”奉仕部”
俺、比企谷八幡が(強制)入部したこの部は、簡単に言えば、生徒の悩み事に対して解決策を提示する部のようだ。
「餓えた人には魚の捕り方を与える」
この部の理念らしい。
正答させる気が欠片もない、部名あてクイズゲームの果てに、毒舌冷血部長サマが仰せられていた。
むしろ、部活動の内容に関することはこれしか言ってないまである。なにが『これで人との会話シュミレーションは完璧ね』だ、
具体的な説明もなしに実践編とか......。
ということで、口悪い部長サマからの暴言なんて浴びたくもなければ、働きたくもない俺は、HR終わりに学校からの逃亡を謀ることにした。
そして、放課後。
「.............」
「.............」
部室にいた。
逃亡? んなもん、決行直後に出待ちの平塚先生に捕まったわ。マジなにもんだよあの人?
今は、(話さなければ)美少女と二人きりの部屋で無言の読書中。
部屋に入ってすぐに罵倒冷笑嘲笑のフルコースを叩き込まれはしたが、一度止まってしまえばこのとおり静かなものだ。
単純に雪ノ下が俺なんかとこれ以上関わりたくないだけだろうが、それで平穏がくるならそれはそれで......
風がかすかに流れ込んできた。
ふと見ると、開け放たれた窓枠から見える空は夕空で、昼間よりも少しだけ薄暗くなっていた。気温も春らしく快凉。絶好の読書シチュかもしれん。
これはこれで中々に風情があるのではないか? なんてことも思えてきた。
「じゃまするぞ」
思えてきた。......思えてきていたんだ。
無遠慮に喧しく扉が開かれることさえなければ、雪ノ下のような毒舌女と同じ部屋にいても気分が晴れてきそうだったんだ。
ほらー雪ノ下がすっげぇ不機嫌そうにしてるじゃん。ってか、教師相手にその睨みは不味くない?
親族でも殺されたの?ってくらい迫力があるんですけど。
「だから、ノックをと......」
「すまんすまん」
悪びれない。雪ノ下の鬼の睨み&苦情を受けても全然悪びれてないよ、この先生。
「あ、あー その先生。今回はどんなご用件で?」
あからさまに不機嫌になった雪ノ下に任せていたら危険なので、俺から訪ねてみる。
「お、比企谷ー。ちゃんと会話に参加する気があるようだな。感心感心」
にんまり顔で言われた。う、うぜぇ.....。
「で用件だな。......ちょっと紹介したい生徒がいるんだ」
「紹介って.....もしかして、また問題のある生徒ですか?」
「それ、俺が問題のある生徒って言ってるよな?」
「違うのかしら?」
「違うね。俺は問題行動なんてしてない」
「嘘ね。でなければ、そんなに目が腐るはずないもの」
「これはデフォだ」
雪ノ下が憐れみの目線をむけて、なおも言葉のナイフを発射しようとする。いや、こいつの場合、電動ノコギリとかそのあたりだな。
発射される前に、咳払いが聞こえた。
「こらこら、君たち。勝手に喧嘩を始めないでくれ、廊下で生徒を待たせてるんだぞ」
忘れていた。と言うか......
「なんで廊下で......一緒に入ってくれば良かったじゃないっすか」
「そう言うな。少し君たちの様子を見たくてな」
まぁ、そうでしょうね。ウキウキしてるの隠す気ないもんね。
「では、入ってきてくれ」
平塚先生が入室を促す。
なんか転入生紹介みたいで少し緊張する........なんてこと思わない。
平塚先生が連れてきたのだから、面倒なヤツに違いないのだ。ソースは俺。いや、自分で面倒なヤツ認定してんのかよ。
なんて風にボンヤリと脳内でコントやりつつ、これまたボンヤリと入り口へと目を向ける。なにせ、どんなヤツが来ようと仲良くできるはずがないからな。
俺との初対面の遭遇なんて、相手にしたら目がキモくて、態度がキモくて、言動がキモくて、キョドっててキモい、全面的にキモいヤツくらいにしか思れないだろう。......自分で言ってると死にたくなってきた。
しかし、そう思われることがわかっている俺はいちいちこんなイベントで浮かれたりしない。
真のボッチにしてみてば転校生だろうと新入部員だろうとただの他人なのだ。
つまり、ボッチは最強。孤高にして強靭な精神の持ち主なのだ。そもそもボッチとは.....
「しつれいします」
割りと最近、よく聞く声がした。
ボッチ至高説を唱えて、平静を保とうとしていた俺の脳は急に真っ白になった。
声の主は、開きっぱなしの扉の影からひょこっとでてきた。
やっぱり、最近よく見る少女の顔があった。
軽く一礼した。肩まである赤毛がさらりと落ちた。
もう間違いなかった。そもそも間違いようがなかった。
名前も知らない少女。小さな侵略者。昼休みの隣人。
どうして、アイツがここに居るんだろう?
疑問と驚きのあまり、体が固まっていた。
「あれ....? 先輩?」
「あ、お、おおおう。き、き、ききき奇遇だな」
「............」
「............」
「あの......さすがに動揺しすぎですよ。大丈夫ですか?」
「いや......その.....すまん、少し驚いた」
「少し......? というより私のほうがビックリですよ。てっきり先輩は帰宅部のエースさんかと思ってました」
いたずらっぽく微笑みながら言われた。
なぜか、固まっていた体が脱力していく。
「.......確かに一昨日までは放課後直帰を繰り返す模範的な帰宅部部員だったが、残念なことに今は違うんだよ。残念なことに」
「どんだけ残念なんですか......っていうか、自分から入部したのでは?」
「..........いろいろあったんだよ」
「先輩、先輩。目がさらに濁ってますよ?大丈夫ですか?」
「いや、さらに、とかいらないから。元々、濁ってるのは知ってるから。.....つーか、オマエこそ何しにきたんだよ、優等生」
「私ですか?私は新入部員ですよ?今日から。えっと、では改めて......そこの何故か開いた口が塞がってない先生に紹介されて入部することにしました。1年A組の二宮紗耶です。これからよろしくお願いします......」
「お、おう。あー.....えっと、そこの開いた口が塞がってない生徒のほうが雪ノ下。この部の部長だ。............で、俺は比企谷八幡、2年F組」
「比企谷八幡さんですか......それでは、比企谷先輩で。そういえば、自己紹介するのはこれが初めてですね」
ふわりと笑った。いつもの昼時にあの場所でそよ風を感じるときのような笑顔。
なんだか、先手うたれてばっかりだな。
なんて思いながら、後頭部を撫でる。
「......そうかもな」
急に、目線を合わせるのが無性にこそばゆく感じたので、目を反らして適当に呟いた。
更新遅くなってすみません。
後半、会話のない二人は八幡くんが女子生徒と話しているのに驚いて、唖然としているということで。
けっして会話挟むのがめんどうになったわけではなく、また霊圧が消えたわけでもないです