IS インフィニット・ストラトス 〜太陽の翼〜   作:フゥ太

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お盆休みのおかげで今回は早めに更新できました。


臨海学校二日目~交戦~

 

 

 

 

 それは、出撃をするホンの数分前のことであった。

 忙しく準備を続ける対オーガコア部隊のメンバー内において、今回は二つに割れた班のうち、支度を済ませたシャルが何気なく陽太と一夏の方に振り返る。また何か出撃前に困った我儘を言ってないかと心配したのだ。

 幸い、その光景を見ていたのはシャル一人であった。

 

「なあ、陽太。お前、旅行前に何か包み紙に……」

「俺の前に自分のこと心配してろ。〇〇〇を箒に渡す時に告白のセリフ噛むかもしれないのによ」

「なっ!? て、てか、なんでお前がそのこと知ってんだよ!」

 

 どうして自分しか知らない(ハズ)の物の存在を陽太が知っているのか、驚いて詰め寄る一夏であったが、そんな彼に陽太は心底小馬鹿にしたかのような表情のまま鼻で笑い飛ばす。

 

「ハッ! この超銀河心眼の持ち主である陽太様に知らぬことなど何一つないのだよ」

「超銀河って、小学生か!? さては勝手に人の荷物漁りやがったな!」

「違う。お前の旅行鞄の中に俺の酒と煙草入れるときに偶然発見しただけだ」

「勝手に共犯に仕立てあげやがったのか!?」

 

 『馬鹿だな。まさに完璧犯罪だっ!と格調高く褒め称えんかい』と勝手気ままな言い分でキレ気味の一夏をやり込める陽太であったが、何かを思い出したのか急に表情を変えた一夏が陽太にこう問いかける。

 

「俺だって知ってるぜ。この間、カバンの中に何か悩みながらラップに包んだ物を入れてたけど………あれってひょっとしてシャルへのプレr」

「 だ ま れ 」

 

 一夏の言葉を首をつかむことで無理やり中断した陽太は、彼の身体を上下に揺さぶりながら今話していた言葉を全て忘れ去れと無表情のまま強要し続ける。

 

「グエッ!? ちょっ!?」

「どうだ忘れたか? まだ足りないか? それとももっとしてほしいのか?」

「ギブギブギブッ!」

「よし忘れたな。すぐに忘れたな。この話題を次に出した時は今の五倍の速度で揺さぶるから注意しろよ」

 

 結局力技で一夏をやり込めた陽太であった、このとき、シャルが背後でそば耳を立てていたなど知る由もなかったのであった。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 不気味な挙動を繰り返していた福音が突如として両手に二本のビームサーベルを持って四人に襲い掛かってくる。ある程度警戒していたとはいえ、フェイント気味に起こされたそのアクションに対して、シャルが若干の遅れを見せてしまった。

 

「しまっr」

 

 両手に持ったライフルの斉射でダッシュを止めるのが最善手だっただけに、それができなかったことに自分自身でショックを受けてしまう。

 

「(箒に言われていたのに………こんな凡ミスするなんて!?)」

「シャルロットさんっ!」

 

 そんなシャルのフォローをするべくセシリアはブルーティアーズのスターライト・アルテミスをモードBに変形させ、三連バルカンで援護射撃を行う。レーザーの弾幕に突進を一旦中断して射線から逃れる福音であったが、そこへ逆に福音に向かって突撃した箒は二刀を振りかぶり剣戟をぶつけ合わせるのであった。

 

「ぐっ!!」

『!?』

 

 紅椿のスラスターの推力に押し負け、体勢を崩す福音に対し自らが人類守護の剣になると誓った少女は小さな隙も見逃すことはなかった。

 

「受けてみるかっ!」

 

 福音の腹部を蹴り飛ばし、距離を開けた箒はそのまま空中で一回転し、同時に展開装甲を起動して左手に持った空裂と一体化、身の丈ほどの刃へと変形させる。

 

