実況パワフルプロ野球‎⁦‪-Once Again,Chase The Dream You Gave Up-   作:kyon99

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第52話 前触れ

 蝉の鳴き声が、ミンミンと響き渡った。

「きゃっ!!!」

 夏の熱い風が吹き上げると共に、スカートが風を孕んでハタハタと靡かせた。

 慌ててスカートの中身を隠すように懸命に押さえつける女子生徒の姿を星は遠目に眺めながら、ニヤリとチャームポイントのキラリと光る八重歯を光らせ、不敵な笑みを浮かべるなり、じゅるりと舌舐めずりをする。

「くぅ〜!! 惜しい!! もう少しでパンツが見えると思ったんだけど・・・・・・チクショーーッ!!」

 夏の甲子園予選大会。

 三回戦目のきらめき高校を打ち破り、四回戦で当たる古豪・パワフル高校との戦いを二日後に控えた恋恋高校のグラウンドは、いつもと変わらぬ日常が繰り広げられていた。

「もう!! 星くん!! もう少しは緊張感を持って、ちゃんと真面目にやってよ!!」

「あン? 真面目にやれだァ? いいか? 早川ッ!! 俺はいつだって俺だッ!! だからこれが俺の真面目だッ!! 分かったか!!」

「何それ・・・・・・。何を言ってるか、ボクには全然ッ意味が分かんないんだけど!」

「まあまあ、星くんの事は放って置いてストレッチの続きするでやんよ」

「ちょっと待て! そう言えば小波のヤロォの姿が見当たらねェじゃねェか? パワフル高校戦を前にして、キャプテンが姿を現さねェとはいい度胸してやがるぜ!!」

 星は、眉を寄せる。

 細い目で辺りをグルリと見渡すものの、小波球太の姿は何処にも無かった。

「確かに・・・・・・部活始まってるのに、球太くんの姿を見てない気がするね」

「だろォ? いつもは学校終わって一目散にグラウンドに駆けつける筈のアイツが此処に居ねェのは珍しいな」

「あっ・・・・・・」

 すると、矢部が申し訳無さそうな表情を浮かべながら口を開いた。

「あの・・・・・・言い忘れていたでやんす。小波くんは今、加藤先生の所に行ってるから遅れてくると思うでやんすよ」

「はァ? 加藤先生の所だァ? なんでまた急に・・・・・・」

「もっ・・・・・・もしかして、球太くん、昨日の試合で投げたせいで、また肘を痛めたとか!?」

 早川は一瞬、小波の怪我が再発した事への不安が頭をよぎった。

「そ、それは無いと思うでやんす!」

「どうしてそんな事が言えんだ?」

「加藤先生は真剣な話があるって、小波くんを呼んでいたでやんすから・・・・・・きっと、今後の試合の対策とかだと思うでやんす」

「そう? それなら、別に良いんだけど・・・」

 何か、怪しい。

 何処か腑に落ちないといった様に、早川は少し首を傾げた。

 加藤理香は、確かに恋恋高校の野球部の顧問を務めてはいるものの、今まで監督らしい采配を出した事は、部活動結成以来二年間の間、一度たりとも無い。

 主に采配は、キャプテンである小波が出していたし、それが今となって急に監督らしい事をしようとしている加藤理香に、早川は不思議に似たモヤモヤする複雑な気持ちを抱いた。

