廃と群像のグリムガル ~不惑の幻想~   作:西吉三

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やってやる! やってやるであります! (`・ω・´) シャキーン


1.始まりはいつもシェリーの酒場から

 薄暗いシェリーの酒場。

 その真ん中で、多くの義勇兵から注目を浴びている光り輝く一団があった。その一団はゴブリンスレイヤーと呼ばれ、先輩義勇兵から揶揄(やゆ)される存在だった。全員、幼さすら感じさせる少年、少女達だ。

「みんなー、今日は俺達のおごりだ-! じゃん、じゃん、飲んでくれ-!」

 声を出したのは、見覚えがある天然パーマの小柄な少年だった。少年の顔は紅潮し、自信に満ちあふれていた。

 周りを囲む義勇兵達から喝采(かっさい)と大きな歓声が湧き起こる。

 酒が無料(ただ)になることを聞きつけ、次々と義勇兵が集まり、お祭り騒ぎの様相を呈してきた。どこからか現れた演奏家達が音楽を(かな)で始める。楽しげな空気が酒場中に一気に広がった。

 シェリーの酒場でたまに起きる、(にぎ)やかな夜宴(やえん)の始まりだった。

 

 

「あれ? 今日はなんかあったの?」

 既に始まっていた打ち上げにアキと遅れて到着したグンゾウは、先に到着していた仲間達に尋ねた。

「なんかねー。()()()()()()()()()のみなさんが、()()()()()()()を倒して手に入った牽制球(けんせいきゅう)で今夜の酒代は全部おごってくれるんだってー。ラッキーだったねー」

 酒場全体の雰囲気に酔っているのか、普通に酒に酔っ払っているのか、ヨシノが楽しそうに状況を説明している。手に持った杯には、今日もウワの実から作った蒸留酒が入っていた。

 全員が、ヨシノの発言は少し間違っているように感じたが、既にヨシノ翻訳機を脳内に搭載しているため、間違いなく意味は伝わった。

「ほほー。なんだか得したね。()()()()()()()()()()()ていくらなんだっけ?」

 グンゾウはさりげなく自分の隣の椅子をアキのために引きながら座る。アキは特に違和感を覚えた様子もなく、小動物のようにちょこんと頭を下げるとその椅子に座った。

 ――幸福は小さな努力の積み重ねで実現する。

「なんでも30ゴールドらしいですよ。それにデッドスポットがいなくなったことで、サイリン鉱山での狩りがずっと安全になるので、3階層目くらいまでの狩り場で安定して稼げるようになりますね」

 タイチは表紙がぼろぼろに擦りきれた手帳を見ながら、興奮している。

「へえっ! 30ゴールド! デッドスポットって強いんでしょ? 彼等(かれら)すごいね。まあ、俺達のダムローの収益(あがり)がいくらになるか、精算しないとわからないけど」

「あいつらなんて、大したことねーよ、今回の俺様の活躍に比べれば……な、眉毛!」

 既に顔を真っ赤にしたリョータが、右隣に座っているタナカと肩を組んだ。タナカは迷惑そうな顔をした。リョータの前の(テーブル)には空いたジョッキが3個も並んでいる。

 ――え? リョータはそんなに活躍……あ、したって言えば、したな。うん。うん。した。した。ん? ヨシノは紅鎧(べによろい)と白甲冑、アキと俺は黒甲冑、リョータは両手剣(ツヴァイヘンダー)を折られ……んー? あれー? 頼りになったかなー? んー、いや、なった。なったと思おう。