「虎も恐れるごとく」

『・・・・・・・』

 

 そんな箒の攻撃を看過する気はないと福音は改修前から装備されている象徴ともいうべき武器、『銀の鐘(シルバーベル)』を起動し、ウイングスラスターから30以上のエネルギー弾を形成して、猛烈な弾幕とした。

 

「唸れ、紅牙一閃ッ!」

 

 凶悪なエネルギー弾の弾幕に対しても箒は怯むことなく刃を振りぬき、巨大なビーム光波はそんな彼女の行く道を切り開くかのようにシルバーベルの群れをど真ん中から真っ二つに両断する。

 自分の進路を切り開いた箒はスラスターを再び全開にし、虎なぞ一撃で消し飛びかねない弾幕に飛び込んだ彼女は、両足のビームブレイドを展開して大型刀と共に自分に襲い掛かるエネルギー弾を片っ端から切り払っていく。箒の猛攻撃に再びシルバーベルでの弾幕を張ろうとするが、そこにラウラがハイブッドバスターキャノンを発射し、シルバーベルを根こそぎ消し飛ばしてしまう。すかさず追撃の一手としてシャルは複合型65口径アサルトカノン『ハウリング』を発砲し福音は急上昇してそれを回避しようとするが、セシリアのスターライト・アルテミスの狙撃が同時に放たれ、ビームサーベルを盾にして攻撃を受け止めるのであった。

 

「元は高機動と中距離制圧が得意と聞いていたが、接近戦は改修されても不得手のようだな!」

 

 不用意に攻撃を受け止め、足を止めてしまい自ら自慢の高機動性を殺した福音の選択ミスから、御座なりの近接スキルしか有していないと判断した箒は、接近戦で一気にケリをつけようと腰の装甲から二本の柄を抜き、両刃の長剣を形成し柄同士を連結させて高速で回転させ始める。

 

「剣閃疾走ッ!!」

 

 左手で刃を回転させ、右手で印を組みながら空中を疾走した箒は、その刃に赤い炎を灯し福音に斬り掛かるのであった。

 

「『風』鳴る刃、『輪』を結び、『火』翼をもって、『斬』りすさぶ………受けよっ!」

 

 ――― 風 輪 火 斬!!―――

 

 マドカのアーバレスト・ゼフィルスをバリアフィールドごと一撃で大ダメージを与えた技をもって、福音に紅を纏った炎刃が斜め下に袈裟斬りで振り下ろされ、胴体を切り裂かれながら海面に激突し、大きな水飛沫をあげて海中に沈んでいく。

 

「……………」

「箒ッ!!」

 

 海面にできた波紋を見つめながら残心を取る箒に近寄るシャルロットであったが、刀を振るう動作によって彼女を静止させると、振り返ることなく箒はシャルに厳しい問いかけをする。

 

「さっきのアレはなんだ、シャル?」

 

 初動が遅れ、援護射撃ができなかったことを指摘されているシャルはバツの悪そうな表情になる。

 

「戦場(いくさば)において一瞬の油断が危険を及ぼす。それは自分だけの話ではないのだぞ?」

「それは………」

「………シャル」

 

 振り返った表情は悲しみを讃えた物であった。だからこそ箒が自分に何を伝えたいのか、自分が何をしてしまっているのかを悟ってしまう。

 二年前、不注意とも言えない細やかな判断の差によって簪は意識不明の重体となってしまい、今でこそ回復しているものの、生き残ったのも意識を取り戻したのもほぼ『偶然』でしかない。目の前で大事な人間が突然死んでしまう時だってある。それが戦場であるのなら確率は日常の中の比ではない。

 自分は決してふざけていた訳ではない。だが芯から今、真剣に戦場と向き合えていたであろうか?

