実況パワフルプロ野球‎⁦‪-Once Again,Chase The Dream You Gave Up-   作:kyon99

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 新章突入!! 小波球太、二学年編始動!!
 ――激動の一年が幕を開ける!!


小波球太 第二章 恋恋高校二学年編
第9話 三人の新入部員


 今年の冬は、この街には珍しく雪が降り積もった。

 寒かった冬を終え、積もった雪も溶け始めるが、少しばかり残る中、季節は新しい春を四月を迎えた。

 春の暖かな日差しが、眠気を誘う。

 一年間通い続けた見慣れた景色を、通学路を走る青年が一人。

 特徴としては、黒い髪と黒い瞳はヤケに眠たそうで、見るからに優しい顔立がとても印象深い。

 青年の名前は小波球太。

 つい四日前、十七歳を迎えたその青年は、いつにも増して、活気に満ちたようにも思えた。

 その理由は、小波が通う恋恋高校の今年の新入生は、百七十八人と言う数の内、男子生徒が四十三人入学したと言う事が関係しているのだろう。

 青年は、去年立ち上げた野球部の主将だ。

 そして、その野球部に早くも入部希望者したい、と名乗り出る者が既に三人いると、顧問である加藤先生から聞かされたのである。

 ただ、青年は部員が増えた事に対して浮かれていた訳ではない。勿論、新入部員の加入は歓迎しているが、実際の話、立ち上げたばかりの野球部員数はたったの八人なのだ。

 三人加入し、十一人となった暁には、学校側も同好会から、正式な部活動として認めてくれると言うのだ。

 小波は、雪が溶け始めた頃から、朝早く学校に登校し、グラウンドの整備をしたりボールやバットなどの、野球道具の手入れを、ほぼ一人で毎日行うのが日課となっていた。

 その為か、授業中は殆ど、疲れから出てくる睡眠によって時間を潰してしまうことが多いのである。

 高校二年生となった小波球太は、未だ見ぬ未来へと向かって、足を進みだす。

 

「行くぞォー! センター! 打球をグローブで捕球するまで気を抜くんじゃないぞォ! もう一丁だァ!!」

 今日一日の授業を終え、生徒達は、それぞれの放課後を過ごす。

 そんな中、野球部専用グラウンドでは、八人全員が練習に打ち込んでいた。

 ちょうど守備練習と言う事で、星がノッカーを務め、センターの定位置に立つ矢部くんが、うんざりした様にグローブを小さく挙げてみせた。

「オイ、矢部! 返事はどうした! 全く聞こえねェぞ!? 声を出せや、声を!」

「オウ! でやんす」

 矢部くんが、やけくそになりながら少し甲高い声をはりあげる。

「やれば出来るじゃあねえか! オラ!」

 星の鋭い打球が、センター方向に高々と打ち上げる。まったく、なんだその打球は・・・・・・ファーストの定位置に立っていた俺は呆れて、ファーストミットを腰に置いたまま、打球を追いかける矢部くんに同情の視線を送る。

