Girls und Panzer -裏切り戦線- 作:ROGOSS
かつて自衛隊基地があったその島は、今ではその基地すら放棄され無人島と化していた。そこに人が安心して住めるような環境は無い。
そんな島の中心に少女達は集まっていた。
彼女達の多くは暗い顔をしたまま押し黙っている。中には数人、何を考えているのかわからない者や何故か笑顔の者も混じっているが……。
「お姉ちゃん、赤星さん、ケイさん、ナオミさん、ローズヒップさん、オレンジペコさん、ニーナさん、アリーナさん、ミカさん、ミッコさん、アキさん、アンチョビさん、カルパッチョさん、ペパロニさん……」
呪文のように、この島に集まっている少女達の中で知っている名前を唱えると、みほは笑みを浮かべた。
「よくこれだけ集められましたね」
「数人はいつの間にかいる方もいますが、やはりどの学校でも裏切りがあったようで……」
「裏切り……」
その言葉を呟くとみほは俯く。やがて、低く笑い始めると満面の笑みでこう言うのであった。
「それじゃあ、復讐しないといけませんね」
みほはゆっくりと火山の噴火の力で出来上がった自然のステージへ登り始める。ステージからは、ここに集まった少女達の顔がよく見えた。
黒く染まっている彼女達の顔を見ると、みほは胸の高まりが抑えられないことを悟った。
「みなさん」
その一言で少女達は、みほへ視線を向けた。みほがいる薄暗いその場所に照明が当てられ、まるで舞台役者のように彼女は高らかに謳を詠い始めた。
「人は平等ではありません」
「生まれつき足の速い者、美しい者、富める者。足が遅い者、病弱な体を持つ者、親が貧しい者、生まれも育ちも、才能も、人間は皆、違っています」
みほはそこで間を開ける。
重い静寂が流れた。観客たちは、次のみほから繰り出される言葉を目をギラギラさせて待ち焦がれている。
「そして……裏切り、裏切られる者。様々な差を私たちは持っています。平等などありません。その不平等がお互いを憎しみ煽ります。たとえ仲間でもいつ敵になってもおかしくない。それどころか、信頼する右腕が、隊長が平気な顔をして裏切る世界です」
「昨日までの味方が、友人が、戦友が家族が、私たちに砲口を向けるかもしれない! 恨まれてはいませんか? 馬鹿にはされていませんか? 誰かに必要とされていますか? 殺してやりたいと思われていませんか? いいえ、そう思われた結果、私達はここにいるのです」
数人が涙を流し始めた。あるものは怒り、あるものは悲しみ、あるものはみほを崇拝する。数十人の集まりでしかない彼女達の中で、様々な感情が芽生え蠢く。やがてそれは、自分たちを陥れた者たちへの復讐とみほへの忠誠で完結した。
「私たちはわずか数十人に満たない負け犬。
しかし! 私はあなた達を一騎当千の古強者だと信仰している。
私達を忘却の彼方へと追いやり眠りこけている連中を叩き起こそう。
連中に怒りの味を思い知らせてやる。連中に恐怖の味を思い出させてやる」
誰もが息を呑んだ。
その目を見てはいけないと心の警鐘が鳴り響く。しかし、目を離すことができない。魔に呑まれたその目は、たとえ誰に何と言われても、彼女達にとって女神の微笑みと思えてならないのだ。
闇に堕ちた彼女達は叫び出した。
「まもなく私たちの先鋒が海を渡り、鉄槌を下す。
その時こそ開戦の号砲と共に
望むは勝利のみ!
ジーク・ハイル!」
「……ジーク・ハイル」
「ジーク・ハイル! ジークハイル! 大隊長万歳! ジークハイル! ジークハイル!」
響き渡るのは悪魔達の歌声。
黒の使徒達はここに、西住みほという大隊長を迎え息を吹き返した。
同じだけの絶望を味わさせるために、同じだけの闇を見せるために。かつての同胞へ裁きを下すために。
●○●○●
「みほ……」
修羅に堕ちた妹を、まほはただ傍観するしかできなかった。
他の者たちのように恨みつらみを叫ぶことはできない。かといって、そんなことはしてはいけない、と反対することもできはしない。
どこへ行っても、私は板挟みなのか……。
いっそこのまま、流れに身を任せ修羅へ堕ちた方が楽なのかもしれない。
そう考えているまほの目に、同じように戸惑いの顔を浮かべている彼女達の姿が目に入った。
「アンツィオの……」
「どういう結末でも、ここに来てしまった以上は引き返せない。それは、君もアンツィオもさ」
「あなたは……確か継続高校の」
「あなたと話すのは初めてだね。西住まほさん」
カンテレを引きながら話を続けるミカの言葉をまほは黙って聞き続けた。
ここに来た以上は引き返せない……。
わかっていたとはいえ、どこかでみほを正気に戻して日常という陽だまりへ帰れるかもしれないと期待していた自分がいたことに、まほはどうしようもなく苦しくなった。
「私達は先鋒を任されたらしい。あなたもあとは、自分の力でどうにかするしかない。ご都合主義なんて言葉はないのさ」
「……わかっている」
ミカはまほを一瞥すると、何も言わずに飛行場へと歩いて行った。
「彼女達はいったい何を考えて……」
その背中が遠ざかるのを見つめながら。まほは小さく呟いた。あの試合に継続高校が参加していたのは事実だ。しかし、なぜ今回みほに手を貸したのかまったく心当たりが浮かばない。
「私は……みほを連れ戻せるのか……」
勝利万歳。
永遠に続くと思われる大合唱。それがみほの復讐の第一歩であった。
自衛隊云々は、脚色あるのであまり気にしないでください。
次回理由は説明しますが……。
現実世界では、今でもちゃんと放棄されないでありますよ……。