Girls und Panzer -裏切り戦線-   作:ROGOSS

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そして彼女たちもまた動き始めます。
それぞれの思いを胸に秘め…。


舞台裏

「よいしょっと……」

 

 知波単学園の生徒たちは最初、その声が幻聴か何かだと思っていた。

 丸一日彼女を待ち続けた。

 必死に助け出そうとしたが、どうにも上手くいかず、どうしていいか途方に暮れていた時のことだった。

 

「西隊長っ!」

 

 最初に西に飛びついたのは福田だった。

 あとは堰を切ったかのように細見、玉田、名倉と西へ駆け寄っていった。

 隊長の生還に誰しもが喜び、そして笑顔を見せた。しかし、当の西の表情は重い。後ろに続いて崖をよじ登ってきたE-100に乗っていたであろう黒森峰生徒たちなど下を向いたまま、まったく顔を見せようとしない。

 そんな彼女たちに、知波単生徒は一種の動揺を見せた。

 別に同情したわけではない。だがそれでも、涙を堪え必死に訴えようとする姿に心を打たれないかと言えば、揺れ動きそうになっていた。

 

「皆、聞いてくれ」

「西隊長……?」

 

 西が静かに口を開く。

 誰しもがその澄んだ声に耳を傾けた。

 

「私たちの仁義はこのままでいいのだろうか?」

「え……?」

「私たちは確かに蜂起軍を悪だと決めつけ動いてきた。だが……本当にこのままで良いのだろうか? 我々にも戦わなければいけない理由があるように蜂起軍にも戦うに足るだけの理由がある」

「つまり、西隊長は私たちにどうしろと?」

「……見守るんだ。崖の下で、蜂起軍と語り合い、私は彼女たちが全面的に間違っているとは思えなくなっている。元からこの戦いにはたしてどんな意味があったというのだろうか?」

「ならば……見守るとは果たして?」

「この戦いの行く末を見守り、そして後世へと語り継ぐのだ。我々の世代でどれほど愚かしい行為をしてしまったのかを。その果てに残ってしまった修羅を、二度と鬼を生み出さぬために」

 

 西の言葉を理解できたものは誰一人としていなかった。

 それでも、彼女が何を言いたいかを察することはできた。

 全ての元凶となった大学選抜チームとの試合。その試合で中立な立場に立っていた知波単学園(かのじょ)たちだからこそ、西の言葉の真意をわかろうとしているのかもしれない。

 

「わかりました……。西隊長がそうおっしゃるのでしたら」

 

 知波単学園の全員が頷く。

 

「我々知波単学園は、これより一切の戦闘行為を停止する。なお、自衛のためのみ戦闘行為は認める。ここはまだ戦場(じごく)だ。全員、気を抜くな」

 

〇 〇 〇

 

「……全員、行ったわね」

 

 元山基地、現在は蜂起軍の拠点となっている場所のガレージでケイはあたりを見回しながら呟いた。

 ケイの後ろでは仏頂面のナオミと捕まっていたはずのアリサ、そしてサンダース学園の生徒たちが静かに時を待っていた。

 

「ケイ、本当にいいのか? あなたが受けた仕打ちはあまりにも……」

「いいのよナオミ。高い授業料になってしまったかもしれないけれど、これでアリサが二度と道を踏み外すこともないでしょう。私がいなくなったあとのサンダースもノープロブレムね」

 

 それぞれの思いが交錯する硫黄島。

 秘密を守るため、尊敬する人を取り戻すため、仲間を庇うため、未来を変えるため、旧秩序を破壊するため。大きな理想とは対照的に、ケイが導き出した答えはサンダースの未来を守ることだった。

 最初こそ、アリサのあまりにもひどい行いに嫌気が差し蜂起軍へと参加していた。だがしかし、いざ参加したところで何かを変えられることが出来るのだろうか? 武力による訴えは恨みしか生まない。そこには希望という甘美な答えは絶対にない。

 ならば私のやることはただ一つ。私にとっての陽だまりを、サンダース学園をもとの姿に戻すだけ。アリサを更生させ、今度こそナオミと力を合わせ、より良い学園の形を作ってもらえるよう学んでもらう。

 みほには申し訳ないが、私は日本の未来よりもサンダースの未来しか考えることができない。再び裏切ることになるが、出してしまった答えを今更ひっこめるつもりはさらさらない。

 

「まったく、都合のいい女なのかもしれないわね。私は」

「ケイ?」

「何でもないわ。全員、準備はできているわね?」

 

 後方で遊撃隊としてサンダース学園の生徒は控えていた。

 この島から逃げ出すならば全員一緒で。誰一人置いて行ったりなどしない。

 戦いを終わらせるためには、連合軍と蜂起軍。どちらに味方すればいいかは明々白々の事実だ。

 この基地にサンダース学園を追うだけの人員と装備はない。だから、ここで……

 

「これよりサンダース学園は全員、連合軍へ味方をするわ。後方より蜂起軍の背後を突き、連合軍の進撃を援護する。わかったわね!」

Yes,mme(イエス・マム)!」

「乗車開始!」

 

 二つに分かれていたサンダース学園の生徒たちが手を取り合い、それぞれの愛車へと乗車していく。

 

「ごめんなさい。本当にごめんなさいね。私はいやらしい女。あなたの一世一代の賭けを自分のために利用したの。反省するわ。お詫びもする。だけど……後悔だけはしたくないから」

 

 愛車のシャーマンに乗りながらケイは言葉を紡ぎだす。謝罪であり自分の決意を新たにする言葉を。

 

Tanks advance(戦車前進)!」


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