 あんなに高い打球を打てば、大抵の球場はホームランだ。と、思ったと同時に、フェンスの向こう側へと消えて行った。

 これじゃ、何の練習にもならない。

 強いて言うのなら「ホームランを見送る練習」と、でも言うべきだろう。そんなのは練習じゃあない。

 これではただの星のストレス解消だ。

 オマケによく見てみると、実際星は額に汗を滲ませていて、嬉しそうにドヤ顔を浮かべている。

「星くん、何かあったのかな?」

 すると、ランニングから戻って来た早川が、俺の隣で軽めのストレッチをしながら、不思議そうに言う。

「さぁな、星に何があったかなんて知らねえけど、大方見当は付いてるけどな」

「それって、どんな?」

「放課後、星のやつ、新入生の女子生徒に声をかけてたんだ。ま、所謂ナンパだ。結果は言うまでもなく分かるだろ?」

「・・・・・・何となく、ね。でも、良く懲りないよね」

 早川が呆れた様子で言うが、口元は少し緩んでいた。

「それより、新入部員の三人は、まだ来てないの?」

 辺りを見渡しながら、早川が問う。

「ああ、その件だけど、今日は新入生の生徒は帰宅だそうだ。仮入部期間は明日かららしいから、明日には顔を出すと思うぜ?」

「そっか・・・・・・。折角だから挨拶しようと思って早めに切り替えて急いで戻って来たのに、残念だな〜」

 早川は少し頬を膨らませながら、両の腕を頭に回す。

 まるで構って欲しいとでも言っているかのようなその仕草だったが、俺はそれを無視した。

 早川がさらにムスッとした表情を浮かべて近づいてきた。

「もう! 小波くん、どうせ暇なんでしょ? それなら、ボクのピッチングに付き合ってくれないかな?」

「・・・・・・暇ってな、お前。これから守備練習の途中で——って、おい!」

「いいから、早く」

 仕方なく付いていく。

 星の自己満足の練習に付き合ってもいられなかったから、良しとするか。

 俺たちは、十メートル先にある小さなブルペンへと足を向けた。

 まずは肩慣らしに軽めのキャッチボールを始める。

「初めてじゃない? こうして、小波くんとキャッチボールするの」

 少し嬉しそうに早川が言った。

 言われてみれば、今日が初めてなような気がした。

「・・・・・・どうせキャッチボールやるなら俺よりか、星のヤツと練習した方が最適なんじゃないのか?」

 ボールを投げると、同時に質問も投げた。

「う〜ん。星くんとはバッテリーとして組んでるから、確かに小波くんの言う通りなんだけど・・・・・・とにかく見て欲しいんだ。キミに、今のボクがどのくらい通用する、どうかを」

「それが、なんで俺なんだよ? 先に言っておくけど、俺はお前達が思ってるほど、大した人間じゃないからな!」

「それはそうかも知らないけど・・・・・・なんでだろう。キミじゃなきゃダメな気がするんだもん、仕方ないでしょ?」

「その根拠は?」

「それは・・・・・・内緒かな?」

 えへへ、と声を漏らす。

 早川のピッチングは内心、興味はあった。

 俺も早川のピッチングは、去年ソフトボール部の主将を務める高木幸子との一打席勝負の時以来、真面に見てなかった為、どの程度の実力なのか見極めたかった。

 アンダースローに安定したコントロール、キレのある変化球、それからどう進化したのか。

「それじゃあ、だいぶ肩暖まったから、投げてもいい?」

「ああ、よし、大丈夫だ」

 早川はくすりと、小さく笑い、俺に向かってボールを放った。

 

 珍しく河川敷をランニングしようと思い立ったのは、部活終了後のミーティングが終わった後の事だった。

 とにかく、走りたい気分だった。

 そういう思いにさせたのは、昼間、早川の球を受けた衝撃が冷め切らず、心の一部が未だに高揚したままだっただろうか。それとも、満月の夜、春風に吹かれる桜並木を走りたかっただけだろうか。

