これもまた難産だった……そして伸びた。
字数的にはそんな事ないように思われるかもしれませんが、ここで一話使い切ってしまうとは。
では本編をどうぞ!
焦凍との会話を終わらせて、家路に着くまで随分時間がかかった。
そもそも歩いて行けば家まで相当かかるのだ。この疲れている状態で早く歩けというのが無理な話なのだ。
……振武の2つ目の約束。
その言葉に焦凍は、
『――俺は認めねぇ。てめぇなんざ知った事か
どんな風に思われようが、俺は俺のやり方を貫く。それだけだ』
そう吐き捨てて、振り返りもせずその場を離れていった。あれだけ大仰に宣言した振武としてはアッサリしているように感じたが、それはしょうがないよな、と思っている。
……振武からすればどうでも良くない、重要な事だった。だがそれは、振武の中だけの話だ。
勝手に、
ワガママに、
自分の都合で。
轟焦凍に、動島振武が、一方的に約束したのだ
焦凍がそれを大仰に受け取る事ないだろうな、と理解はしていた。
それでも、多少の寂しさはあったが。
そんな中でも、振武は家に帰らなければいけなかった。足取りはとても重い。警察の人やヒーロー達が、恐らく家に連絡を取っているだろう。少なくともワープワーヴが絶対に父親に連絡しているだろう。
「――こ、怖い」
家の玄関の前で、自然と膝が笑う。
恐怖を感じる理由は2つ。
1つ目は動島振一郎である。普段は優しい祖父で、修行の時でも声を荒げた事は殆どない。だが1度だけ、怒られた事がある。
振武が10歳の時だ。『自分の前以外で個性の練習も、自主鍛錬も絶対禁止』。それが振武が修行を受ける条件だった。だがそんな事を言われて焦っている振武が我慢出来るはずもなかった。
前世のオタク知識を総動員して様々な技を再現しようとした。前世を振り切ったとはいえ、再現してみたいと思うのは、もはや男の子の本能的なナニカだろう。動島家所有の裏山でこっそり研究し、自己研鑽していた。
いくつかの技は再現出来た。かなり偏った趣味をしていたので再現している技も王道からマニアックなものまで様々だし、完全再現ではなくあくまで『結果』だけを再現した紛い物ではあるものの、だ。
……結局、それは途中で失敗した。
ある技、自分の中でもかなり好きな部類の技。これを使えれば、全体の能力も上がって強くなれるかもしれない。そんな軽い気持ちで試してみた。
――結果は吐血と心臓の大幅なダメージ。倒れた直後に振一郎が発見してくれたおかげで事無きを得たが、その時の振一郎は、振武に一生分の恐怖を与えたように、振武自身は思っている。
怒鳴りはしない。
脅しもしない。
ただ懇々と理論的に、現実的に説き伏せられるのだ。
しかも鍛錬を行っている時以上の威圧感を乗せて、だ。
その時、二つの事を知った。
ギアセカンドは流石に無理があったなという事と、振一郎は絶対に怒らせてはいけないという事だった。
2つ目は……恐怖というよりも嫌気に近いかもしれない。動島壊だ。
彼もまた振一郎と同じく怒鳴ったりはしない。別の感情で訴えかけてくる。
泣く。とにかく泣くのだ。
10歳の事故の時は、それはもう大泣きだった。説教というよりも、『止められなくてごめん』と自分を責め始めるのだ。罪悪感で三日は食事が喉を通らない程だった。
怒られるという経験は前世から良くあったが、泣き落としというのは今まで経験した事がなかった所為で、全く耐性がなかった。
普段から過保護というか、優し過ぎる所のあった振武の父ではあったが、あそこまでとは振武も予想していなかった。
「今日もあれのダブルパンチかぁ……あ、詰んでるなぁ。
明日もし学校があったとしても、行けないかもなぁ」
身体的過労と精神的過労で。
流石にあのような事件があった後で学校があるならば、かなり先生もタフネスだと思うが。
(塚井あたりは、『あるかもしれません』とか考えてるんだろうなぁ。
あんだけ頭まわんのにどっかで間が抜けてるっていうか……俺もあんま人の事、言えないんだけど!)
パンッパンッ!
