plus ultraを胸に抱き   作:鎌太郎EX

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勢いで書いてしまった。

今回セリフ量が多いのでスカスカに感じるかもしれません。
でも余計な地の文を挟み込むと少しウザったらしくなりそうだったので、今回はこのように書きました。


それでは、本編をどうぞ!


雄英序章編
episode1 ボーイ・ミーツ・ガール


 

 

 

「振武、忘れ物はないね?」

 

「ないよ、と言うより教科書今日配られるんだし、それほど持ってくもんないんだよ」

 

「そりゃあそうかもしれないけど……一応ほら、僕と一緒に確認したほうが良くない?」

 

「小学生じゃないんだから」

 

 少しの新しさを含む、だがそれでもいつも通りの朝。

 どこか不安そうにしている壊の言葉に苦笑を浮かべながらも、早く学校に行きたいという振武の心の逸りがそうさせるのか、少し浮き足立つように手早い動きで靴を履く。

 

「じゃあ、父さん、今日は多分遅くならないと思うから」

 

「うん、そっか――振武っ」

 

 玄関を開け出かけようとする振武を呼び止める。

 

 

 

「……その制服、似合ってるよ」

 

 

 

 壊の言葉に一瞬キョトンとしたが、後から湧いてきた嬉しさに破顔する。

 

 

 

「――うん、ありがとう。行ってきます!」

 

 

 

 こうして、雄英初日は、なんでもない朝のように始まった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 話は、少し前に遡る。

 振武は自室で机に座って本を読んでいた。

 この時期の受験生は、大方受験を終え、合否を待っている期間だ。

 この期間、受験生は本当に手持ち無沙汰で、手持ち無沙汰な故に「もしかしたら落ちているかもしれない」「もしかしたらあそこで失敗してしまったかもしれない」と余計な事を考えてしまう時間であり、雄英の入試という一大イベントを終えている振武自身にとっては、尚更堪える期間だ。

 特に今日は、雄英の合否を通知する手紙が届く日だ。

 だからこそ振一郎が面白いと勧めてくれた歴史小説などを読み、その事から意識を逸らそうと努力してみるのだが、

 

「……ハァ、どうなるんだろうなぁ、結果」

 

 どんなに読んでも上滑りしていくだけで内容が入ってこない文庫本を机の上に投げ出すと、振武は立ち上がってベットに仰向けに寝転がる。

 ――雄英実技試験のあの時。

 振武はリスクを承知してポイントを稼ぐのではなく、巨大な仮想敵に立ち向かう事を選んだ。その事に後悔も何もない。倒せた事に喜びを感じているし、切島という新しい友人も出来た。初対面で連絡先まで交換して、時々無駄話に興じたりしている。

 だが、不安が全くないと言えば嘘になる。

 振武は0ポイント仮想敵を倒すまでに稼いだポイント数は38ポイント。あの短時間で取った方だとは思っているが、それでもやはり心許ない。最低限どれほど取れていれば合格となるのか、自分がどれくらいの順位に立っているのか解らないのだ。

 0ポイント仮想敵を倒したものの、あくまでそれは倒した〝だけ〟だ。

 緑谷出久のように、誰かを助ける為に挑んだ訳ではない。

 そこは恐らく、大きなマイナスポイント。むしろなんの理由もなく勝てるか解らない相手に挑んだと解釈されてもおかしくはない。

 だが、

 

「……反省もしてないんだよなぁ、これが」

 

 後悔も反省も、全くしていない。

 それが振武にとって本物のヒーローの在るべき姿だからだ。

 あそこで逃げていたら、多分合格しても後悔しているだろう。だったら、合否がどんなものでも、辛くはあるが、胸を張って笑顔で家族に報告できる。

 ……もっとも、結局それで不安になっているのだから、振武もまだまだ小心者な一面があるという事だ。

 

「まぁ一応滑り止めは合格しているし、何とかな――ん?」

 

 自分を励ますような言葉を言おうとして、思わず言い切らずに起き上がる。

 音だ。

 まるでドタドタと慌てて家の中を走っているような――いや走っている音が微かだが聞こえてくる。

 それはだんだんと大きく、近くなっていき、それが鳴り止んだ瞬間、

 

「振武!!!!」

 

