実況パワフルプロ野球‎⁦‪-Once Again,Chase The Dream You Gave Up-   作:kyon99

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 猪狩VS麻生。
 ――二人の勝負の行方は?


第8話 あかつき大附属 VS パワフル高校 その二

 振りかぶったオーバースローの投球モーション。

 左腕から放たれた速球は百四十五キロをマークした。

「ストライク——ッ!!」

 審判が高々に叫ぶ。

 コールと同時に、周りからも驚くような声がワーッと湧き上がる。

 続く二球目だ。

 内角を抉る様な百四十二キロのストレートを一番打者の七井=アレフトは、タイミングを見計らってバットを振るい、カットするも、ツーストライクと、簡単に追い込まれてしまった。

 そして、三球目。

 高めに投げ込まれたストレートをバットに当て弾き返すが、快音は虚しく、センターフライに打ち取られ一アウト。

 続く二番、三番打者と連続三振に打ち取られて、この回、あかつき打線は得点ゼロで攻撃が終わった。

「しかし、似てるな」

 この回、パワフル高校のエース、麻生は打者三人に対し、十一球の球数を投げたのだが、ストレートの速球、球威は勿論、シュート、シンカー、フォークの変化球と言い、その姿がまるで右投げの猪狩守そのものだなと改めて肌で感じた。

「あっ! やっぱりここにいた! お〜い、小波くん!」

 名前が呼ばれ、小波は振り返った。

 その声の主は、今現在戦っているチームのパワフル高校のマネージャーの栗原だった。

「・・・・・・栗原? 何してんだよ、お前! 試合は?」

「あぁ・・・・・・だって私、マネージャーって言ってもね。パワフル高校には四人の先輩マネージャーがいるんだもんの。まだまだヒヨッコの私なんてベンチに入る事は無いわ、いつも外で応援なのよ」

「成る程な・・・・・・、って栗原。大丈夫なのかよ?」

「何が?」

「何がって、だって、ここは、あかつきのベンチ上だぞ?」

「大丈夫よ! 多分、私だって誰も気付きなんかしないもの!」

 満面な笑みを浮かべる栗原だったが、その笑顔のせいで、小波は流石に怒れなかった。

「あの麻生って言うやつ随分、猪狩と似てるもんだな。さすが『猪狩ブルースシニア』に居ただけの実力はあるな」

「そうだね」

 言葉を短く切る。

「・・・・・・?」

「でも、私が見るからに、麻生くんは猪狩くんとは違うよ。なんか怖いくらい」

 声が震えていた。

 まるで怯えているかのような、栗原。

 心配になった小波が、訳を聞こうと思い、咄嗟に手を肩に掛けた瞬間の事だった。

「小波くん〜? キミは、一体、何をやってるのかな?」

 聞き覚えある声。チラッとその声が聞こえる方へと振り向いた。

 黄緑色の長い髪が目に映った瞬間に、その人物が誰なのかをすぐ様理解した。

「――は、早川ッ!? どうしてここに? って、お前らも!?」

 すると、早川を筆頭に、星、矢部、毛利、山吹、古味刈、海野の計七人、恋恋高校野球部のメンバーが、いつの間にか小波達の後ろの席に座っていた。

「いつからそこに居たんだよ!」

「キミが、さっきまで話をしていた茶髪の子が、キミに声を掛けた時からボク達は既にいたよ?」

 進と話をしている時だって?

 確か、拳と拳を交わした時、後ろを向いたはずだったが・・・・・・?

 まさか、丁度視界に入って見えなかったって言うのか?

「黙ってないで声くらいかけてくれよ!」

「だって小波くん、真剣に試合見てるもんでやんすから、声なんてかけられなかったでやんすよ! そうでやんすよね? 星くん」

「・・・・・・」

「どうしたでやんす? 星くん?」

「あ・・・・・・あ、あの・・・・・・も、も、もしかして・・・・・・栗原舞さんですよね?」

「えっ? あ、はい。そうですけど?」

「オ、オ、お、お、俺ェ!! いや、僕はッ!! 恋恋高校の星雄大と申しますッ!! 初めましてェェ!!」

「はい。小波くんから話を聞いてますよ。恋恋高校のキャッチャーをされてるんですよね?」

「ご、ご存知でしたかァァッ!! いや〜〜知っていてくれてメッチャクチャ嬉しいです! 舞さん、小波くんとはどんな関係なので?」

「それはボクも気になるッ!!」

 星の問いに、早川も喰いついた。

 それよりもまず気になったのは。星の態度だ。

 おいおい、なんだ?