「ああ……、う、うん……、まあ……」

 戦闘が終わったタナカは借りてきた(ニャア)のように大人しい。そして暗い。しかし、体格は野獣(クラス)、眉毛は相変わらずフサフサだ。

「お前は根暗かっ!」

 リョータがタナカをからかう。

 大きい体を小さくしているタナカは、先程からちらちらと目線だけでアキの顔を(うかが)っている。先の戦闘時の件で、アキのことを少し意識しているのかもしれない。

 ――要注意人物(ツー)だな。

 今日の打ち上げにはダムロー旧市街奪還作戦に参加した仲間全員に声をかけた。クズオカ達は別の狩り場に移動する予定があり、お断りの申し出があった。意外と働き者だ。

 シンジョーとオダは用事があり、グンゾウ達よりさらに遅れてくるらしい。シンジョーとオダは同じ小隊(パーティ)だが、タナカは独り(フリーランス)だ。

 胸とお尻をプリプリさせた若いお姉さんの手によって陶製のジョッキがふたつ運ばれてくる。店に入った時に頼んでおいたグンゾウとアキの分のエールだ。

「よし、グンゾウさんとアキのジョッキが来たから、本番の乾杯をしよう!」

 カズヒコが立ち上がった。それに従って全員立ち上がる。

「じゃあ、乾杯の挨拶をグンゾウさんから」

「え?」

 突然、乾杯の挨拶を任されてグンゾウは戸惑った。

 ――ここは大人の実力の見せ所か……。

「あー、何だか、ゴブリンスレイヤーにお祝いの雰囲気を取られちゃったけど。まあ、みんなが頑張ったおかげで、俺等もすごく成功した。もちろんタナカを始め、他の小隊(パーティ)の方々にもお世話になりました」

 皆がタナカに頭を下げる。タナカも恐縮したように頭を下げた。

「オッサン、挨拶がなげーぞー! おねーちゃん、もう1杯!」

 できあがっているリョータは乾杯前に杯を飲み干している。「態度が悪い!」とヨシノに肩を叩かれて、なんだか嬉しそうにしている。

「……コホン、ダムロー旧市街にいた新市街のゴブリン勢力も弱体化し、新人義勇兵が安全に狩りができるようになるだろう。俺等は今後現れる後輩のためにすごく(ため)になることをしたと思う。未来のために良いことをしたんだ。だから、俺はみんなを誇りに思っている。今日は楽しもう! お疲れ様! 乾杯!」

「かんぱい! 勝ってうれしー!!」

「俺様かんぱーーーーーーーーーーーい!」

「かんぱい」

「乾杯っ!!」

「かんぱーい、あかん、俺の酒、もうないで」

「かんぱーい!」

「かんぱぇへへへへっ!」

「なにそれ? かんぱーい」

「乾杯、疲れたー」

「キシっ!」

「……乾杯っす!」

「……ぃ」

「おっ! 俺ちゃんも入れてー、ぱんかーい!」

 突然どこからか現れたキッカワも参加し、皆それぞれに乾杯をした。杯を何度もぶつけ合い、お互いの健闘を(たた)え合った。

 グンゾウも目の前のタナカや隣にいるハイドやアキだけではなく、全員と杯が割れそうなほどぶつけ合って生き残った幸せを分かち合った。

 ――稼ぎなんてどうでもいい。仲間を誰も失うことがなかった。こんな素晴らしいことはない。

 

 

「……やっぱりすごい美人ですね。あれだけ痩せているのに、あの神官衣の下の膨らみはやばい」

 酔っ払ったカズヒコが目を輝かせる。カズヒコは割と女性の胸が好きだなとグンゾウは思った。至って正常(ノーマル)だ。

「うん、そうだね……。手足が細くて長くて、顔が小さくて、均整(バランス)がすごい。そして清楚な美人だ」

 グンゾウも酔いで座った目で答えた。グンゾウは女性の均整(バランス)が好きだ。

「何て言うか、昔、組んだことあって……あの時は二度と会いたくないって感じの性悪女だったけど、あんな笑顔を見せるなんて信じられない。今ならずっと組んでいたい」

 タナカが珍しく饒舌(じょうぜつ)だ。

 ――アキにちくったろ。

「……かわいいっす」

 デカいクザクが頷く。

「あれ? クザクも女の子に興味なんてあったの?」

 グンゾウがデカいクザクを見上げるように質問をした。クザクが呆れたような目でグンゾウを見下ろして答える

「当たり前……じゃないっすか。俺は普通(ストレート)ですよ」

「俺はアキさんが……、いや、でも、メリイは飛び抜けた美人だからもっと好きだ」

 後から打ち上げに参加したオダが最低な発言をした。

 ――この発言は絶対忘れない。

「……」

 シンジョーは黙って酒を飲んでいる。リョータとタナカの間に座って相変わらずの笑顔だ。寝ているリョータに上着をかけてあげたり、妙に優しい。

 夜も更けて、打ち上げは既に終わり、中締め解散していた。リョータはいつものように酔いつぶれ、(テーブル)に顔を突っ伏したまま(いびき)をかいている。カズヒコ・リョータ両小隊(パーティ)の女の子達や子ども達は宿舎に帰った。しかし、シェリーの酒場はまだまだこれからという盛り上がりを見せている。

 そして、グンゾウ達は何をしてるか?

