廃と群像のグリムガル ~不惑の幻想~   作:西吉三

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こんなサブタイトル付けていますが本家「ごちうさ」は読んだ事も、見た事もありません。
3話目投入です(`・ω・´) シャキーン


3.ご注文はオークですか?

 旧市街に残っている新市街ゴブリン達の勢力は、雑魚ゴブリンを養うために、ある程度のお宝を隠し持っている。そう睨んだリョータ率いる小隊(パーティ)は、日々ダムロー旧市街にあるゴブリン達の拠点潰しに明け暮れていた。

 しかし、2匹目のドジョウは中々見つからず、労力に見合うだけの対価を獲られない日々が続いていた。そうこうしている内に、大半の拠点は潰してしまい、ダムロー旧市街は正常化されつつある。

 

 

 そこはダムロー旧市街にある広い廃墟だった。

 保存状態が良く、天井には様々な色彩のステンドグラスが残っている。かつてはルミアリス神殿に関連する施設だったらしく、女神や天使らしき白い石像が建ち並んでいた。しかし、全ての像は顔や頭部が削り取られている。

 不信心者共(ふしんじんしゃども)仕業(しわざ)だ。

 リョータ小隊(パーティ)はその不信心者共(ふしんじんしゃども)に囲まれていた。ゴブリン達が総勢12匹。窮地(ピンチ)(おちい)っているが、小隊(パーティ)全体には余裕すら感じさせる雰囲気が漂っている。

 理由を挙げるとすれば……「()れ」だ。あと、光の護法(プロテクション)が効いている間はゴブリン達には負ける気がしなかった。軽い高揚感に包まれている。

「リョータぁ、やっぱり、あれは偶然で、そうそう上手いことはいかないんじゃないの?」

 グンゾウは飛びかかってきたゴブリンの斧を戦棍(メイス)で弾き返しながら、小隊(パーティ)を代表してリョータに切り出した。敵の動きがよく見える。その後ろから剣を持ったゴブリンがグンゾウを狙っていたが、シムラの飛苦無(とびくない)が左目に刺さって動きが止まった。

「シムラ、ありがと」

「あんでもねーよ! だーいじょぶだー!」

 シムラは動きが止まったゴブリンに剣鉈を右から左上へ一閃。さらに怯んだゴブリンを右上から左下へ斬った。斜め十字(ななめじゅうじ)という狩人の(スキル)だ。ゴブリンは死んではいないが、片目でお腹に大きな十字の傷を負った状態になった。長くはない。

 グンゾウはリョータの説得を続ける。

「危ない割に得るものが少ないしさ……」

「いや、オッサン、そんなこたぁねぇ。絶対ワンチャンあるぜっ!」

 リョータの一本突き(ファストスラスト)が目の前のゴブリンに命中し、頭と体が永遠のお別れをする。さよなら頭、そして、さよなら胴体。ゴブリンの胴体は悲しげに赤い涙を大量に溢れさせながら、崩れ落ちた。

「リョータはまたそんなこと言って、もう6箇所目だよー。ゴブちんに囲まれるのは3回()っ! ()っ! ()っ! ドイハっちが怪我しちゃったのは()()っ!」

 「目」と「だ」と「よ」と言う1秒ちょっとの間で、ヨシノは3匹のゴブリンの喉笛を斬り裂いた。さらにヨシノは回転蹴りを入れたゴブリンを「2回」の掛け声と同時に二段突き(ダブルスラスト)で貫く。数秒で4匹という恐ろしい殲滅(せんめつ)速度(そくど)

「それは、オタクがとろいからだろ? あと、アキが後ろに漏らしてるからだろーが!」

「アキちゃんはちゃんとやってるでしょー! 見てみなよ。リョータより全然盾役(タンク)が上手いよ」

 当事者のアキはリョータの戯言(たわごと)が聞こえていないのか、聞こえているがあえて無視しているのか、必死にゴブリン達を()きつけていた。その数は5匹。表情はクローズヘルムで見えない。

 ――だんだん、惹きつけている数が増えている。

 アキは周囲をキョロキョロと見ながら盾で、そして時には長剣(ロングソード)で、ゴブリンを弾いたり、後ろに下がらせたりしていた。1匹のゴブリンが隙を見て、アキに斬りかかったが盾受(ブロック)で攻撃を受け止められる。そのゴブリンの顔面を、アキが()()()()()()()。ゴブリンは鼻血を出して倒れる。