 扉が蹴破らんばかりの勢いで開き、壊が駆け込んできた。

 大きいとは言え広大とは言い切れないこの家の中を走った割には汗を額に滲ませ、動揺した表情を浮かべている。

 動島壊は良くも悪くもマイペース。言ってしまえば魔女子と同系統の人物だ。魔女子と違って感情表現が激しいのは確かだが、しかしこれほど焦っている顔というのは今までの経験上そう多くはない。

 そして正直に言ってしまえば、大半が自業自得で振武にとってはどうでも良い問題が多い。

 

「……父さん、ノックしてから入ってくれっていつも言ってるよな?」

 

「そうなんだけど、それどころじゃなくて、」

 

「なに、父さんまた何かやらかして祖父ちゃんに怒られたの? だからあれ程祖父ちゃんの趣味部屋は掃除しなくても良いんじゃないって言ってるじゃん」

 

「いや、違くて、」

 

「じゃあなに、今日もお手伝いさんの仕事取っちゃったの? この前めちゃくちゃ怒られてたもんな。たまに飯作るのは良いけど、ちゃんとお手伝いさんと相談してやれってあれほど、」

 

「違うんだよ!!」

 

 話を聞いているようで聞いていない振武の目の前に、壊は手に持っていた物を突き出す。

 何でもない封筒のように見える。

 その隅に、雄英の校章が描かれていなければ。

 

「――っ、届いたんだ」

 

 思わず息を呑む。

 先ほどまで感じていた不安や緊張が、固形化してと腹の中で暴れ回っているように感じる。

 

「……一緒に見ようか?」

 

 振武の緊張を感じ取ったのか、真剣な表情で訊いてくる壊に、振武は無理矢理に笑みを作る。

 

「大丈夫。父さんは自分の部屋に戻ってよ、まだ仕事あるんだろ?」

 

「そうだけど、」

 

「……大丈夫。これは俺のやってきた事の結果だ。

 どんな結果でも全部俺のもんだから」

 

 時間半ばでポイントとなる仮想敵を無視し、0ポイント仮想敵に挑んだのは自分の選択だ。

 だから、もしこれで受からなかったとしても、壊や振一郎が気に病む必要性はない。ここからは、自分で背負って歩まなければいけない。

 

「……解った。見終わったら居間においで」

 

 そう言って、壊は先ほどまで読んでいた本が置いてある机にその手紙を置き、部屋を後にする。

 表情は「頑張って」とエールでも送るような、心配と親としての誇らしさが混ざった不思議な表情。どこまで言っても動島振武が変わらないように、子供を心配する動島壊も相変わらずだった。

 それに不安が少し消されるように感じて、その背中に微笑む。

 

「さてっ……見るか」

 

 机に移動し、椅子にキチッと座り直した振武は、自分の中にある緊張と不安感を押し殺し、一気に封を切る。

 中に手紙は……入っていない。

 その代わり、1つの掌大の機械が入っていた。

 

「これって……映像投影機、だよな?」

 

 振武は持っていないが、電気量販店でもちょっと高めの値段を気にしなければ購入出来る、空間に映像を投影出来る機械だった。

 想像していたものと違い、割とハイテクだった。

 だが問題は、

 

「……いやスイッチどこだよ」

 

 思わず不満が漏れる。

 振武は、機械に弱い。特別弱いという訳ではないし、携帯端末や普通に使う機械であれば扱うのにそう難しいことはない。そこは前世でも似たような機械がある為問題ないのだ。だがこのように前世の知識もなく触った事もない機械には、妙な苦手意識を感じる。

 もう一度封筒の中を覗いてみるが、説明書の類はない。もしかしたら自分で思っているよりもポピュラーな機械なのかとも思ったが、持っている人間が周りにいないので何とも言えない。

 

「えっと、どこだよ、この出っ張り……は違うよな、もしかしたらボタンじゃないのかもしれない。振ってみるとか……いやそれどんな機械だよ」

 

 あれこれと探るように触ってみる。

 こういう場合大概触ったどこかがスイッチで勝手に動いてくれるものだが、などと少し期待しながらだったが、

 

 

 

『私が投影された!!!』

 

 

 

「うぉっ!?」

 

 その予想という名の期待は大的中する。突如目の前に投影された金髪のマッチョを見て思わず驚いて机の上に機械を落としたが、幸い壊れていないようだったので、小さく安堵の溜息を吐いた。

 

『やぁやぁ動島振武くん!!

