実況パワフルプロ野球‎⁦‪-Once Again,Chase The Dream You Gave Up-   作:kyon99

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 ときめき青春高校戦、決着!
 ――星の隠された能力が、明らかに!!


第18話 能力解放

 青葉春人は、先程のピッチングとは、まるで別人が投げているかのように、鋭い切れ味が光る高速スライダーを次々と投げ込んで見せた。

 百四十後半の重いストライクがドスンと、ミット越しに伝わる捕球音だけが聞こえる。

 恋恋高校は、青葉春人の圧倒的なスキルに全くと言って良いほど手が出せずにいた。

 対する恋恋高校のエースナンバーを背負う早川あおいも、青葉春人に触発されたのか、そのピッチングは負けては居なかった。

 際どいボールを放り込み痛打されても、ランナーを背負うと、焦りもせず、ただただ冷静を保ち、早川自身の持ち味の抜群のコントロールは冴える。ときめき青春高校の初回の三点を除き、スコアボードにはゼロの数字が、電光掲示板に次々と点灯されていく。

 緊迫した試合。

 両校共、初出場校同士の戦いは、予想以上に見応えのある試合だと観客席に座る観戦者達は思いながら、試合を見守る。

 そして、試合は三点差と、突き離されたまま九回の表を迎え、気温三十四度を超える地方球場にて、恋恋高校の攻撃が始まる。

「よし! ナイスピッチング!」

 ときめき青春高校の最後のバッターである神宮寺光を、低めのカーブを掬い上げ、サードフライに打ち取って零点に抑え、ベンチに戻った早川の背中を小波が軽く叩く。

「うん! 任せてよ! ボクならまだまだ投げれるから。大丈夫!」

「そうか! なら、頼んだぜ!」

「うん」

 汗をタオルで拭う早川。

 コソッと覗き込んで小波が笑みを見せる。

 この試合の中、小波は時折、そう言う笑顔を見せてきた。

 まだ、大丈夫、必ず俺たちが点を取り返してみせると暗示をかけるかのような優しい笑みが、早川にとって何よりもありがたくもあり、そして、とても心強かった。

 そして、この回に何としても三点を取らなければ負けと言う厳しい状況の中、一番打者の矢部がネクストバッターズサークルの中で、静かに名前がコールされるのを待っていた。

 汗がポタリ、と垂れ落ちる。

 今も汗みどろになりながらも、頭の中では勝つことだけを考えていた。

 青葉が投球練習を一球、一球、ミットに放り込む、勢いのあるストレートを見る度に、練習試合の相手の極亜久高校の悪道浩平との戦いのことを思い出していた。

 あの『ドライブ・ドロップ』を綺麗な流し打ちでライト線を破るランニングホームランを打った時の事を、思い出していたのだ。

「矢部」

 すると、次のバッターである星が背中をバットのグリップで軽く小突いた。

「星くん?」

「見せてやろうぜ」

「え?」

「え? じゃあねえぜ!? お前は、浩平との試合のあの日からずっと、今まで以上に練習に打ち込んで来た。そうだろ? ここいらで見せてくれよ、お前の成長をよォ!」

「もちのろんでやんす! なんて言ったってオイラは『恋恋高校のスピードスターの矢部』でやんすからね!」

「ああ、頼んだ? 矢部!」

 

 右打席に入った矢部は、落ち着いた様子でバットを振り抜いた。だが、当たった打球は全てファールゾーンへと切れて行ってしまう。何としても塁に出たいと言う欲を必死に抑えながらも、心の奥底に潜む矢部の強行策が静かに牙を研いでいく。

 四球目のストレートを放り込投げ、それもまたファールで逃げられると、流石の小波も舌を巻く。

 マウンド上に立つ青葉は、次第に矢部のペースに巻き込まれて行っている様子だった。簡単に打ち取れるはずであり、高速スライダーをベースにした「真魔球」を、矢部に対して放り込んではいないのだ。しつこく粘られているうちに、ストレートで仕留めると決めたのだ。

 そして、五球目。ストレートで三振に取って仕留めるという覚悟を決めた直後だった。青葉自身は三点差があるからと言って気が緩んだ訳ではない。ここまで百三十球を超えるかなりの連投、それに加えて気温の高さと、真魔球のスタミナの消耗が、身体と精神の疲労が、遂にここで球威にも影響を与えたのだ。

 放り込まれたボールは、真ん中高めのストレートだった。矢部は、その球を巧くバットにボールを当てる。

 だが、押し負けた。青葉の球威は落ちてはいるものの本質的な重い球には変わりはなく、グシャリと潰したような音だけを残し、打球は三遊間に強く、転がっていく。

 ショートを守る小山雅は、持ち前の軽快な動きでボールの捕球体勢を取る。

「この打球は、初回の星くんの打球に似てる。青葉くんのストレートに力負けしたものの、僕の守備ならアウトに出来る!」

 冷静に小山は頭の中で呟いた。華麗なフィールディングを熟して、一塁へと送球した。

 手元からボールが滑り流れていく瞬間、小山の金色に光る瞳は、一気に目を見開かされるのだった。

 なぜなら、既に、矢部は一塁ベースを蹴り上げて、今にも駆け抜けて行きそうな程、近くまで脚を走らせていたのだ。

「――ッ!? 嘘!! 速い!!」

 判定は、間一髪、セーフ。

 九回の裏。

 ここで恋恋高校はようやく矢部の内野安打で一点を返せるランナーが飛び出しのだった。

 

