Girls und Panzer -裏切り戦線- 作:ROGOSS
いよいよもってあの戦車の登場ですね。
どのように撃破していくのか。
お楽しみにしていただけると幸いです。
「いいわね! 今の相手は同じ黒森峰じゃないわよ!」
『はいっ!』
ティーガー同士が激しくぶつかり合う。
お互いに機動力の高い車種ではない。
それゆえに、堅固な防御力と生半可な戦車を一撃で吹き飛ばすだけの攻撃力を持っている。
もっとも、今回に限って言えば山頂から下ってきている蜂起軍のほうがやや有利なのかもしれない。
しかし、地形の有利をわざわざ無視してまで下ってくるというなら迎え撃つしかない。
『敵ティーガー一両撃破! なれど、我々も一両撃破されました!』
「こちらにはまだ、車両のスペアがあるわ! 一車両に二両で対処する集団戦法で戦いなさい!」
『
エリカの乗るティーガーが黒いティーガーを撃破する。
いったい、これだけの装備と人員をどこで集めたというのか。
各校から離反していく生徒に続いて、その後も何十人ともいえる生徒が戦車を持ち離脱していく事件が起きていることは知っていた。
だが、ティーガー戦車の運用だけでも最低5名は必要なはずだ。
それが7台ともなれば……。
「それだけ、今回の反乱に何かを思う生徒が多いということなのね」
『隊長! 敵が退いていきます!』
「退いていく? まだ拮抗しているだけじゃない、どうして退却するのよ」
『今しかありません。弱点であるケツを向けている今ならば、撃破できます。小隊前進!』
「待ちなさい!」
エリカの声に返事はない。
おかしい、何かがおかしい。あれだけ威圧感を放っている野戦砲が、わずか2発放っただけでなぜ沈黙している? 僅か2発で弾切れを起こしたのか? 違う、そんなわけがない。装備も人員もカツカツな蜂起軍なら起こりうる事象は……。
「野戦砲の人員が別のところへまわった?」
エリカは咄嗟に語気を強め再度停止命令を下す。
このタイミングで黒森峰から消えたあの戦車が出てきたとしたら、それは最悪の状況になったと言えるだろう。
今の装備で時速40km/hで走る巨神を倒す術などないのだから。
『あ、あの戦車は!』
山頂を上っていたティーガーⅡに150mm高速徹甲弾が炸裂する。
為す術なく攻撃を受けたティーガーⅡは白旗を揚げ行動を停止した。同じく隣を走っていた車両も白旗を揚げることとなった。
『あの戦車はっ?!』
「E-100。黒森峰で運用しようと検討していた車両よ。西隊長、厳しい戦いになるわ」
○●○●○
「エリカか……」
野戦砲の存在を認め、すぐさま破壊しようと行動する姿を見てまほは一人、敵が誰なのかを認識する。
エリカに対する後ろめたさが無いといえばウソだ。仮にも、一学校の隊長の身でありながら、隊員をほっぽり出し私情で行動しているなど許されざることだろう。
それでも後悔はない。いや……後悔してはいけない。自分の行動に後悔はなくとも、妹の今の姿に絶望した事実を認めたくはない。
「頃合いか」
岩の陰から覗いていたまほは、咽頭マイクに手を伸ばす。
「よくやった。先鋒部隊は撤退を開始」
共同戦線を張るはずであったケイとナオミには、すでに後方へ退避してもらっていた。
この山を取られようとも、今回のみほの作戦に大きな支障はない。ただの消耗戦に持ち込まれれば、
ならば、切れる手札は早々に切っておいて損はないだろう。
「E-100。発進せよ」
まほの後方から巨大な影が現れる。
マウスの対抗馬として生産される予定だった、ドイツ第三帝国の誇る超重戦車。
装甲の傾斜は垂直から60度もあり、マウスよりも攻撃性・防御力・機動力が大幅に改善されている、まさに化け物戦車。
「こんなものまで持ち込まなければいけないとはな」
当初の予定では、損害なしでこの場を切り抜けるはずであった。
それを集団戦法によって、数少ない重戦車をいとも簡単に撃破していくエリカの戦術に驚きながらも、素直に嬉しくまほは思った。
「エリカ、お前は十分私の手から離れていい頃合いなのだ。私がいなくとも、黒森峰を引っ張ることが出来るだろう。だからこそ……」
まほは自車両に乗り込む。2年以上乗ってきた愛機だ。それなりの思い入れもあるし、こんなところへ連れてきてしまって申し訳ないという気持ちもある。
車内を静かに見渡す。
共に釜の飯を食べ、戦車を愛した仲間達がまほの気持ちを感じ取り静かに頷く。
老兵はただ去るのみ。
みほにとってもエリカにとっても、私が去ることで大きな変化があるというのならば喜んでそれを受け入れよう。
だからこそ、エリカ。お前の今の全力をぶつけてこい。
「これが、お前にとっての最初で最後の壁だ」
「車長、そんな怖い顔をしないでくださいよ」
「私たちはここまで来ましたけど、みほさんには魂を売っていませんよ。最後まで、車長にお供しますから」
「ですけど、みほさんの行動によって不正が消えることを願っていないわけではないですけどね」
「それは、残りの学校にきっちり仕事してもらうとして……私たちは私たちにしか出来ないことをするしかないっしょ」
「そうだね」
「いいのか。ここまで私の我儘に付き合わせておいて」
「何言っているんですか。車長だから付いていきたくなるんですよ」
「……なるほどな」
ティーガーⅠに火が入る。
ブルルというエンジン音がすると、心地よい振動が伝わってきた。
「行くぞ。戦車前進」