 

「………前に一度言っていてたな。『自分は陽太の力になりたいだけでISに乗っている』と」

「!?」

 

 急に話し出した箒に息を飲む。そして今度の問いかけは何一つシャルが予想できないものであった。

 

「………今でもそうなのか?」

「わ、私は」

「責めたい訳じゃない。否定したい訳じゃない。ただ、今のシャルの気持ちを知りたい」

 

 箒の真摯な瞳がシャルに問いかけてくる。

 一月以上前の時はお互いの立場が逆だった。揺れる箒と揺れないシャルの図式で自分が問いかけるほうだった。だが今は箒が真摯な瞳で訴えてくるようにシャルは感じる。

 

「(それは私は………)」

 

 ヨウタのため、みんなのため、オーガコアと戦いたいという気持ちに偽りなどないのに、それを強く即時に言えない自分がこの場にいる。まるでそれ以上に重要なことが出来てしまったかのように………脳裏に『暴龍帝(あの女の人)』の影がチラついて、シャルを無性に苛立たせてくる。

 

「今はそれは関係ない!」

 

 心から流れ出た燻む気持ちが言葉となり、箒への解答がある意味全てを物語った。怒鳴り声をあげてしまったこと、そして苛立ったという事実が少なからずシャル自身を傷付けてしまう。

 

「…………済まない。確かに今聞くことではなかった」

 

 空気を読めなかったのは自分の方であると素直に謝罪する箒の姿が殊更に苛立ってしまう。言葉がそれ以上出ずに俯いてしまうシャルロットを見つめながら、ラウラが頃合いを見計らったかのように声を二人にかける。

 

「まだ戦闘中だぞ! 私語は慎めっ!!」

 

 副隊長として、現場のリーダーとしての当然の声であったが、彼女は同時に箒に回線を開き、二人だけの会話を展開する。

 

『突然何のつもりだ一体?』

『済まない』

『今は謝罪はいい………なぜシャルにあんな質問を』

 

 箒という人物を信用しているからこそ、いきなりシャルに対してあんな質問をしたことを不自然に感じたラウラであったが、返ってきた言葉は予想外のものであった。

 

『出発前に千冬さんに頼まれたのだ。シャルの気持ちを確認してほしいと』

『教官にか!?』

『ああ………千冬さんは陽太と同じくらいシャルの気持ちが不安定になっていないか心配されていた………だが、今は確かに聞くべきではなかったな。済まない』

 

 またしても謝る箒であったが、ラウラはそれ所ではなかった。

 なぜそういう大事なことを自分ではなく箒に聞くように言われたのか………おかしい、自分はこの隊の副隊長で千冬の信任厚い存在ではないのか? 意図せぬところでショックを受けた形になるラウラであったが、別にこれはラウラの落ち度というわけではなく、仲の良いシャルに対して遠慮してしまいズバリ聞き出せないであろうという千冬なりの配慮である。事実、ラウラは千冬にこのことを頼まれても恐らく旅行中は聞けず仕舞いになってしまう所であっただろう。これがセシリアや鈴であったとしても、ある意味機微に敏感なシャルは意図を察してしまい正直な気持ちを話さないかもしれない。ある意味、距離感がズバッと踏み込んでしまいがちな箒であったからこそ、聞けることもあるのだ。

 

『(教官何故なのですか?教官何故なのですか?教官何故なのですか?教官何故なのですか?)………あ、ああ………了解しました。理解した』

『?』

 

 呆然となって何かブツブツと言い出すラウラの変化が気になる箒であったが、唯一真面目に敵の索敵を行っていたセシリアから怒りが混じった警告の声が発せられる。

 

「お三方!? 敵はまだ健在ですわよ! 集中力を切らさないで!!」

 

 セシリアの声に我を取り戻した箒とラウラは瞬時に獲物を構え直し、シャルも一拍遅れて銃口を海面へと向ける。

 海面から不気味な水泡と波紋がいくつも浮かび上がり、やがて徐々にその規模を大きくしながらゆっくりと『福音(それ)』は姿を現すのであった。

 

「………!?」

 

