3話目投入です(`・ω・´) シャキーン
旧市街に残っている新市街ゴブリン達の勢力は、雑魚ゴブリンを養うために、ある程度のお宝を隠し持っている。そう睨んだリョータ率いる
しかし、2匹目のドジョウは中々見つからず、労力に見合うだけの対価を獲られない日々が続いていた。そうこうしている内に、大半の拠点は潰してしまい、ダムロー旧市街は正常化されつつある。
そこはダムロー旧市街にある広い廃墟だった。
保存状態が良く、天井には様々な色彩のステンドグラスが残っている。かつてはルミアリス神殿に関連する施設だったらしく、女神や天使らしき白い石像が建ち並んでいた。しかし、全ての像は顔や頭部が削り取られている。
リョータ
理由を挙げるとすれば……「
「リョータぁ、やっぱり、あれは偶然で、そうそう上手いことはいかないんじゃないの?」
グンゾウは飛びかかってきたゴブリンの斧を
「シムラ、ありがと」
「あんでもねーよ! だーいじょぶだー!」
シムラは動きが止まったゴブリンに剣鉈を右から左上へ一閃。さらに怯んだゴブリンを右上から左下へ斬った。
グンゾウはリョータの説得を続ける。
「危ない割に得るものが少ないしさ……」
「いや、オッサン、そんなこたぁねぇ。絶対ワンチャンあるぜっ!」
リョータの
「リョータはまたそんなこと言って、もう6箇所目だよー。ゴブちんに囲まれるのは3回
「目」と「だ」と「よ」と言う1秒ちょっとの間で、ヨシノは3匹のゴブリンの喉笛を斬り裂いた。さらにヨシノは回転蹴りを入れたゴブリンを「2回」の掛け声と同時に
「それは、オタクがとろいからだろ? あと、アキが後ろに漏らしてるからだろーが!」
「アキちゃんはちゃんとやってるでしょー! 見てみなよ。リョータより全然
当事者のアキはリョータの
――だんだん、惹きつけている数が増えている。
アキは周囲をキョロキョロと見ながら盾で、そして時には
アキは
――あああ、あれは聞こえてて、怒ってる。恐ろしい。
「そうだぞ。リョータ、アキに謝れ」
グンゾウは慌ててアキのご機嫌を取る。しかし、リョータは大無視を決め込んでいる。
「キシシシ、僕がとろいことは誰も否定しない、シシシシシシシ」
グンゾウの後ろに隠れていたハイドが何故か誇らしげに笑った。
――気付いたか。……だが、それは仕方ない。
実際、ハイドが怪我をしたのは、ゴブリンにやられたのではなく、逃げ惑って転んだだけだった。逃げ惑わずにじっとしていないと、護衛する方も守りづらい。
混戦がリョータ
「よっしゃーー! ようやく、俺様の相手が出てきたぜ」
リョータはグンゾウの目の前にいたゴブリンを切り倒すと、嬉々としてホブゴブリンに突っ込んでいった。
――勝手やりおって。あんなの2匹ともハイドの
グンゾウはアキから弱そうなゴブリンを1匹引き剥がして受け持つ。ヨシノは高速でアキが抑えているゴブリン達を数匹片付けてから、甲冑ゴブリンへ向かっていった。
オルタナに6回目の時鐘が鳴り響く。
ダムローへの出発前にカズヒコ達から「今夜は大事な話があるから、全員でシェリーの酒場に集合しよう」と声をかけられていたため、リョータ
「おっせーなー、カズヒコ」
リョータは暇そうに、既に食べ終わって空になった食器を、木のフォークでカンカンと叩いていた。カズヒコは何か大事な話があるようだったので、お酒の量を控えている様子だ。
「なんだろうね? 約束して集合するなんて久しぶりだな。アキも飲む?」
「……ん……ふっ」
グンゾウはウワの実の蒸留酒を陶製のコップに注いだ。ついでにアキは口の中に食べ物が入っていたらしく、何か言いながら
突然、ヨシノがグフグフと怪しい笑いを始める。
「もしかしてー、誰かが付き合い始めたとかいう発表だったりしてー」
「なんやて?!」
「え? そうなの?」
素直なシムラとアキは驚く。ヨシノはその様子を見て少し満足げだ。
「いや、全然知らないけどー。想像を膨らましていただけー」
ヨシノも暇そうに冷めたスープの表面に浮かんだ油をスプーンで繋げて遊んでいる。生活は確実に安定しているが、最近のリョータ小隊は、何か盛り上がりに欠けていた。
――みんな、燃え尽き症候群なのか?