出来るだけ思考を逸らしながら――人はそれを現実逃避と呼ぶが――、頬を2度自分でビンタする。ジンジンと頬が痛むが、気合いを入れ直すという意味では充分だった。
「――た、ただいま戻りました〜」
物音がたたないように静かに玄関を開ける。
電気は多くはついていない。大きな屋敷全体を明るくしていると、電気代もバカにならない上に意味もないので、出来るだけ消している。そういう意味では普段通りなのだが、いつも以上に家が暗く感じてしまうのは、振武の恐怖の表れだろう。
そろそろと、出来るだけ足音が出ないように靴を脱ぎ、廊下を歩く。
振一郎と壊がいるのは、恐らく居間だろう。
「た、ただいま〜」
もう一度帰宅の挨拶をしながらゆっくりと襖を開ける。
そこには――
「ん゛ー!!」
「おかえり、振武」
縄で雁字搦めにされている壊。その隣には、何でも無いようにお茶を飲んでいる振一郎という、シュールな光景が広がっていた。
これが振武で無ければ襖を即座に閉じて110番するところだ
「と、父さん!? なんで縛られてんだよ!」
「んんん゛ー、ん゛ん゛ん゛〜!!」
「ごめん父さん流石にそれで喋られても何言ってるか分からないよ」
滂沱の涙を流しながら何かを言っているようだが、ガムテープで口を塞がれている状態では全てが唸り声にしか聞こえない。
驚く振武と唸る壊を横目で見ながら、振一郎は持っていた湯呑みを置く。
「私がやったんだよ。このままでは、振武とまともに会話する前に壊くんが暴走しかねない……というか、するからね。ゆっくり話を聞く為にも、このようにせざる負えなかった」
そう言うと、立ち上がってこちらを見る。
――鋭い眼光。鍛錬をしている時以上に込められた気迫は、まるで蒼い炎のように静かにその目に宿っていた。
振一郎が本気で怒っている時の目。
「――道場に行こうか、振武。
まずはお前から話を聞こうじゃないか」
「……ハイ」
その目に、振武は逆らえない。少し出遅れた言葉とは裏腹に、身体はその眼光に反応してか即座に立ち上がって道場に向かう。
「んんん゛〜!!??」
その時に壊が全く眼中に入っていなかったのは、しょうがない事だろう。
「……総括すれば、お前は無茶をした。そういう事なんだね?」
「ハイ、ソノトオリデス」
明かりに照らされている道場で全ての説明を終えるまでには、そう時間はかからなかった。
当事者としてはもっと濃密な出来事だったように感じたが、いざ他人に説明しようとすればそう多くの時間はかからない。
犯罪に巻き込まれた。振武が無茶をして、焦凍と魔女子がそれにのってしまった。誤算が多かったものの被害なく事件は解決した。
要点をまとめれば、そういう話だったし、振一郎がまとめた一言が今回の本質だった。
「お前は……そういう無茶なところまで覚にそっくりだとは思わなかった。
感情に流される部分はあれど、もう少し冷静だと思っていたがな……私の見通しは少し甘かったようだ」
振一郎は小さく溜息を吐く。どんな事を考えているのか、その表情は極めて複雑そうだ。
(そっか、母さんも似たような事してたんだな)
対する振武は、その言葉を聞いて嬉しさを感じていた。褒められるべきでない事をしたのは自覚しているし、反省点は多い。しかし目標としている人間と同じというのは悪い気分はしなかった。
「振武。今回の件、お前は多くの失敗をしている。そもそもの始まりが間違っているのは分かっているだろう。
確かに目の前の危機に対して体が反応してしまう、思考が縛られてしまうのは仕方のない事だろう。だが、それでもお前はまだ15歳の子供なんだ。確かにお前は強くなったが、家族として、これを許容する事は出来ない」
「それは、解っています」
何度もヒーロー達や警察の人々に言われた言葉。
『たまたま』『運が良かった』『幸運だった』という言葉は、実際間違いでも何でもなかった。
もしあれ以上に敵の数が多ければ。
もし振武達が対応出来ない強さを持っている者がいたら。
もし人質を傷つける事を犯人達が優先していたら。
こうはならなかった。全ての状況が良い方向に向いていた〝結果〟この結末を迎えられただけだ。