「ま、居ねェバカを心配して待っていても始まらねェ。さっさと、練習始めるとするか!」

 ストレッチを終え、星が意気揚々と立ち上がって背筋をグンと伸ばした。

「はるかさーーん! 練習始めるんで、この漢・星雄大の為に、はるかさん特製のスポーツドリンクを作っておいて下さーーい!!」

「・・・・・・・・・」

 真夏の空に、星はマネージャーの七瀬はるかの名前を叫ぶが、その言葉は虚しく響き渡る。

 返事は返って来なかった。

「ありゃ? なんだ? 今日は、はるかさんも居ねェのか?」

「うん。はるかは、今日どうしても外せない用事があるみたいで、さっき急いで家に帰ってちゃったよ」

「外せない用事だァ? それってまさか・・・彼氏に会うとかじゃねェだろうな!!」

「そうかな? あのはるかに限って・・・・・・その彼氏とか、そんな浮ついた事は無いと——」

「だっ、だよなァ!! こんなにも近くに、はるかさんに相応しい俺が居るって言うのに、他の野郎と付き合う筈はねェよな!」

 早川の言葉を遮った星は高らかに声を上げるものの、周りの反応は薄く、やや呆れながら苦笑いを浮かべていた。

 肩を落とす早川は、ふと校舎の方に目を向ける。

「大丈夫かな・・・・・・球太くん」

 ゾワっと胸騒ぎする様な、嫌な予感は先程の会話から薄々感じていた。

 それは加藤理香に対する気持ちなのか、小波球太に対する気持ちなのかは定かではない。

「早川ーッ!! 早くしやがれッ!!」

「走りに行くでやんすよ!!」

「あ、うん! 待って、今いくよ!!」

 それでも、気にしてばかりはいられない。

 甲子園まで残り三つ。

 取り敢えず、今はチームの勝利の為に、頭を切り替えよう。

 早川は、前を走る部員達に続くように、日課のランニングをしにグラウンドを飛び出し、パワフル高校戦に向けて練習を始めた。

 

 

 

 

 掛け声が聞こえる。

 どうやら、部活が始まったらしい。

 誰もいなくなった保健室に、部活に汗を流す学生たちの声が響いた。

 薄い白いカーテンから斜光が、橙色の髪を色濃く写している。そこに居る女性、恋恋高校の保健医である加藤理香は、ほんのりと湯気立つマグカップに入れたコーヒーをゆっくり口に含むと、小さな溜息を一つ零す。

「バカな子。貴方の行動は、私には全く、何一つ、理解できないわ」

 と、小さく俯きながら呟いた。

 

 

 

 その夜、部活を終えて帰宅した小波球太の脚は、隣の聖の家に向かっていた。

 日課であるピッチングも終盤に差し掛かった所で、ボールを受ける聖は何か引っかかった様な疑問を抱く表情をしていた。

「球太、今日のお前はボールに気持ちが篭っていないぞ?」

「ん? そうか?」

「身が入っていない。心なしか表情も暗いようだが・・・・・・どうかしたのか?」

「いや、別に何もないさ。きっと昨日の試合の疲れが溜まってるんだろ。お前が気にしなくても大丈夫だ」

 と、小波は笑って言う。

 しかし、その笑みは表情的には笑っていても笑い声は殆ど無かった。

 聖は、普段から余裕のある表情を浮かべて居る小波から想像の着かない顔を見て、深く追求はしない事にした。

「うむ・・・・・・。そうか、お前がそう言うのなら追求は止めておこう。時に球太。明後日、いよいよパワフル高校との試合なのだろ? 手応えの方はどうなのだ?」

「手応え・・・・・・か。さて、どうだろうな。ただ手強い相手なのは確かだ。何せ、パワフル高校のエースの麻生は、右投げの猪狩みたいな奴だしな。正直、勝てるかなんて危ういくらいだ」

「ほう、今日の球太はいつにも増して随分と球太らしくないな。球太が弱音を吐くとは」

「バカ言えよ。俺だって、時には弱音の一つや二つくらい吐くさ。それより聖、そろそろ仕上げるぞ。猪狩に勝つ為、甲子園に行く為、『コレ』だけは、どうしても身に覚えておかなくちゃいけない」

「ああ、任せろ」

 二人は、再びピッチング練習を再開した。

 右腕を振い、投じた一球は、今日一のストレートだった。

 どうやら、小波は気持ちを切り替えた様だ。

 

(加藤先生、悪いけど俺はとっくに覚悟出来てんだ。コレだけは譲れない。俺はずっと前から決めてたよ。アイツらの為に、俺が甲子園に連れて行くってな)

 

 

 

 

 

