色々視点いじったりなんだりと、今回は挑戦する事も多く、個人的には失敗している点も多いような気もしますが、皆さんどうか、お手柔らかに。
それでは、本編をどうぞ。
――立ち幅跳び、反復横跳びと競技は続いていく。
他の何人かと同じように、振武も立ち幅跳びで指定されていた砂場を飛び越えてしまったので、これもまた計測不可能だった。
しかし反復横跳びはそうは行かない。瞬刹でやれるかとも思ったが、何回も連続で使用できない事を考えれば、使わなくて良かったとは思うものの、やはり悔しい。
「思ったより個性が使える競技って少ないもんだな。立ち幅跳びはそれこそ問題なかったが、反復横跳びも上体起こしも普通の成績になっちまった」
少し不満そうに言う振武に、魔女子は苦笑する。
「どこが普通だって言うんですか。反復横跳びで80に届きそうになった人私初めて見ましたよ。ちょっと人間とは思えない動きしてましたよ」
「いやいや、あれくらいなら鍛えてる人なら出来るって。
峰田見てみろよ、あいつめちゃくちゃ早かったじゃん」
「あれは個性を使っていたからです。個性なしであんな動きしてるの動島くんだけですって」
魔女子の言葉に同調するように、百も乾いた笑みを浮かべる。
「そうですわね、鍛えていると言っても所詮中学生と思っていたのですが……これでは道具を使っても勝てていない私はどうすればいいのか」
「八百万さん、お気になさらず。フィジカルに関して言えば、このクラスで動島くんに勝てる人は中々いないでしょう。
今回は個性ありきの個性把握テストですから、判断は難しいところですが」
実際、個性を使った種目というのは総じて人間びっくりショーでも行っているかのような結果が続出している。振武だけではなく、他のクラスメイトも必ず1つは好成績だ。
今日入学したとはいえ、大半があの実技試験を突破出来る者たちだ、まさしく超人と言っても過言ではないだろう。
問題があるとすれば、
(緑谷、大丈夫かな)
離れた場所にいる出久の表情は、振武から見てもあまり良い表情とはいえない。
焦りと不安が見え隠れしている顔は、心の中が透けて見えるようだ。
ワン・フォー・オールの制御。
記憶が間違っていないならば、使えば骨が砕ける諸刃の剣。この世界が自分の知っている知識と同じ工程を経ているのであれば、ここで成績を出すのは難しい。
実際何度か出久のテストを見ているが、思わしい成績は出ていないようだ。
先ほど麗日がソフトボール投げの「∞」という結果に、さらに顔を青くしていたのが見える。
……自分ももしかしたら、少し前まであのような顔をしていたのかもしれない。
自分が強くなっているという事実が理解できておらず、早くヒーローになりたいと我武者羅になっていたあの時と。
「次っ、動島!」
「あっ、はい!」
出久に気を取られている間に、自分の順番がまわってきたようだ。慌てて相澤からボールを受け取り、円の中に立つ。
……こう言ってしまっては何だが、この競技そのものは自分の脅威ではない。震撃を覚えた時に、壁を吹き飛ばした要領。瞬刹を使用している時と同じ感覚。
ようは、個性と自分の力全てを使って、ボール自体を押し出してやれば良い。ただそれだけでも、飛距離は稼げる。
流石に∞なんていうあり得ない記録にはならないだろうが、そこを気にしてもしょうがない。
「それじゃ……どりゃあ!!!!」
振り下ろされた手から放たれたボールは、木製バットでボールを打った時のような音と、その音にまるで似つかわしくない衝撃と共に放たれ、あっという間に視界から消える。
少しだけの静寂の後、相澤が持っているプレートから結果が出た事を表す電子音が響く。
示されていた数値は……1002m。
『お〜!!!』
先ほどの麗の時ほどの歓声は上がらなかったが、しかし十分な大記録だ。
振動を8万に抑えているため全力とは言い切れないが、本気でやってしまうと腕が壊れる可能性も入れれば、総合的に見ればこれが全力とも言えるだろう。