それらが1つでもあったら、人質も、一緒に戦っていた焦凍も魔女子も犠牲にしていたかもしれない。
事件が何とか終わりを迎えた後になって、その考えが心に食らいつくように傷を負わせていた。
浅はかで、考えが足りない。力だってまだまだだし、足りない事尽くしの事件だった。
(成長していない、って言われれば、そうなのかもしれない)
もし何もかもが上手くいっていなければ、10年前のあの時と同じ状況になっていただろう。
「……なぁ、振武。お前が焦っている気持ちは分かっているんだ」
「………………」
「実際、お前の目標がまだ遠い。それは理解出来ている。これでもヒーローの父親だったんだからな。
だが、お前がここで無茶をする意味があったのか? 無理をする道理があったか?」
「…………確かに、ありません」
「そうだろう? 焦る必要性はないじゃないか。お前は充分頑張っているさ。私が保証する。だから、今後このような無茶をしないでくれ。
もしお前が……覚と同じような目に遭ったら、私も壊くんも後悔してしまう」
「っ、それは、でも、」
何かを言い返そうとして、振武の口からは戸惑いの言葉しか出なかった。
実は、そこはまるで考えていなかった。
人質の事も、焦凍や魔女子の事も、穴はあったが考えた。どうやったら助けられる、どうすれば犠牲にせずに済むと、ずっと考えながら戦っていた。
自分が勝つようにするには。敵を倒す為にはどうすれば良いか。拙いながらも、それだって考え続けていたはずだ。
だが、そこには〝自分〟がいなかった。
自分がそういう目に遭ったらなんて、頭からすっぽりと抜け落ちていた。
「……勇気がある、そういう意味での勘定をしない。ヒーローとはそういうものだ。ヒーローが完全な自己保身に走ってしまえば、ヒーローである必要性はない。
だが同時に、最低限自分の命を守らなければいけない。お前が死ねば、救うはずだった多くの命が失われるだけじゃない。私達家族は? 手伝ってくれた友人方は? 人質の皆は? どう思うか考えろ」
……10年前から、本当に成長出来ていない。
もし動島振武が死んでいたら。
また壊と振一郎に苦しみを与えてしまうところだった。
もし動島振武が死んでいたら。
焦凍や魔女子に昔の自分と同じ後悔を背負わせてしまう。
もし動島振武が死んでいたら。
人質は助かったかもしれないが、悲しみが残るかもしれない。
そこまで考えが至っていなかった。
「振武。他人を救う前に、自分を守れ。
自分すら守れないヒーローはヒーローではない。ただの愚者だ」
振一郎の言葉で、もう力なんて残っていないと思っていた拳に力が入る。
反省はしていた。無茶をした自覚はあった。蛮勇と言われても仕方ないと思った。
だが今この瞬間、初めて後悔が現れた。
「自覚出来たか?」
「……はい」
「己の浅はかさを認識出来たか?」
「…はい」
「……これから、お前はどうしていく?」
振一郎の言葉に、自然と俯かせていた顔を上げる。
自分でも気づいていなかったが、ここに来て初めて涙が溢れた。
だが拭う事はしない。泣くのはここで最後にしようと、後悔するのはここで終わりだと心の中で決意を抱き、
「誰も悲しませない。
助ける誰かも、仲間も、祖父ちゃんや父さんも、誰も悲しませない、〝強さ〟を手に入れる」
武力による強さだけではない。
考えることを放棄しない。考えて考えて考えて。
自分も他人も、大切な人達も。誰も悲しまずに笑っていられる場所を作る。
ヒーローを名乗るなら、この種類の無茶をするべきだ。
「……厳しい道に余計な重荷を足すことになると、分かっているな。
それがどんなに困難でワガママか理解できているか?」
「うん……大丈夫。解ってるよ」
思い起こすのは、大事な約束。
母に託された願いの中に「無茶して死ね」なんて言葉はなかった。
焦凍を救うと勝手に決めたのだ。した約束は果たさなければいけない。
それをする為には、それほどの事をしなければいけない。
「……男子三日会わざればとは言うがな。今回の事、結果だけを見てしまえばお前に学ぶべき点は多かったはずだ。それを教訓に修行をしていくしかない。
