてみたが、動きに阻害感を感じさせない。熱を発散させる為に装甲に穴があったり、隙間をわざと作ってあったりするが、それでも頑丈そうだ。
振動の制御と放熱の関係で西洋風のデザインになってしまったが、そこはお任せにしたし格好が良いと思える。
「……これが俺の、戦闘服」
籠手を付けている自分の手を見ながら、小さく呟く。
「動島くん、随分黒がお好きなんですね。髪の毛も合わせて真っ黒です。まぁそれもシルバーにやや黒味を帯びていますので、やはり黒いと言っても過言ではありませんが」
「そういうお前も、名は体を表すみたいな格好になってんぞ。色も全部水色だしよ」
魔女子の姿を見れば、それはまさしく〝魔女〟といった感じだ。
彼女の眼や髪の色と同じような水色の魔女帽子とローブ。ローブは体の前にボタンが付いているので開け閉めが出来るようになっており、下は普通にワイシャツとミニスカのようだ。
極め付けはその杖だろう。魔法少女が使うようなものではない、本格ファンタジーで老齢な魔術が持っているような無骨な杖。だが色合いがやっぱり水色なので、少し間抜けに見えなくもない。
「何を仰いますか。良いですか、ヒーローのコスチュームは自身のアイデンティティーや特徴をよりハッキリ見せる為の演出でもあります。つまり私のこれもその1つです。
まぁぶっちゃけ、私の個性で飛んだり跳ねたりはあまりしませんので、ここぞとばかりに趣味に走りましたが」
説明の途中でぶっちゃけられた。
この天然というか、自動ボケ発生装置みたいなものも、魔女子らしいと言えば魔女子らしい。
「ですが塚井さん。自己主張も結構ですが、ちょっと野暮ったくありません?
それではまともに動く事が出来ないように思えるのですが……」
焦凍と一緒にやって来た百が苦言を呈すと、魔女子は「失敬な」と言いながら杖を、まるでこれから大魔術でも放とうと言わんばかりに振り上げる。
「厚手に見えますが、これでかなり動きやすいですし、そういう補助は全部使い魔に任せます。防御力もそれなりにあるんですから。
それに、こういう時こそのヒーローライセンス。個性使いたい放題です」
「それは否定はしませんが……」
「……むしろ八百万さん。貴女の方がアウトのような気がします」
魔女子の言葉に自分の男としての本能が反応したのか、つい逸らし続けていた目を百のコスチュームに向けた。
扇情的という言葉が似合う。何せ布面積が殆どない。いやあるにはあるのだが、胸の谷間やお腹が露わになり、胸上部には一応締めるためのバンドが付いているが、それで余計に胸の谷間が深くなっている。
しかもミニスカだ。
もう一度言おう、ミニスカだ。
確かに少し野暮ったい魔女子のローブも動きづらいかもしれないが、こちらはこちらで動けないだろう。
いろいろ見えて。
「……し、振武さん、そんなに見られると流石に私もちょっと恥ずかしいのですが、」
「あ、あぁ、そうだよな、すまん……って、じゃあなんでその格好なんだよ!! 服着ろよ!!」
顔を少し赤くしている百の姿から目を外……そうとして、あまりの矛盾に思わず叫んだ。
振武のその言葉に羞恥心が刺激されるのか、さらに顔の赤がさらに濃くなる。
「ひ、人を変態のように仰らないでください! 着てます、着てますから!!」
「着てないに近いぞそんなもん!!」
「しょ、しょうがないじゃないですか! 物作ると破れるんですもん!!
むしろ、これでも大分抑えられてるんですのよ!?」
「これでも抑えられているとか前は本当にどんなのだったんだ!!?」
振武の絶叫に、男子一同が心の中で同意した。一言一句間違いなく。
……いや、約1名「いいぞもっとやれ、むしろ脱げ」と思っている者がいたのだが、彼の名前は伏せておくことにしよう。
「八百万さんの個性の特性上しょうがない面もありますけど……それ街中で見られたら、逆に通報されませんかね、轟くん?」
「ここぞとばかりに俺に振るな……だが、実際個性で服が一々破れたらそれこそ面倒だしな。そう考えると合理的って言えるだろう」
魔女子の冷静な言葉に、焦凍も冷静なコメントを返す。
そういう問題ではない。そういう問題ではないのだ。叫び続けたせいか、その言葉は息切れの所為で言うことが出来なかった。
「HiHiHi! 皆静かに!! 授業の説明をするぞ!」
ざわざわとお互いのコスチュームの意見を言い合っていると、オールマイトが手を叩いて自分に注目を集める。
「まぁ、コメントしたい気持ちも分かる!
