書いてて思いますが、振武くん予想外に強過ぎる……。
それでは、本編をどうぞ。
『個性把握テスト!?』
(やっぱこうなったか……)
相澤の言葉にクラスメイトの殆どの人間が大なり小なり驚いている中、振武は小さく溜息をつく。振武の勘……というより、記憶は正しかったようだ。
「入学式は!? ガイダンスは!!?」
驚きとともに声を上げている少女は、振武からは後ろ姿しか見えないが、おそらく麗日お茶子だろう。確か重力を無くすのだったか……その麗日の言葉に、相澤は先ほどと同じ通り平坦な声で答える。
「ヒーローになるなら、そんな悠長な行事、出る余裕ないよ」
あまりにも冷静な言葉に、クラスメイト達に動揺が走る。当然だろう、確かにヒーロー科なのだから普通の事はしないという事は皆分かっていたはずだ。だが初日からいきなり授業という事を予想していたものはいないだろう。
原作知識として知っていた振武はさておき、普段冷静な轟や魔女子でさえも多少驚き、百も動揺している。
相澤はその動揺すらも気にせず話を続ける。
「雄英は自由な校風が売り文句。そしてそれは先生側もまた然り。
お前達も中学の頃からやっているだろう? 個性禁止の体力テスト」
スマホの画面を見せながらの説明に、振武は小さく頷く。
スマホに表示されている種目は変動もなく、原作で見た通り、ソフトボール投げ、立ち幅跳び、50m走、持久走、握力、反復横とび、上体起こし、長座体前屈の8種目。
どの競技でも個性無しならば確実に一位を取れるものばかりだ。
しかしこれは個性ありの、個性把握テストだ。
(総合一位は……ちょっと厳しいかもしれないな)
勿論、個性なしの身体能力であるならば誰にも負けるつもりはない。長年の鍛錬のおかげで、そこら辺の同学年相手ならば圧勝できるだろう。だが個性を使用してのものであれば話は別だ。有利な個性のものも多いだろう。
自分の個性である振動が活かせる競技は、半分程度といった所だろう。他は全て自力だ。他の皆もそうなのであれば良いが、そうはいかない。
殆どの人間の個性は知らないが、知っている者のみで考えるならば魔女子には勝てないかもしれない。
彼女の個性〝
焦凍もそうだ。基礎の身体能力だって振武ほどではないとは言え鍛えている分平均より上であるし、どのように個性を使うかによって結果は変わるだろう。
一位を逃す気は当然ない。ないからこそ、気は抜けない。
「実技入試成績のトップは……あぁ、今年は2人いたな。
動島か爆豪、どっちかに実演をして欲しいんだが、」
その言葉に一瞬で反応して、爆豪はこちらを睨み付ける。
「しゃしゃり出てきたらブッコロス」と言わんばかりの殺気溢れる眼光は、本当にこいつヒーロー志望なのかよと疑いたくなる。
しかもあの喧嘩の事をまだ引きずっている様子だ。
(……ったく、ガキかよ。いや、買っちまった分俺も人の事言えないけど。にしたって女々しいなぁ)
いい加減鬱陶しく感じながらも、相澤に首を振って「俺はいいんで、爆豪にやらせてください」という意思表示をすると、相澤は面倒臭そうに溜息を吐く。
面倒臭いという気持ちは振武にも分かるが、そんな態度を取られても振武にはどうしようもない。
「じゃあ爆豪、お前ソフトボール投げ、何メートルだった?」
「……67m」
「じゃあ、個性使ってやってみろ。円から出なきゃ何しても良いから、思いっきりな」
相澤の言葉に同意の返事もせずに指定された位置に立つ。
腕をほぐしい、
「んじゃまぁ」
構え、
「死ねぇ!!!」
爆音と共に、ソフトボールは一気に空を駆け抜けていく。
言葉は冗談のような悪辣さだが、威力と実力は本物。
振武は喧嘩をする気も簡単に捕まる気もなかったが、実際に喧嘩していたかもしれないと考えると、やはりあの威力は脅威でしかない。
(切島に止めに入って貰わなきゃやばかったかもな……切島、ありがとう。今度何か奢るわ)
少し前の方に陣取っている鋭児郎の背中に向かって心の中だけでもと感謝を告げる。
