廃と群像のグリムガル ~不惑の幻想~   作:西吉三

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4.花一匁はいつだって残酷な遊び

 結論から言えば、グンゾウ達は6人の小隊(パーティ)を2つ作ることになった。

 6人×2は12人なので14人には2人足りない。その2人(ふたり)はグンゾウ達と行動することを選ばなかった。

 1人(ひとり)はヴェールだ。元々グンゾウ達とは住む世界が違うと感じさせる美しさと、近付く者全てを拒むような冷たい雰囲気を持っていたが、立ち去る時の台詞(せりふ)もミステリアスに尽きる。「貴方(あなた)たちとはプレイスタイルが違うから」だ。「小隊(パーティ)を作ろう!」とカズヒコが声をかけた直後に、颯爽(さっそう)と義勇兵団事務所を(あと)にしてしまった。

 もう1人はキッカワという細目の男だった。ヴェールが立ち去った後、彼女を追っかけてバタバタ出て行ってしまった。あまりの出来事に残されたメンバーは茫然としてしまった。

 最初は1小隊を6人にするつもりもなかった。全員で動くのは効率が悪いので、純粋に2つの小隊に分かれて情報収集をしようという目的があっただけだった。結果論としては、()()がこの世界では最も効率の良い分かれ方だと(のち)に知ることとなる。

 

 

 

 30分程前。グンゾウの大きな(つぶや)きの影響か、ボブカットとミディアムヘアの女の子2人もブリちゃんから見習い章と10シルバーを受け取った。

「おめでとう。これで今日からあんた達も見習い義勇兵よ」

 ブリちゃんはわざとらしい笑みを浮かべて手を叩いた。

「少しでも早く一人前になってね。正式な義勇兵になったら、少しは相談に乗ってあげるわ」

「今じゃねーのかよ」

 リョータがぼやいた。

 ――確かにリョータの言うことは的を射ている。生きてく力を早く身に付けるのに荒療治が有効かもしれないけど、最初くらいはもう少し丁寧なサポートがあった方が順調に戦力化するんじゃないかな?

「さて、みんな、ちょっと話を聞いて」

 カズヒコが全員に声をかける。

「どうも義勇兵団ってのは正直親切ではなさそうだ」

 カズヒコがブリちゃんがちらっと見る。ブリちゃんは諸手を挙げて、お手上げのポーズを取る。目はウインクだ。

「そこで、街に情報収集に行ったらいいと思うんだけど、全員で動くのは効率が悪い。まだ夜だし、明るくなるまでここで待って、朝が来たらリョータと俺の2小隊に分かれて情報を集めて、また義勇兵団事務所(ここ)に集合ってのはどうかな?」

「さんせーっ! ちゃんと自己紹介もしよーよー」

 舞子が賛意を表明したのに続いて、全員の中に同意の和が広がる。

 ただ、1人を除いて。

「私は自由にさせてもらうわ」

 よく響く美しい声。

 ――ずるいな。声もこんなに美しいなんて。

 それはヴェールだった。有無を言わせない意志が強そうな話し方だ。

 ヴェールは大股でつかつかと歩いてブリちゃんがいるカウンターの(そば)にある洋燈(ランプ)を手に取ると、義勇兵団事務所の入り口に向かった。

「ヴェール、後でちゃんと洋燈返しにきてねぇ」

 ブリちゃんが手をひらひらと振った。ヴェールは無言でブリちゃんに一瞥(いちべつ)をくれる。

 ヴェールが扉に手をかけて少し開けたところでカズヒコが声をかける。

「どうしてなんだい? みんなで動いた方が安全じゃないか」

 カズヒコが少し苛立ったような声で話しかけた。ヴェールはグンゾウ達をその美しい深緑の瞳で横目に見ながら一言。口元は少し笑っているように見えた。

貴方(あなた)たちとはプレイスタイルが違うから」

 そう言うと、扉をさっとくぐり抜け夜の闇に消えていった。閉じかける扉の隙間に吸い込まれていく長い黒髪まで素敵だった。

 茫然自失。

 ――記憶も無い。お金もあるんだか、ないんだか。この訳が分からない世界でよくあそこまで颯爽とした決断ができるもんだ。

 残ったメンバーも同じような状態だった。たった1人を除いて。

「かぁっこいいぃぃ。俺ちゃんもヴェールちゃんと一緒のプレイスタイルが良かったなぁー。今なら間に合うかなぁ? ここはいっちょ、美女のために一皮向けちゃおっかなー。いってきまーす。グッバーイ!」