「すげぇじゃねぇか動島! 本当にお前は、んな体からどうやってあの威力出せてるのか分かんねぇよ」
クラスメイトの中に戻ってきた振武に、鋭児郎はいつも通りフレンドリーに話しかけてくる。迷惑をかけたので、もしかしたら嫌がられるかとも思っていた振武の考えは杞憂だったようだ。
「まぁ、これでも一応鍛えてるからな。うちは古武術やってるんだ」
「いやいや、普通は古武術やってるからってそうなる訳じゃないだろ、どんな古武術だよ」
振武の言葉を冗談と受け取ったのか、手を振りながら笑顔を見せている。
いや本当なんんだけど……と思っていると、隣からもはやクリック音と言っても差し支えのないような盛大な舌打ちが聞こえて来る。正体は見なくても分かる。爆豪だ。
「ヘラヘラ笑ってんじゃねぇぞ、クソ吊り目がッ、目障りなんだよ!」
そこで終わるかと思えば、また反省の色も見せず絡んでくる爆豪に、振武は小さく溜息を吐く。
「ああ、はいはい、悪いな。あと、さっきも言ったが俺よりお前の方が吊り目だからな?」
思わず面倒臭そうに返す振武を見る爆豪の眼がますます鋭くなる。
「テメェ、今んとこ俺より成績良いからって調子に乗んなよクソがっ!
てめぇなんざとっとと超えてやるんだからなぁ」
「……なんでお前それ分かるんだよ。
まさか、俺の結果も数えてるのか?」
中学校で行われる体力測定の場合自分の記録が書かれていた用紙を自分で管理しているので見る事は可能だが、今回の個性把握テストはそんなものない。
わざわざ数えたのか? 苛立ちながら?
「お前、案外細かいんだな」
「うるせぇこのクソ吊り目が!!」
「動島だ。良い加減名前覚えろ爆豪」
「俺に命令するな!!」
先ほどとは違い振武は冷静で、別に爆豪をバカにしているつもりはないのだが、爆豪からすれば全てが怒りを煽っているようにしか聞こえないようだ。悪魔か何かのような表情になってる。
その顔魔除けになりそうだな。と一瞬思ったが、言ったら言ったで余計に面倒臭そうでやめた。
「あ〜、はいはい、爆豪わざわざ自分で絡みに来て自分で怒るなって。お前ちょっとカルシウム足りなさすぎだぜっ」
鋭児郎は爆豪を羽交い締めにしながら、ずるずると振武から距離を離す。
「放せこのクソ髪がぁ!! アイツには言いたい事が山ほどあんだよ!」
「喧嘩売りに行くなよ余計ダメだろうがっ、な、大人しくボール投げ見てようぜ」
「誰がクソデクになんざ興味あるか!!」
「いや別に誰か一個人のを見ろって言ってる訳じゃ……つうか、デクって誰だよっ」
まるで夫婦漫才のような激しい怒りと柳のような受け流しを残しつつ、振武の元を離れていく。
爆豪のあれは、もはや一種の病気なんじゃないかと思いながらも、振武も百達がいる場所に戻っていく。
「お疲れ様です。流石振武さんですわ、あっさりとあんな大記録を生み出すなんて」
「同感です。流石と言いますか、相変わらずと言いましょうか……あんな風にされては、立つ瀬がありませんね、轟くん」
「……だから、塚井はなんでいちいち俺にふるんだよ」
「さぁて、何ででしょう。ご自分の胸に聞いてみてください」
どちらかと言えば冷静な面々が多い中でも、やはり賑やかさというのは忘れられていない。ここら辺は年齢がさせる妙技なのかもしれないと思いながら、振武は笑みを浮かべる。
「まぁ、修行の成果だよ。
毎日コツコツやってれば、案外皆あれくらいになるんじゃないか?」
「「普通の方はあれくらいになる前に挫折します」わ」
「むっ、そういうもんか……」
2人に同時にツッコミを入れられてどこか納得出来ないと言わんばかりの顔をしながら、人の間に割って入り、ボール投げが見えるような位置に立つ。
投げようとしているのは、出久。必死な形相で考えている様子が少し離れたここからでも分かる程だ。
「……気付いてます? 彼今の所良い成績出してませんよ」
「……何で俺に言うんだ、塚井」
「何でって、お知り合いなんでしょう?