 アキは強突(スラスト)という盾で防御をしながら敵を突く刺突系の(スキル)を習得したはずだが、その(スキル)を試すよりも、誰かを殴りたい衝動が強かったらしい。

 ――あああ、あれは聞こえてて、怒ってる。恐ろしい。

「そうだぞ。リョータ、アキに謝れ」

 グンゾウは慌ててアキのご機嫌を取る。しかし、リョータは大無視を決め込んでいる。

「キシシシ、僕がとろいことは誰も否定しない、シシシシシシシ」

 グンゾウの後ろに隠れていたハイドが何故か誇らしげに笑った。

 ――気付いたか。……だが、それは仕方ない。

 実際、ハイドが怪我をしたのは、ゴブリンにやられたのではなく、逃げ惑って転んだだけだった。逃げ惑わずにじっとしていないと、護衛する方も守りづらい。

 混戦がリョータ小隊(パーティ)の圧勝で収まりそうになってきた時、ズシン、ズシンと床鳴りがして、建物の奥からホブゴブリンと甲冑を着たゴブリンが現れた。ホブゴブリンは180センチメートル級の大物だ。

「よっしゃーー! ようやく、俺様の相手が出てきたぜ」

 リョータはグンゾウの目の前にいたゴブリンを切り倒すと、嬉々としてホブゴブリンに突っ込んでいった。知能の水準(バカ)が一緒なのか、リョータ(バカ)ホブゴブリン(バカ)が好きだ。

 ――勝手やりおって。あんなの2匹ともハイドの暴威雷電(サンダーストーム)で片が付くのに……。

 グンゾウはアキから弱そうなゴブリンを1匹引き剥がして受け持つ。ヨシノは高速でアキが抑えているゴブリン達を数匹片付けてから、甲冑ゴブリンへ向かっていった。

 

 

 オルタナに6回目の時鐘が鳴り響く。

 ダムローへの出発前にカズヒコ達から「今夜は大事な話があるから、全員でシェリーの酒場に集合しよう」と声をかけられていたため、リョータ小隊(パーティ)は全員、夕方から酒場の1階奥を陣取って座っていた。

「おっせーなー、カズヒコ」

 リョータは暇そうに、既に食べ終わって空になった食器を、木のフォークでカンカンと叩いていた。カズヒコは何か大事な話があるようだったので、お酒の量を控えている様子だ。

「なんだろうね? 約束して集合するなんて久しぶりだな。アキも飲む?」

「……ん……ふっ」

 グンゾウはウワの実の蒸留酒を陶製のコップに注いだ。ついでにアキは口の中に食べ物が入っていたらしく、何か言いながら(うなず)いたので、アキのコップにも注いだ。最近、カズヒコ小隊(パーティ)と待ち合わせすることは少なく、シェリーの酒場で会えば合流するといった感じだった。

 突然、ヨシノがグフグフと怪しい笑いを始める。

「もしかしてー、誰かが付き合い始めたとかいう発表だったりしてー」

「なんやて?!」

「え? そうなの?」

 素直なシムラとアキは驚く。ヨシノはその様子を見て少し満足げだ。

「いや、全然知らないけどー。想像を膨らましていただけー」

 ヨシノも暇そうに冷めたスープの表面に浮かんだ油をスプーンで繋げて遊んでいる。生活は確実に安定しているが、最近のリョータ小隊は、何か盛り上がりに欠けていた。

 ――みんな、燃え尽き症候群なのか?

 その点、グンゾウは大人なだけあり、精神が安定している。感情の起伏があまりない。特に動機(モチベーション)が低くなることもなく、淡々と安全管理に気を配っているだけの日々だ。

 恋人を待つ人のように、リョータ達は酒場の扉が開く度にキョロキョロと入口を眺めた。夜も更けてきて、ようやくカズヒコ達が現れる。

「あ、お待たせ」

 カズヒコは片手を挙げて、爽やかに挨拶をし、席に着いた。

「あー、もうお腹空いたー。私、レモネード飲みたい」

「へへへ、疲れたなー、俺はエールを」

 カズヒコ小隊の面々もそれぞれ席に着いて注文をするために給仕の女性(ウェイトレス)に話しかけている。リョータ達は待たされた苛立ちが一周して、カズヒコ達が来てくれたことを感謝すらしていた。