 初めまして!! ご存知、オールマイトだ!!』

 

「あぁ、はい、ご存知です」

 

 まるでこちらに話しかけてくるようなリアリティに、思わず返事を返してしまう。振武はオールマイトの大ファンという訳ではないのでこの程度だが、そうでない人間にとってNo.1ヒーローが自分に向かって話しかけてくるというのは、かなり嬉しいことなのだろう。

 逆立った金髪。厳しく彫りの深い顔の所為で目はしっかりとは見えないが、その眼光は見るものが見れば強い光を湛えているのがわかる。原作で「画風が違う」と形容されていたが、実際に映像越しとは言えそれが分かるような顔立ちをしている。

 同じ日本人である、という事も信じられないほどだ。

 

『何故私がここで登場するかって? 私が今年度から雄英に勤める事になったからさ。

 そして初めての仕事が、この今回の合格発表を伝える役なのさ!!』

 

 ……なんかすいません。

 思わず振武はその場で平謝りしたくなる衝動に駆られる。

 振武は今までの行動の通り、1巻だけとは言え原作知識がある。だからここでオールマイトが登場しても驚くも何も、規定路線としか思えなかった。

 だがオールマイトの隠しきれない程の「どう、驚いた? 驚いたよね!?」というような雰囲気にどうしても居た堪れなさがこみ上げてくる。

 なんだこれは。

 なんだこの「友人が企画していたドッキリを実は最初から気付いていて、でも気付かないフリをしなければいけない」ような申し訳なさは。

 

『コホン……さて、申し訳ないが少し時間が押しているようでね、サクサク進めさせて貰おう。

 ……まず、筆記試験は合格だ』

 

 気を取り直して告げられるその言葉には、振武は「そうだろうな」としか感じなかった。

 傲慢だと思うかもしれないが、筆記に関しては特に心配する事ではない。自己採点をしてみたが、満点とは行かないまでも高得点を出しているのだ。間違いはないだろう。

 

 

 

『そして実技試験に関してだが……敵ポイントが38ポイント。これだけを見れば、君以上に取っている人間は沢山いる。当然、不合格だ』

 

 

 

 ……その言葉に、無意識に拳を握り締める。

 そうだろうな、という冷静は判断を下せる自分がいた。

 他人からすれば自己中心的な行動に見えたのかもしれない。それとも切島を巻き込んだ事にマイナス評価がついたのかもしれない。

 どちらにしても、自分が自分の中のヒーローとしての在り方を貫いた結果だ。

 

 

 

 だがそれでも、死ぬほど悔しい。

 もっと自分が強く、頭が良ければ。こんな事には、

 

 

 

 

 

『――と、普通ならばなっていただろう。

 だが安心してくれ! この試験にはもう1つの点数がある!! その名も、『救助ポイント』! しかも審査制だ!!』

 

 

 

「………………はい?」

 

 一瞬何を言っているのか振武には分からなかった。

 いやそれは分かってんだよそれが取れてねぇから不合格なんだろうと、思ったのだ。

 思ったんだけど、

 

「……緑谷に対してはさておき、俺にドッキリ仕掛けるとかアホなんかあんた!!」

 

 思わず返事が返ってくるはずもない映像に向かって叫んだ。

 

『ははは、It's a joke。冗談だよ冗談!』

 

「タイミングよく返事返すなよ!」

 

 ……この人、見た目に似合わぬコミカルさだよな、と呟いてしまう。

 

『HAHAHA……まぁ、正直君の行動はあまりお勧め出来るものじゃないのは確かだろう。

 誰かを助ける為でもなく、倒さなければいけない状況ではなかった。もし君がプロヒーローだったならば、私直々にお説教しているところなんだが、』

 

 オールマイトは笑みを消し、まるで画面の向こうにいる俺の目を凝視するようにこちらを見た。

 〝平和の象徴〟。

 そう呼ばれている男の眼はあまりにも強く、あまりにも重たく、映像越しとは思えないほどの迫力で、一歩下がりそうになる程の力を持っていた。

 