 こんなにも、よそよそしい星を俺は見た事がないぞ。

 今まで見た事のない星の反応に、誰もが目を丸くしている。

「小波くんとは、幼稚園の頃からの幼馴染なんですよ」

「幼馴染・・・・・・?」早川の眉がピクッと僅かながら動いた。

「おい! テメェ、小波ッ! ふざけんじゃあねェぞ!」

「お前は、一体、何に対して怒ってんだよ!」

 星が俺の首元を掴み鬼の様な形相をしていた。

「幼馴染って事は、お前ェ! まさか舞さんの事を何でも知ってるって事かよォ! あんな事やこんな事も知ってるのかァ!? 知ってるなら今すぐ教えてくれェ!!」

「し、知らねえよ!」

 すると、星はいつもの顔に戻った。

「そうか。ったく、焦らせんじゃあねェよ」

 掴んだ首元をパッと解く。

 勝手に焦ったのはお前の方だろ。

「ふふ、仲良いんですね。まるであの頃みたいだね」

 懐かしんだ。緩やかな笑みをしていた。

「それじゃあ私、戻りますね。小波くんまたね」

「お、おう。またな!」

 栗原がパワフル高校の応援席に戻って行くのを見ながらため息を着く。

 だが、この残された、こいつらの鋭い目線が全部俺のところに集まって来ている事くらい分かっている。なんだか気まずい。

「・・・・・・それで? お前らは一体何しに来たんだ?」

「何しにって、テメェと同じく試合観戦に決まってんだろォ」

 ふてぶてしく星が言うが、視線はまだ栗原の事を見ていた。

「なぁ、星」

「あんだよ?」

「もしかして、お前。栗原に気があるのか?」

「ばッ、馬鹿野郎ォ!! な、何言ってやがんだよ! そ、そんなんじゃあねェよ! ・・・・・・まぁ・・・・・・そう言うことだ。内緒だぞ?」

 ――どっちだよ!

 てか、コイツ面倒くせえな!

 相手にしないでおこう。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 えっと、早川も今は相手にしていると、色々めんどそうだ。

 ずっと怖い目で俺をみてるし。

 さっきの彩乃の件もあるだろうから、矢部くんか海野辺りにでも声をかけるかな?

 そう思ったのだが、二人は少し距離のある方に離れていた。

「・・・・・・」

 さてと、試合に集中するか。

 思ったが、あかつきの攻撃は終わっていてスコアボードにゼロの文字が表示されたところだった。

 