心配ではないんですか?」
「う〜ん、しているようで、していないような、かな」
要領を得ない言葉に首をかしげる魔女子に、振武は笑顔を見せる。
心配していない訳ではない。主人公云々に関わらず出久の事は好きだし、これから雄英で一緒に学んでいきたいと考えている。
しかしこうも思えるのだ。
出久であればきっと、こんな困難くらい乗り越えてくれると。
結果を知っている云々だけではない。
これまで諦めず、一途に夢を追い続けた緑谷出久であるならばきっと大丈夫だと思える。
「――でぇい!!」
必死の形相で投げられたボール。
腕を強化した投球。本来であればボールは天高く飛び、もしかしたら振武の記録をも超えてしまうほどの大投球になっていただろう。
だが、現実は、
『――48m』
常に無情だ。
「……本当に、大丈夫なんですか?」
絶望で立ち尽くしている出久と、何かを話している相澤の様子を見て、不安そうな声を魔女子はあげる。百も焦凍も何でもない事のように見つめているが、友人の友人だからと気にしているのだろう。まぁビビっている出久に対して相澤が恫喝しているようにも見えるのだから、とうぜんといえば当然だ。
微笑ましさを感じながらも、振武は小さく頷く。
「大丈夫だよ、ソフトボール投げはあと2回。
大丈夫、あいつならやってくれるさ」
頑張れ。
頑張れ緑谷出久。心の中で何度も応援する。
自分の知っている緑谷出久ならば、ここでやってくれるだろう。
「……話、終わったみたいですよ」
相澤の拘束が解かれ、もう一度ボールを持って円の中心に立つ出久の顔は、未だ絶望の色を残したままだ。
クラスメイト達が何があったのかと不安そうに話している中、振武は真っ直ぐに出久を見ていた。
確かに絶望しているように見えるだろう。
出久自身も八方塞がりの状況。100%の力を出せば行動不能になり、使わなければそのまま最下位なのは確実だ。相澤とは、そういう話になっていたはずだ。
(さぁ、決めろよ、緑谷)
偉ぶるつもりはない。
だが振武の立っている位置は出久とは違う。自分は最初から個性があって、武術の研鑽が積み重ねてきてここに立っている。つい最近まで個性すらなかった出久とは、違う。
傲りでも何でもない、純然たる事実。
だが力を操作出来るようになれば。
慣れていけば。
きっと振武と同じくらい、いや、振武が何も成長しなければ超えられる。
早く俺と競い合おう、緑谷。
バコーンッ!!
出久の力で振るわれ、大空を飛んでいったボールを見ながら、嬉しそうに笑みを浮かべた。指だけでもこの威力、漫画で見ているのと実際に目にするのとでは大違いだ。
出久の指は腫れ上がり、痛みに必死で耐え、しかしはっきりと拳を握りしめながら、相澤に向かって言った。
「先生……まだ、動けます!」
その顔はまさしく。
振武が想像した通り、格好良いヒーローの姿だった。
個性把握テストも全てが終わった。
緑谷の負傷、その緑谷の個性を見た爆豪とのイザコザ。
その他競技でのクラスメイト達の活躍。
最後の持久走などスクーターと白馬のデットレースという謎の状況。
様々な出来事が起こったが、皆全力を出し切ったように思える。当然振武もそうだった。
「んじゃ、パパっと結果発表。
トータルは単純に各種目の評点を合計した数だ。口頭で説明すんのは時間の無駄なので、一括開示する。」
――誰かの息を飲み込む音が聞こえる。
相澤の言った「最下位除籍」。あり得るわけがないと思っている者、信じている者、その反応は様々。だがその緊張感は間違いなく皆同じだろう。たかが個性把握テストであっても、良い成績を残したいというものは多いだろう。
爆豪がその筆頭だろうが……振武もその気持ちだけは負けてはいない。
その緊張感に一石を投じるように、
「ちなみに、除籍はウソな。
君らの最大限を引き出す、合理的虚偽」
相澤はどこかしてやったりといった顔をして、爆弾発言をぶちまける。