 酔っ払った6人の男達(シンジョーは除く)は、アルコールによる影響で脳の活動水準が低下し、完全に下衆(げす)集団に成り下がっていた。店中の女の子を眺めながら、どの娘がかわいいなどという品評をしている。

 今、評価対象になっていたのはゴブリンスレイヤーの神官メリイだった。

 彼女は一時期、固有の仲間を持たず、誘われるがままに小隊(パーティ)を移り変わっていた。タナカが言っていた通り、その時の異名は「性悪メリイ」「恐怖のメリイ」等と呼ばれ、見た目の良さに反して、協調性の無さと、神官としての働きの悪さが有名だった。

 しかし、ゴブリンスレイヤーと盛り上がっている彼女の顔を見る限り、そんな片鱗は少しも(うかが)えない。

 幸せそうな笑顔で仲間と勝利を祝っていた。その美しい顔は、清楚で大人な表情の中に、一滴の幼さを感じさせる(はかな)げなものだ。

「でもっ! あえて僕はゴブリンスレイヤーの中で言えば、あの魔法使いを()します!」

 カズヒコは飲み干したジョッキを机に置きながら、良い声と良い顔で()()()()を言い始めた。皆の目がゴブリンスレイヤーの魔法使いに集まる。カズヒコは続けた。

「だって見てください。あの白く柔らかそうな肌質。抱き心地の良さそうな丁度良い肉付き。それになんと言っても(こぼ)れんばかりの……もう、(きょ)とか、(ばく)じゃないです。もう、魔乳(まにゅう)ですよ。若く垂れてない、しかも太ってもない魔乳(まにゅう)の女の子なんて、そうそう出逢えませんよ! 顔なんて飾りに過ぎないっ!!」

 熱くなったカズヒコは(テーブル)を握りしめた両手で叩いた。

 皆の間で「なるほど!」という同意の(どよ)めきが起きた。その後、爆笑が訪れる。

「あっはっはっはっは。ひーひっひっひっひ、カズヒコくっだらねー。サイテーだな」

 グンゾウは腹が(よじ)れる程笑った。

「あれ? なんか違いました?」

 カズヒコはニヤけた顔をしながら、首を傾げた。酔いが良い感じに回っている。

「あ、面白い話ついでに、リョータはゴブリンスレイヤーの中で誰が一番良いって言ってたか分かりますか?」

 寝ているリョータのことをちらりと横目で見ながらカズヒコは謎かけをしてきた。

 皆、頭を傾げる。酔っ払いなので頭が回らない。

「んー……、普通に女神官とか?」

 クザクが白けた顔で答えると、カズヒコは嬉しそう微笑んだ。

「違うんだよ。なんと、あの狩人の女の子だって。あの子に話しかけたことあるけど、かなりの天然で意味不明なことを言う女の子なんだよね」

 また皆の間に「ほほう」という同意の(どよ)めきが起きる。

「それっぽいなー、リョータは天然の女の子が好きなんだなー。……ていうか、カズヒコは何であの女の子に話しかけてるんだよ」

 また爆笑が巻き起こる。グンゾウはユメにヨシノの姿を重ねて思い浮かべていた。

「じゃあ、じゃあ、次はあっちの小隊(パーティ)を……」

 カズヒコはまた別の小隊(パーティ)を指差して、話を始めた。下らない酔っ払いの話は延々と続く。

 ――今夜はすごい楽しいなぁ。

 グンゾウは酒場の喧噪と酒に浮かされて、ふわふわとした幸せな雰囲気を満喫していた。

 

 

 翌朝。オルタナは未明に小雨が降り、明け方からずっと曇天(どんてん)だった。

 稼ぎなんてどうでもいい。仲間を誰も失うことがなかった。こんな素晴らしいことはない。そんなグンゾウの崇高(すうこう)な想いも、目の前に積まれた銀貨(シルバー)の前に崩れさった。

