Girls und Panzer -裏切り戦線- 作:ROGOSS
ちなみに、こんなシリアスな作品を書いているせいか、ガルパンの最新作のドラマCDを聞いていると、キャラに申し訳なくなり泣きたくなってきました。
「早くしなさい! あと5分しかないのよ!」
「……」
「返事はっ!」
「Yes, Ma'am.」
隣のナオミをチラリと見る。
屈辱だと言わんばかりの表情を見ると、ケイは申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
大洗女子学園に助力をして、そして裏切ったあの日。
学園艦に戻ったケイとナオミを待っていたものは反乱だった。
先導していたのは信用していた腹心、アリサだった。
学園艦に残していたケイとナオミに近しい生徒を人質に取り、隊長職の辞任を求めたアリサをケイは止めることができなかった。最終的には、強制ながらもアリサに隊長という役職を委任することとなった。
それが全ての始まりだった。
アリサはまず、ケイ達を旧隊長派閥とし、徹底的な排除を行った。もちろん、殺したり退学させたりするわけではない。トイレ掃除や練習後の片づけなど、日陰仕事を押し付けこき使い続けたのだ。
結果、アリサの恐怖政治は見事なまでに成功し、今ではサンダース大学付属高校戦車道チームでアリサに逆らうものは誰一人としていなくなっていた。
しかし、アリサに対する反感の芽が完全に潰されたわけではない。現に、旧隊長派閥の人間はその火種を隠し持ち続けていた。
「清掃終了っ! 各自部屋に戻り休むように。なお、勝手な外出は認めないものとする! 発見次第、明日の朝食は抜きだ! 解散!」
監視役の生徒がいなくなると、ようやく生きた心地になる。
「クソッ! 何考えているのよ!」
ナオミが壁に拳を叩き付けた。
自由な校風で、誰もが陽気だったはずのかつてのサンダース校は見る影もなくなっていた。今あるのは、アリサという絶対的支配者に逆らってはいけないという恐怖心。そして、誰かが密告するかもしれないという猜疑心だけだった。
「まるで、東ドイツね。敵だった国の真似事をするなんて」
ケイは小さく皮肉を呟く。聞いていた何人かの生徒が苦笑いを浮かべた。
部屋への廊下を歩く。心なしか、照明がいつもよりも絞られている気がした。
「ケイ、お話が。みんなも私の部屋に来てちょうだい」
「What? 余計なことをしていると、また……」
ケイの脳裏に浮かんだのは、規則を破った旧隊長派の生徒が泣きながら懇願しているにも拘らず、無慈悲に連れ去られて行く姿だった。
後日、彼女は帰ってきたが以前までの明るい笑みを浮かべることはなかった。そして、さらに数日後、退学届けを出して彼女がサンダースから去っていった。
何をされたのかを、何をされるのかを知っている者はいない。だが、何かしらの苦痛を受けるだろうという想像をすることは、そう難しいことではなかった。
みんなを守ろうと思ってアリサの言うことを聞いたのに……逆効果になるなんてね……。
許可無しに特定の人物の部屋に集まることは禁止されていた。
ゆえに、ナオミの提案に素直に従えないケイがいる。
それに気が付いたのか、ナオミは珍しく笑みを浮かべた。
「大丈夫。すぐに終わるから」
葛藤はあったものの、ナオミの部屋にケイを含む25名は入っていった。
昔は、ここでアリサとナオミと一緒にポーカーをしたわね。アリサったら、すぐに感情を顔に出すから面白かったわね……。
懐かしい記憶が頭をよぎる。つい数週間前の出来事でも、今では輝かしい過去と成り果てていた。
「ケイ。地獄からのホットラインだ」
「地獄からのホットライン?」
差し出された携帯電話をケイは受け取る。
誰と通話しているのだろう……?
訝しみながらも耳に当てると、予想外の声が飛び込んできた。
「お久しぶりです。ケイ隊長」
「あなたは……!」
直接話したことは無かった。
それでも、その声を忘れることはできなかった。
あの日、必死に救援を求める声を出し続けていた彼女の声を……。
「たしか、武部さん?」
「沙織でいいですよ、ケイ隊長。いえ、元隊長でしょうか」
元、という言葉が妙に胸に刺さった。
同時に疑問が浮かぶ。
彼女はいったい、何の用があって裏切った私に電話を掛けてきたのだろうか?
「ケイさん」
「はい?」
「協力してくれませんか?」
「協力? 何の協力? もしかして、また試合が決まったとか?」
「そんなわけないじゃないですか。それに、大洗女子学園にチャンスが残されているとでも?」
あなたがたが最後の希望を潰したんですよ、沙織の言葉が傷ついたケイの心をさらに抉る。
「協力してほしいのは、みぽりんのやろうとしている事ですよ」
「みほが何かをしようとしているの?」
「はい。償う気……ありますか?」
逡巡。
どう答えるべきかケイは迷いあぐねた。
やがて、ポツリと沙織が言葉を続けた。
「あなた方に……私の母校は潰された……」
「それは……」
申し訳ない気持ちでいっぱいだった。機会があるのならば、直接謝罪したいと考えていた。償う気があるのか? と問われれば、あると即答したかった。
しかし、今のケイの状況がそれを許されなかった。
ケイが何か行動を起こしたことを悟られれば、旧隊長派が何らかの処罰を受けることは明らかだった。
そんなケイの気持ちを感じ取ったのか、沙織が提案をした。
「あなた方全員です。賛同してくれる全員、今から指定の場所へ来てもらえませんか?」
「指定の場所?」
告げられた地名を聞き、ケイは目を見開いた。おもむろにナオミに目を向ける。ナオミも他の生徒も、無言のままだった。だが、その目には全てをケイに任せる、という固い決意が感じられた。
「わかったわ。ただ、戦車も必要なのよね?」
「もちろんです」
「……すぐ行くわ」
おまけ
もし、サンダースの隊長と副隊長がポーカーをしたら(SS風)
ケイ「さぁ、勝負ね!」
ナオミ「……」
アリサ(ふふ、私の役はストレート。勝てないわけがないわ! 見ていなさい、今まで巻き上げられた全額、今日こそ取り返すんだから!)
ケイ(あぁ、アリサ良い役なのね)
ナオミ(降りたほうが妥当ね)
アリサ「いざ、尋常に!」
ケイ「降りるわ」
ナオミ「私も降りるわ」
アリサ「なぁっ! そんな! ひどいじゃないですか!」
ケイ「ははは! そういう時もあるわ!」
ナオミ「そういうこと」
アリサ「くぅっ! もう一生やりませんから!」
バタンッ
ケイ「あらら、どこか行っちゃったわね」
ナオミ「そうね……ストレート。やっぱり」
ケイ「Amaiging! もしかして、ナオミも気が付いてたの?」
ナオミ「もちろん。アリサは直ぐに表情に出ますから」
ケイ「そうね。素直なのは良いことなんだけどね……」
(駄文お付き合いいただきありがとうございました)