良いじゃないか皆、カッコイイぜ!!……ムム!?」
全員のコスチュームを見渡してそう言ったオールマイトの目線が、ある一点に止まる。
気になって見てみれば……なんて事はない。出久の方を見ていたのだ。オールマイトも平和の象徴とはいえ、自分が目に掛けている弟子の事は気になるものなのだろう。
にしては出久のコスチュームを見て何か笑っているようだが……変な所があるのだろうかと、思わず少し離れた位置にいる出久を自分も観察する。
名前と同じく緑色のスーツに、耳らしき突起、そしてまるで口に笑みを浮かべているようなマスク。
……まさかあれは、オールマイトの触覚と笑顔なのだろうか?
いやいやそれをコスチュームにするのはどうかと、と一瞬思うが、オールマイト大ファンの緑谷出久であればありえない話ではない。
(それで笑ってるっていうなら、まぁ分からんでもない。
……俺も今笑いそうだし)
分かり易すぎるからな!
「先生! ここは入試の演習場ですが、また市街地演習を行うのでしょうか!?」
出久の隣に立っていメカメカしいデザインのコスチュームを着た生徒が手を挙げる。声と口調から察するに、恐らく飯田だろう。
その言葉に、オールマイトは首を振る。
「いいや! もう二歩先に踏み込む!
屋内での、対人戦闘訓練さ!!」
対人。しかも屋内か。振武は眉を顰める。
恐らくビルの1つを使っての戦闘訓練なのだろう。市街地という場所柄、使えるビルは幾つも有る。だがそうすると、振武の機動力を生かすのは難しい。
瞬刹は間合いを埋めるために使用するものだが、距離など力加減を上手くコントロールすれば相手の背後に回り込む事も出来る、自分で作っておいてなんだが極めて有用な移動法だ。ひらけた場所であれば有用に活かせる。
その反面、狭い廊下などでは難しい。
三角飛びの要領でやろうと思えば出来るが、やった事がないのと、壁そのものの耐久度を見誤れば壁に穴を開けただけでおしまいだ。
「敵退治は主に屋外で見られるが、統計で言えば屋内の方が凶悪敵出現率は高いんだ。監禁・軟禁・裏商売……このヒーロー飽和社会、ゲフン……真に賢しい敵は、
君らにはこれから「敵組」と「ヒーロー組」に分かれて、基本2対2の屋内線を行ってもらう!!」
クラスメイト達に動揺が走る。
入学して初めての授業が、いきなり実践形式の訓練。つい最近まで中学生であり、戦闘という経験が殆ど存在しない生徒達が驚くのも当然だった。
「基礎訓練もなしに?」
動揺しているクラスメイトの意見を代表するように、カエル顏の(こういう言い方は女性に失礼なのかもしれないが、振武はまだ名前を知らない)少女が首を傾げながら質問すると、オールマイトは胸を張る。
「その基礎を知る為の実践さ!