「………………はーーーーーーーーー!!!!??」
前に立っていた飯田、麗日、そして出久が絶叫を上げる。
信じていなかった者はですよねーと言わんばかりだが、3人以外にも信じていた人間は多く、彼らも前の3人程ではないが、驚いている。
百も何かを3人に言おうとするが、結局何も言わずに顔を俯かせる。
……そもそも、除籍はしないという事そのものが嘘であったならと考えると、あまり下手な事を言いたくなかったからだ。
少し顔を上げて横目から振武の顔を見てみれば、小さく溜息を吐きながらも安心したような顔に見える。
振武もこうなるという事は分かっていても、ここはあくまで現実だ。実際にどうなるかなど分からない。もしあれを見ても相澤の気持ちが分からなかったら。振武は投影されている順位表を見る。
自分と魔女子がいる分多少順位に変動が見られるが、大筋は変わらない。
『22…緑谷出久』
……もし、相澤の気持ちが変わっていれば。そのまま緑谷とはお別れだったかもしれない。そうなったらそうなったで、とその時はその時で思うかもしれない。
悲しいながら、振武は緑谷出久を助ける為に雄英高校に入ったわけではない。自分の夢の為にここに立っているのだから。
だが、大丈夫だった事ぐらい安心しても良いだろう。
「……お疲れ、緑谷。大変だったな」
一旦百達から離れてから、去り際の相澤先生から何かの用紙を手渡してもらっていた出久に声をかけると、先ほどの緊張でかいた冷や汗を拭いながら、こちらに顔を向けてくる。
「動島くんっ。
うん、でも先生の話が嘘だったから助かったけど、そうじゃなかったら僕は……」
そう言いながら、出久とともに振武も順位表を見る。
最下位という事実は、除籍が嘘だったとしても変わらない。
「それに比べて、動島くんはやっぱり凄かったね。
個性使ってなかった競技でも活躍していたし……1位おめでとう」
『1…動島振武』。
個性が利用できた個性はもちろん、他の種目でもいつも通りの力を発揮出来たからだろう。その結果は、振武にとっても誇らしく、嬉しかった。
「ありがとう……緑谷は、本当に凄いな」
「ちょっ、いきなりどうしたの!?」
何の前振りもなく褒められた事に動揺しているのか、出久の顔は少し赤い。それを見ながら振武は笑顔を向ける。
「だってさ、それ、めちゃくちゃ痛いだろう?
それなのにおめでとうってのは、中々言える事じゃない」
指差したのは、ソフトボール投げをする際に力を使った出久の指。
変色しているそれは見るからに痛そうだ。おそらく、何箇所か骨折しているのだろう。本来なら動かすことは出来ず、上手い具合に動かす事が出来ても、その痛みは尋常ではないだろう。
振武は動島流の鍛錬の中で多くの怪我を負ったが、骨折しながら体を動かした経験は流石にない。骨折の経験はないわけではないが、あの痛みの中他人の事を気にかけて話していられる余裕はなかっただろう。
骨折の痛みというのは、普段考えられている以上に辛いものだ。
その中でも、出久は痛みを堪え、振武に賛辞まで送っているのだ。
……漫画を読んでいる時ならばなんて事のないように思えていたが、今の振武はその精神力に驚嘆していた。
だがその言葉に、出久は暗い表情をする。
「いや、僕はそんな……ただ余裕がないだけだよ。実際、最下位からのスタートだ。もっともっと頑張らないと」
「……前向きだな。そういうの、俺は嫌いじゃないよ」
真剣な表情で言い切った出久に、眩しいものを感じて目を細めながら衝撃が走らない程度に軽く肩を叩いた。一瞬動揺した出久は、しかしそれでも、振武に笑顔を向けた。
「ありがとう……でも、動島くんにはまだまだ敵いそうにないや。