 先頭の集団にいた細目の男がバタバタと間が抜けた感じで扉に向かっていく。

「お、おぃ、キッカワ、そんなんでいいのか?」

 カズヒコは細目の男の名前を知っているようだ。カズヒコが扉の方に手を伸ばす。

「俺ちゃんのパッションさんが止まらないんだよ-。また会ったらよろしくー」

 キッカワと呼ばれた男は義勇兵団事務所を飛び出して行ってしまった。外に出た直後、「あちゃー、暗ーい。見えろ俺ちゃんの目ぇえぇぇぇ!!」という叫び声が小さくなっていった。

 ――騒がしいやつだな。

 行き場の無くなったカズヒコの手が空しく宙を漂う。

 しばらくの沈黙の時間が過ぎる。

「さっ、じゃあ、6人ずつで2つの小隊に分かれよう」

 カズヒコはいつもの笑顔に戻り話を続けた。

 ――こいつもメンタル強い。

「キシシシ、なるほど、キシシ、ふ、ふ、ふ」

 ――何が? え? 何が「なるほど」なの、ハイド?!

 グンゾウはハイドの首を絞めてでも答えを聞き出したい気持ちになったが、大人げないし、あんまり触りたいタイプの人間でもないので()めた。

 

 

「最後になりますが、ヨシノでっす。よろしくお願いしまーす」

 ヨシノとは舞子のことである。ようやく明るい場所で自己紹介が行われ、全員の名前と見た目が一致する。

 いざという時、荒事になるかもしれないので、小隊のメンバー選定は体力的なバランスを取ろうということになった。カズヒコとリョータで順番に強そうに見えるメンバーから小隊に加えていくという方法だ。いわゆる花一匁(はないちもんめ)ルールだ。

 ただし、女性が1対3のように小隊で分かれるのは辛いだろうという配慮から女性は女性で2対2で分かれてもらい、バランスを見ながら男性陣に女性陣を組み合わせることになった。そのため女性陣はブリちゃんに別室を借りて、チーム決めをしている。

 ジャンケンで先攻後攻を決める。後攻になった場合は次の先攻が、先攻になった場合は次の後攻がセットなので、仲間を選ぶ機会は比較的公平になるようになっている。

 かなり気合いの入ったジャンケンが始まり、あいこが3回続いた後に勝敗が決した。

 カズヒコの勝ち。

 ――これ、さっきのブリちゃんのペット発言と、俺だけ()()()()()()なのは影響しないか? ()()()()()()だけどね。

 しばらく後で、グンゾウの予想は的中することになる。

「クザクで」

「……っす」

 カズヒコはメンバーの中で最も背の高い男を選んだ。名前はクザク。身長は190センチ以上あるかもしれない。とても恵まれた体型をしている。顔もそれなりの男前だ。しかし、強そうかというとまた別の議論だ。背も高いし、肩幅もあるのだが、すごく痩せていてバランスが悪い。猫背もすごい。あと、体全体からやる気の無いオーラが発されている。自己紹介の時もぼそぼそと話していて、なんだか影が薄い感じであった。恐らく喧嘩をしたら10センチ位小さいリョータが圧勝すると思われた。というか、クザクと比べてリョータは小さく見えなかった。リョータは身長も高ければ、胸板の厚さや腕の太さも立派だった。戦闘能力だけみれば間違いなく14人の中で最強だ。

「くっそ、取られた」

 リョータは悔しがった……ように見えなかった。心なしか顔に笑みが浮かんでいるように見えた。

 ――そうか、クザクが取られれば自動的に女性陣で体格が良いチームがリョータチームに来る可能性が上がる。そうすると……。

 女性陣で一番体格が良いのはヴェールが抜けた4人の中では間違いなくヨシノだった。ヨシノは身長が170センチ近い。ヘラヘラしているミッツと並ぶと僅差(きんさ)で低い位だった。女性にしては肩幅も広く、鍛えられていて引き締まった体型をしている。長くて緩いウェーブがかかった茶色い髪に、顔はハッキリした濃い顔をしていた。グンゾウがあまり好きなタイプではないが、一般的には美人の部類に入る。ひらひらする黄色の服を着ていた。元気で明るい性格には好感が持てる。