「おいおい、滅茶苦茶待ったわ。注文はいいから、大事な話って何なんだよー」

 リョータが苛立ち半分、嬉しさ半分でカズヒコに話かける。カズヒコは聞こえたか、聞こえてないか給仕の女性(ウェイトレス)に笑顔でエールを頼んでいた。少しの間、ふたりが見つめ合う。薄暗い店内なのに、女性の顔が紅潮するのがわかる。

 ――あれは女たらしギルドの(スキル)なのか? 俺は持ってないぞ、あの(スキル)

 ナンパ(スキル)を発動し終えたカズヒコが振り返ると、リョータ達が餌を前に「待て」をかけられている犬のような顔をしていることに少し驚く。そして、伸びてきた前髪を掻き上げると(おもむろ)に話始めた。

「ああ、ごめん、リョータ。話というのは例の件だよ」

「例の件?」

 リョータはカズヒコに放っとかれて、少し不機嫌になっている。幼い子どものようだ。

「えーっと、“双頭の蛇”という兵団指令(オーダー)のオーク退治だよ。ブリトニーから聞いてない?」

「聞いてねぇなぁ」

 リョータ小隊はカズヒコと一緒に行動をしなくなってから、情報収集能力がめっきり低下していて、世間の情報に疎くなっていた。

 兵団指令(オーダー)というのは、オルタナ辺境軍義勇兵団レッドムーンが団所属の義勇兵達に下す指令だ。ただし、指令といいながらも強制では無く、受託するかしないかは個人の意思に委ねられている。

「デッドヘッド監視砦及びリバーサイド鉄骨要塞奪取作戦、暗号名“双頭の蛇”だよ。今この作戦への参加要請が兵団指令(オーダー)として出ているんだ。初心者はデッドヘッド監視砦を襲撃する青蛇隊の別働隊に参加するみたいだけど、それでも報酬はなんと1ゴールド。全員で、じゃない。1人当たりだ。()達は参加するつもりだよ」

 ――()達?

 グンゾウは兵団指令(オーダー)の内容より、一人称の変化に違和感を覚えた。カズヒコの表情は自信に満ちあふれている。

 冷静に分析すれば当然だ。

 リョータやヨシノと離れたことで、カズヒコは小隊(パーティ)で一番の戦士だ。指揮においてもグンゾウから離れた今、誰に気兼ねすることもなく自分の差配で全てを動かすことができる。おまけに爽やかな容姿にも恵まれ、女の子(やブリちゃん)に()(はや)される。恐らく、ここ数週間の環境がカズヒコにリーダーとしての自信を(みなぎ)らせている。

「オークとの戦争なんて、危なくないの?」

 グンゾウはカズヒコに尋ねると蒸留酒で喉を潤した。

「大丈夫みたいですよ。赤蛇隊が狙うリバーサイド鉄骨要塞は、初の試みで難易度が高いみたいですが、青蛇隊が狙うデッドヘッド監視砦は、何度も陥落させたことのある拠点のようです。その青蛇隊の別働隊に参加する義勇兵の役割は牽制(けんせい)と陽動で、正面突破は辺境軍正規兵の役割だそうで、周辺のオークと少しやり合えばいいだけみたいです。それに我々はあの数の新市街ゴブリン達と渡り合ってきたんですよ。他の義勇兵より集団戦には慣れているはずです」

 ――とはいえ、カズヒコ側はなぁ……。こちらもタナカやシンジョーに頼った部分が大きいし。面と向かっては言えないけど……。

「へへへっ! あの時の俺の活躍をみんなにも見せたかったぜ!」

「そんな、活躍してた?」

 チョコが冷たい目でミッツを見ていた。零れるような大きい目が疑わしそうに細くなっている。カズヒコ小隊(パーティ)の他の仲間も生暖(なまあたた)かい笑顔を浮かべている。

「おまけに、リョータは戦士見習いにしてオークを倒したオーク殺し(スレイヤー)だろ? こんなに相性の良い兵団指令(オーダー)ないんじゃない?」

 カズヒコがリョータに向けて左目を瞑ってウインクした。

「お、おう……」

 リョータは何故か口籠もった感じで返事をした。何だか自信なさげで、カズヒコのことを真っ直ぐ見詰め返さない。

 ――ん? なんか変だな。自慢話が始まってもいいのに。……まさかリョータはびびってる?

