plus ultraを胸に抱き   作:鎌太郎EX

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episode6 呆気なく悪辣に

 

 

 

 

 

 ――子供の頃は、父に憧れた。

 全ての武を修め、その武のみで全てを切り抜ける父が、自分にとっては終着点のように思えた。武の鍛錬には果てがないと言い続ける父の言葉も、こればかりは素直に頷く事が出来なかった。

 人間としての到達点。人間の肉体を戦う事に費やし、機能を十全に使い切るその姿に憧れたものだ。

 だが、結局自分の到着点はここだった。

 刀に居合も短刀も弓も槍も薙刀も柔術も銃砲も棒も隠密も分鎖も。

 修める事が出来なかった。あまりにも才能がなかった。まるで自分の体が活殺術以外を拒絶しているかのように。

 本当は、父のように強くなりたかった。

 でも、それでも何かあるのではないかと。

 拳を極め、戦いを経験していけば、自分にも父のようなあるいは『あの人』が心の中で抱いているような強い芯のようなものを持てるのではないかと思った。

 どんなに見ても聞いても薫っても味わっても触れもしない、でも確かにハッキリ見えて聞こえて来て薫って来て味わい深くそこに存在する事が分かるナニカを。

 ……結局、自分の中にはそんなものは見つからなかったし、今の今まで見つかってはいないのだが。

 

「オラオラぁ、ボォ〜っとしてんじゃねぇぞクソ女!!」

 

 まるで手榴弾でも投げ込まれたかのような衝撃を生み出せる大剣が、その重さを感じさせず振るわれる。

 それを力を纏った拳ではじき返しながら、センシティは目の前の敵を睨みつけた。

 ――剣戟と拳撃の応酬。

 大きな鉄板をそのまま切り取って造られたような大剣が非日常的であれば、それを無手で弾くのもまた非日常的だろう。

 

「ハッ、スゲェ!! どんな個性使えばそんな事出来んだよ、なぁカラクリ教えろってナァ!!」

 

「――うるさいわね!! そんだけマッチョの癖に個性にしか頼れない雑魚オスが粋がんないでよ!!」

 

 飢えた獣のように笑う憑己に、センシティは舌打ちしながら攻撃を仕掛ける。

 まるで蜂の針のような鋭い一撃。普通の肉体であったならば簡単に内臓にダメージが届くほどの一撃。だがそれは、硬さと柔軟さを併せ持つ奇妙な触感で弾き飛ばされる。

 

「――っ、どういう体してんのアンタっ」

 

「ハッ、動物ってのは意外と強いのよ!! アルマジロの甲羅だって銃弾を弾くんだぜ!?」

 

 動物の中には硬度が高い鎧や甲羅、毛並みを持っている動物も多い。

 しかも彼の個性は、実際の動物の機能を忠実に模しているわけでは無く、あくまでイメージ。彼が弾丸も弾くと思えば本当の意味で弾いてしまう。時にその動物の能力さえも凌駕する化け物が完成する。

 だが――、

 

「あ、そう。舐めてくれるじゃない。

 ――私の拳が弾丸にも劣るって?」

 

 ――銃弾?

 その程度のものと同じにされているのか?

 青春期の多くの時間を使い、鍛錬して鍛錬して鍛錬した。血尿が止まらなかった事もあるし、鍛錬中に吐いたことも2度3度の話ではない。

 人が人として鍛えうる全てを実践して来たつもりだ。

 この拳だけは――絶対に信じれる。

 

「ほざくなクソ女ぁ!!!!

 左腕ぇ・象亀ぇ!!」

 

 肘から先が一瞬で甲羅のようなものに覆われる。本来身を守るために生物が生み出したそれが、砲弾のようにセンシティの脇腹に突き刺さった。

 

「グッ!?」

 

 ミシミシと肋骨が軋む音を聞きながら、足で跳び上がることで衝撃を殺す。

 吹き飛ばされるようにその場を離れたセンシティは、即座に構えなおし、前に睨む。

 小技は通用しない。相手の装甲を貫通する為にはそれなりの一撃を放つ他ない。しかし一撃だけであればあの防御力では防がれる可能性があり、その後の反撃が怖い。

 ――方法は、ある。

 あるが、その前にあの剣が邪魔だ。途中で無我夢中で振り回されたなら敵わない。

 

「――まずは、その剣が邪魔!!」

 

 そう言った瞬間、センシティは憑己に向かって駆け出した。

 

「ハッ、ヤケになって正面突破か――良いねぇ、嫌いじゃないぜ!!

