Girls und Panzer -裏切り戦線-   作:ROGOSS

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週末更新と言いながら、遅れてしまい申し訳ありません。
ちょっと色々忙しかった次第であります…。


狼煙

「装填、急ぐべ!」

「操縦手もこっちを手伝うべ! どうせここを移動することなんてないんだべさ!」

「んだんだ」

 

 装填に二名を要する常識破りな砲弾をひたすら詰め込む作業が延々と続けられていた。

 みほから言い渡された命令は、旧元山基地と元山を繋ぐこの街道を絶対死守すること。前進も後退も認められてはいない。砲弾が尽きれば機銃で。それすら尽きたときは、車両で体当たりを仕掛け、最後には持ち込んでいるパンツァーファストで白兵戦を仕掛ける。一分一秒でも長く、連合軍の車両を街道に釘付けにして、一両でも多く撃破する。シンプルでありながら、命尽きるまで戦えという非道な命令。そんなことは、誰よりもKV-2の乗員がわかりきっていることだ。

 みほにどんな考えがあるのかは知らない。ただの囮として自分たちが扱われている可能性も十分にあることはわかっている。共に派遣された、パンターとT-29二両も疲弊しきっているだろう。

 だがしかし、帰る場所がない彼女たちはここで戦い続ける以外の選択肢がなかった。ジークハイル、ジークハイル・ヴィクトーリア。勝利万歳。勝利をつかむまで立ち止まらずに歩み続ける地獄からの帰還者。

 

「この戦い方は……カチューシャ様じゃないべ」

 

 ニーナがふと呟く。

 先ほどから、連合軍の攻撃は防御を一切捨て攻め続けるという力技に出ていた。誰よりも、KV-2を愛し、その力を理解しているカチューシャならば守りを捨てるなどという愚行をするはずがない。

 装填までに時間がかかる欠陥戦車であることは間違いないが、それと同等に並外れた攻撃力と防御力を有していることも知っているはずだからだ。

 ならば、今、目の前にいるプラウダ隊を指揮しているのは誰なのか……?

 

「あれは、ノンナ様の戦いだべ」

「それは本当だべか、アリーナ」

「間違いないべ。一度、模擬戦でノンナ様のチームになったことがあるからわかるべ。ソ連戦車の機動力と攻撃力を信じ切っているあの戦法は間違いないべ」

「……カチューシャ様はどうしたべか?」

 

 その答えを知る者はこの中には誰もいない。

 だが、むしろそれで良いのかもしれない。カチューシャ様と戦うことには正直引け目を感じていた。恨んでいるし、どうして信用してくれないのかという怒りの気持ちが今でもある。それでも、カチューシャ様がいてくれたおかげで今こうして、KV-2の乗れているという恩も忘れたことはない。

 カチューシャとノンナの関係だ。大洗女子を裏切るときも、二人は結託していたに違いない。ならば、ここでノンナを討つ理由としては十分だ。

 

「やっぱり……ここで戦う選択に揺るぎはないべ」

「んだべな!」

「装填完了だべ!」

「撃て……」

 

 発射命令が下されたその瞬間だった。

 唐突に、目の前にいるT-29は車体後部から煙を吹き出し始め、白旗を上げ、動きを止めた。同じく、もう一両も動きを止める。

 

「な、なんだべ!」

 

〇 〇 〇

 

『ノンナ様! これではいたずらに部隊損耗率を上げるだけです!』

「黙りなさい。反逆行為と見なしますよ」

『も、申し訳ありません……』

 

 側面から攻撃を仕掛けてきていたパンターを撃破したまでは順調だった。しかし、KV-2の砲撃の中一本道を進むとなると、どうしてなかなかそう上手くいくものではない。

 KV-2だけならば、じりじりと距離を詰めることで対処できたであろう。だが、護衛についているT-29の存在を考えると近づくことすら不可能に近かった。

 残った道は、砲撃戦を続け、蜂起軍の砲弾が尽きるのを待つくらいだった。

 

「そんなことは私のプライドが許さない」

 

 そんな姑息な手を使うなど、私の流儀に反する。カチューシャを押しのけてまで隊の指揮権を握った意味がない。

 ゆえに、ノンナを進撃を続けた。味方にどれだけの損耗が出ようとも構いわしない。要するに、最後の最後にKV-2を撃破さえできれば、勝利したことに変わりはないのであるから。

 

「T-29など……鎮圧部隊も余計な置き土産を……」

 

 そう嘆いた瞬間だった。

 T-29が煙を上げ、白旗を勢い良く上げたのは。

 発砲許可は出していないし、そもそもT-29はまるで背後を誰かに撃たれた様に見える。

 KV-2の誤射? そんな馬鹿な。発砲のタイミングをズラすことで、そのようなことが起きないように回避していたはず。ならば一体……?

 

『ノンナ様! KV-2の背後を!』

 

 その正体に気が付いた時、ノンナですら思わずKV-2に乗っているであろう元同志とみほに同情をした。

 二度あることは三度繰り返すどころか何度でも繰り返す。心に刻まれた、腐りきった負の感情は二度と離れることなく、その人の人となりを形成する重要な要素となる。

 

『ノンナ様……』

「サンダース大付属……あなたは二度目も西住みほを裏切ったのですね」

 


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