Girls und Panzer -裏切り戦線- 作:ROGOSS
さてはて、あんこうチームがついに戦いを始めたわけですが…。
終わりまでのカウントダウンは着実の始まっていますね。
「あんた、なにやってんのよ! 西住みほ!」
我ながらなんてストレートな言い方なのだろう。
思わず苦笑が漏れた。
仲間が次々とやられ、頭に血が上っていたため口走ってしまったのだろうか? それとも、次は自分の番だと悟り、攻撃をさせないために突拍子のない言葉を無意識に言ったのだろうか?
違う、そうではない。そんなことはない。逸見エリカは……私は決して、臆病者ではないし感情的になりやすい質ではない。傍から見ればそんなことはないのかもしれないが、少なくとも今は驚くほど頭はクリアだ。現状を正しく、瞬時に判断できる。次に何が起こり、何をすべきなのかが手に取るようにわかる。
わかっているが、ここはあえて愚策を取る。
尊敬している元副隊長への……戦車道大会を終えて彼女との交流の日々で得た友情を、エリカは信じたいと思っていた。
性格は豹変しようとも、元は同じ人物なのだ。感情に訴えかけるのではない。もっと奥にある魂に、個我を形成する大元に私をぶつけるのだ。
『……見て、わからないのですか?』
「そうね。馬鹿なこと聞いたわ」
みほからの返事にエリカは再び苦笑した。
当たり前だ。そのような答えが返ってくるに決まっている。
むしろ、驚きなのはみほの乗るⅣ号の動きが止まったほうだ。
エリカは静かに後ろに続いていたティーガーⅡに合図を送る。
二度の点滅。手出し無用の合図だ。
「ねえ、もう、やめなさいよ。あなた……これ以上、どこへ堕ちるつもりなのよ」
『これ以上堕ちる場所などないからこそ、こうしているんですよ。逸見さんにはわからない。私がどんな気持ちだったかを』
そうね、私にはわからないわ。隊長と違って、自分が間違えたから責任をとるために蜂起軍に協力したわけでもない。あなたが黒森峰を去った時も、糾弾することはしても、あなたの気持なんか一切考えなかった。自分たちが手足であり、頭であるあなたの指示がなければ何もできないボンクラだと、理解しなかった。
「だけどね……」
今は違う。自分の頭で考えて動いている。考えた結果、私はあなたをこれ以上堕としてはいけないとわかったのよ。
「あなたが苦しんだ気持ちはわかったわ。だけど……それでも、あなたにまだ手を差し伸べてくれる人がいることをどうして気が付かないの!」
『手を差し伸べる……?』
「どん底まで堕ちたなら、助けてくれる人を探せばいいじゃない。必死に這い上がろうともっと足掻きなさいよ!」
『うるさい……うるさい! ここまで来させておきながら……今更感情論でどうにかなる問題じゃないことは私が一番わかっている!』
Ⅳ号の砲塔が静かにエリカの乗るティーガーⅠに照準を合わせた。
「何もしないで!」
怯える仲間にエリカは指示を飛ばした。
何もしてはいけない。何もしない。これは降伏ではない。私なりの、精一杯のアピールなのだから。
スローモーションで砲弾が迫ってくるのがわかる。自然と恐怖はなかった。絶対安全と呼ばれてるとはいえ、恐怖の感情がまったくないまま被弾するのを待つなど常人にはできない。
ならば、今のエリカは、はたして何なのだろうか? 聖母とでもいうのか? 否、彼女は常人に変わりはない。しかし、信念を持った人間は、どのような行動に対した結果が来ようとも受け入れることができるのだ。
「あとは任せました……隊長」
〇 〇 〇
「ふおおおおお! 吶喊!」
『了解!』
『What!』
『なぜ知波単学園がっ!』
突如現れた知波単学園の存在により、プラウダとサンダースの戦場は大混乱となっていた。
もはや、連合軍という枠組みなどどこの学校にも存在していない。
暴走を極めるノンナと自校の未来のためだけに戦うケイ。何を義としているのかはわからないが、とにかく正義のためにと駆け回る西。
砲弾は入り乱れ、照準など合わせている暇はない。
動くものはすべて撃つ。自然とできてしまった戦場のルールに、誰もついていくことができなかった。
「細見! とにかく撃て! こんなこと最初から間違っていたんだ!」
『し、しかし! 誰を撃てばいいのですか!』
「動くものすべてだ!」
『いきなり現れ……かき乱し……カチューシャ様の聖戦を侮辱したな!』
「何を言っているかまったくわからないぞ!」
ノンナの乗るIS-2が火を噴く。
装甲など無いに等しいチハに直撃すれば、撃破されることは必至だろう。
だが、神の悪戯なのか、それとも必然だというのか。IS-2の放った砲弾は、近くの崖からの落石により地面に叩きつけられ爆発を起こした。爆炎の中から急接近するチハ車に気が付いた時、IS-2は既に逃げ場を失っていた。
『なっ!』
「とまれえええええ!」
西すら意図しない体当たりにより、IS-2とチハが白旗を勢いよく上げる。同時刻、高みの見物を決め込んでいたケイの乗るシャーマンにも、どこから飛んできたのかわからぬ流れ弾がエンジン部分に被弾したことにより、白旗をあげていた。
こうして、元山周辺で繰り広げられていた戦いは終結を迎えたのだった。
勝者は存在しない。誰も笑うことができない、クソのような戦いだったと、当事者たちは思っていた。
しかし、後の祭り、後悔先に立たず。何をしていたのだろう、と自問自答したところでもう遅い。
彼女たちはしばらくの間、呆けたままただただ時が過ぎるのを待つしかできなかった。