ただし、今度はブッ壊せばオッケーなロボじゃないのがミソだ」
対人、と言うくらいだ。力技だけではどうこう出来ないという可能性もあるだろう。
「勝敗のシステムはどうなります?」
「ブッ飛ばしてもいいんスか」
「また相澤先生みたいな除籍とかあるんですか……?」
「分かれるとはどのような分かれ方をすればよろしいですか?」
「このマント、ヤバくない?☆」
皆次々と質問(殺気だったナニカと全く関係ないものが混じっているが)に、オールマイトも流石に一気に答える事は出来ないのか「んんん〜聖徳太子ィィ!!!」と悶絶する。
そのままオールマイトはゴソゴソとスーツの中から小さな紙片を取り出し、凝視しながら話し始めた。
「いいかい!? 状況設定は「敵」がアジトに「核兵器」を隠していて、「ヒーロー」はそれを処理しようとしている!」
なんか、海外ドラマにありそうな展開だな。そう振武はつい思ってしまったが、オールマイトは気にせず、というより周囲に気付かず話を続ける。
「「ヒーロー」は制限時間内に「敵」を捕まえるか、「核兵器」を回収する事。「敵」は制限時間まで「核兵器」を守るか、「ヒーロー」を捕まえる事。それが勝利条件だ。
コンビ及び対戦相手はくじで決める……のだが、少々ここで変則的にならざるをえない」
紙片の内容を読み上げたのか、オールマイトは顔を上げて近くにおいてあったボックスを手に取るが、すぐに引こうとせず生徒全員を見渡しながら話す。
「今年のヒーロー科定員は22名! つまりこのシステムだと、2人余ってしまう。
そこで、くじでコンビを決定する際、3人のコンビを2組だけ作る。その3人のコンビは、申し訳ないが対戦相手が固定化されてしまうのを、ここで注意しておこう!!」
確かに、そうなるだろうなと振武も頷く。
数の暴力というのは、人が考えているより大きい。2対3なら、3の方が強いのは確かだ。数の暴力を払い退けるほどの強さがあるならば話は別だが、それほど今の段階で他の者と差を付けている者は多くはない。
ぱっと思い浮かんだ人間でも、自分を含めて3人か4人。
ここで自分を入れてしまう事に抵抗感がない訳ではないが、10年間に裏打ちされている実力は他にも負けていないはずだ。
問題は、そのメンバー。
面倒な相手に、当たらなければ良いのだが。
「それはそうでしょうが……しかし、適当なのですか!?」
「プ、プロは、他事務所との急造チームアップする事が多いし、そういう事じゃないかな……!」
飯田の驚きように、出久が慌ててフォローを入れる。
その言葉に納得したのか「そうか! 先を見据えた計らい……失礼いたしました!」と大仰なくらい大きな声を出す。
実際に会ってみて何となく分かるが、飯田は本当に真面目だ。
今日の昼食事している最中も「轟くんと動島くんは食事の姿勢が綺麗だな……俺も見習わなければっ」などと突然言い出し、姿勢を正し始めたのを見た時は少し呆れたものだ。
だが、真面目な姿勢は好感が持てる。
……少なくとも、ただ暴言を発し続ける暴力マシーンよりも振武の中では上だ。
「おいコラこのクソ吊り目、なんか余計な事考えなかったか?」
「いや、何でもねぇよ」
不穏な空気でも察したのか急に振り向いて話しかけてきた爆豪を軽くあしらうと、フンッと盛大に鼻を鳴らして前を向く。
……そんなに気配に出てるのかな、俺。
そうして行ったくじは、想定したパターンの中でも最悪に近いものだった。
他の者に目を向ければ、皆コンビになった人間と談笑し合っている。
こちらも、メンバーとしては……まぁ、悪くないと言えば、悪くない。
「振武さんとご一緒出来て良かったですわ。
敵として対決する場合はどうしようかと思ってました」
「よろしくな、動島、ヤオヨロッパ……八百万」
……あんまり知らない他人をこき下ろすのも問題ないが、さっきから片割れの視線が八百万の胸や下半身に集中しているのは、気の所為なのだろうか。
「まぁ、とにかく仲良くやろう。チームワーク作ってかねぇっとな
……油断すると、マジでヤバいかもしれない」
マスクの下で口元を歪めながら、振武は自分の対戦相手を見る。
1人は自分と同じく口元をマスクで覆っている大男。確か握力でかなりの数値を出していた、障子目蔵、という名前だったろうか。
そしてもう2人が、振武にとっては脅威だった。
塚井魔女子と、轟焦凍。
自分の個性を知っていて、戦い方も多少理解し、おまけに素の知力・戦闘能力が高い2人が、敵に回ったのだ。
とうとう衝突!? と思われるでしょうが、魔女子さんが参入なので、ちょっと事情が変わりますよって。
次回! 振武くんが今度こそ熱くなるよ(物理)!! 本当に今度こそ来るから待ってて!?
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