『だが、動島振武くん……いや、動島少年。君の行動は、正しくヒーローの側面の1つのだったとも言えよう。

 戦う意味がない、逃げる選択も出来た。だがそれは「逃げても良い」や「逃げても悪い事にならない」という話ではない。ヒーローはその点において損得ではなく、信念というものが問われる。どれだけ愚かに思えようとも、それがヒーローがヒーローである所以の1つだろう。

 君はそこで、逃げずに前に踏み出すという事をした。これはなかなか、出来る事じゃない』

 

 オールマイトの言葉1つ1つが、鉄塊のように重く、熱く胸に染み込んでくる。

 

 

『何より、あの状況で競争相手である他の生徒と協力し合ったという事実は大きかった。切島少年の元来の性格というのもあったのだろうが、彼を動かしたのもまた、君の信念だ。見知らぬライバルと肩を並べるというのは、ヒーローとしてはままある事だからね。

 

 

 

 よって、君の救助ポイントは、39ポイント! おめでとう、もう1人いるものの、君は入試1位の座を獲得した!』

 

 

 

 

 

 

「――イィヨッシヤァアァアアアァ!!」

 

 

 かつてない程の声を張り上げ、椅子から跳び上がった。

 合格、しかも1位。だがそれ以上に、振武の行動(しんねん)を認めてくれる人間がいた、しかもその中にNo.1ヒーローがいるという事実が、振武の中で喜びを何倍にも膨らませてくれる。

 

『……君が入学したタイミングで、私が雄英に入るというのは、これも一種の運命なのだろう。

 勿論、これは以前から決まっていた事で、私には別に目的があった。だが君とは、それ以前から縁がある。

 

 

 

 ……動島覚くんは、私にとっても大事な人間の1人だった』

 

 

 

 ――心臓が、ドクンッと、鼓動を早めたように感じた。

 さっと波が引くように激しい歓喜は消え去って、驚きと動揺が波紋のように広がっていく。オールマイト(No.1ヒーロー)の口から動島覚(はは)の名前が飛び出してくるとは考えてもいなかった。

 しかもそれは、ヒーローとしての名(センシティ)ではなく母本人(動島覚)と言ったのだ。

 

『彼女とは何度か仕事をさせてもらった。特別親しいと言うわけではなかったが、それでも私にとっては同じ目的の為に戦ってくれる同志のように思っていた。

 それ以外にも様々な縁が、私と君にはある。

 勿論、それだけで贔屓するつもりはない。私はこれでも多くの人間と関わってきた。そういう意味では、君もまたその中の1人という事になる。

 だが、これだけは言わせて貰おう』

 

 すっと手が出される。

 握手を求めるように、

 掴んだら引き寄せてくれるように、

 強い信念を孕んだ目と、優しげな表情で、

 

 

 

『彼女は、その名に恥じぬトップヒーローだった。

 君がいつか母を超えていく為の、一助を私も担おう。

 おめでとう、動島少年』

 

 

 

 涙が溢れて、映像が判然としない。

 ……人は忘れる生き物だ。どんな人間もそうだ。

 家族や恋人などの身近な人間でなければ、人の死ですら忘れ去られる。母の死も、数多くなくなっていくヒーロー達の中の1人で、悲しんでくれる人も、辛く感じてくれる人も、時の流れと共にどこか消え去ってしまう。

 今では、センシティの名前を聞けるのは、センシティに余程近かった人か家族だけになっていた。

 だが、ここにも1人いた。

 平和の象徴、ナチュラルボーンヒーロー、恐れ知らずの笑顔で人を助ける、現代最高峰のヒーローが、振武にとっての一番のヒーローを、認めてくれたのだ。

 

 

 それは雄英の合否よりも、入試で1位を取った事よりも、ずっと嬉しい事だった。

 

 

 

 

 

 ……結局、その日は一日中泣いていた。

 壊にその映像を見せると、久しぶりに壊も泣いた顔を見た。

 母を誰よりも愛していた父が、どういった意味で涙を流したのか、真意は振武にも分からない。

 だけど大の大人が泣く姿は少し間抜けで……それでも、振武にはとても綺麗に見えた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「よっと……もうちょっと着慣れておくべきだったかな」

 

