Girls und Panzer -裏切り戦線- 作:ROGOSS
仲間を裏切り、自分だけいい思いをしようなどとすることはよくありませんね。
「後続のシャーマン部隊を前に出しなさい! 戦線を押し上げられるわよ! ナオミも急ぎなさい!」
『……了解』
なんだこれは? 私は果たして今、なぜ戦わなくてはいけないのだろうか?
目の前で撃ち合いを続けるプラウダ主力戦車のT-34シリーズとサンダース主力のシャーマンが、共に爆ぜていく。文字通り爆ぜていくのだ。本来ならば、攻撃行為を止めなくてはいけない白旗をあげている戦車に対しても、容赦ない砲撃が続いていた。
もちろんその要因の一つとしては、まだ乗員が逃げていないことを知っていながらも、味方が行動を停止している戦車を盾として使っていることが挙げられるだろう。
だが、本当にそれだけだろうか? この戦域には、人間が本質的に持っていなくてはいけない倫理観や道徳的観念が一切消失しているようにしか思えない。逆に、本能的な破壊行動や自衛には驚くほど素直だ。
たとえるならば、ここだけこん棒を振り回している原始時代にタイムスリップしてしまったかのような錯覚。
「あはは……私は何がしたかったのかしら……」
サンダース学園を再び一つにまとめ、後世にも名を残すような強豪校へと進化させる。もう、大会には出ることができない三年生の私にできる、唯一の手助け。
アリサとナオミを対立させ、自らも被害者のような顔をしておきながらも、アリサを許すことでナオミとの絶縁状態を終わらせる。二人の隊長の固い絆によって、サンダース学園は大躍進を遂げ、その名を日本だけではなく世界中に轟かせることとなる。
その成功まであと一歩だったはずだ。
あとは、有利な軍勢、最初から蜂起軍に勝ち目はないと思っていたが、連合軍の味方となり蜂起を終わらせる。
「それが……何よこのざま」
計算上では完全に成功していた。
しかし、人の感情まで計算に入れることを失念していた。
プラウダのカチューシャがまさかノンナに討たれ、ノンナがプラウダを率いて敵に回るなど誰が想像できるというのだろうか?
「因果応報ね」
業の深いことを犯せば、それは必ず自分へと返ってくる。
先人たちは何とよい言葉を残していたのだろうか。今の状況を説明する、私の計算式を破壊した最適な言葉ではないか。
「どちらが勝っても待っているのは破滅への道。それでも……私たちは勝つしかない。ここで負けてしまっては、本当にただの負け犬にしかならないじゃない」
『ケイ! また前線を維持できなかったわよ!』
「……全車後退。後方にある元山に陣取り、そこで迎撃するわ」
『Yes.ma'am!』
西住みほ……。
あなたがもし、この展開を読めていたのならば、私のしようとしていることがわかっていたのならば、あなたは本当に恐ろしいわね。ええ、疑いようもない正真正銘の……
「悪魔ね」
〇 〇 〇
「惨めですね」
「はい、醜態極まり……とはまさにこのことを言うのでしょうね」
「西住さんの計算のうちなんだろう? 今目の前で起きていることも」
「さあ、どうでしょうかね」
みほの笑顔に麻子は苦笑する。
あんこうチームの面々は、高台より眼下で無様にみほの手のひらで踊っているプラウダとサンダースの戦いを傍観していた。
もう間もなく、この舞台に知波単学園という新たな混乱の要素が加わり、より混沌とした喜劇となるだろう。
これは喜劇であり、決してみほが裏切られたという悲劇ではない。みほを裏切った者たちの主演による、みほがプロデュースした喜劇なのだ。
「本当、馬鹿な人たち」
「西住殿! 後方より土煙多数!」
「ようやく来ましたか。みなさん、戦闘準備です」
みほの声と共に各々が持ち場へと戻っていく。
ザッと数えて、泣く子も黙るドイツ製戦車が5台いるのがわかるが、今の彼女たちに負ける気など毛頭ない。
「
マイバッハエンジンが唸りを上げ、Ⅳ号戦車が向かってくる黒森峰戦車隊へと突撃していく。
「まずは一番右側のパンターからです」
「かしこまりました」
「冷泉さん、発砲後急旋回お願いします」
「わかった」
飛んでくる砲弾がまるで自ら避けていくかのような錯覚に囚われるほど、麻子の見事なドライビングテクニックで躱していく。すれ違いざま、Ⅳ号戦車がパンターへ向けて砲撃を開始する。
装填準備へと入っていたパンターは応戦することすら叶わず、エンジン部分を撃たれ白旗をあげた。
まもなく、Ⅳ号は急旋回をすると、今度は黒森峰の後ろをとる形となった。
黒森峰戦車隊は慌ててて方向転換するも、その間に二発の榴弾を叩き込まれ、ティーガーⅠ戦車が炎上し動きを止めた。
ここまでわずか3分の出来事である。
「残り3台。秋山さん、装填早くできますか」
「了解であります」
再び黒森峰戦車隊の攻撃が始まる。
だが、戦車5台の砲撃を躱しきる麻子にとって3台からの砲撃など止まっている蠅を打ち落とすよりも簡単なことだった。
「右へ!」
みほの命令でⅣ号が右へと進路を変える。
Ⅳ号の背後に隠れていた大岩に気付かなかった哀れなパンターは、そのまま乗り上げるとひっくり返り何もすることができないまま白旗をゆっくりと上げた。
「さあ、降参するなら今のうちですよ」
残っているティーガーⅠ戦車とティーガーⅡ戦車に静かに告げる。
そんなみほの耳に予想外の言葉が返ってきたのは、その時だった。