「へっ! あの野郎ォ・・・・・・早速、魅せてくれるじゃあねェの! この前のランニングホームランと言い、いよいよ、俺も矢部なんかに負けてられねェじゃあねェか!」

 無死一塁。続く二番打者の星が打席に構えようとした所で、片足をバッターボックスから外し、視線をベンチへと向ける。何かの合図を待っているかの様だった。

 そして、顧問である加藤理香はただジッとグラウンドを見つめているだけだった。彼女は、野球に関しては全くの素人なので、代わりに小波が攻撃のサインなどを送るのだ。小波は、右肩から右手首まで撫で、ベルトを二回ほど手を置いてから拳で胸をトントン、と軽く叩くジェスチャーをして見せた。これは、恋恋高校の盗塁のサインを意味する。

 ヘルメットに手を当てて「了解」と合図を送ると、星は矢部の居る一塁にチラッと向けた。

 中学時代からの仲間であり、時には情けないと思っていた友人が、僅かではあるが日々、成長をしているという事を目の当たりにすると、それはそれで嬉しい気持ちにもなったが、それと同時に悔しい気持ちにもなる。

 セットポジションの青葉は、ランナーの矢部を警戒する。二回の牽制球を挟んでから、星に対する一球目。青葉が脚を上げた瞬間に、矢部はスタートを切る。好スタートだ。

 だが、青葉と鬼力バッテリーは、走るのを読んでいたのだろう。ボールは星の打席とは真逆のボールゾーンへと投げ込まれた。コントロールと言い、スピードと言い、盗塁を刺せるには持って来いの良い球だと、星は思った。

「良い球だよ。しかし、そんな甘ったれた球じゃあ・・・・・・、矢部の野郎の脚は刺せねェーンだよッ!!」

「――ッ!?」

 星はバットを立てて、ボールへと飛び込んだのだ。

 しかし、空振りした。

 そう、星はワザとバントの構えで飛び込んだのだ。

 突然の飛び込みで、アウトを刺せるタイミングを見失ったキャッチャーの鬼力は二塁への送球を躊躇ってしまった。

「お前! 今のはワザとだな!? するつもりもないバントの構えなんかして、矢部の盗塁の手助けをしたつもりか?」

「アアン? なんだ、テメェ、一体、何を言ってやがんだ? おいおい・・・・・・誰が矢部を助けるって言った? 勘違いするンじゃあねェぞォ、このタコが!」」

 立ち上がり、ユニフォームに着いた土を払いながら星はいつもの悪い口調で言う。

 飛び込んだ拍子で転がり落ちたヘルメットを着用し、バットのグリップをギュッと強く握り締めると、静かに一呼吸置き、再び口を開いたのだ。

「勘違いしてるから一つ・・・・・・一つ、教えておいてやるぜェ! 俺はただ、自分の見せ場を作っただけの事をしたまでだ。チャンスの場面は、俺の勝負強さが際立つんだよォ! いいか? この場面でこの俺が打席に立ったかには、テメェらいよいよ俺の本気を見ることになるぜェ! 来な! 青葉春人ッ!テメェの十八番の真魔球をよォ!」

 ギラッと目を見開いて、青葉を睨みつけた。

 星の威圧に飲み込まれそうになったが、ここは何とか持ち堪えられた青葉だったが、星の様子が可笑しかった。

 一瞬。本の一瞬だった。

 金色に輝くオーラの様な物が、星の体へと入っていくのが見えたのだ。

 それを、ベンチに座っていた小波にも見えた様だった。日陰に座っている加藤理香の後部ベンチから一気前列のフェンスに身を乗り出した小波は、青葉同様、同じ顔をしていた。

 

 ――星。まさか、お前・・・・・・能力解放が出来るのか?

 

 星に対する二球目。右打席に構える星の胸を抉るかの様に鋭いストレートがストライクゾーンに入る。カウントはツーストライク、ノーボール。追い込まれてしまった。

 たが、星の顔には焦りがなかった。追い込まれても尚、余裕のある表情を見せ、キラッと特徴のある八重歯を剥き出しにしていた。

 マウンドに立つ青葉の疲労は、徐々に身体全体へと回っていく。息も上がり、おまけに腕も痺れてきた。気温のせいか少し視界がボヤけて見えるが、青葉自身の瞳は、まだ光が残っていた。

