Girls und Panzer -裏切り戦線-   作:ROGOSS

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さて、いよいよ蜂起軍も攻撃を仕掛け始めました。
皆様のご感想が本当にありがたいです。



爆走

「さぁ、行きますわよ! バニラとクランベリーは前進! 撃ちまくりなさい!」

 

『了解!』

 

 漆黒のクルセイダー3輌とBT-42が連合軍の橋頭保へと侵入を開始する。

 突如現れた疾風の殺戮者の登場に連合軍は総崩れ。

 応戦しようと戦車に乗る者もいるものの、狙いすまされた6ポンドの砲撃が履帯を切り裂き、動かすこともままならないまま、追従するBT-42に白旗を揚げさせられる始末となっていた。

 

「最っ高ですわ! 全車、このまま駆け抜けますわよ!」

 

『ふふふ、まったく。スピードの御曹司の異名は、もう誰かが使っているものかと思っていたよ』

 

「んん? 継続様、何かおっしゃいましたか?」

 

『いいや、何でもないさ』

 

 縦横無尽に駆け回る強襲部隊はついに、連合軍主力戦車へと毒牙をかけようとしていた。

 しかし、そう簡単に勝負など決まらないのが世の常である。

 突然の地響きにローズヒップは停車指示を出す。

 数十メートル先から巨大な煙が、暗闇の中でもはっきりと見えていた。

 

「何ですのあれ?」

 

「ローズヒップ様! あれは知波単学園ですよ!」

 

「知波単学園にあんな戦車がありまして?」

 

 再びの砲撃音。

 直撃はしなかったものの、一台のクルセイダーの真横に弾着すると、まるでまな板の上で最後のあがきを見せるタイのように小さくクルセイダーは跳ね上がった。

 

「あの巨体……マジですの!」

 

 第二次世界大戦中、同盟国であるドイツの超重戦車を参考に作られた純国産超重戦車。その重さは120tとも150tとも言われており、搭載されている主砲は105mm。

 装甲厚は200mmもあり、ほぼ無敵の防御力を誇っていた。対ソ連用の重要な兵器であり、本土決戦では、走行不能になった車両を土に中に埋め要塞として扱うことが計画されていた。乗務員が立って移動できるほどの広さがあり、伝説の兵器と言われているそれは……。

 

『へぇ、あれがオイ車』

 

『売ったら、すごく高そうだよね。それに……戦力にもなるだろうし』

 

 不穏な会話が耳に入ってくるも、ローズヒップはすぐさま無線機を取り次なる命令を下す。

 

「全車、撤退! 引きますわよ! ここで戦っても無意味ですわ!」

 

 こうして一台の戦車の登場により蜂起軍の夜襲は終わりを迎えることとなった。

 しかし、連合軍の被害は大きく、ただ本気のスピードを出したいという純粋な願いを持つ少女の夜襲は成功したといっても過言ではなかった。

 

○●○●○

 

「派手にやられたわね」

 

「はい。もう闘いは始まっていると、我々に戒めているかのような攻撃でしたね」

 

「カチューシャ様。どうされますか?」

 

「とりあえず、動けるようにしてちょうだい。プラウダだけこんなに被害を受けてるからって、足手まといにされるのはごめんよ!」

 

Понял(りょうかい)!」

 

 去っていくクラーラの背中を見つめながら、カチューシャは大きな溜息をつく。

 まったく、士気なんてあったものじゃないわ。ただでさえ、今回は無理矢理連れてきているのに、まともな休憩を取らせることも出来ないじゃない。このままじゃ……

 T34・T34-85・KV-1共に3両走行不能。その他にも、今回島へ持ってきている主力戦車のほとんどが何かしらの損害を被っている。

 心配そうなノンナの視線が痛い……。

 カチューシャはわざと視線を逸らすように明後日の方向へと目を向ける。

 遠くから大きく手を振りながらこちらへ近づいてくる影に気が付くと、カチューシャは仏頂面を浮かべる。

 今回の作戦で最後まで参加を渋っていた生徒だったからだ。

 

「カチューシャ様!」

 

「失礼でしょう。まずは私に話を通しなさい」

 

「まぁ、いいわ。それで、何の用かしら?」

 

「カチューシャ様、備品は……確認されましたか?」

 

「どうしてそんなことしなきゃいけないのよ」

 

 訝しむカチューシャに隊員は慌てたように説明を始める。

 内容は無茶苦茶であり、とても信じられるようなことではない。

 それでも、真剣に話し、怯えている隊員の訴えを自らの物差しで測り無下にするほどカチューシャは無能ではない。

 

「つまり、どういうことよ。簡潔に言いなさいよ!」

 

「真水が消えたんですよ! それに、歩哨に立っていた生徒もどこか具合が悪そうですし! 出たんです……出たんですよ!」

 

「同志。カチューシャ様がおっしゃられたよう、簡潔に言いなさい」

 

「幽霊が出たんだ! 水を求めるかつての英霊が出たんだ! 私たちの行いを罰しに来たんだ! もう、お終いだ! 呪われたんだ!」

 

「……何をバカなことを」

 

「本当なんです! もう、帰りましょう! 私以外にも帰るのを願っている人は多くいるんですよ!」

 

「それは誰だ」

 

「私の同じ車両の人たちですけど」

 

「そうですか。ありがとうございます」

 

「ぐっ……!」

 

 一瞬の出来事であった。

 カチューシャの肩をつかみ懇願している隊員の鳩尾にノンナは鉄拳を加えると意識を奪い去った。

 

「ノンナ……?」

 

「ほかの隊員も呼びましょう」

 

「ノンナ! 何してるのよ、あなた」

 

「カチューシャ様。これは士気にかかわります。くだらない妄想をベラベラと話すような隊員を放っておくわけにはいかないのでは?」

 

「だからって!」

 

 その時、ノンナはカチューシャに初めて笑みを見せる。

 彼女もまた既に狂っていることをカチューシャは、理解していなかったのだ。

 

「これは正義の戦いです。負けるわけにはいかない。カチューシャ様の選んだ正義は絶対です。私達はそれを証明する道具に過ぎないのですから。ですから……負けないでくださいね、カチューシャ様」

 

 


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