そうしている間にも、結果が出たのだろう。相澤がソフトボールの飛距離が表示されるプレートを生徒に見えやすいようにかざす。
浮かんでいる数値は、705.2m。普通では考えられない脅威的な数値と言えるだろう。
「まず自分の「最大限を」知る。
それがヒーローの素地を形成する合理的手段」
相澤のその言葉をきっかけに、全員が歓声をあげる。
「なんだこれ!! すげー面白そう!」
「705mってマジかよ……」
「個性思いっきり使えるんだ!! さすがヒーロー科!!」
「こ、これは不謹慎ですが、確かに面白いですわ」
百が期待を隠せないと言ったような笑顔でそう言うと、隣に立っている魔女子も小さく頷く。
「そうですね、普段は個性を自由に使える機会など滅多にありませんから、思いっきりな使用できるとは、先ほどの誰かさんの言葉ではありませんが、流石ヒーロー科でしょうね」
魔女子のそんな言葉に、「そ、そうですわね」と百はそわそわしながら答えている。
対して振武と隣に立っている焦凍は……あまり表情が明るくはない。
焦凍はさして自己主張するタイプではないし、父であるエンデヴァーからの鍛錬で個性は使い慣れているからこそ、それほど大きな感動にならなかった。
振武もそうだ。私有地である山や道場、庭などで個性を使用しての鍛錬も行っていたのでそこに大きな驚きには繋がらない。
そしてそれ以上に、
(もしこれが原作通りの展開であるなら……いや、相澤先生の性格が原作通りであるならば、)
告げられるだろう。
あの厄介な条件を、
「……面白そう…か。
ヒーローになる為の3年間、そんな腹づもりで過ごす気でいるのかい?」
――周囲の空気が明らかに変わり、騒いでいた生徒達もその雰囲気を察して黙る。
空気の変調の根源は、相澤だった。先ほどまでの草臥れたような、疲れたような印象は一気に吹き飛んでいた。まるで氷のような静かで、鋭い殺気のようなものを喉元に突きつけられるような感覚。
戦闘能力という意味においての〝強者〟特有のもの。
「よし、トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し、
除籍処分としよう」
つい数日前まで中学生だった子供達の道行は、絶望的な壁に阻まれた。
「生徒の如何は
ようこそ、これが、雄英高校ヒーロー科だ」
◇
……簡単に流れだけを説明してしまえば、概ね原作通りだったと言えた。
麗日がどれほど食い下がろうと、結局相澤の考えを変えることはできなかった。あれ以上文句を言っていれば、その場で除籍処分だってありえたはずだ。
あんな無茶を言う人間ならば、やりかねない。
「……どう思います、振武さん」
今は50m走の順番待ち。
それぞれ個性を使う為の準備や柔軟体操などを各自行っている中、振武と同じ順番である百が相澤に聞こえないように小声で話しかけてきた。
「どうって何がだよ」
「惚けないでくださいっ。最下位除籍の事ですわ。
最初は「流石にそのような事はしないだろう」と思っていたのですが……あの時の先生の様子、真に迫り過ぎています」
百の言葉に、振武は柔軟体操を済ませてから相澤の方を見る。
生徒達と距離を置いて立っている相澤。先程の雰囲気とは打って変わりまた草臥れたような印象に戻っているが、その眼は良く良く見てみれば生徒達の行動を常に見ている。
しっかりやっているかの監視ではない。
まるで裏側までひっくり返されて見ているような、観察の眼。
「……さぁて、どうだろうなぁ。
俺が見た限りでは、本気にしか見えなかったぜ、あの先生」
原作の知識を知らなかったとしても、今の振武であれば同じ結果を出しただろう。
……ある一つを極めた人間、あるはそれに近い人間というのはどこか似通ってくる。勿論その極めた事柄も何もかもが違うのだから、似ていると言っても性格や顔立ち、性格の事ではない。
纏っている雰囲気。
意図して放たれる気配。
