市立見滝原中学校万仙陣   作:三代目盲打ちテイク

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第2話

「眷属」

 

 私は、黄錦龍さんの眷属になった。そうして夢が使えるようになったらしい。

 

 夢。それは現実では有り得ない超常能力。イメージの力で引き起こせる魔法のようなもので、キュウべぇの契約のような副作用は一切ない。

 それを操る技術を邯鄲と呼び、大別すると五種、細分化して十種の夢に分類されているらしい。

 その得手不得手によって人物ごとの個性が出るらしいけど、これらはあくまで基礎技能で誰でも十種の夢を使えるらしい。

 

 そのその大別した五種類が身体強化の戟法、回復と防御の楯法、魔法のようにエネルギーを放つ咒法、いろんなものを作る出せる創法、夢を破壊する解法。

 さらにそこから細分化して戟法が力を強化する剛、速度を強化する迅。

 防御力を上げる堅、回復の活。

 点で飛ばす射に爆発のように広げる散。

 物を作り出す形、世界に影響を及ぼす界。

 物体を破壊する崩、透過する透。

 

 そういう風に分けられる。それで黄さんに見てもらった私の資質なんだけれど……。

 

 暁美ほむら

 戟法 剛 1

    迅 3

 楯法 堅 1

    活 1

 咒法 射 7

    散 5

 解法 崩 6

    透 7

 創法 形 7

    界 10

 

「どうしよう」

 

 身体強化の戟法はどちらも並み以下。楯法なんてお話にならない。使えそうなのは、咒法、解法、創法。

 ほとんど戦い方は決まっているようなものだった。

 

「飛び道具を作って、咒法で飛ばすのが、いいのかな」

「愛い愛い、好きにすると良い」

 

 それを黄さんに聞いても、彼はそういうばかり。好きにすればいいという。

 

「少しはまじめに答えてくれても」

「俺はまじめだ。おまえの好きにすると良い。それがおまえを勝者たらしめる」

 

 嫌ならやらなくても良い。おまえの好きにすると良い。それをいつまでも見守っている。夢が見たいのなら言うと良いとも。

 彼はいつもそういう。

 

「ふぅ」

 

 つまり自分でやれということ。

 ただその前に、朝食を作る。

 黄さんの分もきっちりと作る。この人は放っておくと一日何もせずに座っているか、近所に飴玉配りに言って警察のお世話になるかくらいのことしかしない。

 

 それでいて人の話を聞かないのだ。愛い愛いと言って好きに解釈する。こちらの話は理解しているのか、それとも理解していないのかすらわからない。

 

 

「えと、できました。あのどうぞ」

「ああ、そうだな。食わねば死ぬ。不便な世界だ」

 

 そう言いながら彼は朝食を食べる。なんかもうやたらめったらこぼしながらで見ていられないがこれでもマシになったほうだと言ったらどうだろうか。

 本当ダメ人間である。この人のおかげで助かったのが信じられないくらいに何もできない。だからこうして世話をしているわけなのだけれど。

 

「あの、もうすこしきちんと……」

「愛いなぁ。愛い……おまえが望むのならそうしよう。愛い愛い。好きにすると良い」

 

 そう言って有言実行したことはない。いや、本人からしたらしているつもりなのかもしれない。多少は改善するのだ。本当に多少だが……。

 

「はぁ、それじゃあ、わたしは、行くけど。ちゃんとお昼ごはんも食べてね」

「わかっているとも暁美ほむら」

 

 返事だけはきちんとするがどうにも酔っ払いと話している感覚が強い。

 

「よし」

 

 学校は明日から。今日やることは能力の使い方の把握。つまりは訓練。高架下の空き地で能力の練習をする。

 

「えっと、イメージ、イメージ……」

 

 イメージする。

 その手に生じるのは拳銃だった。ずしりと思い人を殺す形。でもこれは人を殺すものじゃない。魔女を殺すもの。

 イメージは詳細にし過ぎないこと。夢の力であるが、リアルに迫れば迫るほど夢がなくなる。つまるところ超常性がなくなるのだ。

 

 コツは言った通り遊びを持たせること。つまるところ必要なのはガワと機能。それ以外は夢で補強するのだ。そうして出来上がった拳銃の弾丸はわたしの好きに飛ばせる。

 これも射がそれなりに高いおかげだ。撃った弾丸は直線ではなくわたしの好きに飛ばせるのだ。相手を追尾することも可能。空中に留まらせて一斉射撃をすることも可能。同じ場所にぶつけて貫通させることだってできる。

 