 ゲームは両校の投手戦となり、両校合わせたヒットはたったの三本だった。

 流石、古豪と名門のライバル高校同士と言ったところだ。

 この一戦は三回戦、四回戦で当たることが多く毎年あかつきがコールド勝ちで終わるのだが今年は八回まで試合が進み、いい勝負をしているので見応えがあるのだろう。

 ザワザワしていた球場も静かになり、その試合に見惚れていたのだ。

 ゲームが動いたのは八回表の先攻のパワフル高校だった。

 四番、石原が猪狩の甘く入った高めのスライダーを見逃さず綺麗に、センター前に弾き返した。続く五番、一年生の戸井がツーストライク、ツーボールからの五球目。

 キチンと送りバントを決め一死二塁で六番の麻生に回った。

 その初球。

 ――百四十五キロのストレートだ。

 豪快なスイングから生まれた綺麗な快音。

 その音だけを残し、レフトスタンドへと叩き込んだのだ。

 すると、パワフル高校のベンチが湧きあがり静かだった場内が活気に満ち溢れた。

「猪狩からホームランとは麻生ってやつ、中々やるじゃあねえのか!」

「麻生・・・・・・か」

「山吹、お前。あいつの事知ってるのか?」

「ああ、なんせシニアで嫌という程戦った事があるからな」

「俺もあるが、猪狩ブルースシニアには一度も勝った事がねえけどな」

 二人は、シニア出身で面識はあると言うのだが、麻生は俺様口調で人を見下す奴らしく性格と言う事で、性格までもが猪狩に似ていると思った。

 続く七番、八番を三振に仕留め、この回の守備は終わり、一対三のままあかつきの攻撃へと変わる。

「投手戦で進んできたこのゲームだ。三点を取られちまったあかつき高校にとっては、麻生から点を取るのも打つのも苦しいだろうな」

「星くんが言ってるけど、そこんところ、どう思う? 小波くん」

 早川が聞いてくる。

「ああ、まだ終わったわけじゃ無い。よく見たら今日のメンバーはレギュラーじゃないんだ」

「――ッ!?」

 皆が驚く。

「俺は、中学があかつきだったから分かるんだけど、本来エースである一ノ瀬先輩、そして三本松先輩、分析力に長けている四条先輩が出ていないんだ」

 説明すると、皆声も出なく呆気に取られていた。それを見て俺はニヤリとした。

「それに、二宮先輩の采配らしくない。あの人は、どんな相手だろうとも甘い球、甘いコースに指示はしないんだ」

 思考巡らす。

 すると、俺はつい先程、進との会話を思い出した。

 ――でも兄さんの采配が気になっちゃうんですけど・・・・・・

「・・・・・・猪狩守」

 ボソッと呟く。

 自分が漏らした言葉なのに、「おいおい、マジかよ」と、少し気の抜けた声が出てしまった。

「ちょ、ちょっと待ってよ! 今まで猪狩くんの采配だったって事?」

「小波、一体、どういうこったよ?」

 早川と星が慌てる様に話をする。

 だが、俺にも分からない。

 何故この様になっているのかも・・・・・・。

 

「はは! しかし、猪狩。ストレートの球速は良かったが、コースが甘かったな」

「そうですね」

 ベンチに座る猪狩の隣で、キャッチャーマスクを片手に持ちながら、真っ赤に染まった髪の毛の前髪をヘッドバンドで上げて、見るからに悪そうな目をしていて、ガラの悪そうなのはチームの司令塔・二宮瑞穂だ。

「おいおい、二宮。仕方ないだろ? これも猪狩の采配なんだから」

「それもそうッスね」

 猪狩を擁護する様に話すのは、チームの圧倒的パワーヒッターであもあり、四番打者である三本松一だ。

 高校三年生とは思えないほど、ぎっちりとした筋肉質で体は、猪狩より一・五倍はあるのではないかと、思ってしまう程、がっしりしている。

「猪狩、ご苦労様。さっきのストレート少し高かったかな?」

 猪狩に声を掛けた人物は、軽く微笑んでいた。

 名を一ノ瀬塔矢。

 現在、猪狩の二学年上の高校三年生であり、常勝チームであるあかつき大附属の野球部のみエースにして主将を務めている。

 技巧派の左腕で、地方大会、春の選抜大会で計三回のノーヒットノーランを達成させた絶対的エースだ。

「一ノ瀬先輩、そのようですね」

 猪狩は鼻で笑う。

「どうやら天才である僕は、たった一人の凡人の所為で浮かれていたのかもしれません」

「はァ? 浮かれてただとォ? 猪狩、お前はこの試合中に何を考えてたんだよ!」

「止めろ瑞穂」

「・・・・・・」

 一ノ瀬の静かな口調で二宮を制止させた。

「それで、猪狩。君は、一体何に浮かれてたんだい?」

「小波がわ再び野球を始めた事、に対してですかね」

「——ッ!!」

 小波の名前を聞いた途端、あかつきベンチのその場がピタッと止まった。

「それは驚いた。小波球太が野球を再び始めただって? 猪狩。それはどこの高校なんだい?」

「今年から共学校になった恋恋高校です」

「恋恋高校か。あそこは去年まで女子校だったね・・・・・・ふふ、それは、なかなか興味深い話だ」

 小波球太の事を、流石の一ノ瀬も覚えていた。

 いや、忘れる事は出来ないであろう。

 それはら三年前の事だ。

 一ノ瀬が当時、中学三年生だった頃。

 「エースナンバーを俺によこせ!」

 と、喚き突っかかってくる度に、二宮に頭を叩かれていたあの黒髪で癖毛の少年が、一ノ瀬等三年生が部活引退後、一ノ瀬が背負ってきたあかつき大附属中学のエースナンバーを猪狩守から勝ち奪い、その後のあかつき中学を支えていた事。