「そのオークん戦争はいつなのー?」

 ヨシノが興味を持ったのか、伸びをしながら聞いた。

「丁度10日後の午前3時にオルタナ北門前に集合で、2時間程移動して夜明けと共に開戦だよ。義勇兵団事務所への申し込みは5日後が締め切りだったかな? 俺達は明日にでも申し込みに行こうかと」

「えーっ! 10日後なのー?」

 ヨシノは嫌そうな顔をすると、指折り何かを数えて考え始めた。

 ――ん? 10日後になんかあったっけな? 準備期間が足りないってことかな? ヨシノは意外と慎重派だからな。模擬訓練をみっちりする方だし。

「10日後……」

 グンゾウの隣で、アキが下を向きながら静かな声で呟いた。

 ――あれ? みんな()()()()を気にしてる? もしかして俺だけ知らされていない飲み会があるとか? 何だか寂しい……混ざりたい。

 好戦的な狂犬リョータを始め、前衛陣が静かになってしまったため、場が静まってしまった。酒場に集まった義勇兵達の馬鹿話の音が大きくなる。

「報酬も魅力的だし、前金で20シルバーもらえるらしい。12人で行動した方が戦場でもきっと安全だと思うから、リョータ達も参加しようぜ。……まあ、いきなりだし、少し考えてくれよ」

 カズヒコは普段と違う雰囲気を察したのか、リョータの肩を叩いて話を切り上げる。

「これはヤバイぜぇ……キシっ」

「なんや? ハイド、まーた、独り言かいな」

 ハイドとシムラの緊張感のない会話が始まると、皆それぞれに他愛も無い話を始めた。

 

 

 今日、初めて兵団指令(オーダー)のことを知ったリョータ小隊(パーティ)は、参加申し込みに若干の猶予があるため、それぞれ冷静に考えてから決めることにした。

 その夜、宿舎でグンゾウが風呂から出てくると、何故か沐浴室の前にリョータが立っていた。部屋着ではなく、外出用の普段着を着ている。腰にはほぼ使わない長剣(ロングソード)、手には行灯(ランタン)を持っていた。

「オッサン……、ちょっと外へ飲みに行かね?」

 珍しくリョータがグンゾウを誘う。

「“オッ”って名前じゃねーけど。どうした? 恋の悩みなら俺も聞いて欲しいくらい、全く縁がないぜ」

「ちげーよ。恋なら悩む必要がねー。門で待ってるわ」

 言いたいことを言うと、リョータは立ち去った。

 ――だから、“オッ”さんって名前じゃねーけど?

 若者の話も聞いてあげないといけないと思ったグンゾウは、リョータに付き合い西町手前の職人街にある屋台で飲むことにした。夜も更けているため、客はリョータとグンゾウを除けば、ぐでんぐでんに酔っ払った職人風の男だけだった。

 道中もリョータは黙ったままだった。今もグンゾウの横に座って、深刻そうな顔をしている。

 ――ただでさえ(いか)つい顔なのに、怖いんだよ。

 席に着くと、お摘みとエールを頼んだ。グンゾウは出てきたエールを一口飲む。生ぬるいため喉ごしは今一だが、香ばしい穀物の匂いが口の中に広がった。飲みやすくはないが、癖になりそうな味だ。

 ――ここのエールはこういう味か。

 突然、リョータが話を切り出す。

「……俺はオークに勝てると思うか?」

 もう一口飲もうと、持ち上げたグンゾウのジョッキが止まる。一旦、下ろす。

「オークに勝てるも何も、お前勝ったことあんだろ?」

「あれ、ちゃんと戦ってねーんだわ」

「は?」

「これ、絶対他の奴には言うなよ」

「お前が俺のこと“オッサン”て呼ばなければな」

「じゃ、言わねー」

 リョータは()ねた子どものように黙ってしまった。()ねたような顔はチョコの専売特許だから、リョータがやっても可愛くない。

「分かった、分かった。そんな()ねた顔をするなよ。言わないから、言えよ、言いたいんだろ?」

 リョータがちらっとグンゾウを見る。少し逡巡(しゅんじゅん)してから口を開いた。

「……あれはさ……、()けたんだよ」

「は?」

「俺がびびって固まってたら、オークの奴が勝手に()けたんだよ。石か何かに(つまづ)いて……、それを俺は上からタコ殴りにして、止めを刺しただけなんだ。だからまともには戦ってねーんだ」

