Girls und Panzer -裏切り戦線-   作:ROGOSS

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間違って更新してしまったようなので、お詫びとして短いながらも更新させていただきます……本当に申し訳ないです……。
罰として、マウスで重量挙げしてきます……。


エリカの後悔

「隊長、どちらへ行かれるのですか?」

 

「……なに、週末にでも次の練習試合の下見をしようと思ってな。早めに準備させているだけだが?」

 

「そんな手間のかかることを隊長がやる必要などありません。いつでも私が行きますから」

 

「エリカ……」

 

 その声はいつもの厳しく凛々しいものではなかった。

 どこか闘志を失い、哀愁すら漂わせる声色にエリカは戸惑い、つい口を開くのをやめてしまった。

 「後悔先に立たず」などという言葉は誰が考えたのだろう。まったく、うまいものだ。

 そう、私は後悔しているのだ。

 一年前の戦車道の決勝戦も副隊長が黒森峰を去ることを止められなかった事も、今年の戦車道の決勝戦も大学選抜との試合で呆気なく撃破されたことも……今この瞬間、隊長を止められなかったことも。

 だから私はいつまでも……ゼンブコウカイシテイルノダ。

 

 

●○●○●○

 

「副隊長」

 

「どうしたのよ……」

 

 目を擦りながら、エリカは気だるげに訪問者に声をかけた。

 黒森峰女学園では、二年生以上のレギュラーメンバーには個室が与えられるという伝統がある。だからこそ、夜の11時過ぎでありながらも一年生の彼女は、エリカと同室の者がいないことを確信して訪ねてきたのだろう。

 もっとも、こんな時間まで戦車の整備を行わなければならない一年生の身になって考えてみれば、寝間着に着替え、ゆったりと自由時間を過ごしているエリカを羨ましく思っていることは容易に想像できた。誰もが一度は通る道であるからだ。

 

「申し訳ありません。就寝しておられましたか……?」

 

「あ……えぇ、まぁそうね」

 

 エリカは部屋の中が見えぬよう、そっと体で隠した。

 目を擦る仕草を見せてたため、一年生は気を使っているのだろう。その素振りの真相が暗闇の中、日課のネットサーフィンをしていたがため、とわかったら恥ずかしいとさすがのエリカも感じた。

 

「大丈夫よ。それで? 何の用があるの?」

 

「はい。それが……グラーフ・ツェッペリンに戦車の搬入作業をせよ、との命令があったのですが……副隊長からかと思いまして」

 

「どうして私がしなくちゃいけないのよ。明日練習試合でもあるわけ?」

 

「いえ……そのような予定はありませんが……」

 

 混乱しきっている一年生にエリカは、同情の眼差しを向けるとため息をついた。

 どうせ、隊長が命令したのだろう。あの人はどうして、戦車道以外になるとどこか抜けてしまうのだろうか……。誰が命令を出したのか明確にしなくては、最後の報告が出来ないというのに……。

 

「完璧過ぎる人なんていないものね」

 

「え? 何か言いましたか」

 

「何でもないわ。とりあえず、そういう命令があったのならやっておいて」

 

「わかりました」

 

 仕事が増えたにも拘らず、綺麗な敬礼を決める一年生にエリカは思わず頑張ってと声をかける。よほど意外だったのか、一年生は一瞬目を丸くするもありがとうございます、と言って立ち去って行った。

 その背中が見えなくなるのを確認すると、エリカはそっとドアを閉めた。

 

「さて……続きをしますか」

 

 そう呟きパソコンへ向かっていると再びドアを叩く音が部屋に響いた。

 今度は誰よ……。

 

「はーい」

 

 急用ではなければ明日にしてもらおう。

 そう考えながら返事をする。

 

「エリカ。私だ」

 

「隊長っ?!」

 

 予想外の声が返ってきたことに慌てながらも、ドアへ向かって走るエリカをまほは止めた。

 

「ドアを開ける必要はない。部屋も暗かった、寝ていたのだろう」

 

「は……はぁ……その……」

 

 またしてもネットサーフィンをしていたとは言えず、ボソボソと答えるエリカにまほは言葉を続けた。

 

「エリカ。人間とは時に感情に任せて動くものだ。そうは思わないか?」

 

「確かにそうですね……それがどうかしましたか?」

 

「いや、何でもない」

 

 

 今日の隊長はどうしたのだろう?

 疑問に思いながらも、エリカはまほの言い付けを守りドアを開こうとはしなかった。

 強豪校の隊長と副隊長がドア越しで話し合う、という奇妙な現象は続いた。

 

「そういえば、隊長。戦車を搬入させているようですが」

 

「なんだ知っていたのか」

 

「隊長、どちらへ行かれるのですか?」

 

「……なに、週末にでも次の練習試合の下見だ」

 

「そんな手間のかかることを隊長がやる必要などありません。いつでも私が行きますから」

 

「エリカ……」

 

 その声はいつもの厳しく凛々しいものではなかった。

 どこか闘志を失い、哀愁すら漂わせる声色にエリカは戸惑い、つい口を開くのをやめてしまった。

 

「たまには私が直接見ようと思う。だから大丈夫だ」

 

「隊長がそう言うのでしたら……」

 

「エリカ。私はお前が副隊長で良かったと思っている」

 

「なぁ……?! へぇっ?!」

 

 あまりにも唐突な褒め言葉にエリカはパニック状態に陥る。

 だが、言い出した本人は嫌だったか? などとまったく気付く様子を見せない。

 何度目かの深呼吸をしてようやく落ち着きを取り戻すと、エリカは胸の高揚を抑えながら礼を述べた。

 

「あ、ありがとうございます! ですが……私は何も特別なことはしていません……」

 

 そう、私は特別なことなどしていない。類まれない戦車道の腕があるわけでもなく、鶴の一声でまとめられるようなカリスマ性もない。

 ただただ、必死に西住姉妹の背中を追い続ける一般人でしかないのだ。

 

「そんなことはない。エリカ、お前の努力は私が誰もよりも知っている。こらからも頑張ってくれ」

 

「もちろんです! 隊長と共に戦車道を究められるのでしたら!」

 

「私と共にか……これからはお前たちの時代だ」

 

「何を言っているんですか……そんなこと……」

 

「時間だ。手間を取らせて悪かったな。……私を許してくれ」

 

 最後の一言が聞き取ることができなかった。

 何とおっしゃいましたか? と質問しても返ってくる気配はない。

 

「まぁ……明日聞けばいいか」

 

 ネットサーフィンをする気も失せ、エリカはパソコンの電源を落とすとベットへ倒れこんだ。寝る前にあったことを思い出しながら、微睡みの世界へ落ちる。

 その夜からだった。西住まほの姿と数名の選手の姿が消えたのは。

 

 




次回は、やや今までとはテイストの違う話です。

メタルギア3をやって思ったのですが、西住しほが廃校をかけて試合をすることを許可する文部科学省と戦車道連盟に失望して反乱を起こす話など面白いかな? と最近思っています。
しほ(西住流門下生)vs現高校戦車道

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