Girls und Panzer -裏切り戦線- 作:ROGOSS
当初の予定だと、そろそろ完結しているはずだったのですが……。
おかしい、なぜ。
そういえば、「シュバルツェスマーケン 殉教者たち」の発売が決定しましたね。
1age待たなくてもすむなんて…奇跡としか言いようがありません。
「砲撃が止んだ……」
うるさいほど鳴っていた砲撃音が、急にピタリと止んだ。
自衛隊がいなくなったことで無人島と化していた硫黄島が、本来の静けさを取り戻したかのように沈黙の世界になる。
これは嵐の前の静けさなのか。それとも、副隊長達が制圧を成功したという証なのか。
判断に迷うところだった。しかし、迷うだけでは指揮官は務まらない。ジャミングと思われる現象が発生しているのも気になる。
今、必要なのは戦況をより正確に知ること。
ゆえに、天音が出した結論は至極正しいものだった。
「全車前進、周辺警戒厳にせよ」
大声で叫ぶと、天音は車内へと体を滑り込ませた。
心配そうな顔でこちらを見ている砲手に笑顔を返す。
「隊長、私……とても嫌な予感がするんです。この作戦が、今までのどんなものよりも…その…」
「言いたいことはわかる。だが、進まないわけにはいかない。仲間の生存が確認できない以上退くことはできない。言いたいことが……わかるな?」
「はい……すみません。弱音を吐いてしまって」
「構わないさ。こんな状況になれば、誰でも弱音の一つや二つ吐きたくなる。私たちは戦争マシーンじゃないんだ。だがな、心を毅然とさせろ。何者にも屈しないと、その核は強く持て」
「わかりました!」
それにしても……
覗き窓から外を見ながら、天音は顔をしかめた。
東海岸では景気よくドンパチやっていたはずなのに、こちらでは何もしないのか? 別動隊の上陸に気が付いていない……? それとも、島の中へ誘い込まれている……?
どれだけ考えようとも、前進しか道が無いことをわかっていても、不安は拭い切れない。副隊長がそう簡単にやられるとは思っていないが、心配は尽きない。
不安、心配、焦り。冷静な判断力を鈍らせようと、体の中から湧き上がるマイナスの気持ちとの闘い。
額から落ちる汗を拭うと、天音は深呼吸をする。
私が慌ててしまっては、全滅しかねない。たった4輌しかいないんだ。慎重すぎるくらいに行動しなければ……。
「隊長」
「どうした?」
「擂鉢山への山道についたのですが……」
「……何かあったのか?」
操縦手の表情から、何かが起きているのは予想がついた。
キューポラから顔を出した天音の目に飛び込んできたのは予想外のことだった。
明らかに人為的に、崖が崩され戦車一台がギリギリ通れるであろう山道が作られていた。人影はない。
もしかしたら、人間の想像できない自然の力によって出来た産物なのかもしれない。
「どうします……? ここを通るとなると、危険がありますが……」
「迂回する道はないのか?」
「我々の上陸地点からでは、ここしかありません……」
腕を組み考える。
無駄な行為なのは重々承知の上だ。
今考えているのは、最悪の場合どうすれば部下の生存率を上げることができるか。それだけだった。
「隊長車を先頭にする。残りは付いてこい。行くぞ」
無線で指示など出さずとも、隊員の息はピッタリだった。
「何も起こらないでくれ……」
小さく呟く。
車体が山道の傾斜に合わせて傾く。
だが、そう上手くいくわけがない。修羅に堕ちたみほが、易々と道を譲るわけなどなく……。
「なんだこれは……!」
目の前に現れたのは巨大な壁だった。
正確に言うのであれば、壁ではないのだが鋼鉄の車体が天音達の道を塞いだ。
「発砲準備! 目標、前方! 撃てっ!」
轟音が車内に響き渡る。硝煙の匂いが充満する。
「ダメです! 装甲が厚すぎます! 抜けません!」
「チッ! 後退しろ!」
そう指示を出した時だった。
戦車の砲撃音にしては軽い音が外から聞こえてきた。
続いて聞こえてきたのは、隊員の悲鳴ともとれる絶叫。
何だ、何が起きている!
外を確認しようと顔を出すと、数人の高校生に囲まれた隊員が恐怖で歪んだ顔を天音に向けながら叫んでいた。
「戻ってください隊長! やつらパンツァーファウストで戦車の履帯を切ってきます! 下がってはいけません!」
咄嗟の判断だった。何が起きたのかを正確に把握したわけではない。
車内に戻らなくてはいけない。直感がそう告げていた。
「隊長!」
「くっ……前には壁……後ろに下がることもできない……」
考える暇などない。目の前の壁をどうにかして破壊するしか方法はない。
次弾装填の指示を出そうと口を開いたとき、車内にありえない音が鳴り始めた。
カーン、カーンという金属を叩くような音。ゴリゴリという無理矢理引きはがすような音。
それは間違いなく天音の真上、キューポラから聞こえてきている。
「まさか……!」
ガンという衝撃音と共に、ハッチが破壊される。
中へ顔をのぞかせたのは悪魔だった。
その手には、旧式の手榴弾が握られている。
「降りてください、WTFC日本支部隊長の天音リンさん」
「断ったらどうする」
「コレを投げ込みます」
「この距離だと、お前まで火だるまになるぞ」
「構いませんよ?」
蕩けるような笑みを彼女は浮かべる。
「知ってますか? 悪魔は炎によって生まれ変わるんです」
「……西住みほか」
「ええ、そうです。お話があります。一緒に来てもらえますね」
「……はぁ」
大人しく両手を上げることだけが、今の天音にできる最善の策だった。