そういうものの強さと性質は皆、非常に近いものを持っている。それが良い事を極めた人間であれ悪い人間であれ、強すぎる感情は本人の意思が強ければ強いほど、感じる人間側からすれば気圧されるものになる。
そういう意味でも、母である動島覚も動島振一郎も、そして相澤消太も似ていると言って良い。
そしてその雰囲気を察するに、
(どう考えても、嘘や遊びで言ってる事のように思えないんだよなぁ)
本気だ。
本気で見込みがないと判断した人間を、彼は除籍処分にするだろう。
「……本気にならなければいけない要素が一つ、増えたんですのね」
小さく溜息を吐きながらも、百もやる気のようで、先程から何かを作っている。
彼女の個性は〝創造〟。談笑の中での説明では、生物以外は何でも作れるという。強いて問題があるとすれば、その構造やどのような素材で出来ているかなどを把握していないと作れないという点。
もう一点は、
「えぇっと、振武さん、見えていませんわよね? 見てませんわよね!?」
「大丈夫、見てないつうか、見えてないからからとっとと終わらせてくれ……にしても厄介な個性だなぁ。もう少し穏便な出し方は出来ないのか」
……大きなものを創造する場合服が破けてしまうため、どうしても隠れなければいけない事だった。
現在百がいる場所には、何故か大きい象のつい立てが出現していた。象の絵が書いてあるつい立てという意味ではない。文字通り、象がつい立て代わりに立っている。
とある引越し業者のCMで少女がキリンよりも好きだと言っている、あの象だ。その数3頭。皆脚の隙間から百が見えないように、うまい具合に中腰だ。
中腰の、象。
なかなか動物園でもサーカスでも見かけない、地味にして派手な絵面だ。
「……なぁ、塚井。もう少しまともな動物いなかったのか、なんだよ、象って。なんで作れるんだよ」
「いざという時の為に練習しておいたのです、ここで役立つとは思いませんでしたが」
――いつ使うタイミングがあるんだ。
聞こうと思ったが話が長くなりそうでやめた。
「それより塚井、そこに座ってんのやめよ。一々顔を上に向けなきゃいけなくて首が痛いんだが」
顔を向けながら、象の上に座っている魔女子に話しかけると、魔女子は相変わらずのマイペースさを発揮しているのか、何故か優越感に染まった顔で振武を見る。
「いやです。ここは絶景ですし……色んな意味で」
「ちょっ、塚井さんっ、何を仰っているんですの貴女!?」
「おや自覚がありましたか、そりゃあそれだけ立派なものをお持ちの方ですから当然ですね。
にしても……何を食べればそうなるのか、ぜひ参考までに教えていただければ「塚井さん!!」ジョークですよジョーク」
百の悲痛の叫びにも似た絶叫にHAHAHAと外国人風の乾いた笑い声をあげる塚井。
(……うん、まぁそりゃあ俺も最初遭遇した時思ったよ、成長したなぁって)
中身がもう35歳であってもなくても、言ってはいけない事なので何も言わなかったし、そんな目で見てしまうのは失礼なので、振武も出来るだけ意識しないようにしていたのだが……やはり男とは、幾つになっても男という生き物らしい。
にしても、魔女子が体型の事を気にしているのは少し振武には意外だった。我が道を行くの典型例である魔女子はそういう事に無頓着な印象を持っていたからだ。
振武は気付かれないように、もう一度魔女子に目線を上げる。
絶壁ではないが、大きいとはお世辞にも言えな「振武くん。それ以上余計な事を考えたらその眼に針ねずみを2体ほどブチかまします」……。
「……うぃっす」
心を読まれて盛大に気まずくなってしまった振武は、小さく肩をすくめる。幸いにも百は聞いていなかったようで、相変わらず何かを作り続けている。
そうして少し待っていると、先程までいた象が出た時と同じく煙に溶けていくように消えていく。
「お待たせしました振武さん。
競技ごとに一々創っているのも面倒なので、一気に作りました。流石に疲れましたわ」