その点、グンゾウは大人なだけあり、精神が安定している。感情の起伏があまりない。特に
恋人を待つ人のように、リョータ達は酒場の扉が開く度にキョロキョロと入口を眺めた。夜も更けてきて、ようやくカズヒコ達が現れる。
「あ、お待たせ」
カズヒコは片手を挙げて、爽やかに挨拶をし、席に着いた。
「あー、もうお腹空いたー。私、レモネード飲みたい」
「へへへ、疲れたなー、俺はエールを」
カズヒコ小隊の面々もそれぞれ席に着いて注文をするために
「おいおい、滅茶苦茶待ったわ。注文はいいから、大事な話って何なんだよー」
リョータが苛立ち半分、嬉しさ半分でカズヒコに話かける。カズヒコは聞こえたか、聞こえてないか
――あれは女たらしギルドの
ナンパ
「ああ、ごめん、リョータ。話というのは例の件だよ」
「例の件?」
リョータはカズヒコに放っとかれて、少し不機嫌になっている。幼い子どものようだ。
「えーっと、“双頭の蛇”という
「聞いてねぇなぁ」
リョータ小隊はカズヒコと一緒に行動をしなくなってから、情報収集能力がめっきり低下していて、世間の情報に疎くなっていた。
「デッドヘッド監視砦及びリバーサイド鉄骨要塞奪取作戦、暗号名“双頭の蛇”だよ。今この作戦への参加要請が
――
グンゾウは
冷静に分析すれば当然だ。
リョータやヨシノと離れたことで、カズヒコは
「オークとの戦争なんて、危なくないの?」
グンゾウはカズヒコに尋ねると蒸留酒で喉を潤した。
「大丈夫みたいですよ。赤蛇隊が狙うリバーサイド鉄骨要塞は、初の試みで難易度が高いみたいですが、青蛇隊が狙うデッドヘッド監視砦は、何度も陥落させたことのある拠点のようです。その青蛇隊の別働隊に参加する義勇兵の役割は
――とはいえ、カズヒコ側はなぁ……。こちらもタナカやシンジョーに頼った部分が大きいし。面と向かっては言えないけど……。
「へへへっ! あの時の俺の活躍をみんなにも見せたかったぜ!」
「そんな、活躍してた?」
チョコが冷たい目でミッツを見ていた。零れるような大きい目が疑わしそうに細くなっている。カズヒコ
「おまけに、リョータは戦士見習いにしてオークを倒したオーク
カズヒコがリョータに向けて左目を瞑ってウインクした。
「お、おう……」
リョータは何故か口籠もった感じで返事をした。何だか自信なさげで、カズヒコのことを真っ直ぐ見詰め返さない。
――ん? なんか変だな。自慢話が始まってもいいのに。……まさかリョータはびびってる?
「そのオークん戦争はいつなのー?」
ヨシノが興味を持ったのか、伸びをしながら聞いた。
「丁度10日後の午前3時にオルタナ北門前に集合で、2時間程移動して夜明けと共に開戦だよ。義勇兵団事務所への申し込みは5日後が締め切りだったかな? 俺達は明日にでも申し込みに行こうかと」
「えーっ! 10日後なのー?」
ヨシノは嫌そうな顔をすると、指折り何かを数えて考え始めた。
――ん? 10日後になんかあったっけな? 準備期間が足りないってことかな? ヨシノは意外と慎重派だからな。模擬訓練をみっちりする方だし。
「10日後……」
グンゾウの隣で、アキが下を向きながら静かな声で呟いた。
――あれ? みんな
好戦的な狂犬リョータを始め、前衛陣が静かになってしまったため、場が静まってしまった。酒場に集まった義勇兵達の馬鹿話の音が大きくなる。
「報酬も魅力的だし、前金で20シルバーもらえるらしい。12人で行動した方が戦場でもきっと安全だと思うから、リョータ達も参加しようぜ。……まあ、いきなりだし、少し考えてくれよ」
カズヒコは普段と違う雰囲気を察したのか、リョータの肩を叩いて話を切り上げる。
「これはヤバイぜぇ……キシっ」
「なんや? ハイド、まーた、独り言かいな」
ハイドとシムラの緊張感のない会話が始まると、皆それぞれに他愛も無い話を始めた。
今日、初めて
その夜、宿舎でグンゾウが風呂から出てくると、何故か沐浴室の前にリョータが立っていた。部屋着ではなく、外出用の普段着を着ている。腰にはほぼ使わない
「オッサン……、ちょっと外へ飲みに行かね?」
珍しくリョータがグンゾウを誘う。
「“オッ”って名前じゃねーけど。どうした? 恋の悩みなら俺も聞いて欲しいくらい、全く縁がないぜ」
「ちげーよ。恋なら悩む必要がねー。門で待ってるわ」
言いたいことを言うと、リョータは立ち去った。
――だから、“オッ”さんって名前じゃねーけど?