「ゴメンね、こんな時間にお邪魔して」

「別に謝らなくても良いよ。俺は、もう高校野球を引退した身だからね。でも、珍しいね。舞ちゃんから連絡なんて」

 すっかり夜も更け、人通りの減った商店街。

 高柳春海は、営業が終了した実家のパワフルレストランの入り口の前を箒で掃き掃除を丁度終えた所だった。

 そこに現れたのは、ショートカットの桃色の髪に、赤いリボンを付けた春海と小波の幼馴染である栗原舞だった。

「それは・・・・・・こう見えて私、私パワフル高校のマネージャーだもの! それに、嫌な言い方かもしれないけど、一応・・・・・・その、今までは私達敵同士だった訳だし・・・・・・」

 春海の目から背けて、ボソリと呟く。

「成る程ね。今の俺は引退したから、今は敵とか関係ないって事だもんね」

「そ、そんな! 春海くんだって、頑張ってたし、悪い言い方はしたくないけど・・・・・・」

「あははは、大丈夫! 気を使わなくても平気だよ、舞ちゃん。俺は今、ちゃんと次に向かって進み出したから」

「そっか・・・・・・それなら良かった、かな」

「それより、俺に連絡して来たって事は要件は球太・・・・・・恋恋高校の事で合ってるよね?」

「うん。春海くん、よく分かったね!」

 この時期に自分に要件が在り、オマケに野球部のマネージャーを務めていて、今現に片手にボールペン、片手にメモ帳を持って立っていれば誰だって分かる事は一目瞭然だと言う事と、既に昨日の晩、小波とパワフル高校との話しをしたばかりだと言うを春海は、栗原に言わない事にした。

「まあ、舞ちゃんが思ってる通り、単体で見て大した戦力のあるチームでは無いのは確かだ」

「やっぱり・・・・・・。"精神的支柱"である小波くんの存在がチームの士気を上げてる訳ね」

「そう。敵からして見れば球太はかなり厄介だろうね。球太のプレーの一つで試合の流れは大きく変わりかねない。球太は、そう言う奴なんだ。そこは昔から変わらないよ」

「だよね・・・・・・。まぁ、分かってはいたけど春海くんに聞いた所で、小波くんの打開策がそう簡単に見つかるとは思えなかったし」

 はぁ、とワザとらしい溜息を吐いた。

「ちょっと・・・・・・なんか俺が使えないみたいな感じ止めて貰って良いかな?」

「冗談よ、冗談! なんだか久しぶりに春海くんと話しだけど、春海くんも昔から変わらないね」

「そ、そうかな?」

「うん、変わらないよ」

「・・・・・・舞ちゃん」

「ん? どうしたの?」

「球太は・・・・・・本当に手強いぞ」

「うん、勿論。それは分かってるわ。でも、私達の方も手強いわよ」

 春海と栗原の間に、妙な沈黙が流れ始めようとした時だった。

「そうか。そいつは楽しみだな!」

 それを裂くように、後ろから声が聞こえた。

「——ッ!!」

 二人は、バッと振り返る。

 そこに立っていたのは、ランニングウェアを羽織った小波だった。

「小波くん!!」

「球太!!」

「ん? なんだよ! そんな驚く事か?」

「小波くん、どうして・・・・・・ここに?」

「どうしてって、聖とピッチング練習終えたもんだし、ランニングでもしようかなって思って走ってたら、お前らが居たんじゃねえかよ!」

「小波くんてば! また聖ちゃん相手に無理な投げ込みばっかりやってるんでしょ! 相手は年下の女の子だって事、忘れてないわよね?」

 栗原の呆れた表情。

「・・・・・・。忘れてねえよ!」

「ちょっと、今の間は何よ!!」

「いや、今のは絶対忘れてた間だったね」

 便乗して笑う春海。

「おいおい、春海まで乗っかるなよな! それより栗原。明後日の試合、よろしく頼むな!」

「うん、もちろん! 勝つのは私達、パワフル高校よ!」

「ああ、負けないさ。望むところだ!」

 小波は、二人に別れの挨拶を告げて、そのままの脚でランニングへと向かって行った。

 

