Girls und Panzer -裏切り戦線- 作:ROGOSS
どうなのでしょうか。
早くドンパチ見たいですか?
調べを進めていくうちに、私は首謀者と思われる西住みほの姉であるまほとコンタクトを取ることができた。
当初は取材を拒んでいたが、懸命なる交渉の結果、写真の掲載など現在の職業などの個人情報を公開しないことを条件に約束を取り付けることができた。
都内のあるカフェで私達は会うこととなっていた。
約束の時間よりも30分以上前から、彼女はいたようだ。
私が遅れてくるような形になってしまい、謝罪をすると硬い表情のまま彼女は挨拶を返してきた。
どこか私を見ていないような、宙を舞ったままのような目線が気になったが特に聞くことはしなかった。
聞いてはいけないと、私の中の警鐘がうるさいほど鳴っていた。
彼女は既に結婚しているらしく、取材は手短に済ませることとなっている。
私は注文もそこそこに、早速始めることにした。
「改めまして、週刊文冬の芳野と申します」
「西住まほです。と、いっても旧姓ですが」
「いえいえ、では、まほさんとお呼びしてもよろしいですか?」
「かまいません」
「では……あなたは西住みほさんの実姉であるということですが、率直にお聞かせください。妹さんの行動について、どのようにお考えでしたか?」
「それは……」
「まほさんも参加していたことは調べがついています。私は誰が悪かったのか、誰が正義の味方だったのかなどということを知りたいわけではありません。ただ、あの島で起きた真実を知りたいんです」
まほは唇を噛み締めたまま沈黙を続ける。
私は根気よく待ち続けることにした。
どれだけ時間が経っただろうか。運ばれてきたアイスコーヒーの氷が全て溶けかける頃、彼女はゆっくりと話し始めた。
「私は……みほの行動が正しいとは今でも思っていない。あれは……間違っている。確かに、みほの行動の結果、みほの望んだように文科省、戦車道連盟から膿は取り除かれたのかもしれない。それでも……」
「それでも?」
「私は……すまないが、これ以上は答えたくない」
「わかりました。辛いことを思い出させてしまい申し訳ありません」
「いや……良いんだ……」
その時、私は気付いた。
まほが「みほ」と言葉にする度に小刻みに震えていることを。虚ろな目に恐怖の色が滲むことを。
その特徴を持つ人を私は、今までの記者経験から知っている。
その共通点は恐怖だ。
西住まほ。西住流の後継者となるはずだった彼女は今、実妹に怯えているのだ、恐れているのだ。
その理由は聞いてはいけない。
それは開けてはいけない、心のパンドラの箱なのだから。
「質問を変えます。まほさんはあの時、あの島で何をしていたのですか? そもそも、どうして協力をしたのでしょうか?」
「私は……みほが修羅の道へと墜ちてしまうことを阻止したかった。みほはそんな風になってはいけないんだ。優しくて、大らかで、どこか抜けていて……引っ込み思案だけど、どこか支えたくなるような、付いていきたくなるような不思議な感覚を持っている……それがみほなんだ」
「変わってしまったと? まほさんはみほさんがそうではなくなってしまうと思ったので、それを止めるために島へ行ったというのですか?」
「そう……なるな。結果としては……私は救うことができなかった」
「ちょ、ちょっと待ってください」
私は取材ノートをめくった。
誰からの証言でも、最後にみほを〇〇めたのはまほだと書いてある。
そして付け加えるように、家族だからこそ成し得たことなのだとも。
そうであるはずなのに、当の本人は出来なかったと言うのか? クーデターは終息したはずであるのに、その立役者はまほであるはずなのに。
どうして大きな矛盾が生まれてしまう?
「まほさんがみほさんを〇〇たのですよね? でしたら、目的は果たせたのではないのですか……?」
「本当にそう思うのか?」
「えぇ……そう思いますが……」
「芳野さんは、何をもって救ったと言っているのですか? 無意味な行動をやめさせること? 憎しみを暴力で返す愚行を終わらせること? 違う。そんなのは気休めにしかならない。私が本当にしたかったことは、みほの心を救いたかったんだ」
「で、ですが……みほさんは今……」
激しい剣幕と鋭い眼光に気圧され私は口を噤んだ。
激怒されるようなことは言っていないはずなのだが……。
混乱している私に、まほは溜め息をつくと立ち上がった。
なぜか止めようとする気は起きない。
「一度みほに会ってみるといい。私の言っている本当の意味がわかるはずだ。それでもなお、私がみほを救えたなんて言えるのなら……」
言葉を切り、まほは私を一瞥する。
憤怒ではなく哀れみさえ浮かべている瞳だった。
「あなたは記者失格だ。見る目がなさすぎる」
私とまほの取材はそうして終わってしまった。