Girls und Panzer -裏切り戦線- 作:ROGOSS
で、艦これものでアップすることを決めたので、ご興味があるかたはぜひ……(突然の番宣!)
ガルパンの劇場版は、9月20日まで延びましたね。
いやぁ、すごい!
機会を見て、見に行きたいと思ってます。
捕虜であるのか、人質であるのか。
その処遇は定かではないが、WTFC隊員の扱いはまずまずのものだ。
味はともかく三食必ず支給され、縄で縛られているわけでもない。
部屋の外に見張りが立っているためか、鍵すらかかっていない始末だ。
だが、誰もがおとなしく反乱軍の言うことを聞いていた。
女子高生ごときに屈服させられるなど屈辱の極み、という思いを抱きつつも天音の停戦及び全ての反抗行為を停止せよ、という命令を健気に守る姿は、なるほど練度の高い部隊であることを示している証と言えるだろう。
しかし……時に、人は迷う。
迷った人はどこへ向かうのか。
多くの人は、自分が救われる道へと進む。甘い誘いに、どれほど悪だとわかっていようともその囁きにのってしまう。
さながらそれは、蛇の誘惑に負け、禁断の果実を口にしたアダムとイブであろう。
たとえ、どれほど厳しい罰が待っていようとも人は一瞬の救いを求める愚かな生物なのだ。
ゆえに、継続高校の突然の襲来によって、その立場が危うくなっている当時の現場指揮官もまた、ヘビのようなあの狡猾な男の言葉に心を動かされていた。
●○●○●
『島に行き、あなた方が捕らえられたとしましょう。あなたは、どうするおつもりですか?』
『隊長の命令に全て従います』
『ほぉ……素晴らしい結束力だ。思わず拍手を送りたくなりますね。ですが……それで本当によろしいのでしょうか?』
『それは、どういう……?』
『この話はあくまでも、あなた方が捕まった場合だと認識していただきたい』
『はぁ……』
『今でこそ、襲撃事件でのあなたの責任問題は反故となっていますが、一連の事件が終息を見せれば、次はあなたの番です。あなたが、責任を取る番なのですよ?』
『それ、は……』
『さらに、この話の前提であるようにあなた方は作戦を失敗している。あまつさえ、捕まるなど大失態だ。はたして……その時、あなたにはどれだけの問題追及がされるのか……この世界で生きて行けるのか……』
『……どうすれば』
『何ですか?』
『どうすれば……良いと思いますか……』
『簡単な話ですよ。あなたが終止符を打てばいい』
『私が……?』
『えぇ、囚われの身となったWTFC隊員を救い、反乱軍を鎮圧する。素晴らしい、世間はあなたを評価するでしょう。そして……ゆくゆくは、あなたがWTFCを率いる』
『私……が隊を?』
『えぇ、いつまでも現場指揮官の椅子で甘んじることはありません。あなたには、素晴らしい才能がある。ですから、私はあなたを支持しているのですよ。英雄になる気はありませんか?』
●○●○●
「私が……英雄になる……」
メガネの言っていた事がどこまで信用に値するかはわからない。そもそも、そんなことはどうでも良い。
私がこの窮地を救い英雄となる。責任を問われることなく、賞賛の拍手を浴びて凱旋する。
この隊をまとめるのが私……私が率いる部隊……。
現場指揮官は束の間、自分が隊長車に乗り指揮をする姿を思い浮かべる。
もう、上からどうこう言われることはない。失敗を恐れることはない。
私がトップになるのだ。そうだ……だから私が……!
現場指揮官はゆっくりと立ち上がると、扉に近づきノックをした。
すぐに扉が開かれ、虚ろな目をした少女が顔を見せる。
「トイレに行きたいのだけれど」
「何人ですか?」
「3人よ。早くしてちょうだい、もう漏れそうなの」
「……わかりました」
少女は扉を開け、3人を外へ出した。
もちろん、現場指揮官が既に根回しをしている。
英雄という言葉に魅せられた3人は、脱出経路や救出経路を覚えながら進んでいく。
自分達が行動を起こせば、残りの隊員も動き出すはずだとどこかで信じ切っていた。
天音隊長も、今は臆病風に吹かれて待機命令など出しているが、自分達が動き出せば必ず、その手腕で反乱軍など一掃してしまうだろう。
天音への信頼と自分自身の願望がぶつかる。
だが、すでに結論は出ていた。自分の手ですべてを終わらせる。その考え以外は、思い浮かばない。
そうだ、誰も傷つけないなど不可能なのだ。
相手は国家転覆を目論む反乱軍。その将来があるから、などと甘い言葉はいらない。
国家を裏切ったものは、国家によって粛清されるべきだ。
日本という国が動かないのならば、国際機関である私たちが動く。
私こそが、反乱軍の鎮圧の
暴走は止まらない。妄想は止めどなくあふれ返る。
間違いを正す彼女は今、この場にはいない。
初の実戦経験をしているWTFC隊員は、どこか抑え切れない感情を胸に秘めていた。
「ここです」
少女に案内され、現場指揮官達はトイレの中へと入っていった。
見張りは3人。同じ人数ならば、より訓練を積んでいる私達が有利。
そう判断した現場指揮官達は、アイコンタクトを取ると構えた。トイレの扉が、不快な音を立てながら閉まっていく。完全に閉まったのを合図に、彼女達は動き出した。
咄嗟の出来事に反応できない少女達の首に、逞しい腕を巻いていく。
苦しみ、もがき続けるが力を緩めることはない。
命は奪いはしないが、戦闘力は根こそぎ奪い去っていく。
少女達がダラリと手足を下ろし、意識を失ったことを確認すると、隠し持っていたワイヤーで腕と足を縛り個室へと放り込んだ。
その間、僅か20秒。
何と手際を良いことだろうか。
他の国の特殊部隊員でも驚きの早さだろう。
少女達の持っていた警棒を手に、現場指揮官達はトイレを出て行った。
目指すは隊長室。
天音を救出して、全てを制圧する。
英雄のジレンマとして命は奪わない。
「そうよ……見ていなさい、私が強いのよ」
現場指揮官に顔には、悪魔のような笑みが浮かんでいた。
それは決して、天音への忠誠から来るものではない。
自らの欲望に堕ちた人間の目をしていた。