Girls und Panzer -裏切り戦線-   作:ROGOSS

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ガルパンにシリアス。
なかなか見られないので、最初は受け入れらるか心配でしたが、500名以上の方にお気に入り登録していただき、本当に感謝です。
残り二話。
全力で書かせていただきます。


憤怒

「みほ」

『お姉ちゃん……』

 

 困惑が混ざる声が無線機越しに聞こえてきた。

 まほは動揺を悟られることがないよう、静かに深呼吸をすると、咽頭マイクをいつも以上に強く抑えた。そうしてしまわないと、今すぐマイクを外し逃げ出してしまうような気がしたからだ。

 決意はした。覚悟も決めた。私は、大切な妹に二度もとんでもないことをしてしまった。一つ目は、彼女の希望を塗りつぶす、黒い影に気が付くことができなかったこと。二つ目は、彼女を修羅道に縛り付けてしまったこと。

 もし、私が協力を拒んでいたとすれば……いや、みほのことだ、一度決心したことならば、どのような形であれ蜂起することに変わりはないだろう。しかし、私は妹を一時的でも癒してあげたいなどと温い考えをもって、彼女に協力し、そして裏切った。私は今、敵として彼女の前に立ちはだかっている。

 私の罪は深い。罰なら何でも受けよう。だけど今だけは、今だけは許してほしい。みほにもう一度正しい道を示すために手を差し伸べさせてほしい。例えそれが、命と引き換えになることだとしても……。

 

『そっか、なんだ。生きてたんだね。よかった。いくよお姉ちゃん。もうすぐで、私の裏切ったゴミたちの処分は終わる。そして、私は自由になるんだ! ううん、違う。私がみんなを自由にしてあげるの! 理由なき束縛は今日、終わるの』

「そうか。みほ、お前は今のやり方が正しいと思っているのか?」

『正しいかどうかを決めるのは、私じゃない。歴史が決めるの。後の世界に生まれた人たちが、私の行動をどう評価するかだよ。でも、私は、正しい信念を持ってやっているよ』

「そうか……」

 

 なんと声をかければいいかわからない。

 闇雲に正しくないからやめろ、投降しろ、と言ったところで意味などないだろう。理屈で攻めるなどもってのほかだ。なら、どうすればいい。どうすれば彼女の正しい愚行を止めることができる。

 

「やるしかないのか……」

 

 両の拳を握りしめる。爪が手の平に食い込み、血が滲み始めたがどうでもいい。

 躊躇しているのではない。みほを止める決意も覚悟もあっても、それはみほを撃つ決意と覚悟とは違う。実の妹を撃つ姉など、この世界のどこにいるのか。よりにもよって、撃つ理由は妹への愛からときた。愛を貫くために、人道から逸脱してもいいのか? 血を分けた肉親に銃口を向けていいのか?

 

「違う、向けるしかないんだ」

 

 まほの指示を待つ仲間の背に目を向ける。何も言わないが、まほが葛藤していることを感じていることを知っていると、その背中が語っていた。彼女たちもまた、昔の仲間を撃つという、覚悟を決めているのだ。ここで私がいつまでも考えていたところで、意味などない。動け、動くんだ。悪魔に魂を売れ。共に修羅となれ。それが救い出す方法なのだから。

 

「ここでお前を撃つ」

『何を言っているの……? だってお姉ちゃんは私を理解し……』

「していた! していた。すまない、みほ。お前のお姉ちゃんは、大馬鹿者だ。わかってくれ、ここでお前を撃つ私の気持ちを」

『……わかるかよ。わかるわけないじゃない! そうやって、あなたも私の理解者のふりをして、裏切るんだね! ああ、そうか。そうだね。ここは裏切り戦線。裏切りによって出来た戦場は、裏切りによって終息を迎える!』

 

 みほの勢いに思わずまほはたじろぐ。今はただ、みほの言いたいことを黙って聞いているしかなかった。罰の一つとして、胸に刻み付けるしかなかった。

 

『させない。私は、憤怒で世界を塗りつぶす。正しいことをしてるのに、どうして誰もわからないんだ!』

「それが正しくないとしても……お前は正しいと言うのだろうな」

『は、ははは! 妹を撃つような人に、私の正しさを馬鹿にされたくない!』

「そうだな。言ったろ、私は大馬鹿者だ」

『……ここで消えちゃえ。お姉ちゃんもみんな、私を裏切る人は消えちゃえばいいんだ! みんな、消えちゃええええええ!』

「左へ旋回! 追撃しろ!」

 