いくつか動島くんのも見させてもらったけど凄いよねあれは衝撃の個性にも見えるけど実際チラッと話を聞いている限りでは振動の個性だって言ってたし何か振動を上手く衝撃に変換出来るように特訓しているのかなそうじゃないとソフトボール投げの結果は説明出来ないけどでも50m走の瞬間移動みたいなのはまた違った力の使い方をしていたみたいだあぁでもあれも個性を使用しているんだったらそれはそれで考察を考え直さなきゃいけないし――」
……始まった。緑谷出久の高速独り言。
漫画で見ればただの文字列だが、実際に聞いてみると言葉が津波のように耳を刺激する。しかも、確かにこれはちょっと不気味だ。
「ちょっと待て待て、落ち着け緑谷っ」
「もしかして個性を使って生み出した推進力で自分の体を前に押し出したのかだとしたらかなり有用だぞ振動って思った以上に応用が効くってことになるから対処法が難しいしそもそも動島くんに近接戦闘で戦うのは無謀だから何かしらの方法で遠距離から――あっ、ごめん、つい癖で!!」
ようやく振武の声が届いたのか、真剣な表情から慌てて申し訳なさそうな顔で頭を下げる。
相変わらず忙しない……というか、今かなり振武への対策法良いところまでいってはいなかっただろうか? 少しの技と情報だけでそこまで考察されるとは、油断出来ない。
「あ、あぁ、気にするなよ。
保健室行くんだろう? 良かったら俺も一緒に行って良いかな?」
振武のその申し出に、出久は小さく首をかしげる。
「別に構わないけど……動島くん、どこか怪我でもしたの?」
「いや、そうじゃないんだけど……実は、リカバリーガールとは縁があってね。折角こうして雄英には入れたから、挨拶しようと思ってさ」
リカバリーガール。会った時にはそんな名前で、そもそも雄英で働いているヒーローとは思っていなかった。
普通にお菓子をくれて、自分の背中を押す1人になった人物。学校に通う事になったのだから、どうせなら保健室に行って挨拶をしておきたい。
「そっか……じゃあ、一緒に行く?」
「あぁ、ぜひお願いするよ」
そう言って、2人は笑いあった。
◆
そんな2人の姿を、遠目から見ていた者がいた。
爆豪……ではない。彼は怒りを周囲にぶちまけながら(鋭児郎がフォローを入れていたので、大事にだけはなっていない)教室にさっさと戻ってしまった。
……轟焦凍。
彼は感情があまり映らない瞳を、ただただ真っ直ぐ振武に向けていた。
振武。動島振武。
かつて一度会った事があるはずなのに、忘れてしまった相手。
中学校で共に戦い、共に危険を乗り越えた仲間の1人。
『お前の目、覚まさせてやるよ、轟焦凍』
そう言って、勝手に約束をした男。
……あの事件以来、結局一言も喋っていない。あちらは全く気にせず熱心に話してくるが、それに応える義理は焦凍自身にはない。
ちょっと事情を知っている程度で、焦凍の考えを否定した相手だ。
上手い事言っていたが、結局は「復讐など愚かだ」「お母さんは喜ばない」なんていうくだらない理由に決まっている。
「……これは、俺の願いだ。俺の目標だ。誰にも、文句を言われる筋合いはない」
「そうですね。何の事だかさっぱり分かりませんが、そうだと思います」
独り言に、返事が返ってきた。
隣に寄り添うように現れたのは、塚井魔女子だ。
振武と同じく、一緒に戦った仲間。今では無愛想な自分に話しかけてくれる、焦凍の中でも数少ない〝友人〟にカテゴライズされている少女。最近では振武と焦凍の間を取り持とうと、あれやこれやとお節介をしてくる、少々厄介な友達
彼女はいつも通り、焦凍と同じように無感情な表情で、焦凍の顔を覗き込む。
「良い加減、振武さんとお話しする気になりましたか?」
「……塚井には関係ない」
「む、それは心外ですね。確かにどうしてそうなったのか、詳しい事情を知らないですし、お二人の関係に口を挟む権利はありません。
ですが、一応お二人の共通の友人なのです。少しくらい気にかけても許されると思いますが」
氷のように冷徹な焦凍の言葉にも、魔女子は飄々と態度を変えずに話し続ける。