 抑えられると言う自信は、依然変わることなく、消えていないのだった。

 ツーストライクに追い込んでからの三球目。

 ここで、星と青葉の決着は着く。オーバースローから放たれたボールは、星の体に向けて放り込まれる。この瞬間、青葉は星に対して始めた真魔球を投げて来たのだ。

 初見の球である真魔球の、キレ、軌道、変化など計り知れない不安は、普通の人間になら抱くものだ。しかし、星は、今もまだ冷静でその時を待っていた。

 星自身の勝負強さと言う持ち味が、彼をそうさせたのだろう。投げ込まれた真魔球はカクッと身体を避ける様に変化した。その瞬間を星は見逃さなかった。

 一心にバットを振り抜き、見事、真芯に当てると金属音の快音が一つ。地方球場に鳴り響いた。

 星は、バットをスッと手から離して一塁方向へとゆっくりと走り出す。対する青葉は、振り向きもせずにそのまま突っ立ったままだった。

 打球は高々と勢いのある放物線を描き、バックスクリーンへと飛んでいく、推定百三十メーターは飛んだであろう、その飛球は、あわやスコアボードが表示されてある電光掲示板に当たりそうな程、飛距離を出し、ツーランホームランへとなったのだ。

 恋恋高校のベンチでは、待望の点を得たことで大変な盛り上がりを見せた。それに、負けずとも劣らない歓声が観客席からも飛び出す。

 星は、まるでプロの様に、格好つけてながらゆったりとゆったりとダイヤモンドを一周し、二点目のホームベースを踏みしめ、先にホームインしていた矢部の元へ駆け寄ると、二人はハイタッチを交わした。

「ナイスバッティングでやんす! 星くん!」

「へっ、矢部なんかに褒められたくはねえのが本音だが、今回は素直に受け取っておくぜ」

「随分、失礼でやんすね」

「ま、そう怒るんじゃあねえよ。お前が恋恋高校のスピードスターと名乗るなら、俺は恋恋高校の勝負師の星とでも名乗るとするかな?」

 ニヤリと笑みを浮かべた二人は、ベンチへと戻り、仲間たちの元へと駆け寄っていった。

 点差は、一点差へと詰め寄り、まだノーアウトであり、試合のターニングポイントを獲得した恋恋高校は、勢い付く攻撃が続く。

 矢部の粘りに、いいムードだった流れを全て恋恋高校に持って行かれてしまったときめき青春高校は、この回にらしくない凡ミスが続く。

 三番の海野の打席、青葉の失投でフォアボールを出して、ときめき青春高校のベンチは青葉に対してリリーフを送る。

 エースを下げる采配が決めてとなったのか、小波の痛烈なライトオーバーのタイムリーツーベースヒットで同点へ追いつかれ、更に勢いをつけた打線が続く猛打に、守備の捕球エラー、送球ミスを繰り返し一挙七点を返した。

 九回の裏、四点のリードを得た早川は、この試合ベストのピッチングを見せる。

 六番の茶来元気をカーブで引っ掛けさせてアウトを取り、七番の赤羽六に対しては、持ち前のアンダースローから放り投げ込まれるインハイのストレートで見逃しの三振に仕留め、ツーアウトを取り、最後の打席には八番の小山雅が打席にたった。

 スタミナの消耗は、早川も青葉と同じ、いやそれ以上に激しく消耗していた。だが、チームが手を取ってくれた事に、投げれる気力を貰った。

 小山は、必死に粘る。

 四球程、カットして粘り、僅かに外れたストレートを見逃して、カウントはツーストライク、ツーボールとなった。

 そして、七球目。早川あおいが最も得意とする変化球であるシンカーを放り投げる。

 アンダースロー特有の下から上がっていくライズボールに合わせて、小山はタイミングを合わせる。

「パワーは無くとも、僕のバットに当てられるバットコントロールなら、この球は十分にヒットへ繋げられる」と小山は思う。

 しかし、その思いは無念にも空を切り、星のミットへと収まったのだった。まるで消えたような錯覚を感じる程。今、早川の放ったシンカーには、この試合で見たシンカーとは別と思えるほど、キレが増していたのだった。

「僕達の・・・・・・負けだ」

 下唇を噛み締め、小山がボソッと呟く。

 球審の「ゲームセット」の合図と共に、再びサイレンが鳴り響いた。

 観客席で試合を見守る人々が、両校に対しての喝采を送る。初出場高校同士の戦いは、恋恋高校に軍配が上がり、夏の予選大会一回戦は、恋恋高校が七対三で試合を制した。

 

 

 両校の選手達が、互いに握手を交わすのを見つめる一人の青年が、三塁側の観客席で座っていた。球八高校と刺繍された野球ウェアを羽織る青年の顔は、思わず女性と見間違えてしまうほど、中性的な顔立ちをしていた。

「初出場の恋恋高校がどんなチームかと視察に来た甲斐があったよ。君が高校で野球をしていたなんてね」

 ニヤリと笑みを浮かべ、青年が呟いた。

「智紀! 試合終わったなら、帰ろうぜ? 俺は腹が減っちまったぜ」

「ああ、すまない。遊助、今行くよ」

 遠くの方、帰り支度する観客者が次々と向かう階段方面から声が聞こえると、その声を発した青年が「智紀」と呼んだ青年は、クルッとグラウンドから背を向けて遊助と呼び返して、歩み寄って行って、球場から姿を消した。

 

 

 


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