 

 

 

 小波が、高柳春海達と別れた同時刻。

 商店街を抜けた先にデパード街があり、そのネオンライトに染められた街の中に、スポーツ用品店であるミゾットスポーツの屋上にバッティングセンターが設置されている。

 そこに二人の青年が、汗だくになりながらベンチに腰を据えてスポーツドリンクを喉に流し込んでいた。

「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・、百五十キロも碌に当てられねェとは、我ながらダサ過ぎるな」

「そうでやんすね。これじゃ、モテモテライフなんて夢のまた夢でやんすね」

「だな。それによォ、これから先、麻生に太郎丸、そして猪狩守とどいつもこいつもストレートに自信を持つピッチャーばかりだ。少し位バッティングぐらいチームに貢献しなくちゃ先が思いやられるぜッ!!」

「オイラ達は、いつも小波くんに助けられてばかりでやんすからね」

 タオルで汗を拭う。

 その二人の目は、ギラリと闘志が湧いたようにメラメラと燃えていた。

「よしッ!! ジッとしてたって何も始まらねェ!! これから金が尽きるまでバンバン打って行くぜェ!!」

「そうでやんす!!」

「目指せ! 甲子園! カモン! モテモテライフ!!」

「目指せ! 甲子園! カモン! モテモテライフでやんす!!」

 意気揚々。

 二人は、バッと立ち上がる。

 ゲージの中に堂々と入り、ウェアのズボンのポケットから財布を手に取って小銭を取り出そうとした時だった。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 同時に、二人の動きがピタリと止まった。

「オイ・・・・・・矢部」

「なっ、なんでやんすか星くん」

「金がねェ」

「オ、オイラもやんす」

 どうやから、二人の財布の中身は既に底が尽きてしまった様だった。

 落胆。

 そして、一言も発する事も無く黙ったままゲージの外へと意気消沈して出て、再びベンチに腰を据えて、二人は途方に暮れた。

「ケッ。こんな奴らに負けたと思うと虫酸が走るぜ」

 ボソッと呟く、低いトーン。

 二人の前に、一人の青年が立っていた。

 黒髪は目を覆い、そこから覗かせる真っ黒な瞳は睨みつけているように細く、ニヤリと口角を釣り上げて、トゲドゲしく生え揃った歯に矢部と星は、目を見開いて驚いた。

「テ、テメェは!?」

「悪道くん!!」

「浩平ッ!!!」

 その青年は、極亜久高校の三年生の野球部にして、矢部と星の中学の時の同級生である悪道浩平だった。

「なんでテメェがこんな所に居るんだ?」

「フン。俺が何処で何をしていようが関係ねェだろ。ただの暇つぶしだ。何か文句でもあるって言うのか?」

「あン? 文句なんかねェよ。けど、野球から離れたンじゃねェのかよ。あの時お前は二度と野球をやらねェって言ってた奴が普通バッティングセンターなんかに居るか?」

「星・・・・・・テメェは、本当に喧しい奴だな」

「何だとォ!!」

 星は立ち上がり、悪道の額と額を合わせて互いに睨みつけていた。

「テメェみたいなクソ野郎は一度ぶん殴られねェと分からねェみてェだなッ! 浩平!」

「ほーう、殴れるのか? お前が俺を? 笑わすなよ?」

 バチバチと火花が飛び散る。

 啀み合う二人の間に、不穏な空気が漂う。

「止めるでやんす!! 二人とも!!」

 慌てて矢部が間に割り込んだ。

 悪道の拳が咄嗟にギュッと強く握ったのを矢部は見逃さなかった。ここで喧嘩沙汰など起こしたら今までの努力は水の泡になってしまう事くらい分かっているし止めに入るのも当然だ。