 最初に違和感に気が付いたのは、やはり直撃を浴びせた箒であった。自分の技は確かに福音に届いた手応えがあったにも関わらず肩口に小さな打撃痕を残す程度にしか損傷させていなかったのだ。思わず自身の刃を見つめる箒であったが、装甲の強度に負けて破損した形跡もない。仮に福音の防御力があのヴォルテウス・ドラグーンと同程度にまで強化されていたのなら、斬りつけた瞬間に手応えで理解できる。

 理屈に合わぬこの状況を訝しぶる箒であったが、そんな彼女に打ちのめされた福音は両手に持ったビームサーベルの柄を一旦量子変換してしまうと、両手に瞬時に二挺の長大なビームライフルに武器を持ち替える。

 

「まずいっ!」

 

 近接では不利と学習したのか、相手が戦法を変えてくる気だと思ったラウラは仲間に対して叫ぶ。

 

「散開ッ!」

 

 福音から放たれたビームの発射音とラウラの声が重なり、発射されたビームは大気を切り裂いて迫ってくる。AICで強力なビームを受け止めてみせるが威力に押され、足が僅かに止まってしまう。その隙を突くかのように福音はライフルを発射しながらシルバーベルを連続で発射してきたのだ。

 

「ラウラッ!」

 

 当然ラウラに対しての追撃だと思っていたシャルがカバーに入ろうとアサルトライフルを発砲して撃ち落とそうと横入りするが、そんなシャルの行動をあざ笑うかのように放たれたシルバーベルは全てラウラを回避していく。

 

「何っ!?」

「箒ッ!!」

 

 驚愕するラウラと叫ぶシャルの声に返事をする余裕もなく、箒は全方位から迫るシルバーベルを迎撃しようと連結させた刃を解除し、二刀流にして次々とシルバーベルを薙ぎ払い始める。

 

「こぉんのぉっ!」

「いい加減に……」

 

 仲間の窮地に黙っていられるかと、シャルがアサルトライフルを今度は福音本体に向けるが、『彼女(敵)』の行動が予想以上に素早い。両肩口の装甲を展開させ銃身が露出し、内蔵された4銃身式機関砲(マシンキャノン)が火を噴き、盾を構えた彼女に実弾の雨が降り注ぐ。

 

「くっ!?」

 

 ヴィエルジェのEシールドがマシンキャノの全て受け止めてみせるが、対オーガコア用に改良された銃弾の威力は一つ一つが重く、反撃の猶予を与えてくれない。

 そしてシャルにマシンキャノンで銃弾の雨を降らせる福音は、体勢そのままでライフルの銃口をセシリアへと向けたのだった。

 

「!!」

 

 ブルーティアーズのスターライト・アルテミスと福音の『バスターライフル』が同時に発射され、空中でビーム同士が激しいスパークを起こしながら激突する。

 

「くっ!」

 

 海面にプラズマ(火花)が浮かび上がる中、何とか押し返そうとセシリアがアルテミスの出力を最大限にまで上昇させ、徐々に福音のバスターライフルが押され始める。

 

「これでっ!」

『………………』

 

 競り勝ってそれを反撃の契機にする。そう意気込むセシリアであったが、福音は全く焦る様子もなく、まるで予定調和であるかのようにバスターライフルの出力を上げ始め、一気にスターライト・アルテミスのビームを押し返していく。

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 一気に押し切ってきた極太のビームに弾き飛ばされ、空中を錐揉み回転して墜落していくセシリアを助けようと、唯一動けるラウラが後を追うとするが、福音はそれすらも許さない。マシンキャノンの飽和攻撃に身動きが取れないシャルに向かって急接近すると、盾の上から強烈なキックを放つ。と同時に反動を利用してその場から福音は空中疾走した。

 

「くぅぅぅっ!!」

 

 威力を殺し切れずに叩き落さるシャルを尻目に、ライフルを量子変換して収納すると福音は両手に再びビームサーベルを保持して超速でラウラに背後から迫る。当然それを承知していたラウラはあえて懐に福音を呼び込んでAICで捕獲、接近戦で強烈なカウンターを打ち込む段取りを組むが銀のISは予測の遥か上を見せてくる。