若者の話も聞いてあげないといけないと思ったグンゾウは、リョータに付き合い西町手前の職人街にある屋台で飲むことにした。夜も更けているため、客はリョータとグンゾウを除けば、ぐでんぐでんに酔っ払った職人風の男だけだった。
道中もリョータは黙ったままだった。今もグンゾウの横に座って、深刻そうな顔をしている。
――ただでさえ
席に着くと、お摘みとエールを頼んだ。グンゾウは出てきたエールを一口飲む。生ぬるいため喉ごしは今一だが、香ばしい穀物の匂いが口の中に広がった。飲みやすくはないが、癖になりそうな味だ。
――ここのエールはこういう味か。
突然、リョータが話を切り出す。
「……俺はオークに勝てると思うか?」
もう一口飲もうと、持ち上げたグンゾウのジョッキが止まる。一旦、下ろす。
「オークに勝てるも何も、お前勝ったことあんだろ?」
「あれ、ちゃんと戦ってねーんだわ」
「は?」
「これ、絶対他の奴には言うなよ」
「お前が俺のこと“オッサン”て呼ばなければな」
「じゃ、言わねー」
リョータは
「分かった、分かった。そんな
リョータがちらっとグンゾウを見る。少し
「……あれはさ……、
「は?」
「俺がびびって固まってたら、オークの奴が勝手に
――まじか……。
「お前、それなのにあんだけ自慢してたの?」
「うっせぇ、まあ、倒したことには変わりねーだろ」
「ま、まあな……」
2人の間を沈黙の時間が過ぎる。周辺には、屋台の店主が瓶に汲んだ水で食器を洗っている音と、酔っ払いの
「オッサン、なんか言えよ……気まずいだろ」
――また、オッサンって言ってやがる。だが……。
「あ……の……さ……」
グンゾウは下を向いたまま、ボソボソと話し始めた。
「ああん?」
「お前、オークに勝てると思うよ。絶対」
「え? どうしてだよ?」
リョータが驚いた様子でグンゾウの方向を向いている。
「以前、オークに勝った話の真実を話せなかったのは、自信も実力も無かったから虚勢を張る必要があったんだと思うんだよ。でもゴブリン達との戦いを経て、お前すごく成長しただろ? あのデカいホブゴブリン達をバンバン狩ってさ、それにエルダーコボルドだってお前とヨシノは1人で倒せる。もうオークにだって勝てる自信があるから、真実を受け容れて、話せるようになったんじゃないかと俺は思うんだよね。だから、お前なら勝てるよ」
それを聞くと、リョータは少し笑顔になった。憎たらしくない、素直な笑顔だ。
「そっか……そうだよな。……俺は」
「
「はぁ?!」
「お前さぁ、少し自分の役割を認識しろよ。お前は
「それは……忘れて………………た」
「よろしい。オークみたいなデカい敵相手じゃ、アキは盾になりきれない。リョータが俺等の命を全部背負ってるんだから、頼むぜ、リーダー!」
グンゾウはリョータの背中を叩いた。「バシッ」と良い音が夜空に響く。
「いてぇよ、オッサン。神官の癖に乱暴だぞっ!」
リョータは悪態を吐いていたが、その顔は笑顔だった。
「まあ、細かいこと言わずに、飲め、飲め」
グンゾウはリョータと乾杯をした。
深緑の夜空と紅い月は姿を消し、群青の空と白い太陽が姿を現わし始めた。
屋台の主人は早朝から働く職人達のための食事を準備している。
爽やかな朝に
「まあ、今回のオークとの戦争でぇ……ばしっと
何度目の同じ話だろう。グンゾウは酔っ払ってぐでんぐでんになっていた。
「まじかー。チュウかー、うぃっく。……オッパイくらい揉ませてくれないかなー?」
リョータも酷く酔っ払っている。既に右目と左目の向いている方向が違う。寝ていないのが奇跡だ。
「2回くらい揉ませてくれんじゃねーの? 減るもんじゃなし」
「まじかー。2回じゃ、逆になんか溜まるなー、うぃっく」
「
「おっ! オッサンも何かあるのか? よっ! エロ
――言えない……。
グンゾウはそのまま
そんな2人の様子を見て、屋台の主人が声をかける。
「お客さん! そろそろ帰ってくれんかね? それか席にいるなら何か朝飯を
グンゾウは半目を開けて、口を開いた。
「ああ、ああ、
屋台の主人が大きなため息を吐いた。
原作をお読みの方々は、カズヒコの変化に「ああああ……」となられたことでしょう。
日間ランキングに載るといいな(´・ω・`)