Girls und Panzer -裏切り戦線-   作:ROGOSS

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ついに10話です。
ランキングにも載せていただき、読者の皆様には感謝の念が堪えません。
皆様には、お礼としてドロドロのガルパンを差し上げます。

あ、映画のブルーレイ届きました。
映画見ながら、どうして裏切ってないんだ! と画面に叫んでます。


カチューシャの一驚

 昔から我儘だと言われ続けてきた。

 もちろん、自分としてはそんなつもりはなかったし、我儘と非難する相手の方が我儘だと思っていた。

 中学3年生の頃の体育祭。最後なのだから、より良い物を作ろうと……必死に頑張った。確かに、命令口調になってしまったところは、反省しなくてはいけない。それでも、皆のことを思って頑張った。

 プラウダに入学してからも、全国大会優勝という大きな目標のために頑張った。毎日誰よりも早く練習を始め、誰よりも遅くまで練習を続けた。その姿を見て、ノンナという親友ができた。

 やり方は間違っていたのかもしれない。だけど……だけど! 私はプラウダのためを思っていつも行動してきた。

 なのに………ドウシテミトメテクレナイノ。

 どうしていつも、私を認めてくれないの? 背が小さいから? 横暴だから? 私の言う事を聞けば勝てるじゃない! 笑顔になれるじゃない! どうして、どうしてどうしてどうしてどうして……!

 彼女がいなければ……彼女さえいなければ……私がどれだけ皆を思って行動しているか、伝わるはずだったのに……! 

 逆恨みなんかじゃない!

 

『羨ましかったんだろ?』

 

 え……?

 

『絶望的な状況でも皆に信用されてる姿に』

 

 違う……

 

『自分もそうなりたいと望んでいるから』

 

 違う……

 

『だから、彼女を撃ったんだろ……?』

 

 違うっ!

 

『ははは、だけど結局は負け犬のままだ。負け犬カチューシャ。負け犬隊長。どこまで行っても、負けた事実は変わらない』

 

「うるさいっ!」

 

「カチューシャ、どうしましたか?」

 

「へぇ……?」

 

 目の前で目を丸くしているノンナにカチューシャは、小さくごめんと心のなかで呟いた。ノンナの隣では、クラーラが険しい顔をしている。

 あの日から、カチューシャの様子がおかしいことをノンナとクラーラは知っていた。他の隊員がどんな思いを胸に秘めているかはわからない。いや、おそらくは裏切り者だと陰口を叩いているのだろう。それでも、目の前にいる小さな隊長は考えがあってやったのだとノンナとクラーラは信じていた。ゆえに、裏切り者が出ないよう、カチューシャが心を痛める事が無いように奔走し続けていた。

 

「ノンナ、今何時?」

 

「もう、夜の6時過ぎになります」

 

「そう……」

 

「カチューシャ様。夕食にしますか?」

 

「……いいわ。いらない」

 

 カチューシャはゆっくりと頭を振ると布団に包まった。珍しく、クラーラが日本語で話したというのに、それすら無反応だった。

 突然、けたたましいサイレンが鳴り始めた。

 

「なによっ!」

 

 文句を言いながらも、カチューシャは校内放送に耳を傾けた。

 空襲警報のようなサイレンが鳴ることなど滅多になかった。このサイレンが鳴るとするならば、不審者が校内に侵入してきたか、あるいは……

 

『緊急連絡! 校内に侵入者! 並びにシベリアから脱走者多数! 現在波止場に向かってる模様!』

 

「なんですって!」

 

 あの日以来、KV-2とその護衛車輌の搭乗員をシベリアに隔離していたのには理由があった。

 自分が何を撃ったかを知り、気を病んでほしくなかったからだった。

 自分が彼女たちに罵倒されたくなかったからでは? と問われたとしても、カチューシャは違うと断言できる自信があった。

 しかし……彼女達はカチューシャの真意をわからず脱走したと言うのか……。

 

「どうして私を認めてくれないのよ……」

 

 ノンナはカチューシャの弱音を聞かなかったことにすると、話を切り出した。

 

「カチューシャ、すぐに追撃部隊を」

 

「そ、そうね。任せるわ」

 

Позднее, пожалуйста(追ってください)

 

Уразуметно(了解)

 

 クラーラは部屋を飛び出し、ノンナも後に続く様に指揮所へ入っていった。

 取り残されたカチューシャは茫然と天井を見上げたまま、動くことができなかった。

 

●○●○●

 

「クラーラ!」

 

 追撃部隊の一人がクラーラに声をかけた。

 雪がチラホラと降っており、本格的に振り出すのは間違いないとクラーラは思っていた。

 

「戦車を持って逃げたのですか?」

 

「そうみたい」

 

 波止場へと一直線に続く履帯の轍を見てクラーラは驚いた。

 もし、脱走するとしたならば戦車などと言う足の遅い車輌に乗る必要などないからだ。スノーモービルや一般車輌などといった選択肢もあったはずでは……。

 

「戦闘車で追います。用意を」

 

「それが……」

 

「どうしました?」

 

 クラーラが尋ねると、ばつの悪そうな顔をしたまま一人が答えた。

 

「全部パンクさせられていた」

 

「……では、BT-7を」

 

 整地、不整地を問わず時速50km以上を出せるあの戦車ならば追いつけると、クラーラは確信していた。だが、返ってきた答えは、クラーラの予想を遥かに越えたものだった。

 

「だめです。燃料タンクに穴が開けられていて……」

 

Вы ягнитесь(嘘でしょ)……」

 

 あの短時間で脱走者追跡に使えそうな、すべての車両を無力化したと言うのか? 不可能だ。有り得ない。それがクラーラの出した結論だった。

 追撃方法を失った彼女達は、ただ目の前に続いている轍を見ているしかなかった。

 

●○●○●

 

「……わかりました」

 

 クラーラからの報告を聞き、ノンナは目頭を押さえた。

 いったい、カチューシャにどう報告すれば良いのだろうか? 

 校内放送を聞いた時のカチューシャの絶望した顔をノンナは忘れられなかった。

 確かに、カチューシャのやり方には少し不満を覚えていた。いくら皆のためとはいえ、やり方が横暴過ぎると思っていた。それでも……それでも付いていく理由は、カチューシャが本当は優しい人物だと知っていたからに他ならない。

 大きくため息をつき、隣に部屋にいるはずのカチューシャに目を向ける。

 彼女は今、どんな表情をしているのだろうか? 泣いているのだろうか? 私がいけば涙を拭いて、いつも通り強気に出るのだろうか?

 

「どうするべきなのでしょうか……」

 

 そう嘆いたまま、ノンナはその場から動けなくなっていた。

 




僕は仲良くなってほしいだけなんです。
裏切り、ダメ、絶対。

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