「25ゴールド?!」

 グンゾウの声が上擦(うわず)る。いい歳のおじさんが恥ずかしい醜態を晒していると言われれば、あえて受け容れようと思った。

 ダムロー旧市街での戦争(既に戦闘の域を超えている)から得た戦利品は、荷馬車2台で運び出した。食料等は全て破棄し、現金と宝石、そして指揮官(コマンダー)(クラス)が身に付けていた装備を中心に、良質な装備を集めてきている。ダムローからオルタナへの経路で、馬車が通れる道は限られており、グンゾウ達は帰路でかなりの遠回りを強いられていた。

 買取り品の量が膨大な量なので、()()で経営している大きな買取り屋をクズオカに紹介してもらい、一晩預けて見積もりをお願いしていた。その店は天望楼から東区に少し入った、上品な地域の商業地域にあった。

 通されたのは買取り屋の裏にある、大きな倉庫の前だった。倉庫には重厚な金属の扉が付いており、これまた大きな錠前が掛けられていた。周囲は高い石壁で囲われ、隔絶された静寂さが漂っていた。捕まった罪人のような気分になる。

 買取り屋の壮年の男性は、疲れた様子で灰色の髪をかき上げながら、ぼりぼりと頭皮を掻く。ふけが肩にぼろぼろと落ちて、それを手で払う。そこでひとつため息を吐くと、羊皮紙にまとめられた買取り品の一覧表を見ながら説明を始めた。

「あー、大体そうなるね。価格のほとんどはこれらね」

 そう言って男性は、赤、黒、青の揃った甲冑を指差した。

「この赤と黒と青の甲冑は、なかなかお目にかかれないくらい良質な金属で出来ていたのと、表面に施された装飾に小さな宝石が埋まってて、それぞれ6ゴールド」

「まじか……」

 グンゾウと一緒に来ていたシムラが驚きの表情で固まっている。なお、アキとチョコ、チョコの付属品としてミッツも一緒に来ていて、3人とも目を大きく開けて驚いている。チョコは目の玉が落ちてしまうのではないかと思うくらい目を見開いていた。

「この青い弓が2ゴールド50シルバーね。残りの装備と屑鉄は一山で2ゴールド。宝石類や呪術品が全部で325シルバー。あと、あんたら馬鹿かね。銀貨まで一緒に預けてったじゃろ? 数えたら206枚あったぞ。戦争でもしてきたのか? ありがたいが、一遍(いっぺん)にこんな量を持ち込まれたから、見積もる作業で眠れんかったわ。年寄りには堪えた」

 男性は呆れた表情をして、グンゾウ達の目の前に金、銀、銅貨の詰まった袋を積み上げると、その上に羊皮紙を2枚出した。

「受け取りの署名を2枚にしとくれ。1枚はお前さん方用の明細だ、既にわしが署名してある」

 

 

 買取り屋からの帰り道、大量の貨幣を運びやすくするため、まず最初にヨロズ商会へ寄った。両替されて出てきた金貨を持つグンゾウの手が震えた。

「こんな大金、手にするの2回目だなー」

 宿舎への帰り道、グンゾウは思わず声に出してしまった。

「1回目じゃないって、すごくないですか? また、服が買えそう」

 チョコは嬉しそうにスキップしながら進んでいた。

「へへへ、俺等、大金持ち? へへっ!」

「ま、先輩義勇兵の中には仲間を失った小隊(パーティ)への(はなむけ)に1ゴールドをぽんっと出せる奴等もいるみたいだから、大した金額じゃないんだよ。……きっと」

 ――クズオカ達と分けたら、1人当たり1ゴールドちょっとだしな。

「それも、すごい話っすねー。俺はそんなことでけへんわー」

 命を懸けた大変な作戦だったが、それなりに報われたため、皆、帰路の足取りは軽かった。

 1人だけ濡れてぬかるむ地面を眺めながら、浮かぬ顔をしている仲間がいた。

 ……アキだ。

 彼女は大金の護衛に付いてきているため、白い部分鎧の上に神官衣を纏い、黒い長剣を腰に帯びていた。

「どうしたの? アキ。浮かない顔に見えるけど」

 グンゾウが声をかけると、アキは真剣な表情のままグンゾウを振り返った。

「あ、いや。買取り金額の件で……」

「え? なんか不足があった?」

「いえいえ、違うんです。指揮官(コマンダー)(クラス)の甲冑や武器が高価で買い取られていることを考えると、私がもらっちゃったこの胸当や剣や盾は換金して分配しないといけないかな……と」

