Girls und Panzer -裏切り戦線- 作:ROGOSS
長いようなアッいう間のような。
すべて読者様のおかげです。
本当にありがとうございます。
そして、ラストまでお付き合いいただけるとありがたいです!
再び砲撃音が響き渡る。
間一髪のところで躱した1号車に爆発によって巻き上げられた大量の土砂が降りかかった。
火山灰によって出来た地層だからなのか、舞い上がった砂埃は一向に晴れる気配を見せない。天然の煙幕によって視界をふさがれているカチューシャ達は、いつも以上に狙いを定めて応戦するしかなかった。
チャンスはただ一つ。次弾装填までのタイムラグを狙ってKV-2を破壊するしかない。
その間にあの屈強なボディを射抜くだけの何かをしなくてはいけないのだ。
しかし、実のところカチューシャは未だに逆転の一手を思いつかなかった。徹甲弾で抜くにしては距離が離れすぎている。近づけば、152mm砲の餌食になるのは間違いないだろう。
榴弾では決定打を与えることができない。だが、もし榴弾によって戦車の駆動系または砲撃のための照準器などを破壊することができれば、まだ勝機は残っているかもしれない。
ならば、残っている選択肢は一つ……のはずであるが、その方法すらとることは難しかった。
「なによ……また……!」
砲撃の終わったKV-2を守るように、左右から二台のT-29が現れ壁となり砲撃を行う。実質、カチューシャ達は常に被弾の危険性があった。悠長に照準を定めている暇などない。あのノンナですら、今は手こずっているようだ。
「全車前進っ! このままここにいても埒が明かないわ! 少しでもコッチの有効射程距離に誘い込むわよ!」
『了解っ!』
じりじりと距離を詰めていくプラウダ戦車隊。
だが、まるでそれを嘲笑うかのように蜂起軍の砲撃は激しさを増し、一台また一台と白旗を上げていくプラウダ戦車が増えていった。
退くとしても何の遮蔽物のない道を敵に背中を向けながら後退しなくてはいけなくなる。ならばせめて、少しでも頑丈な作りになっている正面を向け前進したほうが安全だった。
誰かが「あえて戦車群に突っ込んでいくほうが危険がない」と言っていた気がする。
「誰か……お願い、私たちを助けて」
撃破される仲間を見てカチューシャは願い、そして同時に何かを悟る。
そうだ、これは西住みほの気持ちなのだ。
何でもいい、誰でもいい、力を貸してほしい。今だけでも、一瞬だけでも、この時を守るために私と一緒に立ち上がってほしい。
そう信じて願った思いを私たちは踏みにじったのだ。その希望を利用して、さらなる絶望の底へと陥れたのだ。
つまりは、これこそが因果応報。
なるべくしてなった事であり、いつか迎えるであろう報い。
たまたま今がその時なだけであっていつか来るものなのだ。ならば、その因果を否定するためみほと同じく
否、断じて否。そこまで出来る度胸も勇気もない。中途半端な言い訳を用意して逃げ回ることしかできない
『カチューシャ! 気をしっかり持ってください!』
「……いいのよ、ノンナ」
『な、なにを言って……!』
「こうならなきゃいけないのよ。誰が間違っているかなんて明白でしょ……?」
無線が沈黙する。
ノンナとしてもどう答えるべき迷っているのだろう。願わくば、いつものノンナに戻ってほしい。この島に来てからの彼女は常軌を逸している。
だが、返ってきた答えはカチューシャの望むものとは程遠い解答だった。
『そんなわけない』
「ひっ……!」
3年間彼女と付き合いがあるが、ここまで心がこもっていない答えを聞いたことがあるだろうか?
ブリザードのノンナ。そんな異名を彼女が持っていることは周知の事実。しかしながら、それは試合中の話であり、いつどんな時でも決してブレずに冷静な性格であることからつけられた二つ名だ。
決して感情を殺した者に対して揶揄する言葉ではない。
そのはずなのだが……。
『あなたはいったい誰ですか?』
「いったい何を言って……」
『あなたはカチューシャの皮を被った別人だ。カチューシャはこんなところで諦めたりしない。あなたは、偽物だ』
衝撃が一号車を襲う。
発砲したのは蜂起軍はない。
後方に続いていた、ノンナの乗る二号車だった。突然の出来事のあまり、誰もノンナの暴挙を止めることができなかった。
「やめなさいっ!」
『あなたは誰だ! ウラル山脈より高い理想とバイカル湖よりも深い思慮を持っているカチューシャではない! 出ていけっ!』
「ノンナッ!」
一号車の白旗が勢いよく上がる。通信は切られていた。
呆然とするしかカチューシャにはなかった。何がいけなかったのか? これが信じている者に撃たれる気持ちなのか。
『同志カチューシャの悲願を達成するため我々だけ進む。文句のある者は名乗り出よ。粛清の名のもと、敗北主義者を駆逐する』
ノンナの声に対して誰も異を唱える者などいない。
たとえ、世界を征服するとノンナが言ったとしても、今の彼女ならやりかねない。従うしか、残ったプラウダ生に選ぶ道はないのだ。
「ノンナ……」
カチューシャは小さく呟く。その目から涙が溢れだしたのは数秒後の話だった。