Girls und Panzer -裏切り戦線- 作:ROGOSS
裏切り①
のちに、彼女たちは語った。
なぜ、あのような暴挙に出たのかを。なぜ、友の信頼を裏切ったのかを。
誰かは己のプライドのためだと答えた。
誰かは金のためだと答えた。
誰かは己の保身のためだと答えた。
そんなもののために、一生の友を裏切ったのか? 希望の光を見せておきながら奈落の底へ突き落すような真似をしたのか?
その問いに独りがポツリと答える。
「しかたないじゃない。どんなことをしてでも手に入れたいものがあるのよ。あなただってあるんでしょ?」
全員がうなずく。
なるほど。言っていることは至極まっとうなのかもしれない。
だが、そこに善はなかった。
どこまでも黒く、陰湿で腐り果てた感情の渦がそこにはあった。
欺き、陥れる。
そこまでして手に入れたものが、そんなに輝かしいのだろうか?
彼女たちは満足そうな笑みを浮かべたまま押し黙った。
狂ってる、目の前の彼女たちは狂ってる。
「彼女さえいなければ……」
誰かがつぶやいた。
「彼女さえいなければ、私たちは変わらなかった。彼女が現れたせいで、優勝を逃し、勝利を逃し、好機を逃した。あのまま、絶望の毎日を送っていればよかったのに。自業自得よ」
「それは本気で言っているのか……?」
「本気ですわ。そう、いつでも真面目に言っていますわよ」
彼女たちの答えを聞き、事情聴取官は絶句した。
そして一つ、疑問を持つ。
これだけの影響力を与える「西住みほ」という人物はいったいどのような人柄なのか? と。
●○●○●
「カモさんチーム大丈夫!?」
「左履帯破損! 走行不能であります!」
「砲塔旋回装置に異常発生! 狙いが付けられません!」
「西住さん、動けない」
「どうして……」
小さな拳を握りしめ、みほはつぶやく。
どうして、どうしてなの……どうして裏切ったの? なんで、私たちはこんなところで……。
後ろを振り向く。
頼もしいと感じた、仲間だった彼女たちは、そこにはもういない。
『すまん、みほ。やられてしまった』
「お姉ちゃん……」
『アンツィオもやられてしまった。すまない、西住』
「アンチョビさん……」
Ⅳ号の車体に立て続けに砲撃が当たる。
車輌が揺れるたびに沙織は悲鳴を上げた。
麻子は必死に操縦桿を動かし、優花里は砲弾を抱え、華は照準を合わせようとしていた。
鈍い音を立てながら、車体がグラグラ揺れ続ける。
私がもっとちゃんとしていれば……。
みほは自分を責める。
そんなことをしても何も変わらないことはわかっていた。
いま必要なのは、この絶望的な状況から抜け出す打開策を考えること。
だが、今のみほに打開策を考えるだけの冷静さも気力もなかった。
信じていた仲間が裏切る。
これほどまでにみほにダメージを与えるものがあるだろうか。
「私たちはここで……」
みほがそう嘆いたとき、Ⅳ号の白旗が勢いよくあがった。
「あ……」
そこから先の記憶をみほは覚えていない。
●○●○●
数十分前……
「カチューシャさん、ケイさん、ダージリンさん、西住まほさん、アンチョビさん、ミカさん、西さん……本当にありがとうございます!」
目の前に座っている頼もしい仲間にみほは頭を下げる。
「気にしなくていいのに」
「当然のことをしたまでよ!」
「みほのためだ」
などと思い思いの返事が返ってくるのを、みほは涙をこらえながら聞いていた。
再び廃校の危機を迎えた大洗女子学園をかけた戦い。
試合開始直前になってもみほは、圧倒的な車輌の数と経験の有利をもっている大学選抜チームに勝つ策を見出せていなかった。
試合開始の合図がされるまさに、一瞬前。
エリカの声と共に現れた黒森峰を筆頭に、続々と現れたライバル校の姿にみほは涙を流していた。
みほは涙を拭くと作戦会議を始める。
「では、まず大きく三つに中隊を分けたいと思います。ヤークトパンターとM4シャーマン、それから……」
「ちょっといいかしら?」
「ダージリンさん?」
ダージリンが紅茶を片手に手を挙げる。
みほが指名すると、わざとらしく咳払いをした。
「やっぱり、同じ学校で固まっていたほうが良いと思うのよね」
「ですけど……戦力バランス的に……」
「カチューシャもダージリンの意見に賛成よ! 異論は認めないわ」
「カチューシャさんまで」
結局、みほは押し切られる形となってダージリンの意見を採用することにした。
採用が決まった際、数人の隊長と副隊長が目配せをしていたが、あの時は特に気にはならなかった。
心配そうにまほがみほを見たが、みほが「大丈夫」と口パクで伝えると、安心した顔をする。
みほは作戦を大きく変え、大洗女子・黒森峰・アンツィオの混成チームが敵左翼を撃破しつつ、敵の後方を包囲するように網をつくる『グルグル作戦』を実行することを決めた。
左翼攻撃時には、プラウダ・聖グロリアーナ・サンダースが支援砲撃を行い、知波単・継続チームが撃ち漏らした車輌を撃破する任を受け持った。
この時、みほは僅かながらも勝利への希望を見出していた。
心強い味方を眺め、みほは大きくうなずく。
その姿をどす黒い感情で見ている者がいることを、まだ誰も知る由もなかった。
大学選抜チームに負けていたら……
そんな話です。