雄英に通うまでまだ時間は多い。その考えを深めていくしかない」
そう言って、振一郎は立ち上がった。
「今日はもう休みなさい。
無謀だった事は事実だが、お前は良くやった。その事を否定する気は毛頭ない」
「……うん」
振武も立ち上がり、歩き始めた振一郎の後をついていく。
母を超える。
焦凍を救う。
自身を守る。
今日一日で、振武の中にある信念と目標は、数と困難さを増した。壁として見てみればどれも遥か高みを持つ壁で、超えるのは無理だ、と昔の自分なら立ち向かう事さえ諦めてしまうだろう。
だが『動島振武』はそうではない。
諦めるような存在になりたくない。
(これも、plus ultra、だよな)
さらに向こうへ。
壁の先に何が待ち受けていようが、壁を超える時に何が起こり、何を得られようが。
(必ず、超えてみせる)
「……まぁ、休む前に、壊くんの話も聞いてあげなさい。
自分でやっておいてなんだが、きっと今頃居間が水没しているだろう」
「……聞かないと、ダメ?」
「お前がやった事の代償だ。
これもまた、お前の信念には必要だ。2度とあのように悲しませないようにするんだな」
◆
壊の説教という名の罪悪感責めも終わり、振武が眠った深夜。
振一郎は再び、道場にやってきていた。
何をするわけでもない、ただ道場で座禅を組み、考えを巡らせる。
……男子三日会わざれば刮目して見よ。振武との会話でも使った言葉だが、喩えでもなんでも無い、嘘偽りの無い答えだった。
先んじてワープワーヴ……転々寺から聞いた話と見解、振武本人から聞いた話。それらを合わせて考えてみた結果、振武の中で、何かが大きく変わったように、振一郎は感じたのだ。
実戦を経験したというのは、何も悪い事ばかりではない。いつかは経験しなければならない事であり、経験したからこそ未熟な部分とそうでない部分を自分の中で整理する事が出来ただろう。
年齢の割に頭が良く俯瞰して物事を見れる振武だが、見通しの甘さや感情のコントロールが出来ていなかった点。そして自己を顧みない浅はかさ。今回の件で得られた改善点はそこだろう。
これをヒーロー科に入る前に自覚出来た事は大きな収穫だと、振一郎は考えている。大きな失敗を犯した時必要なのは嘆きでもなんでもない、反省と同じ失敗を繰り返さない学びのみだ。そういう機会を得られたという意味では、収穫という言葉も間違いではないだろう。
普通ではなかなか経験出来ない事であり、振武のこれからに大きな影響を与えるはずだ。
そして、
「……歪みが少し取れた、か」
その事の安堵感からか、振一郎はポツリと呟いた。
死人を目指す。
一見輝かしく見える事だろう、死んだ母の意志を受け継ぐというものは。
しかし実際それは空虚なものだ。それを抱えて乗り越えられる人間は多いが、しかし昼間壊と話していた事と同じように、実体のない目標は自分を追い込み過ぎていく結果に繋がっていく事も多い。
どうあっても、動島振武は動島覚と同じようにはなりえない。
動島振武は、動島覚ではないのだから。
その所為だろう振武の最近の焦りと苦悩は、振一郎を悩ませていた。こればかりは自身で答えを導き出さなければどうしようもない事だから。
だが……何か実体の持った目標を掲げたのだろうか。今朝見た時とは違う活力が芽生えていた。
これでも、動島振一郎は多くのヒーローや警察官を見てきた。人を多く見ている者であれば身に付けられている人を見る目を養うという点に関しては一定の技術があると言っても良いだろう。
今日1番の成長という点において、そこが1番重要だと振一郎はそう見ている。
「はてさて何があったのやら……私に宣言した事もあるのだろうが、振武の中ではもっと明確なものが浮かんでいるように見えるがな」
どんなものであれ、それに向かって走り、為した時。
もしかしたら、今まで見ていた動島振武ではなくなっているのかもしれない。
それが良い事であれ、悪い事であれ、だ。
どのような結果が出るかは振一郎でも分からない。未来予知の個性を持っているわけでもない、サイコロの行く末を予想出来る賭博師でもない。
だが明確に何かが〝変わる〟。
どう変わるのか、変わってどうなるのか。
