プロローグ.選ばれざる者
グンゾウはぼんやりと眺めていた。
古ぼけた
その洋燈の近くにある柱の上の方には
洋燈の置かれたカウンターテーブルの奥には木で造られた棚があり、食器や本、望遠鏡のようなものに混じって剣や弓、短槍が立てかけてある。そこにもいくつかの蝋燭が置かれていた。
灯りの中心にはひとりの人物がいて、カウンターテーブルに肘を突きながら退屈そうな、そして愉快そうな表情でこちらを見つめている。その周辺だけが明るく輝き、暗い部屋をぼんやりと照らしていた。
部屋の暗がりと明るみの中間点、黄昏の地にふたりの男が立って話し合いをしている。このふたりがまさにグンゾウ
「どうする?」
「どうする? って、……と……の二者択一だろ? どっちでもよくね?」
ふたりの視線がグンゾウとその隣の男を交互に行き来する。
「戦力バランスを考えれば……」
「そもそも戦力……」
狭い室内だ。小声で話し合っていても、内容にはある程度察しがつく。
――要らない人間の押し付け合い。あぁ、あるある。わかるわかる。残った身としては最高に嫌な気分だ。思い出せもしないが、きっと過去にもこんな経験をしたんだろう。なんとなくわかる。それを考えると過去の記憶を失ったことはむしろ喜ぶべきことなのかもしれない。それにしても……。
「キシキシキシシシシ。僕にはわかる。この世界では僕が最強だ。キシシシシシ」
隣の男は薄気味悪い笑い方をしながらつぶやいた。グンゾウと同じ状況に置かれても、自分を最強と豪語する隣の男の精神は強い。
――正直、羨ましい。
隣の男を見ながら、呆れ顔のグンゾウは思った。それに引き替え、グリムガル初日からグンゾウは既に情けない気持ちでいっぱいだ。
男の名前は“ハイド”。男というより、少年と呼ぶ方がふさわしい。少年の名前は格好良かった。本人の見た目がどうかと言えば、名前から連想されるそれとは異なっている。
分厚いレンズの近視用眼鏡をかけた小太りの少年。眼鏡は皮脂で汚れている。背も高くはない、いや低い方だ。天使の輪が輝く直毛の黒髪は、おかっぱ頭に近い形でバッチリ切り揃えられている。ただし、後頭部の髪の毛が寝癖でだいぶはねていた。なんだか猫背だ。あと少し男臭い。
――ちゃんと、お風呂入っているのだろうか?
グンゾウは薬品系の匂いは割と大丈夫だが、生物系の匂いが苦手だった。ハイドの輝く黒髪も脂ぎっているだけに見えてきて、少し離れた。
話し合いはまだまだ続いているようだ。
何かに救いを求めるような気持ちで天井を見上げた。
硝子の嵌まった四角い天窓がある。天窓の外には美しい深緑の夜空と白い星々、そして見た記憶のない赤い月が煌々と輝いていた。
色々な感情が込み上げてきて、ため息が出た。
事の始まりは少し前に遡る。