 腕・ゴリラ、足・雪豹、体重・象!!!!」

 

 体が一瞬で変異し、一瞬で跳躍する。

 彼の個性である動物は、彼の中でのイメージであるもの。だから、どんなに現実味のない現象も引き起こす。象のような重さを持ちながらも、雪豹のように軽やかに跳躍する。

 跳躍した高さ+象の重さ+ゴリラの腕力=最強の一撃。

 彼の中ではそういう公式が生まれているようだ。

 だが――、

 

「――誰が、正面突破するって?」

 

 衝突する瞬間、センシテまるで独楽のように回転して方向を変える。

 自分がいた場所に巨大な剣でクレーターが生まれるのも気にせず、人間ではあり得ない速度で背後に回り込む。

 

「震撃――波紋!!」

 

 一滴の水が穏やかな水面に波を作り出すように、その拳の衝撃は憑己の皮膚を波立たせ、拳の衝撃をそのまま全身に広げる。

 

「グァ!?」

 

 一瞬何が起きたか分からないというように、憑己は絶叫を上げる。

 何故正面にいた女が自分の後ろにいて、何故絶対の装甲を持つ自分が痛みを感じているのか、理解出来ないといったように。

 だが、その理解をする暇は与えない。

 

 

 

「震撃――追浪!!!!」

 

 

 

 腕を振り被らずに、センシティの爪先から力が駆け上がる。

 寸勁というものが中国拳法には存在する。至近距離から放たれるその拳の威力は、振りかぶって放つ重心移動、力の流れ方、様々なものを合計して威力に変える。

 

 

 

 その力でセンシティは一瞬にして彼の同じ部分に、16発分の打撃を叩き込んだ

 

 

 

 装甲が砕け、

 皮膚を裂き、

 近くにあった肋骨をへし折り、

 内臓に直接的なダメージを与える。

 まるで削岩機のような一撃が、背後から憑己を襲った。

 

「グハッ――」

 

 吹き飛ばすような無駄な衝撃は出してないからか、憑己はその場で口から血を吐き出し――ゆっくりと倒れ込んだ。

 

「……………………え?」

 

 驚いたのは、センシティの方だった。

 これだけ大仰な仕掛けを施し、さも強者のように振舞って出てきた男がこの程度では倒れるはずがないと思っていたから。

 

「え? え?? 嘘、やだ、ごめん、この程度(・・・・)でやられる程弱かったなんて思ってなかったっ!!

 ちょっと、あんた死んではいないわよね?」

 

 慌てて脈を取り、呼吸を確認し始める。

 ――彼女の力は、それほどまでに強力だったという話だ。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「ほらほら、避けてらっしゃるだけだと、この戦い終わりませんよ!!」

 

 まるで鞭の森に迷い込んだようだ。

 しなるように迫って来る尻尾を、あるいは槍のように迫って来る腕を回避し、手をついて着地しながら、ブレイカーはボンヤリとそんなことを思った。

 元の個性がどういうものだか知らないが、今の現状を見る限り確かに強化されているようだ。薬を使ってここまでの戦闘能力を得る事が出来るのであれば、なるほど、買い手はいくらでもいるだろう。

 アメリカなどは、薬を買い占めて研究し、安全で強力な薬でも作って軍事転用するかもしれない。

 しかし、

 

「それにしたって――技術が足りない」

 

 11本も自由になる攻撃手段があるのに、ブレイカー1人を未だに傷つけてすらいない。

 照準が甘い。回避する場所を予測して攻撃出来ていない。多少武の心得を持っている壊相手だと言っても、戦い方は素人同然。

 個性をただただ強くしただけで強くなれるのだとしたら、それこそ夢物語でしかない。

 

「独り言ですか!? 悠長ですねぇ!?

 そんな事を言っている暇があるならば、私に血を見せてください!! さぁさァサァ!!」

 

「それに――脳の変調も、致命的だよねぇ」

 

 恐らく変状の変化は、その残虐性なのだろう。先程からブレイカーの惨殺が楽しみでしょうがないと言いながら攻撃して来る。

 ――全てが、甘い。

 なんだこれは? 本当にこれが自分達の敵なのか? あまりにもオツムが足りなさ過ぎる。技量もヘッタクレもない。

 

「君は多分、個性を強化してから弱い相手としか戦ってこなかったんだね。

 まさかこんなに弱いとは……あぁ、センシティを連れてこなくてもこれなら3人まとめて俺だけで相手出来たかもしれないなぁ」

 

 地面に手で触れながらそう言うと、変状の既に人間ではなくなってしまった顔が愉悦に歪む。

 

「ハハハ、何を仰っているやら!!