 威力を上げるのなら解法を弾丸に乗せる。崩を乗せればそのまま物質を解き解すことができるのだ。夢を解く夢ではあるのだが、現実で使えば現実を解く夢になる。跳ぶこともできるのだからこの夢は意外に気に入っている。

 透を遣えば壁をすり抜けたりすることもできる。壁をすり抜けさせて弾丸を当てることや敵の解析だってやろうと思えばできる。解析は、難しいけれど。

 

「よし」

 

 わたしは作り出した拳銃をドラム缶に向けて撃つ。走りながら撃って、撃って、撃って。さらにはバズーカなんてものとかいろんなものを作り出す。

 だいぶ慣れてきたとは思うけれど。

 

「夢を一度に一つしか使えないのは不便だなぁ」

 

 創法は最初に拳銃を作ってしまえばいいけれど、咒法と解法は出来れば一緒に使いたいと思う。そうすればなんでも崩す夢と飛ばす夢をいっぺんに使えるのだから。

 

「ん、これは今後の課題、かな……よし」

 

 

 だいぶ慣れてきた。だから今日は本番。魔女を狩ってみるのだ。

 

「愛い愛い」

 

 夕方くらいに安全のために錦龍さんを伴って結界を探す。幸いなことにそんなに時間をかけることなく、その結界を見つけることができた。裏路地の暗がりにいた。すかさず侵入する。

 そこにいたのは不定形の魔女だった。確か、まどかたちに聞いた名前は暗闇の魔女Suleika。ズライカと呼んでいる。

 

 闇が深ければ深いほどその力は増す。 完全な暗闇の中においてはほぼ無敵だが 灯りの多い現代ではそれほど恐れる魔女ではないとまどかたちが言っていたのを思い出す。

 その魔女は、金平糖のような身体に5本ほど手足が生えた姿をしており、結界内のジャングルジムに引っかかっている。

 

 それを目にしたとき、感じたのは恐怖だった――。

 

 がちがちと歯が鳴りそうだった。足はがたがたと震えている。敵だから。倒さないといけない。

 わかっているのに。

 声が、出ない。身体が動かない。

 

「――――」

 

 声が出ない。身体が動かず震えて、後ずさっていることにわたしは気が付く。

 自分の意思ではない。勝手に、体が勝手に動いている。

 

 視界が、歪む。我知らず喘いで、強烈な眩暈がわたしを襲う。呼吸困難。眩暈。

 呼吸が、止まる。恐怖で。息を吸っても、吐いても、空気が肺に入って行かない。苦しさを感じる。息をするという生物が普遍的に行う呼吸が止まって、苦しくない生き物はいない。

 

 ――恐怖。

 それをただ感じる。

 

 恐怖に混濁する意識と、歪み視界がありとあらゆる全てを呑み込んでいく。

 全てが漆黒に染まりそうになるその刹那――。

 

「しっかりしろ暁美ほむら。おまえの描きたい夢は、そんなものなのか」

「――ぁ」

 

 ぽんと肩に手が置かれる。彼の手。大きな。呼吸が戻る。意識がはっきりとする。

 

「好きに夢を描けよ。そうすれば、おまえはおまえの世界で勝者だ。誰にも負けない夢を描け。俺はそれを見守ろう」

「…………うん」

 

 大丈夫。彼が見ていてくれるなら大丈夫。そう思える。

 

「――!」

 

 だから、震える足でも一歩を踏み出した。

 

 魔女の使い魔が現れる。侵入してきた侵入者を倒さんと向かってくる。それに向かって撃つのはサブマシンガン。

 ガガガガと連射する。反動を抑えられないけれど関係ない。放たれた弾丸は例外なく魔女の使い魔を打ち貫く。咒法の射を用いて弾丸を操作する。極論明後日の方向に撃っても当たる。

 

 使い魔をそれによって薙ぎ払い。なけなしの戟法で身体能力を強化する。迅を使って素早く接近。サブマシンガンは投げ捨てて拳銃へ持ちかえを行い本命へ。

 

 ズライカが攻撃を放ってくる。けれど弱い。明かりのあるうちの暗闇の魔女。水から上がった魚だ。もう怖くない。

 

 そして、一発の弾丸が魔女を討ちぬいた。

 

「はあ、はあ……はあ……た、たお、倒せた……」

 

 結界が消える。それは魔女が死んだ証だった。早く逃げなければと思おうのだけれど身体が言うことを聞いてくれない。

 心臓が早鐘を打っている。眷属だから死ぬことはないとは思うけれど心配になるほどだった。早くしなければ魔法少女が来てしまうかもしれない。運よくグリーフシードを落としていったし、こんな場所にいれば怪しまれてしまう。