「・・・・・・」

 だが、矢部は少し不思議な気持ちになっていた。以前の悪道なら此処は止める前に既に星の顔を目掛けて殴りにかかっていただろう。

 しかし、何故だろうか。

 矢部は今の悪道は、決して人を殴らない様な気がした。

 熱くなった星は、舌打ちを強く鳴らして、再びベンチに腰を下ろした。

「・・・・・・なんだ、星。やらねェのか?」

「やるか、アホ。テメェとのお遊びなんぞに付き合ってられる程、俺たちは暇じゃねェんだ」

「悪道くん。申し訳ないでやんすが、オイラたちはパワフル高校戦との試合の為にストレートを打つ練習をしてるでやんす!」

「フン。お前らの様な雑魚共が麻生に打ち勝てるとは到底思えねェが?」

「そ、それはやってみないとわからないでやんす! オイラたちだって、やれば出来るって事を証明したいでやんよ!」

 揶揄う悪道の言葉に、強く反論する矢部。

 その瓶底眼鏡の奥に見えた瞳は、覚悟を決めた心強い瞳だった。

 すると、次の瞬間。

 二人が耳を疑うような言葉が飛び込んで来たのだった。

「だったら、この俺が直々にテメェらの相手をしてやるよ」

「・・・・・・オイ、浩平。それはテメェ、一体、どう言う風の吹きまわしだ?」

「聞こえなかったか? テメェらのバッティングの相手は俺が務めてやるって言ってんだ」

 同じ言葉を言う事に対して、悪道は嫌だったのか、ギリギリッと歯を軋ませた。

「星、あの時テメェが俺に向かって言った言葉覚えてるか?」

「あの時・・・・・・言葉・・・・・・」

 ふと、星は記憶を探った。

 確かアレは極亜久高校戦の試合後、恋恋高校の前に姿を現した悪道浩平が去る間際の事だった。

 あの時、星は悪道に『たまにはキャッチボールくらいしようぜ!』と叫んでいたのを思い出した。

「キャッチボールしようぜって言ったな」

「そう言う事だ」

「はァ? そう言う事だ。って、何クールに決めてんだテメェ!? バカか、テメェは! 野球辞めたらキャッチボールの意味すら忘れちまうのか?」

「チッ・・・・・・五月蝿ェ野郎だ。いいか、俺たちは敵同士。もう仲間なんかに戻る気もねェ。ただし、俺以外に負けるのも気にくわねェ・・・・・」

 ピタリと言葉が止まった。

 その表情は、どうしても言いづらそうにイライラと顔を強張らせては、ピキピキと顳顬に青筋を立てていた。

「一度キリだッ! 矢部、星! テメェらの小学生以下の打撃練習に付き合ってやるッ!」

「——ッ!!」

 星は、思わぬ出来事で目を見開いたまま、その場に立ち尽くし、矢部はニヤリと不敵な笑みを浮かべてコクリと頷いた。

「此処じゃ練習は無理でやんすね。それじゃあ移動するでやんす!」

「はァ? 移動って・・・・・・何処だ?」

「決まってるでやんす! オイラ達の練習グラウンドと言えば!!」

 悪道浩平も戦いを経て、自分を見つめ直したのだろう。今までの悪道浩平は此処にはもう居ないのだ。

「赤とんぼ中学でやんす!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はぁ・・・。

 はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・。

 かれこれ一時間半程、走ったか。

 息が切れて、汗が滝の様に流れている。

 腕時計に目を向けると、既に午後十一時を過ぎていた。

 ランニングと言えど、高校生がこんな時間に出歩いてるとなると流石にヤバイな。

 俺は、トントンとつま先で地面を鳴らし、帰路に着こうとした瞬間だった。

「今晩わ、小波さん!」

 後ろの方から、爽やかな声が名前を呼んだ。

「——ッ!! なんだ、進か・・・・・・」

 急な声掛けに体がビクッと反応してしまう。

 その声の主は、あかつき大附属高校の野球部に所属する二年の猪狩進だった。

 

 

 

 

 

 

 

 そう、この瞬間。

 俺は未だ知らなかった。

 自分の今後の運命を左右する出来事が待ち受けるとは知らずに・・・・・・。

 

 

 

 

 


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