 間一髪のところで、ティーガーはⅣ号から放たれた砲弾を躱すことに成功する。なんのひねりもない正面からの一撃だったため、躱さずとも装甲で十分跳ね返すことができたが、念には念を。慎重に期して戦うべきだと、まほは判断していた。

 ティーガーは仕返しとばかりに、榴弾をⅣ号に向かって放つ。

 

「戦車前進! 後ろを取らせるな、狭い戦闘範囲だ。常に正面にⅣ号を捉えろ」

了解(ヤボール)!」

 

 一進一退の攻防が始まる。

 Ⅳ号のトリッキーな動きにティーガーは食らいつき、徹甲弾をお見舞いしようとする。それに対して、Ⅳ号は側面、正面と着実に砲撃を当てていくも、どれも決定打となることはなかった。

 もう何発目かわからない攻撃用意をする。

 戦車道大会では負けたが、二度目の敗北などありえない。ありえてはならない。みほの動きを僅かながらに掴むことができた。

 

「撃てっ!」

 

 先読みして放たれた徹甲弾がⅣ号の側面に直撃する。初めてまともに当たった攻撃だった。至近距離からの砲撃の威力で、Ⅳ号はスリップすると岩壁に当たり停止した。

 数秒の間をあけるも、Ⅳ号は動き出そうとしない。

 

「止まったか……?」

 

 しかし、未だに撃破判定の白旗は上がっていない。エンジン部分にも傍目からは異常は見られない。では何が起きた? なぜ動き出さない? どうする? このまま止めを刺しに行くべきか? 否、ここで刺さなくては、二度と来ないチャンスであろう。

 

「このまま行くぞ。接近しろ」

 

 ティーガーがゆっくりと前進を始める。その僅か数秒後のことであった。爆発音と共に何かが弾ける音が車内に響く。さらに何か空転するような音がすると、ティーガーは動きを止めた。

 

「どうした!」

「わかりません! Ⅳ号が発砲した形跡はありませんが……」

『ふふ、ふはは。お姉ちゃん、これは戦車道じゃない』

 

 聞こえてくる冷たい笑いにまほは戦慄する。

 誰だこれは? いったい誰が話している? みほの声色を真似た悪魔が、私に話しかけている。

 

『対戦車地雷。まんまとかかったな、間抜けがっ!』

「そんなものを……!」

 

 Ⅳ号が態勢を立て直し、砲塔をティーガーへと向ける。狙いは正面でありながら、ウィークポイントの一つである砲塔の付け根。

 

「みほ……!」

『おしまいだね、お姉ちゃん。Auf Wiedersehen!(さようなら、親愛なる人よ)

 

〇 〇 〇

 

「対戦車道部隊を派遣したのですか?」

「随分と耳が早いじゃないか。まあ、構わないがね。君ならすぐに嗅ぎつけると思っていたよ」

「お褒めに預かり光栄です」

 

 メガネが自身の眼鏡を指で押し上げる。その様子をタヌキはニタニタと笑いながら見つめていた。

 最初はメガネを切るつもりだったが、今はそんな考えなどない。むしろ、有能ならば利用できるところまで利用してやろうという魂胆だ。来年には世界大会へと向け、強化チームを作らなくてはいけない。現状、省内で戦車道に最も精通しているのはメガネだ。彼が作り上げた戦車道連盟に対するコネクションを、むざむざ捨てるのももったいないだろう。

 この事件の汚名は、現総理大臣に被ってもらおう。

 たかが女子高生の武装蜂起に、国家組織を動かし鎮圧に向かう。あまつさえ、鎮圧に失敗し、女子高生に被害が出ればさらに御の字だ。

 

「大臣が次に狙っているのは……総理の椅子ですか?」

「どう思うかね?」

「さて……ですが、私はあなたに付いていきますよ。どこまでも、ね」

「一蓮托生というわけか」

「私では役者不足かもしれませんがね」

「君で十分さ。私の新たなる野望を叶えるために働いてくれよ」

「御意……」

 

 西日が二人を怪しく照らし出す。

 タヌキは窓の外へ目を向けると、感慨にふけるように目を細める。

 せいぜい私のために狂喜乱舞してくれたまえよ、哀れな子羊。

 

 


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