 そういう貴方だって、私に傷1つ付けていらっしゃらないじゃないですか!?」

 

 序盤で再生能力があると理解してから、ブレイカーはいつまでも回避に専念していた。いくら雑魚でも攻撃手段が多過ぎる相手というものは厄介だ。長い手足だから懐に入ればいいと思うかもしれないが、回避出来ない距離であれを食らいたいとは思わない。

 

「それに一々手をついて休んでらっしゃる――そろそろ避けるのも辛くなってきたんじゃないですか?」

 

「それは……そうだね。疲れているかどうかはさておき、そろそろ面倒臭くなってきた。

 

 

 

 ――ここで終わらせるよ」

 

 

 

 壊がそう言った瞬間――まるで流砂のように、変状の体が地面にめり込み始める。

 

「な、なんですかこれは!?」

 

「何って嫌だなぁ、砂だよ砂。中は蟻地獄の形状になるように作ったんだ。

 君が休んでいるって言ったあの時にね」

 

 気付かれないようにゆっくりと、だが確実に。

 相手が尻尾や腕を伸ばして攻撃してきて、その場から動かない。

 相手が自分だけを見て、しかも傷つける事に固執している。

 この2つのどちらかが欠けていれば成功しない、いや、少しでも周囲を見れば分かるような作戦。勿論表面上は変化していないように誤魔化しはしてあるが。

 その間にも、変状の体はどんどん底の方に沈んでいく。

 普通はアリジゴクが底から砂を飛ばし、下へ下へ流れるようにするものだが、今回は表面に偽装として残して置いた芝生が上手い事重みで沈んでくれているせいで、勝手に流れて行っている。

 

「そんな細かい調整が出来るはずが、」

 

「出来るんだよ。俺はこれでも、かなりこの個性の調整に苦労したんだ。」

 

 触れれば人を簡単に殺せる個性。

 これを暴走させないように、炎司と何回も何回も練習を重ねた。今では微妙な何を分解し何を分解しないか、ミリ単位で計算出来るようにまでなった。

 研鑽。

 相手にどうしても足りない部分で、ブレイカーは変状の足を止めたのだ。

 

「貴様ぁ、私を舐めるな!! こんなの簡単に抜け出せるわ!!」

 

 怒りで尻尾を振り回しながら沈んでいく変状に、ブレイカーは仮面の奥から微笑みかける。

 

「そうだねぇ、それはそうだ。どういう変化が他に出来るかも分からないし、君は普通よりもずぅっと頑丈だ。

 だから――これが締めだよ」

 

 そう言いながら、ブレイカーは穴の奥にナニカを放り込む。

 凸凹とした楕円の形状。

 金属音と共に取っ手のような部分が外れる。

 何個も連なった、

 

 

 

 手榴弾。

 

 

 

「ハァーーーー!?」

 

 変状の絶叫とほぼ同じタイミングで手榴弾は爆発し、変状はその威力を真っ向から受けた。

 多少威力は抑えめに作ってあるので、彼ならば無事なはずだ。勿論、あんな直近で食らって置いてただでは済まないと思うが。

 

「馬鹿だよねぇ。封じ込めたから個性で攻撃して来るだろうなんて考えて。

 そんな事しなくても便利な道具って結構あるもんなのにね」

 

 良くも悪くも個性社会。

 大なり小なり、ヒーローは、あるいは敵は個性で攻撃して来るもの、個性と関わりがあるもので攻撃して来るだろうと思い込んでいる部分がある。

 どの人間にも通じる戦法だ。

 

『――……ブレイカーさん、無事ですか』

 

「やあやあ、リビングライフ、こっちは全然平気。そっちはどう?」

 

 無線から聞こえてきたリビングライフの声は冷静そのものだった。

 

『こちらに気を引いていますが……弾丸が通りませんからね。そろそろカノンを使おうかと』

 

「良いよぉ、特殊弾はどれくらい用意している?」

 

『何が起こるか分からないので、全種類持ってきてます。まぁ、最終的に殺してはいけないというからには、少し手間がかかりますが――倒せます。』

 

