されど、彼女は我が道を   作:kotono

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やはり比企谷八幡は労働を嫌う

「はぁ......」

 おもわず、ため息がでる。

 両手で二脚づつの椅子を運びながら、不幸を呪う。

 

 まったくどうして高校2年生の俺が入学式の日に学校に来なければならないのか。しかも、新入生より早く来て、彼らより遅くに解散とはあまりに理不尽だ。

 

 あ?呪うほどの不幸じゃないだろって?

 

 そのとおりですね。少し調子に乗りましたごめんなさい。

 

 

 とはいえ呪うほどではないにしろ、今日この場において俺、比企谷八幡は数少ない不幸な総武校生なのは変わりないだろう。

 なにせ、各クラスのうち3人しか選ばれない入学式の設営に駆り出されたのだからな。確率的には10分の1。

 

 まぁ、俺の場合、HR中に寝てたからなんだけど。

 やだっ八幡ったらうっかり屋さん☆...........キモいな。

 

 

 心のなかでの茶目っ気に自己嫌悪しながら、運びこんだ椅子を列に加える。よし。

 これで一通りの準備も終わったし、あとは生徒会のほうで何とかするだろう。なんて思いながら、体育館を出る。

 このまま帰りたいのだが、片付けにも参加しないといけないのでそういう訳にもいかない。

 

 この片付け、というのがまた厄介で、当日は椅子を運んだりするだけで済んだ準備とは違って、床に敷いたマットや壁にある紅白の幕なんかも片さないといけない。

 あぁ、めんどくさい......想像だけで疲れてきた。

 

 

 入学式すら始まってないので、当然ながら、片付けまでにもまだかなり時間がある。

 さて、その間、俺のような不運な2年は何をしていればいいのかと言うと、なんと責任者の教師から入学式の参加を言付かった。厚木ェ.......。

 

 

 諸事情により、自分の入学式にはでてない俺がなんで後輩の入学式なんぞに出席せにゃならんのだ。と思った俺はけっして悪くないし、こっそり体育館を抜け出した俺を誰かに責めれるはずもないだろう。

 いや、教師にはバレたら責められるだろうけどさ。

 

 

 春の陽気に当てられて歩くと、萎えた気分も少しだが快復してきた。

 お天道様よ、この調子で僕の腐った目も快復していただけません?ダメ?あぁ、そう......。

 

 なんて妄想を繰り広げる程度に、今日の気温は心地がいい。入学式に相応しい日和だ。二度寝にも相応しいけどね。ちくせう。

 悔やんでも仕方ないか......こういう日にはベストプレイスも素晴らしい昼寝ポイントになるはずだし、潮風にあたりながら時間を潰すとしよう。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 潰すとしよう。と息巻いてやってきたのだが............。

 

「.................」

 

「.................」スースー

 

「.................」

 

「.................」スースー

 

 真新しい制服に身を包んだ女子生徒がベストプレイスで寝ていた。

 

「...........えっ、と?」

 

 さてどうする比企谷八幡。

 制服からして1年のこの女子生徒だが、先輩権限で起こして追っ払うか?いやいや、絶対白い目で見られるって。

「キモッ」とか言われたら泣くかもしれん。

 そもそも、俺が起こして大丈夫なのか?通報とかされかねないのでは?あれっ、もしかして万事休す?打つ手無しなのん?

 ボッチマイスターを自称する俺には、この状況を打開するのはいささか難問過ぎる。となると...........

 

「ハァ............屋上にでもいくか.....」

 

 当然、逃げの一手しかない。

 ここで、容姿の優れたイケメンなら爽やかに起こすのだろうが、俺が起こしたら、せっかくの快眠を台無しにしてしまうだろう。

 幸い、入学式にはまだ30分以上はある。そのうち起きるだろう。

 

 

「そういえば、屋上って施錠されてなかったか?されてないといいんだがなぁ......」

 

 切り替えるように独り言を言いながら、踵を返す。

 そのまま、脱靴箱のほうへ.......。

 

「.....クシュンッ......」スースー

 

「............あー...」

 踏み出そうとした足を引っ込め、回れ右。

 後頭をガシガシかきながら、寝息の主のちかくでしゃがんだ。

 

 最初に、髪が目を惹いた。

 赤みが入った茶髪。天然モノならレディシュとかジンジャーとか呼ばれそうな綺麗な赤毛が肩まで伸びていて、潮風に少したなびいている。

 

 近くから覗きこんだ顔は少し幼さが残っているが整っていて、髪と妙に合う顔立ちだと思った。

 はっきり言って物凄く可愛い部類だろう。

 

 

 少しだけ。本当に少しだけ、見惚れてしまい、また後頭をガシガシかきまわす。

 

 

 触れないように、近づきすぎないように、気を付けて、あくまで声だけを届ける。

 

 

「....あー、えー........ッコホン。......おい、起きろー。入学そうそう風邪引くぞー」

 

 

 

 

 どうか彼女だけは不信がらないでくれないかな。なんて考えてしまったのはただの勘違いだ。そうに違いない。

 

 


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