百自身の言葉の通り確かに疲労の色は伺えるが、フラついているようにも見えないので取り敢えず何もしない。
百が先ほどまで篭っていた、多くのアイテムが作られていた。
一見何に使うか分からない物から「どうやって出したんだよ」と思うような大きさのスクーター、大砲のようなものまで様々だ。
個性を使っていいとは言っていたが、実際に創造という物を使って体力テストをしようとすると、もはや体力テストというよりも発明コンテストの様相にも見えなくはない。
「凄いな、何に使うかも分かんない機械もあるぜ。よくこんだけ作れたもんだ」
「フフッ、お褒めの言葉ありがとうございます。
振武さんは、機械の方は苦手ですか?」
「あ〜、普通のやや下、と言ったところ、かな」
「そうなんですか……振武さんは完璧なようにも見えたのですが、そういう所もあるんですね」
「それ、ちょっとプライド傷つけられるわ。
まぁ完璧じゃないのは、事実なんだが」
ゆっくりと腰を回しながら、振武は苦笑する。
完璧ではない。
完璧であるはずがない。
どんなヒーローでもどこか抜けている事があるし、母もプロヒーローとしてはさて置き、母親としては抜けている点が多かった。
だが、完璧であろうと必死にもがいていく事こそ大事だと、振武は思っている。
「さて。そんで? 作ったのがそれか?」
百の足を見れば、そこにはローラーブレイドのような機械を取り付けていた。
当然ただのローラーブレイドではない。かなり小型だがパッと見ても分かるようにエンジンが取り付けられている。
「とあるヒーローが使用しているものを、私なりに改造したものです。
これで4秒に確実に到達出来るでしょう」
どうだと言わんばかりに胸を張る姿は普段以上に子供っぽいように見える。
その姿に微笑みを浮かべながら頷く。
「ハハッ、そりゃあ凄いな……まぁ、俺ほどじゃないが」
微笑みは、一瞬で勝気な笑みに変わる。
爆豪ほどではないが、振武もまた負ける事が嫌いだし、1位というものへの渇望はある。
例え仲の良い友人だったとしても、手を抜く気は毛頭ない。
「……言いますわね。でも振武さんの個性は超振動とお聞きしていますわ。
ここでは活躍出来ないのでは?」
振武の表情につられてか、負けじと百も挑発するような表情になる。
「そりゃあどうかな?
俺の強さが個性ばっかだと思うなよ」
「そのような言い方をするという事は何か特殊な技でも持っているのか……とにかく、私も負ける気はありませんわ」
百と少し睨み合うような形になっている時、タイミング良く自分たちの前の人間が終わった。
そのまま距離を置きながらスタートラインに立つ。百もまた雄英高校ヒーロー科に通おうと思うような人間だ。負けず嫌いという点では、振武にも引けを取らなかった。
スタートラインに立つと、振武はなんでもないように立っている。他のものはクラウチングスタートの為の器具を使っているものが多かったが、振武にそれは必要ない。
百もまた同じだ。ローラーブレイドを装備している状態ではクラウチングをしたとしてもあまり意味がなく、むしろバランスを崩す恐れもあるので、普通に子供が駆けっこで行うような姿勢を取る。
『位置についてっ……』
振武の足に力が入る。
力はそれほど大きなものは必要ない。足先、足首、膝、腰、全ての動きを最小限に利用する。あとは個性を使えば、爆発的な推進力が生まれる。
本来であれば間合いを詰めるのに50mという長さは最初から開きすぎているように思えるだろう。しかし振武の
『用意――スタート!』
「……瞬刹」
――――――――――――――――――タンッ
音は遅れてやってくる。
『――1秒03』
「なっ!?」
百の驚く声が後方から聞こえる。エンジンの音が近づいてきているあたり、動揺しながらもスタートをしたようだ。流石だなと思いながら、少し足をプラプラと揺らしてみる。