それを見たい。振一郎に若き日の興奮と期待感が湧き上がっていた。
「……ここにいらっしゃったんですか、お義父さん」
背後から声がかかる。
振り向かなくても分かった。
動島壊。
自分の娘を娶った男。自分の孫の父親。
そして未だに足踏みを続ける男。
「ああ、少し考え事をね」
「……振武の事ですか?」
「それ以外に今考えるべき事はないからね。
君も気づいただろう? 振武は変わっていっているぞ」
「……そのようですね」
後ろに座る気配とともに呟かれた言葉には、諦めと不安感が滲み出ていた。
父親としては、悩みどころだろうな、と振一郎も理解している。
あれほどアッサリと危険に首を突っ込んで行かれては困るだろう。愛する人の忘れ形見なのだから、余計に心配なはずだ。
だが、そこをあえて振一郎は無視する。
「……これも良い機会だ。方針を少し変えようと思う」
その言葉に、背後から感じる気配が変わる。
驚きと焦燥、そして仄かな怒りだ。
普段優しい笑顔とちゃらんぽらんな態度で隠しているつもりなのだろうが、振一郎からすれば甘いと一言で済ませられる。
気配というのは正直だ。特に目で相手の姿を見ていない時は、余計な情報が付随していない分、波1つ立たない水面のようにはっきりと姿を映し出してくれる。
「まさか、震撃を教える気じゃないでしょうね。
今日の事で分かったでしょう? あの子はまだ子供です。雑念が多すぎる。習得出来ないどころか、ここで挫折してしまう可能性だってあります。
彼には奥義を教えてもらえる資格はまだありません」
「逆だよ、壊くん。
今回の件で振武も自分の考えの足らなさを自覚しただろう。しばらく1人で考える必要性があるだろう。そういう意味でも震撃習得の為の修行は打って付けだと、私は思うがね」
「そんなっ、まだあの子には、」
「何も今回限りという訳ではない。特例ではあるが、時間制限を設けよう。
絶対に習得させる必要性はない。もし出来なければまた折を見て機会を与えれば良い」
「ですが――」
「それとも君がやるかね?」
「――――っ」
振一郎の静かな、だが一喝するような言葉は壊の口を噤ませるのには充分だった。
「そもそも、私が教える必要性はないんだよ? 君が全てを見てあげればいい。だが君は振武の意思を尊重し私に託した。
私は振武の祖父であると同時に、あの子の師だ。師の決定を外野が決める道理はない」
自分でも酷な事を言っている、と振一郎も分かっている。
いまの動島壊には、それを選べる覚悟も、心の強さもないのだ。ここで何も言い返せなくなるのは振一郎にも分かっている。
だが決定を変える気はない。
いい機会だ、というのは方便ではない。事実、格闘技術だけ見るならば振武に教えてもいいと思っていた。問題は心とその幼さだけ。
だが心は固まりつつある。上手くいけば今回の修行で固まる可能性だってある
「……博打のように、僕は思います」
「それに近い事は否定しないがな……しかしあの子なら乗り越えられると、私は思っている」
「それは師としてですか? それとも祖父としてですか?」
「……両方、だな」
師としては弟子である動島振武を見込んでいる。
祖父としては孫である動島振武に期待している。
思っている部分は違えど、内実それほど大きな違いはなかった。
「……あくまで、試すというのであれば、分かりました」
必死で感情を抑えているのか、歯を食い縛るように言われた言葉に、振一郎は何も反応しない。
動島壊。
彼もこれを機に何か変化してくれれば良いがという小さな期待を込めて。
「学校への連絡は任せたよ。
私も諸々の準備を済ませよう」
どうだったでしょうか?
締め方は自分も悩みどころでしたが、このような形になりました。修行編入るってのは嘘じゃないよ導入部分だよ!?
自分でも書いてて思いますが、好き嫌い・賛否ははっきり別れてしまうだろうなという書き方です。自覚しているんですが、自分の書きたいものとなってくるとどうしてもこうなってしまいます。
次回から本格的に修行していきます。
どんな修行内容なのかは、次回をお楽しみに。
感想・評価をお待ち申し上げております。
ではまた次回。