 慣れていない制服の違和感に身体を捩らせながらも、振武は楽しそうに入試の時と同じように、雄英高校の最寄り駅前で待っていた。

 雄英高校、その最初の登校。空はそれを祝福するように真っ青な空を現し、太陽はさんさんと暖かな陽気を注いでくれる。

 足取りだけでなく、心も軽やかだ。

 胸に抱いた物は最初に抱いた時よりもずっとハッキリした形になっている。様々な物を積み重ね、時に崩し、時にその重さを変えた。

 ……重みを失った、という訳ではない。

 自分がその重さを背負えるまで成長できた証なのではないか、と振武は思っている。

 重みを気にせず、笑顔で前を歩いていく。

 これもまた、振武の思い描いているヒーローの姿だった。

 

「……にしても、遅いなぁ」

 

 チラリと腕時計を見る。

 時間は焦るほどではない。むしろ早い方だと言っても良いだろう。

 今日は一応魔女子と待ち合わせをしているのだ。高校入試の時にも一緒に行ったが、「今日は轟くんも連れて行きますので、一緒に登校しましょう……居づらいとはヘタレな事おっしゃらないでくださいね」と言われては、振武も断りようがない。

 ……轟焦凍。

 彼とも決着を付けなければいけない。勿論まだ、自分にはどうすれば良いか分からない。

 最初の形から歪んでいるとしても、それは轟が培ってきた本物だ。否定している振武がこんな事を考えるのは矛盾しているが、それはある意味で正しいのだろう。

 だが、それを目覚めさせたいと我儘を良い、約束した。

 何度でも心の中で繰り返せる。

 約束は守らなければいけない。

 

「……でも、目ぇ覚ますってのは、なかなかなぁ」

 

 頭を掻き乱しながら思い悩む。

 2つ目の約束をしてから数え切れないほど考えているが、良いアイディアは中々浮かばない。

 口で言うだけならばいくらでも言えるだろう。お前のそれはあまりにも歪だと、言葉だけならば気楽に言える。だが、重みのない言葉では轟の行動を変える事は出来ないだろう。そもそも、振武自身が振武自身が歪んでいても本物だと思っている以上、さらに重さはなくなる。

 正面からの一騎打ち。

 ……だがこれも、あまり良い案ではないと思っている。

 悪い訳ではない。だがそれだけであれば、子供の喧嘩と大して変わらない。

 

「う〜ん、もっとこう、信念のぶつかり合いみたいな、そういうのをしなきゃいけないと思うんだけど……」

 

 そんなもの、狙って出来るわけがない。というか、狙っている時点で論外だ。

 ……これで同じクラスじゃなかったら、それこそ機会は減るかもしれない。そんな事を思ってしまうが、考え過ぎてもしょうがないと、払い除けるように頭を振る。

 どちらにしても、今は様子を見るしかない。

 そんな一応の結論を脳内でつけていると、

 

「あの、すいません、少しよろしいですか?」

 

 凛、とした声が耳を打つ。

 

「え、あ、はい」

 

 その丁寧な言葉遣いに反応して思わず敬語を使いながら顔を上げると、そこには自分と同じ制服を着た少女が立っていた。

 自分より少し低い身長。女性らしい体格。

 ボリュームのある黒髪をポニーテールのように、少し高めの位置に結わえている。

 普段であればキリッと引き締められているであろう眼は、今は少し不安そうな色を湛えている。

 

「あの、間違っていたら大変申し訳ないんですが……動島、振武さん、ですよね?」

 

 その言葉に、記憶が呼び覚まされる。

 この子を自分は知っている。

 その姿は大きく変わっても、眼は気の強さを持ちながら純粋な色を持っている。

 あの頃と、1つも変わっていない。

 その眼を見つめれば、一瞬であの時に戻ったような感覚になる程真っ直ぐな。

 

 

 

「……〝もも〟ちゃん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして再び、

 少年は、少女と出会った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




如何だったでしょうか。
オールマイト難しい! 言ってはなんですが快活なので、もう少し書きやすいかなと油断していました。
今回から新章突入です。
書くたびに反省点が露見していくように感じます。いえ言い訳とかじゃなく、頑張ります。


次回! 振武くんが喧嘩を売られるぞ! 怯えながらお待ちを!


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