 取り上げず前者だ。

 月の光の下、静かに流れる川が聞こえ、水流には、白いものが浮かび上がって見える。

 部活をし終わった体とは、思えないほど体は重くならず、川の音と虫の音、そして地面を蹴り上げる靴の音がリズム良く鳴るのが、聞こえた。

 去年より、早川は成長をしていた。

 これは、一言で言えばの話だ。

 悪い意味ではない。

 良いところは格段と伸びていたし、ストレートのコントロールはもちろんの事、変化球もほぼ指定通りに投げ込まれていた。オマケに、キレも格段と増していた。

 これならある程度の強豪チームと渡りあえる可能性が出てきた。

 だが、問題なのは六十球を超えた辺りだろう。

 圧倒的なスタミナ不足。

 これが早川の課題とも言わしめる現実だった。

 そこで突きつけられるのは、リリーフ問題という点だ。

 現メンバーでは、俺と早川だけが唯一のピッチャー経験者なのだ。

 正直、不安はある。

 壊れた肘は完治したとは思っていない。

 今までのやり方だけでは、また故障に繋がってしまう為、今後はある程度抑えなきゃ行けない。「肘や肩に負担のないボール」を投げなければいけないのだ。

 でも、やるしかない。

 この恋恋高校で、あいつらと野球で出会えてよかったと、あいつらも野球と出会えて良かったと、思えるように俺もやらなきゃあいけない。

 すると、いつの間にか脚が止まっていた。

 ランニングの折り返し地点の印ともなっている高架線に、誰かが保たれかかっているのだ。見覚えのある爽やかな顔だった。

「・・・・・・春海か?」

 名前を呼んだ。

 その名前に反応し、本人の春海がゆっくりと身を起こす。

「き、球太?」

「何してんだよ、こんなところで」

「何って・・・・・・。お前と同じ、ランニングだよ」

「こんな時間にか?」

「こんな時間にだ」

 ニコリと笑う春海だ。

 相変わらずの童顔なのだが、満月の光に照らされると更に色白くなり若さが増した。

「どうだい? 恋恋高校の野球部の具合は」

「新入部員が三人入るって事で、正式な部活動として認められることにはなったな」

「そうか! それは良かったじゃあないか!」

「ありがとな! それよりお前こそきらめき高校はどうなんだよ」

「俺達は、順調だよ。なぁ球太、何やら嬉しそうな顔だけどどうかしたのか?」

「嬉しそうな顔? 俺が?」

「どっからどう見てもそう見えるけど?」

 突然、春海に言われて俺は驚いた。

 さっきの早川の件の事だろうか。少し恥ずかしくなった。

「それは・・・・・・内緒だ」

 部活中に見た。どっかの誰かのように真似てみた。もちろん「えへへ」とは漏らさない。

「そっか。そう言えば今年は恋恋高校、球太の率いるチームが参加するとなると、夏の地区予選は楽しみが増えるな」

「恋恋高校ときらめき高校、同ブロックだと良いな!」

「そうだな。それより球太。肘の具合はどうなんだ?」

「ま、何ともないけど、少し不安はあるな」

「一体どうしたんだ? 弱音は球太らしくないぞ?」

「なんせ俺が肘を壊したのは、俺自身の所為なんだからな」

「・・・・・・球太」

「笑えるだろ? 実はあの日、中学二年の全国大会の準優勝の試合、俺はこの試合投げたら壊れると分かっていながら、マウンドに上がったんだ。このチームを全国に連れて行きたいって気持ちが強すぎたんだろうな・・・・・・。右肘に違和感を感じた時には、時既に遅しってやつだ」

「分かってた? それはやっぱり——」

「ああ、俺が得意とする『三種』のアレが引き金だ。なんせ成長途中の身体に、あの球は相当の負担が掛かるからな」

「・・・・・・」

 無言になる春海。

 小学リトル時代からの付き合いとは言え、大体性格も分かっている。春海は優しい。

 今も俺の話を聞いて、かなり本気で心配してくれているのは当たり前のようにわかった。

「だけど、安心しろよ。それは昔の話で、俺の今は一塁手だ。ま、ピッチャーで出る時もあるかもしれないけど大丈夫だろう。とっくに肘には違和感なんてないんからな!」

 俺は笑いながら言った。本当に何でもない。

 すると、春海は少し淀んだため息を漏らす。

「おい、春海。どうかしたか?」

「あ・・・・・・いや、ゴメン。それを聞いてどこか安心したよ。何でもないよ。それより怪我だけは本当に気をつけてくれよ? 球太、俺は本当に君と戦うのが楽しみなんだから」

「ああ、わかってるって」

 沈黙。

 少し間が空いた。

 微かな瞬間、その間に春の風が割り込むかのように流れ、暫く経った。

 春海は、ぐるりと肩を回して見せた。

 土の香りを吸い込む。

「なぁ、球太。お腹減らないか?」

「奇遇だな。丁度、腹ペコだよ」

「じゃあ食べて行きなよ、オムライス」

「おお! マジか。恩にきるぜ」

 少し先を春海が歩く、俺はその後を追うように歩いていた。

 右手を空へと突き出した。

 届かない月に手を伸ばす。

 左右に捻り、感覚を確かめる。

 違和感なんて何もなかった。

 大丈夫さ。きっと。

 

 そして、もう一度、右腕を突き出し、体の伸びをして、天を仰いだ。

 空には無数の星が燦々と輝いていた。

 

 グラウンドを軽く二週しただけで汗が滲んでくる。

 背中と脇と腹の辺りがじんわりと染み込んで濡れて気持ちが悪い。

 この前までは、こんな事はなかった。

 風は冷たく、グラウンドの土は硬く、走っても走っても容易に身体は暖まら無かった筈なのに。

 だが、四月を迎えた今、日差しの中に立つだけで光の持つ熱が肌を刺激する。

 踏みしめる土に冬の季節には無かった弾力さえ感じるのだった。

「古味刈くん! 行けるでやんすか?」

「行ける、行けるぞ! 矢部ぇ!」

「矢部明雄、ホームを狙うでやんす!」

 三塁ベースの後ろ、三塁コーチャーの立つ位置辺りで、古味刈が腕を大きく回していた。

 古味刈の合図と共に、矢部くんが三塁ベースを蹴り上げる。

 脚に力を込め、ホームベースまでの数メートルを、駆け抜け、頭から滑り込むヘッドスライディングを見せた。

「セーフ!!! 矢部明雄選手! 見事、生還!」

 ガッと拳を振り上げて、声を張り上げる矢部くんだ。

「アウト!」

 すると、呆れながら早川が親指を立てて拳を握った腕を突き上げる。

「えっ!? 今のはセーフでやんすよ!」

「アウトだよ!」

「セーフでやんす!」

「アウトって言ったら、アウトなの!」

「えぇ〜そんな! あんまりでやんす!!!」

 矢部くんはわざと顔を歪める。先ほどのヘッドスライディングのせいか、少し顔の周りに砂が付いており、何時にも増して変な顔になっていた。早川がクスクスと我慢していたであろう笑いが聞こえる。