「了解――思う存分ぶっ放しなさい」

 

 

 

 ◇

 

 

 

「むうぅぅうぅううぅ、邪魔ああぁああぁあ」

 

 銃弾が飛んで来る方向に強酸性の液体を飛ばして回るが、銃を撃っている相手には届くはずもない。300m近く離れているのだから。

 だが、酸生はそれが分かっていない。

 彼の強化されてしまった欲望は〝食欲〟。

 食べる事、己が空腹を延々満たすだけの存在に成り果ててしまったし、戦っているのも食べ物をくれるからという事に終始する。味どころか、人肉すらも問題なく食してしまう。喋れる中でも1番の化け物だろう。故に戦闘では、殆どの場合バックアップ。2人から合図が来た時のみ攻撃する事を教えられている。

 だから気づかない。

 すでに仲間の2人が倒されている事にも、

 狙撃手という存在にも。

 もっとも、通常の弾丸では効果が無いのも確かだった。触れた瞬間溶かされ、表層を傷つける事すら出来ないのだ。そもそもここ最近では痛みを感じる事すらない。

 

「どこぉおおおぉおぉぉ!?」

 

 周囲を見渡し、敵を必死に探し続ける。

 

 

 

 そんな酸生の腹が、いきなり弾け飛んだ。

 

 

 

「――――――?」

 

 本体にはダメージが来ていないので、なにが起こっているか分からない。だが確実に腹の表層が弾け飛び、普段は出ない二層目が顔を覗かせている。まるで、そこだけ吹き飛んだかのように。

 酸生の緩い思考回路で必死に考えている間にも――2回目がやって来た。

 熟れたトマトが弾けるような水っぽい生々しい音が響く。

 

「なに!? ナニ!? 何ニィイィィイイィ!!??」

 

 酸生の悲鳴は、絞め殺される豚の鳴き声のようだった。

 

 

 

 

 

 バレットXM10925mmペイロード。

 ブレイカーとリビングライフがカノンと呼ぶものの正体だ。

 作られた当時の物とは大分様変わりし、使っている弾丸もかなり特殊であるそれはもはやペイロードとは違うものに成り果てている。

 今放った弾丸は着弾した瞬間炸裂する、グレネードのようなものだと思ってくれれば良い。

 勿論、威力は極めて抑えてあるため、結局連射しなければ相手の強酸性の皮膚を破壊し本体に届かせる事が出来ない。

 

「――だが表面がすぐに手が溶けるような層で無くなれば、あとはブレイカーさんがなんとか出来る」

 

 ヘルメットに搭載されているスコープを見ながら、リビングライフは小さく溢す。

 大きく映し出されている酸生の層が回復させるのはかなり時間を必要とするのか、炸裂が広がるように作られている弾丸で、まるでバナナの皮を包丁で削いでいくように無くなっている。

 それでも完全貫通は出来ていない辺りは流石と言えるだろう。

 リビングライフはもう一度、両手でペイロードを構え直す。本来は自分の手で持てるような代物ではなく反動も相当なのだが、コートの中に仕込まれているパワードアシストが補助してくれるおかげで、銃口は一切ブレていない。

 ――そもそも、リビングライフの個性は攻撃力にまるで直結しない個性だ。

 ヒーローの中にはセンシティのように別の何かに活用出来ているような例はいくつか存在するが、リビングライフの個性はピンチにならないと使えない。

 だからこそ、攻撃手段は全て道具に頼る。銃器、爆弾、その他諸々の罠などでだ。

 これを受け入れてくれる事務所はなかなかない。

 重機を使っているヒーローはいるが、リビングライフの戦闘方法はもはや戦闘という領域を超えて『戦争』の域に入っている。

 もし民間人をそれで負傷させたら。

 管理費や維持費の問題。

 そう考えると、ヒーロー達はリビングライフを雇い入れる事に難色を示した。

 ただ1人、ブレイカー以外は。

『君の戦い方は僕が求めるものに必要かもしれない。是非入ってくれ』

 そう言ってブレイカーの事務所に入り、自分が戦える技術を教えて貰える場所を紹介してもらい、経験を積ませてくれた。

 今では彼の考え方に心酔していると言っても良い。

 5発分の炸裂弾を撃ち出し、表層を剥き出しにさせる。

 現代アートのようだ、とリビングライフは思った。

 着弾点を中心にして、まるで肉の花弁が開いているような状況。よくよく見ればその奥の奥には、血色の悪い皮膚が覗いている。おそらくあの状態で長い間本体を晒してこなかった所為だろう。