 

 ―――両手に持ったビームサーベルの柄を連結させる―――

 

「なにっ!?」

 

 むしろ、シルバーベルの群れを薙ぎ払っていた箒がそれに驚愕し、ラウラは自分に向かってくる福音が『左手で刃を回転させ、右手で印を組みながら空中を疾走』してくる姿を見て、己の失策に気が付き、慌ててAICの展開をAIRに切り替え、右腕にフィールドを集中させるのであった。

 

 ―――斬り込んでくる福音の姿が箒とダブる―――

 

「これは………箒の!?」

 

 AIRを集中させた右腕に伝わってくる衝撃、突進の威力も加味された威力の斬撃はまごうことなき、先ほど福音自身に箒が放った『風輪火斬』そのものであった。斬撃そのものは受け止められたが、突進の衝撃は殺しきれずにラウラは空中を引きずり回される事となる。当然ラウラもスラスターを全開にして押し返そうと応戦するが、改良された福音の推力はそれを上回り、勢いを殺しきれない。そして空中を右へ左へ振り回されラウラの意識が遠退きそうになった時、高速で二機の周囲を取り囲む物体が飛来する。

 

「SBビットッ!」

 

 バスターライフルの直撃をギリギリ避け、戦線に復帰したセシリアが放ったビット達である。縦横無尽に空を飛び回るビット達が放つビームは福音をラウラから無理やり引き剥がし執拗に追い立てる。八基のビットを従え、セシリアは新兵器である二挺のビームハンドガンを両手に持ち、果敢に突っ込んでいく。

 

「セシリアッ!」

「私達もッ!」

 

 セシリアを一人行かせるわけにはいかないとシャルも箒も後に続く。そんな三人の少女の気合を受けた銀の天使は僅かに何かを考え込むような動作で首を傾げ、自分に向かってくる三人の姿に、大事な大事な『何か』を思い出しかける。

 

 ―――ノイズが走る自分の視界に映る、いつも一緒にいた………―――

 

 ―――『彼女』達を蹂躙する真紅の瞳をした黒き龍―――

 

『ギイイイイッ!』

 

 まるで金属が擦れるような苦しみの声を上げた福音は、両手のバスターライフルを構え、シルバーベルを再展開してセシリア達を迎え撃つのであった。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

「はぁぁぁぁぁっ!!」

「くたばれェっ!」

 

 ツインドライブを発動させ零落白夜を使って突っ込む一夏と、フレイムソードを逆手に持ってフェニックスファイブレードを使用した陽太の二人が、それぞれ袈裟斬りと斬り上げの一撃を交差させる。

 

『!!?』

 

 対峙していたオーガコアは防御態勢を取るが、二機の攻撃力の前には紙屑程度にしか役に立たず、胴体の装甲は✖字に切り裂かれ、中に取り込まれていた操縦者とオーガコアが露出し、地面にゆっくりと倒れ込んでいく。

 

「いっちょ上がり!」

 

 流れるように鈴が素早く接近して操縦者とコアを受け取りゆっくりと地面に降ろすと、近くに待機していた自衛隊員達に事後処理を任せるのであった。

 

「コアは手筈通り厳重に封印して倉持研究所にお願い! 操縦者を早く病院へ!」

「りょ、了解しました!」

 

 少女らしからぬ場慣れした対応に戸惑う自衛隊員であったが、鈴はそんな彼らに背を向けると急いで陽太達の元に駆け寄る。

 こちらの件は片付いたと、早々に真耶へとシャル達の状況を確認する陽太であったが、やはりというべきか返ってきた報告は良いものではなかった。

 

「もらったデータには記載されていない武装を使ってくるだと?」

『ハイッ、しかも基本性能も全体的に少なくとも20%は上昇しています。デュノアさん達も頑張っていますが状況は良くありません!』

「チッ!」

「すぐに戻ろう!」

 

