Girls und Panzer -裏切り戦線- 作:ROGOSS
扱える者が出てくるまで、その寂れた場所でポツンと鎮座しているしかないそれ。
私の大好きな戦車。
「誰ですの?」
扉が開き、彼女は入ってきた。
私には彼女が天使に見える。
やっと、この子を使える人が出てきたのだから。
「Girls und Panzer side 聖グロリアーナ ペコッ! オレンジペコとローズヒップの出会い」
8月1日より地球以外でロードショー
あなたはスピードがお好きですの?
横須賀の港から出向して、すでに2日は経っているだろうか。
船内の雰囲気は重い。
誰もが俯き、
アリサとカチューシャに関しては、どんな時でも暴君っぷりを発揮しているが、カチューシャにはノンナとクラーラという近衛がいるから良いにしろ、アリサは誰からも見捨てられているように西には見えた。
西もまた、知波単のメンバーを連れて部屋の隅で一人どうしようもない気持ちを抱えていた。
「私の決断は間違っていたのか……?」
みほと国。
どちらに義があるのかと問われれば、間違いなくみほにあるだろう。汚職と欺瞞にまみれた国に希望を抱くなど、土台無理な話である。
西の小さな呟きに返ってくる答えはない。
西はため息をつくと、数日の前のことを思い出した。
○●○●○
「アヒル殿、お久しぶりですな!」
福田に呼ばれ、何かと思い応接間まで付いていけば、そこには信愛すべきアヒル殿こと磯部が呆然と座っていた。
いつものバレー部のユニフォームではなく白いワンピースを着ている。
その様子は可憐な乙女そのもので、いつも根性と叫び続けているなどと想像すら出来ない。
「西さん……」
「さぁ、座ってください。私もこうしてあなたとはしっかりとお話がしたかったんですよ」
西は磯部に座るように促した。
福田は気を利かせ、よく冷えた麦茶を二人の前へ置くと部屋を出て行った。
これは……。
一向に話し出そうとしない磯部に、西はまさかと考え始めた。
心当たりがないといえば嘘となる。
大洗女子学園の正式な廃校が決まり、このタイミングで戦車道の試合を申し込みに来るわけもない。
ならば……
「西さん。私が今日来た理由がわかりますか?」
「はっきりとわかりませんが……」
「今から言うことは到底信じられないことかもしれません。だけど……一片の嘘もない、紛れもない事実です。ですから……信じてください」
「……承知いたしました」
磯部は静かに語り始めた。
その内容は確かに信じ難いことだ。
だが、みほならば、あれほど仲間と学校を想うみほならば、そこまでのことをしてしまうのかもしれない。
「私は西住さんを尊敬してます。彼女と一緒に戦車道をやれて良かった、彼女に付いて行って良かった。心の底からそう思っていた。確かに、大洗女子は廃校になってしまいますが、西住隊長を恨んだことなんて一度もない。だから……だからこそ……やめて欲しいんです。復讐なんてしないでほしい」
「……そうですね」
「例え学校がなくなっても、離れ離れになっても、また会うことはできる。その時に笑顔でいたいんです。今のままでは……それが叶うことはない。一年生はすっかり塞ぎ込んでしまったし……他の人達も元気がありません。生徒会だけは、何やら動いているそうですが……私も、ただ待つことができなくて……」
「敬愛している方が修羅の道へと堕ちてしまうのは悲しいものです」
「西さん、単刀直入に聞きます。西住隊長から、蜂起に協力して欲しいという知らせは受けましたか」
やっぱりそういうことか……。
自分たちの進路すら定かではないというのに、心配されているみほ。
羨ましい限りだ。
仲間思いの良い隊長なのだろう。
素直に尊敬する。私もいつかそのような隊長となりたいと憧れすら抱く。
だけど……私は……
「申し訳ない!」
突然頭を下げる西に磯部は困惑の表情を浮かべた。
「どちらに義があるのかは、私もわかっています。しかし……それでも……私は西住隊長と共に闘う道を選ぶことはできない。私は今、知波単学園の隊長であり、その責任をまっとうしなくてはいけない。私がどれだけ、共に闘うことを選びたいとしても……仲間を巻き込むことは出来ない」
「……よかった。協力しないようにお願いしに来たんです」
「え……?」
今度は西が困惑の表情を浮かべる番となった。
磯部は安堵の表情になる。
「西住さんが私達のために闘う道を選んでくれたことはわかっています。だけど……やり方が間違っていると思うんです。正直……武装蜂起なんて失敗すれば良いとすら思っている」
「それは……」
「最低ですよね、私」
「そんなことはありません。磯部殿は、今でも西住隊長を想っているではないですか」
「そう言ってもらえると何だか安心します」
「お任せください。不肖、西絹代。西住隊長には手を貸さないことをお約束いたします」
「ありがとうございます!」
磯部が手を差し出す。
西はその手をがっちりと握ると、硬い握手をした。
西は決断したのだ。
戦友といえど、間違っていることをしているならばしっかりと否定して正さねばならないと。
英断したのだ。今は、目の前にいる仲間も大切にしなくてはいけないと。
その判断に迷いも後悔もない。その時までは。
数日後、タヌキに呼ばれ、武装蜂起を知っていながら通報をしなかったとし隠蔽罪を言い渡され、良いように使われるとは思ってもいなかった。
西の苦しい思いで下した決断は、こうして利用されることになったのであった。