……だからやり辛いんだよ、と、心の中で毒づく。
中学2年からの知り合いだが、相も変わらず、風に揺らめく綿毛のように掴みどころがないその態度は普段は好ましいと思えても、今この時に限って言えば焦凍の苛立ちをさらに悪化させるだけだった。
「……これは、俺の考えとあいつの考えが合わねぇから起きている問題だ。解決出来る事じゃねぇし、解決させる気もねぇ。
俺は考えを変える気はないし、あいつにも多分ないだろう。そうすりゃ、結局はこうならざるを得ねぇよ」
焦凍のスタンスは何も変わらない。母から受け継いだ個性のみでNo.1ヒーローになり、父を見返す。それに必要な事以外は不要なものだし、それ以外は何も望まない。ヒーローになるという事は、それだけの理由だ。
だが振武も、多分引かないのだろう。彼が何に苛立ち、何を変えようとしているのか本当の所焦凍は完全に理解出来ている訳ではない。だが振武の考えを受け入れ、自分の考えを曲げる理由はない。そんなものは無駄でしかない。
だとすれば、平行線。
交わる事もなく、振武と焦凍が和解できる事もない。
焦凍の頑な態度に、魔女子は少し面倒そうに髪の毛の先を弄る。
「頑固でブレませんね、お二人共。正直に言えば、私は轟くんの考えが変わろうと変わるまいと、そこら辺は重要視していません。どちらにしろお二人は私の友人ですし、どちらも尊敬できる男性だと思っています。考えが変わろうと変わるまいと、人間の本質は大きく変わりません。
ですが――いえ、何でもありません」
魔女子は徐ろに前に進み出て振り返る。
その目は真っ直ぐに、焦凍の目を見つめている。
焦凍は、昔から魔女子の目が苦手だった。
観察されているような。自分の信念、発言、姿形、行動、全てを見定めようとされているような、居心地の悪さ。
過去の悲しみや苦しみすら、見られているのではないかと思われるほど真っ直ぐな目は、思わずこちらから反らしたくなる。
「なんだ、はっきり言えば良いだろう」
「これは私が言うことではありませんから。それに、私がどうこう言ったとしても、轟くんから折れる気はないんでしょう?」
「……当たり前だ」
「なら言う事は1つですね。
正直、無視というのは子供過ぎやしませんか? 対抗するのは結構ですが、大人な対応をした方が良いですよ?」
何でもないといった風にそう言うと、焦凍の返事も待たずにスタスタと校舎の方に向かって歩いていく。
「……子供過ぎる、か」
魔女子の言葉を反芻する。確かにと思う面はある。
だが今更話しかけると言うのは、抵抗があるし、焦凍は振武をどうしても許せない。
今の所、どうしようもない話だった。
いずれ、どこかで正面衝突する瞬間はあるだろう。
同じ高校、同じヒーロー科、同じクラスなのだ。
否が応でも、答えは出さなければいけなかった。
如何だったでしょうか。
我が家の猛獣使いは本日も頑張って働いてくれました。
一回サイドストーリーを挟んで戦闘訓練編を始めたいと思います!
原作部分をカットしたり何だり、皆さんご不快に思われる事もあるかと思いますが、それでも楽しんで頂けるものを作れるように頑張ります。
指摘がありましたので、本編ではカットしてしまった順位をここに記載したいと思います。
1位…動島振武
2位…八百万百
3位…轟焦凍
4位…爆豪勝己
5位…塚井魔女子
6位…飯田天哉
7位…常闇踏影
8位…障子目蔵
9位…尾白猿夫
10位…切島鋭児郎
11位…芦戸三奈
12位…麗日お茶子
13位…口田甲司
14位…砂藤力道
15位…蛙吹梅雨
16位…青山優雅
17位…瀬呂範太
18位…上鳴電気
19位…耳郎響香
20位…葉隠透
21位…峰田実
22位…緑谷出久
長々と失礼いたしました。あんまり大きく変動はしていない感じですね。
次回! 振武くんがうどんをすするぜ!! お腹空かせて待て!!
それでは。
感想・評価お待ち申し上げております。