 嫌な予感がした時ばかり変に的中する自分の癇がたまに嫌になる陽太であったが、今は嘆いている場合ではない。踵を返すと、一夏は来た時の倍の速度で帰る気で仲間の名を叫ぶ。

 

「鈴っ!」

「聞こえてるわよ!」

 

 同じ通信を聞いていたため状況を説明する必要もない。すぐさま鈴は自身のISを変形させ、陽太と一夏も空中ですぐさま加速体勢に入った甲龍に掴まり、猛烈なGを感じるほどのロケットスタートを切るのであった。

 

「グッ!?」

「悪いけど振り落としたら自力で後追ってきてもらうわよ!」

「安心………しろ!!」

 

 ヤケクソ気味に叫ぶ一夏の言葉に安心したのか、鈴は減速することなく晴れた夏空を超音速飛行し続ける。

 

 

 

 

 一方、大急ぎで来た道を引き返してくる救援組を待つ対福音組は、敵機の予想以上の能力に苦戦を強いられる。

 

「Fire!」

 

 シュヴァルツェのハイブリッドバスターキャノンが火を噴き、空中を疾走する福音はその攻撃をギリギリの所で回避すると返す手でバスターライフルを撃ち返そうと構えてくる。だが仲間を黙ってやらせる訳にはいかないとセシリアはSBビット達を福音の周囲に展開して包囲攻撃を敢行するのだが、福音はシルバーベルを放つ事無くその場に発生させ、ビームのための機雷にすることで次々と放たれるSBビットの攻撃を巧みに誘爆させて捌いていく。立ち込める煙に紛れ敵機の姿を見失うセシリアであったが、そこに返す手でバスターライフルの閃光が迸り背筋が凍りつく。

 

「……んのぉっ!?」

 

 叫びながらスラスターの逆噴射によって間一髪射線から逃れてみたものの、避けた際に空中に零れた汗が目前で蒸発する様を見せられては流石にただ冷静なだけではいられない。このまま押され続ければ先に落とされるのはこちらだと思いビームハンドガンを構えようとするが、そんなセシリアの考えなど見透かしているかのように、シルバーベルの群れが襲い掛かってくる。

 

「このIS、本当に暴走してるんですか!?」

 

 ただ機能的な暴走の割にはあまりに隙のないコンビネーションに毒を吐きつつも、その場に立ち止まらず、ブルーティアーズを全力機動させ、シルバーベルを引き連れるように高速飛行を開始する。同じ全方位(オールレンジ)攻撃を得意とするセシリアは最もその攻撃に対してリスクの少ない対処手段も心得ている。

 

「(軸が直線になった)」

 

 絶対にその場で迎撃を行わない事。そして高速飛行すれば当然自分の後を追ってくるシルバーベルの群れがあり、軸が一直線になった時こそがまとめて迎撃するチャンスとなるのだ。

 

「SBビット、ファランクスモード!」

 

 そして自分に付き従ってきているビット達のことも彼女は忘れてはいない。彼女の号令の元、ビット達は四基で一つ左右二門の砲と化し、ハンドガンとビットのビームを内部で加速収束させて強力なキャノンとする『ファンクスモード』を使い、複数のシルバーベルを撃ち払う。

 

「薙ぎ払いますっ!」

 

 収束して解放されたビームは、文字通り銀の光弾を一瞬で薙ぎ払いセシリアの活路を切り開く。そして仲間の無事を確認しようとした時、彼女の眼には福音に向かって飛び込んでいく箒とシャルの姿があった。

 

「お二方っ!」

 

 援護なしに飛び込むのは無謀だと、そんな気持ちを含んだ声を出すが、二人にしてみてもセシリアの身を案じ、自分達が接近戦で福音を追い込むことで注意を引き付ける目的があるため、あえて無視する形を取ったのだ。

