プロローグ.魔法では癒やせない傷
きっと、人は深い悲しみや苦しみを乗り越えることができるだけの光を、心の中に持っている。
真実かどうかが大事ではない。
そう信じている。
それがルミアリスの教えだから。
グンゾウが
しかし、乗り越えた向こう側へ辿り着く前に、その光が消えてしまったらどうなるのだろう。その光が消えそうな人がいたら、どう導けばいいのだろうか。
グンゾウは答えが出せないでいた。
今、その答えを必要としている時なのに。
「毎朝、
ヨシノが叫んだ。宿舎の屋上から泣き腫らした眼でグンゾウ達を見詰める。
涙に輝くヨシノの瞳にグリムガルの
深い悲しみは呪いだ。
――悲しい、そして苦しい。ルミアリス。私は彼等どころか、目の前の少女を救うこともできません。若い彼女の命が救えるなら、私の命を差し出しても後悔はない。
その場にいた全ての人間が悲しみに飲まれ、声を出すことができない。
悲しみと静寂だけがそこにあった。
ヨシノの心は崩れそうな均衡の上に辛うじて立っていた。消えそうな光は閉じかけの扉の向こう側にある。
――ヨシノ、心を閉ざさないでくれ。
「ごめんね……、みんな」
絶望がヨシノを
「ヨシノっ! ヨシノっ!」
「ヨシノ! 目を開けてくれ!」
「ヨシノちゃん!」
「ヨシノ姉さん……」
皆の呼びかけに応じて、ヨシノはうっすらと目を
焦点の定まらない瞳で声を出す。
「あれぇ? あたし……、まだ生きてるの?」
ヨシノを抱きしめる腕に力が入る。
「ヨシノ! ……失ったものが大きすぎて、受け止められないくらい俺も悲しい。だから、さらにヨシノまでを失いたくない! ヨシノを愛してる!」
涙が溢れ、一滴、また一滴とヨシノの頬に落ちる。
「温かい……。温かいんだね、涙って……うっうっうっ……」
ヨシノの眼にも涙が溢れ、頬を伝う。
グンゾウは歪んだ景色をぬぐい去ると、空を見上げた。
いつの頃からか見慣れた紅い月が、深緑の夜空に輝いていた。
実はこの話はLevel.1のプロローグよりも先に完成していました。
正直このプロローグを出すことが目的でした。
この後は書き溜めがないため、しばらくペース落ちます。