違和感は感じない。最初は一歩目と着地で違和感を覚えたり足に強い衝撃を受けていたのだが、最近ではそれもほぼ無くなった。
瞬刹……元々振武は「剃モドキ」と呼んでいたそれは、縮地法としては完璧なものになっていた。
『――4秒34』
少し遅れて、百がゴールする。
「ハァ……振武さん、今のは一体なんですの!? 一瞬姿を消したかと思えば、もうゴールにたどり着いていらっしゃいました!!」
ゴールした百はまるで結果に関心を持たず、むしろ振武に驚きと羨望の眼で近づいてくる。
「う〜ん……修行の成果?」
「修行であんな風になれるとは思いませんわ!!」
いやなれるんだよ。と思ったが、苦笑しながら振武は答える事はなかった。
「全く、対抗心が吹き飛んでしまいました。勿論、他の種目でも全力で挑み、貴方に負けるつもりはありませんが……ほら、皆さんも驚いてらっしゃいますわ」
百に指差された方向を見ると、クラスメイトの皆は確かに動揺していた。
「え、え、えぇええぇ!? なにあれ、瞬間移動!?」
「うわぁ、才能マンだよ才能マン、嫌だねぇ」
「俺と試験受けてた時の技か……前より早くなってんのは、流石にすげぇな」
皆反応は様々だ。ただ自分の技を一度見た事がある鋭児郎は、さらに向上している完成度に驚いているようだったが。
「……こうやって注目されるってのも、悪い気はしないもんだな」
ヒーローになれるならば、人気というものはあまり必要ないと振武は思っている方だが、自分の努力した結果を賞賛されれば、どんな人間であっても嬉しいものだ。
振武のはにかんだ笑顔を見て、百もどこか嬉しそうだ。
「フフッ、褒められ慣れていらっしゃらないの?」
「そういう訳じゃないんだけど……俺の師匠は凄い人だから」
何せ動島振一郎は、個性無しでもこれくらいの縮地法はあっさり行ってしまうし、二束三文の刀で鉄塊を斬る。その人からよく頑張ったと褒められて嬉しくない訳ではないが、いつも師匠を超えるのはまだまだ難しいだろうと思えてしまう。
「大丈夫ですわ、振武さん。あんな凄い事が出来るんですもの、振武さんは凄い方です。
さ、次の種目に移りましょう。確か握力でしたわね」
そう言いながら振武の袖を握って引っ張る百に、振武は不思議に思う。先ほどまでは自分に勝とうと自信満々だった少女が、今度は自分の凄さを褒めている。
悔しくない訳ではないだろうにと思うが、その反面、「まぁ自分の事で素直に喜んでくれるならば良いか」と納得した。
……鈍感な振武は気付かない。
「やっぱり振武さんは凄い人だった」という感情があまりに大き過ぎて、百は自分が負けてしまった事も吹っ飛んで舞い上がっていた。自分の初恋(と思われる)の男性が、自分の想像以上に凄い存在だったのだ。彼女の眼には王子様以上の存在だろう。
そんな方に負けないようにしなくては、と心の中で張り切っている百と困惑する振武を、
「……轟くん、びっくりでしょう? あれで付き合ってないんですよ、あの方々」
「……いや、興味ねぇよ」
端から見ていた呆れ顔の魔女子の言葉に、焦凍は面倒くさそうに溜息を吐いた。
運動場から体育館に移動し、皆他人から見れば愉快なものに見える力み顏で必死に握力計に力を加える。
普通の中学生であれば、40kg。鍛えている人間でも50台といった所かもしれない。細かい数値などは覚えていないが大体はそうなはずだ。
しかし、これは個性把握テスト。しかも受ける者は雄英に入学してきた普通とは違う者たちだ。
当然、とんでもない結果が出る者も多い。
「すげぇ!! 540kgて!! あんたゴリラ!? いやタコか!!」
「タコって、エロいよね……」
「……•…………」
腕を数本複製出来るような個性なのだろう長身の少年は、複製したその腕全てで握力計を握っている。
そのような者もいたかと思えば、
「フゥ、まぁこんなものですわね」
万力か何かのような機械で限界まで握力計を挟む者も、
「ふふふっ、甘いですね醤油顔の方! 私はその方なんて目じゃありませんっ!