 そして、成長の過程の中で肘を酷使して、故障をして、野球部から去ってしまった事など、ずっと覚えていたのだ。

「彼は肘を壊した。それでも野手にコンバートして戻ってきたと?」

「いや、あいつの肘は既に完治しています。それをアイツはまだ気付いていない」

 冷静な口調で猪狩が呟いた。

 そして、少し間を空けて、次の言葉を付け足したのだ。

「不思議ですけどね」

「そうか。あの小波が復帰したと言うのならば、この先、きっと彼らのチームが強敵になる可能性がある。猪狩! 二宮! 来年は、お前達があかつきの栄光を守るんだ」

「ああ、そんな事、分かってるよ」

 二宮の返事を聞いた一ノ瀬は、千石監督の隣へ、二宮はネクストバッターボックスへと歩き出した。

 そして猪狩は深く息をついた。

 ――浮かれてる場合じゃあない。今、戦っている相手は、小波じゃあなくパワフル高校だ。

 青い空を鏡に映しているかのような、透き通った青い瞳を閉じ、精神を統一しようとした時だった。一ノ瀬が再び猪狩に声を掛けた。

「九十九と二宮は、恐らく塁に出るだろう。八回裏、二点差の現状。君のバッティングなら自分の借りは自分で返せるかい?」

「はい」

「なら、ホームランを打って九回の表をゼロで抑えろ。これが千石さんからの一軍残留の最終課題だ」

「分かりました」

 この言葉に火がついたのか。

 九十九、二宮は、一ノ瀬予想通り、連続ヒットで塁に出た。

 ノーアウト一、二塁のチャンスの打席には猪狩守がバッターボックスに立つ。

 今日の麻生と猪狩の戦いは三打数三四球といずれも敬遠だった。

 しかし、この場合。

 敬遠にすれば無死満塁で続く打者は一発もある七井に繋がってしまう。

 ここは流石の麻生も覚悟を決めていた。

 一球目はキレのあるシュートでストライクを先行。

 二、三球目とボールを出してしまい。カウントはワンストライクツーボール。

 続く四球目。

 落差のあるフォークボールだった。

 だが、猪狩は狙っていたのかあるいは何でも打てたのか口元には、自信に満ち溢れた笑みを浮かべながら、バットを振り抜いたのを、麻生は見逃さなかった。

 打球一線。

 鋭いライナー性の当たり、瞬く間にライトのスタンドに打ち込まれ、逆転スリーランホームランで、八回裏、あかつき大附属高校が、パワフル高校から一点、勝ち越しした。

 唖然。

 その打球を見つめるパワフル高校のメンバーだったが、麻生だけは猪狩を黒い瞳で睨みつけたままだった。

 その後、調子を崩した麻生を見逃さなかった千足監督は、あかつき大附属メンバーを、三本松、四条な次々に正レギュラーへと変えて行った。

 見事、乱調になった麻生は、見事にあかつき打線にはまり同じ八回裏、十四点目となるホームランを打たれ、パワフル高校はコールドゲームとなり、審判の合図と同時にサイレンが鳴り響いた。

 

「恐ろしい相手だぜ。あかつき大附属」

 しみじみ思ったのだろうか、改めてあかつき大附属の本当の強さを偵察をしに来た各校のチームに焼き付けられた。

 

 そして、この年の地区の優勝を決め、甲子園の切符を手にしたのは、あかつき大附属となった。

 だがしかし、あかつき大附属は甲子園の第一回戦で、竜王学院高校と激突し、敗退してしまうのであった。




 次回、急展開!?
 ――二学年編スタート!

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