 今は、ベースランニングの練習中だ。

 矢部くんの足の速さだが、見るからにかなり速い。去年、三人でキャッチボールをした時も思ったことなのだが「スピードスターの矢部」と言われていたと言う赤とんぼ中学時代、その呼び名で言う者もいたと言うのが頷ける。

 足の速さもさる事ながら、走塁の巧さも忘れてはならない。今の矢部くんの走塁を見てそう思った。走塁時、無駄な膨らみが全く無いのだ。

「相変わらず脚の速さだけはピカイチだな。あの腐れオタクメガネ」

 星が腕を組み舌打ちしながら、言う。

「ああ、後は打撃、守備と不安要素さえ拭えれば恋恋高校の一番打者は確定だ。流石は『スピードスターの矢部』とでも言っておくよ」

「はァ? スピードスターの矢部? おいおい、小波。テメェ、野球センスは抜群に良いのにネーミングセンスはねェよな」

「え?」

 星は高笑いを浮かべる。

 俺は不思議に思った。

 矢部くんと同じ中学出身の星なら、この異名を聞いたことはある筈だ、と。

「ネーミングセンスが無いって、『スピードスターの矢部』って、矢部くんが赤とんぼ中学時代に皆から言われてたって自分で言ってたんだぞ?」

「あァン? そんな変な呼び名聞いた事ねェぞ?」

 その表情は、本当に知らなそうだった。

 矢部くんが嘘を言っているのか?

 それとも、星が白を切っているのか?

 だが、俺には星が冗談を言っているようには見えなかった。

「小波さ〜ん! 連れて来ましたよ。新入部員の三人です」

 ハッと、その声に振り向いた。

 その視線には俺が練習が始まる前に頼んでいたマネージャーの七瀬はるかを含めた四人が、そこにいた。

 俺が七瀬に頼んだのは、新入部員をグラウンドに連れてきてもらう事だった。

 新しい顔ぶれが見える、こいつらが新しいチームメイト。

 早速、俺はみんなを集合させ、自己紹介を始めた。

 矢部くんと星の二人合わせて五分程にも渡るスピーチと言う茶番を早川が強制的に終わらせて、最後にマネージャーの七瀬の挨拶をして二年生の自己紹介が終わった。

 まず一人目、身長が早川より少し低い百六十三センチの小柄の生徒から始まった。

「パワフル中学出身、俺の名前は赤坂紡(あかさかつむぎ)ッス! ポジションはショート。こう見えて結構なパワーヒッターなのが長所で、短所は少し肩が弱い所ッス!」

「西満涙中学出身、名前は椎名繋(しいなつなぎ)です。中学時代の僕のポジションはキャッチャーです。星先輩、僕は貴方には負けませんので、是非よろしくお願いします!」

 同じキャッチャーの星をチラッと見つめる。

 それに応えるかのように星はギラッと睨みを利かす。

「最後は俺っちの番ですね。聖タチバナ学院中等部出身の御影龍舞(みかげりゅうま)です。おみかげくんと呼ばれてましたので、その名前で呼んで下さい。因みにポジションは基本的に外野全般です」

 こうして新しく、赤坂紡、椎名繋、御影龍舞の新しい三人のメンバーが入部し、俺たち恋恋高校の新しいスタートを切る事になったのだった。




 夜中になってしまいまして、ようやく九話目。
 ここからが二学年編です。
 はい! 新キャラ登場しました。という事でですね。現在の球太達のステータスの紹介もしなきゃという事で、今まとめてる最中であります。報告の方で追々、書きたいと思っております。
 二学年編という事で、内容の薄い一学年とは違い、割とスローペースでシナリオが進んで行くと思います。ま、後は色々なイベントを考えていたりもします。
 試合展開やら、過去の話、オリジナルの能力○○設定などなど、もちろん新キャラも増えますし、出てるけど名前だけと言うキャラもいる訳なので、そこら辺は頑張って行きたいと思います!
 なんと次回は、お待ちかね(してない)スピードスターの矢部くんメイン回になりそうな予定です。さてどうなるのなら・・・・・・。
 十話もよろしくお願いします!

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