Girls und Panzer -裏切り戦線-   作:ROGOSS

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ダージリンの憂鬱

 今日も来ていないのね……。

 午後3時。学院の中庭には洒落た白いテーブルとイスが並べられていた。午後のティータイムの時間だった。

 普段は埋まっているはずの席に目を向け、ダージリンはため息をついた。

 ここ数日、オレンジペコの姿を見ていなかった。1年生ながら、確かな技術があり気品溢れる振る舞いをする彼女をダージリンは特に気に入っていた。

 なぜ姿を見せないのか? 原因はわかっていたし明らかだった。だが、ダージリンとしては間違ったことをしたつもりなど毛頭なかった。後輩達に後を託す立場として精一杯働いた。その代償として失ったものは大きかったが、僅かばかりの後悔しかしていなかった。

 ここで後悔していない、と言い切れないところがいけないのかもしれませんわね……いつから、こんなにも私は感傷的になってしまったのでしょう……。

 再びため息をつく。

 そんな姿を見ていられなくなったのか、アッサムがティーカップを持ちながら話しかけた。

 

「ダージリン。そんなにお気を落とされなくても」

 

「そうね……」

 

 沈黙。

 どちらも次に何を話すべきかわからなかった。

 同じ負い目を感じている者同士、その辛さも悲しみも共有していた。

 

「今日は私が紅茶を淹れたのですが、やはりオレンジペコが淹れた方が美味しいですね」

 

「そうね。少し苦みが強すぎるわ」

 

「私はこれくらいの方が好きなのですが」

 

「本物の紅茶を味わうべきよ」

 

「でしたら、今度はダージリンがお淹れになってください。勉強にさせていただきますよ」

 

「そう、ね……」

 

 弱々しく返事を返すとダージリンは明後日の方向を向いたまま固まった。

 こんなに静かになるものなのですね……。

 オレンジペコに謝りに行こうとは何度も考えていた。しかし、それをしてしまえば自分の犯した罪を認めてしまうことになると思うと、最後の踏ん切りがつかないでいた。

 視界の端から誰かが走ってきた。息を切らしながらダージリンの前で止まると、少女は慌てたように報告した。

 

「ダージリン様っ! 大変です!」

 

「どうしたのかしら? 無闇に走ることは、よしたほうがいいわよ」

 

「それどころじゃありません! ローズヒップ様のクルセイダー部隊4輌とオレンジペコ様の車輌が見当たりません!」

 

「そ、それはいったい……!」

 

 ダージリンの手からティーカップが零れ落ちた。重力の法則に従い地面の激突したティーカップは、派手な音を立てて砕け散った。

 戦車に乗っているときでも紅茶を零さないと豪語する彼女からは、考えれらえない事態だった。

 

「く、詳しく教えなさい」

 

「はい。午後の練習の準備をしようと思い、ローズヒップ様とオレンジペコ様をお呼びに行ったのですが……どこにもお姿が見当たらず、代わりにこのような置手紙が……」

 

「見せなさい」

 

 少女から手紙をひったくるとダージリンは食い入るように内容を読み始めた。

 やがて、全身から力が抜けたようにペタンと椅子に座り込む。手足はだらりと垂れ、無気力という表現がピタリと当てはまっていた。

 

『ダージリン様。

私はやはり、ダージリン様があれほど応援なさっていたはずの西住みほさんを裏切ったことが許せません。本当は、あの日の出来事を止めることができなかった自分に腹が立っているのかもしれません。それでも、実行してしまったのは紛れもなくダージリン様です。私は、西住さんに謝罪の意を込め協力することを決めました。今までありがとうございました。

 

私もオレンジペコと一緒に行くことを決めましたわ!

あの日の裏切りは、私も許すことができませんわ! どうかダージリン様も改心なさることを切に願いますわ!』

 

 ダージリンから手渡された手紙を見て、アッサムも同じく絶句した。

 軽い出来心だったとは言わない。確かな計画性もあったし、してしまえば大洗女子が負けることはわかっていた。

 しかし……それでも……私だって確固たる信念を持って……どうしてわかってくれないの……。

 

「いかがいたしますか……?」

 

 今まで見たことも無いような姿を晒す聖グロリアーナ女学院の隊長に、少女は恐る恐る尋ねた。

 学園から抜け出したとなると、小型のボートの可能性が高かった。

 だが、いつ抜け出したのかわからない今、捜索に当たったとしても徒労に終わる可能性が高かった。

 

「文部科学省学園艦教育局に連絡しなさい」

 

「学園艦教育局ですか? いったいどうして……?」

 

「あの男に……事情を説明しなさい。何か手立てがあるはず……オレンジペコを、ローズヒップを行かせてはならないわ……」

 

「わかりました、至急お電話をお繋げ致します。それとは別に、捜索隊を編成しますか?」

 

「そうね……近海の捜索に当たってちょうだい……まだ、近くにいる可能性もあるのだから……」

 

 その日から、オレンジペコとローズヒップの姿を見た者は誰もいなかった。

 悔しさと怒り、後悔を抱えたダージリンの戦いが始まろうとしていた。

 


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