Girls und Panzer -裏切り戦線- 作:ROGOSS
どうにか年内に完結できて良かったです。
全53話、お楽しみいただけたなら幸いです。
お支えくださった読者の皆様、本当にありがとうございました。
納得のいくいかないなどの終わり方かもしれませんが、あともう少し、お付き合いください。
それでは、最終話の内容となります。
重低音のエンジン音と豪快な砲撃音。あとに続く爆発音に、私は思わず身震いをする。
今ほど戦車道に関わってきたことはないだろう。武道の一つとして存在していることは知っているが、戦争などとうの昔に終わっている平和ボケしている現代人からすれば、やはりどこか戦車道が古いモノとして認識してしまっている節がある。
かくいう私もその一人であるわけで、初めて間近で見ることとなった無骨な戦車同士のぶつかり合いに思わず興奮していた。
何という名前なのか? 勝ったのか負けたのか? 詳しいことは一切わからないが、それでも今まで認識してきた戦車道とは全く異なるものが目の前で繰り広げられていることに、興奮せずにはいられなかった。
ふと視線を向けると、戦車隊を指揮している女性がいた。指揮官というよりは教官なのだろう。制服には陸上自衛隊と文部科学省が去年共同で掲げた紋様が入っている。
女性は私の視線に気が付いたらしく、しばらく考えたようにするとこちらに会釈をしてきた。それを機に私は彼女へと近づいていく。
「初めまして。週刊
「いえいえ、これも広報活動の一環になるかもしれませんから。私が西住みほです」
その名前を聞いて、私は思わず息を飲んだ。
ニコニコと笑みを浮かべる彼女が本当に、若干17歳にして国家を転覆させるようなクーデターを起こしたというのか? 関係者に取材を重ねてきたが、彼女たちから聞いた印象と目の前にいるみほの印象はあまりにもかけ離れている。
「本日の取材なのですが……」
「硫黄島でのお話ですよね?」
「既にご存知でしたか」
「ええ。昔の仲間とはもう、連絡をとることもありませんが風の噂になっていますよ。硫黄島のことを調べている方がいる、と」
「お恥ずかしい限りです」
「せっかく来ていただいたのですが、残念ながら、何もお話しすることができません」
「と、言いますと?」
「そんな事件は最初からなかったからですよ」
予想していなかったとはいえ、いざ本人から口にされると思わず眉をひそめたくなる。
当時の総理大臣が突然辞職する騒ぎになったほどのことだ。やはりというべきか、口止めされているのだろう。
後任となった元文部科学大臣は就任後、戦車道を手厚く保護したらしいが、そのあたりもきな臭い。
しかしながら、所詮はゴシップ誌の記者に調べることのできるものには限界がある。
本人がなかったと言えば、たとえあったとしても事実は捻じ曲がり無かったことになるのだ。
私はダメ元で別の質問をぶつけることにした。
「そうですか。では……みほさん。あなたはなぜ、選抜戦車道隊の教官になられたのですか?」
ピクリとみほが反応を示す。静かだが、力強く徐々に拳が握られていった。爪が手の平に突き刺さり血が滲み始めているが、そんなことを気にはしていないようだった。
突然現れた修羅の姿に、私は無意識に後退りをする。
この変わりようはなんだ? いったい彼女は何者なんだ?
答えのない問いが頭の中で回り始める。恐ろしい。何もされていないが、恐ろしいという感情が沸き上がるのを止められない。
「私は辻さんの紹介で今の立場にあります」
「は、はい……」
「なぜなったのか……ですね。決まっているでしょう? 私は戦車道が大嫌いだからですよ。友情を育む由緒正しき武道? 片腹痛いですね、とうの昔にそんなもの死んでいるんですよ」
「……死んでいる」
「芳野さん。あなたは嫌いなものがある時、それを避けますか?」
言葉が出ない。
自然とみほの次の言葉が欲しくてたまらない。恐怖が信仰へと変わる気がした。たった数分しか交わされていないはずの会話なのだが、彼女が愛おしくて我慢ができない。
「私は避けません。ですが……戦車道に骨を埋めるつもりもありません。いつか……いつの日か必ずしてみせますよ。私を裏切った多くの人に報いを与えます」
「報い……ですか?」
「裏切り戦線は終わっていませんからね。あなたも、そのうち……わかりますよ」
耳元でソッとみほは囁くと、私の肩の上に手を置く。それが合図のように、私にかかっていた金縛りが解けた。
目の前にいるみほは、私の慌てように笑みを浮かべていた。
再び湧き上がる恐怖。微笑んでいるみほの目は笑っていない。
足元のアリに足を上げ、踏みつぶそうとする人間の目だった。猟奇的行為を一切のためらいなく犯してしまう、異常者の目。それでいて、普段は仮面を被り皆に慕われる人気者として振舞っている。
これほど恐ろしことがあるだろうか?
みほは死んだのだ。彼女の魂はあの日、確かに硫黄島で死に、その代償として彼女は戦争を続けることを選んだのだ。
牙を研ぎ、いつでも襲い掛かることのできる用意をして。
「もしかして……」
もしかして教官を引き受けた理由は、教え子を中心としたクーデターを起こすためでは?
邪推が止まらない。一度考え始めて妄想を止めることができない。
私は挨拶もそこそこに走り出した。
これ以上みほ前にいては、自分もみほに利用される人形となってしまう気がしたからだ。
「西住みほは死んだ。死んでしまったんだ」
雲一つない秋空に私の言葉が吸い込まれていった。
喜びは消えるが恐怖が消えることはない。一度染み付いた恐怖心は、体中を貪るように侵食していく。
裏切りの先に求めているものはない。しかし、もし叶うことがあるのならばみほはこう言うのであろう。
「私と一緒に堕ちてくれてありがとう」
これにて裏切り戦線完結です。
本当にありがとうございました。
次回はアンチョビを主人公にした話を書きたいと思います。
これからもお付き合いのほどよろしくお願いいたします!