 80口径リボルビングパイルバンカー『ネメシス』を片手にアサルトライフルで牽制しながら右側から詰めるシャルと、左側から箒が展開装甲で巨大化した空裂をまるで抜刀術のように腰に下げて構えながら突っ込む。

 

「双剣抜刀っ!」

 

 叫ぶ箒が大型の刀から、空裂を抜き放ち繰り出した瞬速の抜刀術はほぼ同時に『2撃』の光刃を生み出す。

 

「紅十文字(くれないじゅうもんじ)ッ!」

 

 紅牙一閃の発展技をここで繰り出し、勝負を一気にこちらに傾けようとする箒に呼応して瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使いシャルも攻勢に躍り出ようとするのだが、箒の攻撃を回避しつつ福音は迷うことなく右手にライフルと左手にサーベルを持ってそんなシャル目掛けて突進してくる。

 

「なっ!?」

 

 不用意すぎる福音の突撃行動………とシャルは思い込んだのだが、一切表情が現れない福音には確かな勝機があるのだ。相手が自分から間合いを詰めてくるのであれば遠慮はいらないとパイルを振りかぶり叩き付ける。

 

「!?」

『……………』

 

 だが福音はそんなシャルの攻撃を紙一重で回避すると彼女の背後を取り、ビームサーベルを上段に構えた。相手が自分に攻撃して来ようとするのがセンサーでも第六感でも感じ取れたシャルは、振り返ると同時に武装を近接から、得意の62口径連装ショットガンと59口径重機関銃デザートフォックスに持ち替え弾幕を張って福音を退かせる。

 そして若干の距離が開いたことを見計らい、シャルが本来の自分のスタイル………数多くの武装を瞬時に持ち替える高速切替(ラピッド・スイッチ)と、それを用いた一定の間合いと攻撃リズムを保ち続ける『 砂漠の逃げ水(ミラージュ・デ・デザート) 』という戦法を使い始めた。これは特定の武装によって間合いが決まっているISに対して距離を制する空間の支配と、対処に不慣れ、もしくは不能な武器による攻撃力という二つのアドバンテージをもたらしてくれるのだ。

 

「(ここで私が向こうのシールドエネルギーを削り取って、ほかの三機と合同で一気に決める)」

 

 福音の攻撃と速度は大体把握できた。

 シルバーベルが少々厄介ではあるが、理不尽な手数と速度という意味では隊長の陽太の早撃ち(クイックドロウ)の方に軍配が上がり、バスターライフルにしても気を付けて発射を見極めれば回避することは難しくない。発射までに僅かばかりのタイムラグが存在しているからだ。そして厄介なマシンキャノンは射角が正面に限定されている。

 機動力も大したものであるが、変形した甲龍・風神ほどではなく、またダッシュの技術も陽太に比べれば格段に落ちる。箒の技をコピーしたことには素直に驚いたが、自分の能力はコピーしたところで武装がなければ再現のしようがない、ならばここは一番自分が適役であるのだ。

 総じて一定個所に留まらず、絶え間なく攻撃を仕掛ければ決して勝てない相手ではない。

 

 と、シャルは自分の観察眼に狂いはないと判断した。

 

 ―――左手のビームサーベルを収納する福音―――

 

「えっ?」

 

 前情報もなく、先ほどから幾度も予測を覆してきた相手に対して『そうであるはずだ』と先入観を持って思い込む、というシャルらしくないミスをしたことが引き金になる。

 

 ―――左手の武装をアドオン式のアサルトライフルに持ち変える福音―――

 

「シャルッ!? その間合いは危険だ!」

 

 箒が血相を変えて叫ぶが時すでに遅く、福音が一体化されたライフルからグレネードを放っていた。慌てて盾を掲げるが、直撃したグレネードの威力に大きく外に吹き飛ばされてしまう。衝撃で目がくらみながら落下しいてくシャルに、福音は更にアサルトライフルとマシンキャノンの二段攻撃を仕掛け追い詰めてくる。

 

「きゃあああああああっ!!」

 