 アキは真剣な顔で分配の公平性について悩んでいた。そんな真面目なアキがグンゾウはたまらなく可愛かった。

「まあ、いいんじゃないの? 最初に決めた規則(ルール)で装備品の中から装備できるものはもらっていいって話だったんだし」

「そうなんですけどね……」

「買取り額を知っても、もうヨシノはあの槍を手放さないと思うよ?」

 ヨシノも白甲冑の槍を接収していた。当然、槍の長さは身長に合わないため、穂だけを自分の槍に取り付けていた。

「ヨシノは……今回の戦いで一番活躍しているので。でも私は……」

 ――んー。どうしたらいいのかな? ……いや、ここはいつもの(パターン)だ。

 アキは割と悩む性格だ。リョータ小隊(パーティ)で言うと行動派のヨシノとは真逆で、悩むと積極的に解決に動くわけでもなく、いつまでもじっと悩んでいる。

 最近はグンゾウもアキの性格に慣れてきていて、こういう場合は解決しなくても話を聞いて、慰めてあげればいいのだと割り切っている。

「そっか、ヨシノよりも活躍していないと思ってるんだ」

「……ええ、ヨシノがいなかったら、勝てなかったと思うし」

「そうか、勝てなかったか……。でも、指揮を預かってた俺からしてみれば、アキがいなかったら、あの戦いは絶対勝てなかったけどな」

「えっ?」

 アキが色白の顔をグンゾウに向けて、小さな驚きの声を出した。グンゾウは笑顔で見返す。

「黒甲冑はアキが紅鎧(べによろい)から引き離したし、止めも刺した、そして疲労困憊の俺を救った。アキが圧力をかけ続けたらから両手剣の折れたリョータもホブゴブリンXLにやられなかった。紅鎧(べによろい)をヨシノが安心して倒せたのも、アキが後詰めとして控えてたからだけどなー」

「そんな、それは……」

 アキは恥ずかしそうに(うつむ)いた。背筋を丸めて歩いている。

「それでも、もし、すっきりしないなら、悩んでないで、帰ってみんなに聞いてみようぜ」

 そう言うとグンゾウはアキの背中を背当の上から叩いた。

「は、はいっ!」

 アキは叩かれた勢いで胸を張り、数歩前に出た。

 そこに突然、後ろからチョコが駆け寄っていって、アキと腕を組んだ。

 アキは一瞬驚いたが、チョコが何事かを耳元で囁くと、2人で楽しそうに話し始めた。

 アキはもう地面を向かずに話している。

 ――良かった、良かった。やっぱりガールズトークが一番楽しそうだな。しかし、なんで突然チョコが走ってきたのか?

 そこへ後ろからミッツが現れて、グンゾウを追い抜いてから止まった。がっくりと肩の力を落としている。

「どうした? ミッツ?」

「へへっ、グンゾウさーん、チョコが俺の話を聞いてくれないんですよ。へへへ」

 心なしか、ミッツの笑い声は弱々しかった。

 ――しかし、何故笑っている?

「へらへら、俺、ダムローで大活躍しましたよねー? でも、チョコが全然認めてくれなくて、へへへーい」

「あー、うん、あ、あ、そうね……そうそう、活躍してたよ……」

「ですよね! へへへへへっ!」

 ミッツは嬉しそうな顔をすると、またチョコの方へ話しかけに行った。

 しばらく見ていると、チョコに嫌そうな顔をされていた。

「うん、きっと。……俺は見てないけど」

 グンゾウはミッツが居なくなった後で、そう小さく(つぶや)いた。

 ――あー、なんだかアキの悩みは可愛いく思うのに、ミッツの承認欲求(しょうにんよっきゅう)鬱陶(うっとう)しいなー。……いかん、いかん。仲間だから同じように話を聴かないとな。

 グンゾウは反省しつつ、ため息を吐いて空を見上げた。オルタナの空は、グンゾウの気持ちを反映させたような曇天模様だった。

 

 

「あの青い弓、もろうとけば良かったかなー?」

 グンゾウの傍でまた1人悩み始めた少年がいた。しかし、グンゾウは聞かなかったふりをした。

 この世は誰もが悩みを抱えている。

 

 




1日に何話も投稿したら、アクセス数がどう伸びるかの実験をする予定です。
この日のために、少し書き溜めました。
話の質は落としたつもりはありませんけど、元々低いのはご愛嬌。

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