何せ私のなんて……ゴリラそのままです!!」
何故か胸を張って自分の生み出したゴリラの使い魔に握力計を握らせている者と、本当に様々だった。
……様々というか、混沌と言った方が似合っているように思える。
「醤油顔って言うなよって本当にゴリラだー!!?
すげぇなあんた!!」
醤油顔の少年はまるでリアクション芸人のような見事なノリツッコミ(と言って良いのかは振武には分からないが)で、魔女子が生み出したゴリラを触っている。
象といいゴリラといい、彼女はいったい何を目指しているのだろう。と思える。
「さて、俺も気合いを入れるか」
改めて気合いを入れ直しながら、握力計を握りこむ。
……正直、これは個性無しの方が良いのではという考えもない訳ではない。何せ握り込みながら超振動を行った事など一度もないからだ。そんな事をする必要性今までなかったのだ。
「ん〜、でも個性を使えば、もしかしたら握力を底上げ出来るかもしれないしな」
振武の中学校時代の結果は59kg。
体力テストをした時はまだ震撃を学ぶ前で、力のコントロールなどという事をまるで考えずに行っていたので、ある意味あれが純粋な握力だったと言えるだろう。
力のコントロールと超振動。2つを合わせて振武は多くの技を生み出してきた。成功失敗は様々だったが、これもまたそういうテストだと思えば良いだろう、と思った。
「んじゃ――どりゃっ」
超振動と体全体の力を使い、一気に、
バキンッ!
握り壊してしまった。
一瞬何が起こったか理解出来ないという顔をして振武と、周囲にいた人間が静止する。相澤でさえ少し驚いているのか、個性を発動している訳でもないはずなのに瞬きをしていない。
「……先生、壊しちゃいました」
「……あぁ、いや、気にするな。個性を使用するのだからこの状況は想定していた。お前のは一応「測定不可能」と判断しておく。
――まぁ、あの覚さんの子供だから、やりかねないと思ったがな」
後半は反省している振武には届いていなかったが、そもそも覚の無茶苦茶で破天荒な行動をよく知っている相澤からすれば「寧ろ大人しい」部類に含まれるくらいだった。個性の関係ないところで人外性能だったのだから、それも仕方がないことだが。
ちなみに一応予備のを借りて試してみれば、個性を使わなかった振武の握力は92kg。
そもそも使わなくても、充分普通という規格からは外れているものだった。
さて、如何だったでしょうか。
多少のネタだったり、ちょっとのお色気(?)シーンなど、盛りだくさんでしたね。ただやはりキャラが増えるとスカスカになってしまうものなんですかね。正直地の文がちゃんと書けているかも心配なんですが。
というか、魔女子さんは使い魔のレパートリーがいくつあるんだろうか…‥。
一応ここで説明しておくのですが。
百さん、ああ見えて自分が恋愛をしているという自覚がまるでないです。
まだ彼女の中では羨望6割恋心4割くらいです。どちらかと言えば、年上のお兄さんに憧れている感じですかね。
振武くんも、恋愛感情と言えるかは難しいです。親戚の子供への感覚に近いです。
2人の関係性の発展も楽しんでいただければ嬉しいです。
‥…本当なら、ここで書かずに本編で描写したいところですが、まだまだ修行不足です。
精進致しますので、どうかこれからもよろしくお願いいたします。
感想・評価など、お待ち申し上げております。