 ――リョータはヨシノをチームに入れたいんだな。

 この予想もすぐ的中することになる。

 

 

 そこからの順番と指名は次の通りだ。

 後攻リョータはタイチを指名、次の先行リョータがミッツを指名、後攻カズヒコが小考後にシムラを指名。残りはハイドとグンゾウ。

 ――ハイドと同レベルか……。ハイドと……。

 自分以外が選ばれる度にグンゾウの気持ちは暗くなっていった。

 ここで再びジャンケンを実施する。先行はリョータになった。リョータが突然悩み始める。

「あれ? これで俺が選んだら女性陣はカズヒコが選ぶんけ?」

「そうなるね。大体同じくらいの体格バランスになってるから、公平に、順番で」

 カズヒコは爽やかな笑顔で、えげつないことを言った。

「なんだって! ちょっと待て、聞いてねぇぞ。やり直しだ、やり直し!」

「え? なんで?」

「なんでもクソも、そっちはデカいクザクを持ってったんだから、女性陣は強い方をくれや」

 リョータが遂にぶっちゃけ始める。

「リョータもでかいだろ。まあ、リョータの気持ちはわかったよ。とりあえず一旦決めよう。その後で調整しよう」

 カズヒコはリョータより随分策士且つ大人だ。

「どうする?」

 小声でカズヒコがリョータに問う。リョータも釣られて小声になる。

「どうする? って、ブリちゃんのペット志望のオッサンとキモオタの二者択一だろ? どっちでもよくね?」

 ふたりの視線がグンゾウとハイドを交互に行き来する。

「戦力バランスを考えれば……」

「そもそも戦力……」

 丸聞こえの小声の会議が始まった。

 

 

 最終的には調整が入り、リョータがどうしてもヨシノが欲しいという願いをカズヒコが聞き入れて、その代償としてグンゾウとハイドを両方チームに受け容れ、タイチを放出、さらに若干体格差のあるミッツとシムラを交換した。それでもリョータは満足げに見えた。ハイテンションで女性陣にチーム編成について説明していた。

 各チームを整理すると次のようになる。

 

 ■リョータチーム : リョータ、シムラ、グンゾウ、ハイド + ヨシノ、アキ

 ■カズヒコチーム : カズヒコ、クザク、タイチ、ミッツ + ノッコ、チョコ

 

 アキはミディアムヘアの女の子で、チョコはボブカットの女の子だ。

「グンゾウさん、さっきは勘違いしてすみませんでした。一緒で良かったっす!」

 シムラがニヤニヤしながら話しかけてきた。

「シムラくん……いや、シムラ、顔が反省してないけど?」

「へっへっへ」

 ――なんだかんだ言って、素直でかわいいシムラと一緒だったのは良かったかな?

 グンゾウは少し安心しながら、小隊のメンバーを見回していた。

 アキが不安そうな面持ちで3メートル位先の地面をぼーっと見つめていた。その様子を気にしてか、元気ハツラツのヨシノがアキの肩を後ろから抱きしめながら元気付けていた。

「ダイジョーブだよアキちゃん! 元気出して、何とかなるって。スマーイル!」

 グンゾウは少し照れた様子のアキの横顔を眺めて、アキは笑った方がずっとかわいいなと思っていた。

「……自業自得だけど、……最強の僕が入らなかったチームはかわいそうだ」

 グンゾウの傍でハイドが呟く。気が付くとハイドはグンゾウの傍にいる。

 ――またハイドはアホみたいなこと言ってる。

 グンゾウは呆れた目でハイドを見ていた。目尻は下がり、口はへの字になっている。

 しかし、グンゾウは違和感を感じた。

 ――あれ? ハイドがいつもの気持ち悪い感じで笑ってない。

 

 

「よし! 空が白み始めたら動き始めよう。それまで各チーム休憩で」

 カズヒコがみんなに声をかけた。

 

 


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