 とにかく――本体が見えた。

 ペイロードを脇に置き、先ほどまで使っていたM24SWSを構える。

 弾丸の中には強力な睡眠薬が入っている。当たれば一瞬で強制的に眠らせることが出来る。

 

 

 

「ブレイカーさんの目的に、お前が邪魔だ――排除する」

 

 

 

 そう言いながら、リビングライフは躊躇なく引き金を引いた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 巨体は、ドシンッという重苦しい音を立てて倒れた。

 その瞬間から既に変化は始まっていた。鼻にツンッとくる悪臭を放ちながら、強酸性の皮膚はゆっくりとその形状を維持出来なくなり、溶け出している。

 中から覗いているのは――変状よりもさらに痩せている、もはや骸骨に皮膚を貼り付けているだけではないのかという男の姿だった。

 最初の巨体とは、あまりに真逆な存在。

 

「あれだけ食べていたのは、表皮形成のエネルギーが膨大だったからっていうのもある訳か……やれやれ、個性ってのは相変わらず意味不明だねぇ」

 

 遠目からその様子を見ていたブレイカーは、小さく溜息を吐いた。

 

「アンタ何呑気に話してるの。とっとと救援呼んでくれないかしら」

 

 自分の部下達はそれぞれ腕と足を奪われている。戦い終わって即座に止血はしたが予断を許さない状況だ。

 何より、早くこの場を離れたいという気持ちが強かった。

 だがそんなセンシティが文句を言うと、ブレイカーは首を振る。

 

「まだだ、警戒は解けない。彼らの容体は確かに気にはなるけど……気になるのはこの状況だ」

 

「? 何言ってんのアンタ。

 慢心している敵が切り札だと思って出した連中より、私達の方が強かったってだけでしょう?」

 

 対敵戦では良くある話だ。個性という超常の力に酔い、過信し、最強だと信じて力を振るっているなんて珍しくもない。

 

「それでも、だよ。

 彼らは俺らが来ることを知っていた、名前もちゃんと把握していた。新進気鋭の君ならばさておき、基本的に名前を売らないようにしている俺の名前を敵はちゃんと理解していた。

 ……情報を知っているはずなのに、こんなにあっさり倒されるってのは、妙だよ」

 

 ある程度の対策をして来るのが普通だ。

 勿論、それでも自分達に倒せないものはないと傲っていた可能性は否定出来ない。だが彼らのリーダーはそうではない。ヒーローというものを良く良く熟知した上で作戦を立て、上手く立ち回る連中だ。

 そんな連中がこんな杜撰な戦い方を許すのか?

 衆人環視を集め、デモンストレーションと称してだ。自分達が負ける姿を見せても宣伝効果はないだろうに。

 

「何かきっと裏が、」

 

 ブレイカーがそう言いかけると、

 

 

 

 耳に、いきなり爆音が鳴り響いた。

 

 

 

 音というものが全てかき消され――いや、音というものを全て束ねたような暴力的な音が、耳から伝わって頭を掻き鳴らす。

 ぐちゃぐちゃに混ざり合った音。だがセンシティはこれを知っている。

 これは、まるで、自分がいつも聞いている、自分自身の音のようなものだった。

 だがセンシティが聞いてるものよりも強力で、強化されているセンシティの耳には暴力としてしか伝わらない。

 必死で痛む耳と頭を押さえながら周囲を見渡す。

 ブレイカーも、側に座っていた自分の部下も、全員が耳を押さえ、苦悶の表情を浮かべている。おそらく彼らの耳にも同じような音が聞こえているのだろう。

 

 

 

「――やっぱり倒せませんでしたか。

 そりゃあそうですよねぇ、これだけ実力者が集まってたら、こんな雑魚達じゃ倒せない」

 

 

 

 暴音で何も聞こえないはずなのに、話している言葉を理解できる。

 耳元で優しくゆっくり囁かれるような言葉が、頭の中で直接理解させられる。

 その声は、あまりにも聞き覚えがある、

 

 

 

「お疲れ様ですセンシティさん。

 どうやら貴方に1番効果があるようで、安心しました」

 

 

 

 薄ら笑いを浮かべる、一番の部下。

 ウィスパーの声だった。

 

 

 

 

 

 

 





次回!! 炎司さん安定のブチ切れ!! お楽しみに!!


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