 Eシールドで防ぐものの発生させているデバイスが過熱し火花が出始める。だが一旦防いでしまうと威力によって逃れることを許さないマシンキャノンがシャルの動きを完全に封じ込めてくる。彼女を案じ、箒とラウラとセシリアがそれぞれ行動を起こそうとするが、福音は三人に対しても冷静な同時対処を行う。

 右側から突っ込んでくる箒と左側でキャノンを構えるラウラに対し、マシンキャノンの邪魔にならないよう両腕を腹で交差させながらアサルトライフルとバスターライフルの同時斉射を撃つのだった。

 

「くっ!?」

「チッ!?」

 

 運動性が高い箒に対して面の機関銃が動きを阻み、バスターキャノンを発射間近で足を止めていたラウラはAIRを使わされバスターライフルの威力に弾き飛ばされる。さらにセシリアに対して先ほどの倍以上の数のシルバーレイを放ち、セシリアはシャルの援護をする余裕を与えられずに全力機動でシルバーレイの対処と迎撃を余儀なくされてしまう。

 

「この………ままじゃっ!?」

 

 様々武装を巧みに操り、自分達を追い込んでくる福音に圧倒され、どうすればいいのか思案するシャルであったが、降り注ぐ弾丸の雨の前に、ついにEシールドデバイスが限界を迎えてしまう。

 

「しまっ……」

 

 爆発と共にEシールドデバイスが四散し、実盾の上から直接マシンキャノンの斉射を喰らい、踏ん張ることができずに弾かれ、いくつか銃弾が被弾してしまう。

 

「シャルゥッ!?」

 

 バスターライフルを必死に受け止め続けるラウラの目の前で、銃弾を受け落下していくシャルの姿に絶叫するが、突然手元で受けていた粒子が止みツンのめる。

 

「!?」

 

 バスターを撃つのを止めた福音が落下していくシャルに追いすがるように高速で降下していくのを見たラウラ、そして箒は確信する………トドメを刺す気だと。

 

「「させるかぁっ!!」」

 

 声を重ならせ、福音に追いすがる二機であったが距離が離れすぎて追いつくことができない。セシリアへの攻撃も依然続いており、狙撃で足を止めてもらうこともできない。焦る二人に対し、無常に加速し続ける福音がバスターライフルを構えた時であった。

 

 ―――四人のハイパーセンサーに突如鳴り響く未確認機(アンノウン)を知らせる警告音(アラーム)―――

 

 その姿を最初に捉えたのはセシリアであった。

 

「アレは!?」

 

 遠方から脇目も振らずに高速で飛行してくる一機のGS………IS以外は専門外のセシリアはその機体がどこの国のものか判断できないでいたが、強行軍で長時間高速飛行したためか機体のあちこちから火花が飛び、とても万全の状態で救援に来たとは思えない。

 そんなGSは、海面ギリギリで落下していたシャルを受け止めると、そのまま急上昇して静止する。

 

「………痛ッ!」

 

 痛みによって気を失っていたシャルがゆっくりと瞳を開くと、GSの存在を確認しながらも何もせずに空中に静止する福音と、そんな福音の様子が理解できないで思わず警戒しながらも動きを止めてしまう箒とラウラの姿が見れる。

 

「あ………貴方は……」

 

 視線をずらしてGSのコックピット部分を見る。そこにはコックピットのハッチを開き、強い風が吹き荒れる戦場に軍服一つで立つ、金髪の女性がいた。

 

「福音(ゴスペル)!?」

 

 福音(ゴスペル)の名を呼ぶ、青い瞳をした女性………『ナターシャ・ファイルス』は、我が子のように愛するISに向かってはっきりと叫ぶのであった。

 

「銃を降ろしなさい! 彼女達は貴方が戦う相手ではないのよ!!」

 

 

 

 

 





シャルさん、今回しょっぱい役目になっちゃったな。
まあそれ以前に、万能機というポジション同時、どうしても戦い方が被ってしまうのか

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