Girls und Panzer -裏切り戦線-   作:ROGOSS

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お待たせしました。
ようやく知波単学園が動き出します。
残り話数も片手の数(予定では)
少し今回は短めです。


偽善

「西隊長、お下知を」

「しかしな……」

 

 西が九死に一生を得てからはや数時間の時が経っていた。

 昨日に擂鉢山を陣取ってから、知波単学園はそこに止まったまま動きを見せなかった。別段、西に考えがあるわけではない。

 ただ、どう動くことが最も正しいことなのかを判断しかねていた。

 崖の下に落ち、T-150に乗っていた黒森峰生徒と話を交わし、ようやく今回の騒動の本質が見えかけていた。

 西からしてみれば、どうしようもない学校同士の喧嘩に巻き込まれたも同然だった。

 裏切りをしたわけではない。むしろ、大学選抜との試合では被害者に等しいはずだ。それなのに、文部省の役人に呼ばれ、良いようにこのまま使われ続けるのはあまりいい気分ではない。

 だが、蜂起軍に味方するというのも、またどこか違和感を覚えてしまう。今の世の悪に怒り立ち上がるまでは立派だ。しかしながら、そこまでの崇高なる気概がありながらも取っている行動は民主主義の元に成り立っている仮初めの平和を破壊するものでしかない。平和を愛し、平和を求めているはずであるのに、なぜ平和を壊さなくてはいけないのか。

 

「どちらに立とうとも、偽善でしかない。プライドのために戦うか破壊のために戦うか。私は……」

「西隊長……」

 

 先程まで詰め寄っていた玉田が口を閉じた。

 西が何を今考えているのかは、話さずとも理解しているつもりだ。

 

「危ない!」

 

 考えの海へと思考を漂わせているその時だった。

 福田の声が静寂を切り裂く。そして続く独特の落下音。戦車乗りならば、嫌でもわかってしまう。

 

「全員伏せろっ!」

 

 西の号令と共に巨大な爆発が起きる。大量の火山灰が巻き上げられ、空へと散っていった。第二第三の爆発が続いて起こる。直撃こそしないものの、着弾点は着実に知波単学園へ迫っていた。

 

「ここでうだうだと考えていることは許されないか……くっ、全員乗車! これより、我々も元山基地前へ進撃する! これは義のための戦いである! 己自身の忠に従え!」

「御意っ!」

 

〇 〇 〇

 

「聖グロリアーナが落ちました」

「……そう。案外持ったほうじゃないの」

 

 通信手にそう答えるとエリカは胸元のボタンを開けた。

 蒸れた体に冷たい空気がドッと入り込み、思わず身震いをする。

 もし仮に、ダージリンに見捨てられたと抗議されれば、反論の余地もない。しかし、それで構わない。私は今……いや、私たちは今、聖グロリアーナと乳繰り合うよりも大事なことが目の前にあるのだから。

 

「それにしても……」

 

 後ろについている窓から後続車を見る。

 別行動をとった際は一個中隊並みの戦力を有していたが、今はエリカの乗るティーガーⅡとティーガーⅠ、斥候に出ているパンターと殿(しんがり)を務めるもう一台のパンターの4台しかいなかった。

 激しい抵抗こそなかったが、局所的な戦闘が続いていた。

 タチの悪いことに旧元山基地へと近づくたびに蜂起軍からの抵抗は激しくなっており、砲弾と精神を極限まですり減らす地獄の時間が続いていた。

 

「でも、今更下がれないわ」

 

 エリカの言葉に操縦手が力強くうなずく。

 そうだ、彼女もまた私と同じ2年生。

 去年に起きた騒動も今年大洗女子に負けた試合も……そして、大学選抜との試合で起きた不正もすべて知っていた。

 どちらかというと彼女はまほの一派に属しているように見えたが。まほが離反した際、ついて行かなかった姿を見るとエリカが勝手に思い込んでいただけなのかもしれない。

 もっとも、エリカですらまほの行動が読めなかったほど、離反は予想外であり、時の女神の悪戯でついていけなかった可能性もあるが……。

 

「そんなことはどうでもいい」

 

 私が今、なぜ危険な賭けに出てまで敵の本陣を叩こうとしているのか。

 

「待っていなさいよ、元副隊長。私が……あなたを目覚めさせてあげるわよ」


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