 ――まじか……。

「お前、それなのにあんだけ自慢してたの?」

「うっせぇ、まあ、倒したことには変わりねーだろ」

「ま、まあな……」

 2人の間を沈黙の時間が過ぎる。周辺には、屋台の店主が瓶に汲んだ水で食器を洗っている音と、酔っ払いの(いびき)だけが響いていた。

「オッサン、なんか言えよ……気まずいだろ」

 ――また、オッサンって言ってやがる。だが……。

「あ……の……さ……」

 グンゾウは下を向いたまま、ボソボソと話し始めた。

「ああん?」

「お前、オークに勝てると思うよ。絶対」

「え? どうしてだよ?」

 リョータが驚いた様子でグンゾウの方向を向いている。

「以前、オークに勝った話の真実を話せなかったのは、自信も実力も無かったから虚勢を張る必要があったんだと思うんだよ。でもゴブリン達との戦いを経て、お前すごく成長しただろ? あのデカいホブゴブリン達をバンバン狩ってさ、それにエルダーコボルドだってお前とヨシノは1人で倒せる。もうオークにだって勝てる自信があるから、真実を受け容れて、話せるようになったんじゃないかと俺は思うんだよね。だから、お前なら勝てるよ」

 それを聞くと、リョータは少し笑顔になった。憎たらしくない、素直な笑顔だ。

「そっか……そうだよな。……俺は」

盾役(タンク)な」

「はぁ?!」

「お前さぁ、少し自分の役割を認識しろよ。お前は小隊(パーティ)盾役(タンク)なんだよ。攻撃役(アタッカー)はヨシノ。アキは支援役(サポート)だからな。カズヒコ達が居たときはカズヒコが盾役(タンク)してくれてたけど、そもそもはリョータの役目だから。最近、自由に暴れすぎなんだよ。忘れてたろ?」

「それは……忘れて………………た」

「よろしい。オークみたいなデカい敵相手じゃ、アキは盾になりきれない。リョータが俺等の命を全部背負ってるんだから、頼むぜ、リーダー!」

 グンゾウはリョータの背中を叩いた。「バシッ」と良い音が夜空に響く。

「いてぇよ、オッサン。神官の癖に乱暴だぞっ!」

 リョータは悪態を吐いていたが、その顔は笑顔だった。

「まあ、細かいこと言わずに、飲め、飲め」

 グンゾウはリョータと乾杯をした。

 

 

 深緑の夜空と紅い月は姿を消し、群青の空と白い太陽が姿を現わし始めた。

 屋台の主人は早朝から働く職人達のための食事を準備している。

 爽やかな朝に相応(ふさわ)しくない男達が、相応(ふさわ)しくない会話をしていた。

「まあ、今回のオークとの戦争でぇ……ばしっと盾役(タンク)したら、ヨシノもチュウくらいしてくれるんじゃねーの?」

 何度目の同じ話だろう。グンゾウは酔っ払ってぐでんぐでんになっていた。(テーブル)に顔を伏せている。酒を飲む時だけ顔を上げていた。

「まじかー。チュウかー、うぃっく。……オッパイくらい揉ませてくれないかなー?」

 リョータも酷く酔っ払っている。既に右目と左目の向いている方向が違う。寝ていないのが奇跡だ。

「2回くらい揉ませてくれんじゃねーの? 減るもんじゃなし」

「まじかー。2回じゃ、逆になんか溜まるなー、うぃっく」

(ゼロ)よりいいんでねーの? (ゼロ)より。俺も……」

「おっ! オッサンも何かあるのか? よっ! エロ親父(おやじ)! いや、エロ神官!」

 ――言えない……。

 グンゾウはそのまま(テーブル)を枕に寝てしまった。リョータもグンゾウの返事が返ってこないので、(よだれ)を垂らしながら寝てしまった。

 そんな2人の様子を見て、屋台の主人が声をかける。

「お客さん! そろそろ帰ってくれんかね? それか席にいるなら何か朝飯を注文(オーダー)してくれないか?」

 グンゾウは半目を開けて、口を開いた。

「ああ、ああ、兵団指令(オーダー)はオークでしょ……」

 屋台の主人が大きなため息を吐いた。

 

 




原作をお読みの方々は、カズヒコの変化に「ああああ……」となられたことでしょう。

日間ランキングに載るといいな(´・ω・`)


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