 

 そう巴マミという魔法少女に。

 

 魔法少女は共闘より競争になることが多い。それは、グリーフシードという魔女から得れるものが関係している。

 魔法少女は力を使うたびにソウルジェムが穢れによって濁っていく。グリーフシードはその濁りをとるのだ。

 濁れば、濁るほど力がでなくなる。表向きはそれを防ぐために集める。そのため、取り合いになるのだ。魔女が必ず落とすわけでもないのも理由になる。

 

 だから基本的に縄張りを決めてそこを守る。暗黙の了解のようなものだと聞いた。それでもかつては共闘できていた。みんなで助け合って。

 そして、みんなで全滅した。もうあんな思いはしたくなかった。無力な自分に。インキュベーターに踊らされる自分なんかにはなりたくなかった。

 

「驚きね。来たら魔女が倒されているなんて」

 

 声が響く。

 

「――!」

 

 それは巴マミの声。

 

「魔法少女かと思ったけれど、違う……あなたは誰。そっちの男の人も」

「……わた、しは……」

 

 答える前に、わたしは倒れてしまう。

 

「愛い愛い、今は眠れ」

 

 そんな声が響いていた。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

「一人暮らしだから遠慮しないで。ろくにおもてなしの準備もないんだけど」

 

 あのあと、どうやらわたしは巴マミの家に連れてこられたらしい。わたしを抱えているのは錦龍さんじゃなくて巴さん。

 なんで男の人が抱えていないのかと思ったら彼は非常に非力だとか。持たせたらあぶなっかしいという理由だった。

 

「座って待ってて」

 

 そういって巴さんはおもてなしの用意に行く。わたしはというとソファーに寝かされた。起きてもいいとは思ったけれどタイミングを逃してしまったようにも思える。

 それならそれでいいかもしれない。説明しようにもどうにもできないことがいくつかある。特に未来から来たとか、キュウべぇが嘘を吐いているとかどうやって信じさせればいいんだろう。かつて魔法少女、私たちとは違う魔法少女たちは信じてくれなくて戦いになったというのに。

 

 しばらくして巴さんが人数分のケーキと紅茶を持ってきた。おもてなしできないとか言っていたがケーキと紅茶。十分すぎるおもてなしだった。

 

「あなた起きているのなら起きて食べましょう?」

「……バレて、たんですね」

「まあね。それで、あなたたちは何者? 魔法少女ではなさそうだけれど、魔女の結界が壊れたところにあなたはいた。それにあなたが持っているグリーフシード。魔法少女がほかにいなかったことを考えるとあなたが倒したということになる」

「そうだね、それはぜひ僕も知りたいね」

 

 当然のようにそこにいることが当たり前のように現れるインキュベーター。思わず、怒りで撃ってしまいそうになるのを必死にこらえる。

 いきなり銃を持ち出して信用している相手を撃ったらどうなるか。予想できないわけじゃない。

 

「あら、キュウべぇ。来ていたの」

「魔法少女がいないのに魔女が倒されたからね。気になってみにくるのは当然だよ」

「そうね、私も気になるわ。とりあえず自己紹介をしましょう? 私は巴マミ。こっちはインキュベーターのキュウべぇ。あなたのお名前は?」

「……暁美、ほむら、です。こっちは、黄錦龍さんで、えっと、親戚、です」

「そうよろしく暁美さん。それに黄さん?」

「愛い愛い、好きに呼ぶと良い」

 

 明らかにいろいろと事情がありそうでいろいろと聞かれそうだったけれど、巴さんは聞かないでくれた。

 

「それで、あなたが魔女を倒したのよね」

「えっと……」

 

 できればキュウべぇのいるところでは話したくなかった。ちらちらとキュウべぇの方を見る。巴さんはそんなわたしの視線に気が付いて。

 

「キュウべぇ、暁美さんはあなたが気になるみたいだから、どこかに行っててもらえるかしら」

「ぼくのことはいないものとして扱ってもらっても構わないのに」

「それじゃ彼女が話せないみたいだからね」

「ふぅ、わかったよ巴マミ。でも、わかったことは聞かせてほしいね」

「ええ、必ず」

 

 そう言ってキュウべぇは部屋を出ていった。

 

「さあ、あなたが気にしているキュウべぇはいなくなったわ。話してもらえるかしら」

「……はい、信じられないと思うんです、けど……」

 

 そして、わたしは夢の力のことを話すことにした。

 


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