IS インフィニット・ストラトス 〜太陽の翼〜   作:フゥ太

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今回はある意味新キャラが多数だし、よくよく考えれば今まで何度も登場してるキャラともいえる彼女達にスポットが当たります


臨海学校初日~午後~

 

 

 

「おーさーかーなー!!」

「おーいーしーいーなー!!」

 

 すっかり日も傾き、夕焼けが水平線の向こうに沈む時間帯。花月荘の宴会場において夕食を用意されたIS学園生徒達が一斉に海の幸を楽しむ中、楽しみにしていたバーベキューに最後まで有りつけずにお預けを食らった陽太とのほほんは、これ見よがしに大声を出して豪勢な夕食を堪能するのであった。(余談だが、木に縛られ食事に有りつけなかったのを哀れんだのか、女将さんが二人に簡素ではあるが昼食を用意してくれたのだが)

 自分達の行いの悪さを棚に上げた二人の逆恨みオーラを一身に受け続けているシャルと箒であったが、最早慣れ親しんでしまっているのか微動だに動揺する素振りすら見せず、仲良く出てきたメニューの内容に感動する。

 

「スゴイッ! 生のお魚なのに生臭さがそんなに感じない!」

「いいかシャル? ワサビは醤油に溶かさず、少量だけ刺身に乗せて食べるのだぞ」

 

 箒による日本料理をおいしく食べる口座のまま、割と海外の人間に好き嫌いが分かれる刺身を美味しく食するシャルは、異国の文化の新しい姿に感動を覚える。その向こう側ではセシリアが生の海産物相手に悪戦苦闘していた………どうにもシャルとは違い彼女にはハードルが高いようである。

 そして本人的には永遠に忘れていたいキャストオフ事件を起こし真っ白になっている鈴と、その隣で初めて見る色とりどりとした海の幸に瞳を輝かせるラウラは、なぜか静かに目の前の膳を見続けている一夏に気が付く。

 

「どうした一夏? 体調が優れないのか?」

 

 昼間にはしゃぎ過ぎて日射病にでもかかってしまったのかと心配するが、一夏は首を横に振ってこう答える。

 

「いや、空きっ腹には最高のご馳走だよこれ………だからさ、思うんだ」

 

 いつもと違う雰囲気を醸し出している一夏に、箒やシャル、そして陽太も気が付く。

 

「千冬姉にも食べてほしかったなって」

 

 今も辛い闘病生活を続けている姉のことを思うと、目の前に出されたご馳走にも素直にありつけない一夏を見たラウラは、自分も浮かれている場合ではない!と思ったのか恐る恐る箸で掴んだ刺身を膳に戻すか思案する。

 一瞬でテンションが下がってしまった一夏達であったが、そんな彼らを尻目に陽太は黙々と頬っぺたにご飯粒をつけながら箸を進めていく。

 

「気にすんな。食え食え」

「コラ、ヨウタ?」

 

 一夏の気持ちを考えてあげなさいとシャルが窘めようとするが、ヨウタは自分の師匠のことをこう評するのであった。

 

「実際にあの人は誰かが物理的に止めなかったら際限なく働いて、家に帰りゃ酒ばっかり飲む不健康極まる人なんだよ。だったら病院でか細く病院食たべてるほうがまだ健康的だ」

「それは…………そうなんだよな~~」

 

 二人暮らしの時も、その飲酒ぶりに頭を悩ませていた一夏としてはある意味陽太の言う通り、入院中の今のほうがかえって禁酒もできて健康にいいものを食べさせてもらえているのではないかと思えてきてしまう。

 

「まあ、心臓の手術をしたんだ。向こうニ、三ヶ月は大人しくしててくれるだろう」

「そうだよな。今は千冬姉にはゆっくり休んでもらうのが一番なんだよな」

 

 考え方を変えたためか、先ほどよりも箸が進むようになったのか、今日も病院でゆっくり寝ていてくれているんだろうと、鯛の造りを頬張りながら一夏は、姉の千冬にゆっくりと養生してほしいと心の底から願うのであった。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 ―――夜も更けた夜半過ぎ―――

 

 郊外に建設された鵜飼総合病院の敷地内にある森林地区において、銀色に光る刃を片手に入院着姿にカーディガンを羽織った千冬は、大きな岩の前で静かに居合の構えを取る。

 

「………スゥッ」

 

 誰一人としていない森の中で静かに息を吸い込む千冬の姿を一羽のフクロウが見つめ………その瞳に銀色の閃光が走る。

 

「ハアッ!!」

 

 吸い込んだ息を吐きだすと同時に動いた千冬は、瞬間移動かと見間違うほどの速度で踏み込むと目の前の大岩を瞬時に五個に分断してしまうのであった。

 そして再び一息つくと納刀し、自身の身体の驚くべき変化を彼女は実感する。

 

「………元通りとは程遠いが、確かに回復………いや」

 

 心臓の手術によって損なわれてしまうはずのその力。手術後は確かに重傷ということで動かなかった身体であったが、日が立つごとに体調は驚くほどのスピードで回復し、むしろ投薬治療末期の頃よりも確実に全盛期の頃に近づきつつあるのであった。

 想定していた事態に比べれば奇跡的な好転具合なのだが、どうにもそのことが腑に落ちない千冬は尚も自身の体調の回復具合を確かめるように刀を振るおうとした。

 

「全く………どこまで非常識なんだねキミは」

「ひゃっ!?」

 

 が、呆れ顔のカールに突然声をかけられびっくりしたあまり刀がすっぽ抜けて遥か彼方に吹っ飛んで行ってしまう。初任給からコツコツと小遣いをやりくりして購入した大事な大事な愛刀が行方不明になってしまうのではないのか気が気でない千冬であったが、そんなことなど全く関係ないと言わんばかりにカールは彼女の額に触れながら腕の脈を図りだす。

 

「ヨウタ君も全身の骨折を一週間で繋いで完治させてみせたが、君も君だ。普通なら運動するのにも数か月かかるというのに………君達師弟はあれかね? 医者である私に人体の神秘を再確認させるために毎度無茶をしてくれるのかな?」

 

 勝手に病室を抜け出すだけでも憤激物なのに、こっそり刀を持ち出して勝手に修練を始めるなど正気の沙汰ではない。そう正気の沙汰ではないのだ…………常人であるのならば……。

 

「キミの心臓は10年前の戦いの余波によって損傷と肥大化を繰り返していた………ゆえにボクは左心室形成術によってキミの肥大化した部分を切除して縮小化させることに成功したのだが、これによって確かな運動制限がつくはずだった」

「…………だが、私の身体は現に前以上に力を取り戻しつつあるぞ? まあ最も未だに数分もすれば息が上がってしまうが」

 

 医師の観点からしても、この回復具合は異常だ。傷の直りがただ早いだけの話ではなく、メスを入れた心臓が前以上に活性化するなどという話は聞いたこともない。が、現実問題として常に千冬のそばで彼女の身体の経過観察をしているカールは、日に日に回復していく彼女の身体能力と心臓の具合を目の当たりにし、ただの奇跡の一言で片づけてしまっていいものなのか困惑しているのだ。

 

 だが、千冬は考える。ホンの僅かな違和感…………なぜ自分が今、生き延びているのかということに。

 

「(………………)」

 

 ―――さようなら、ちーちゃん―――

 

 あの瞬間、束は自分に決別を言い渡しに来た。そう考えていた千冬はふと疑問に思う。

 なぜあの瞬間にいう必要があったのか? ただ別れを宣告するだけならば今までタイミングはいくらでもあっただろうに?

 

「まさか………」

 

 『そんなはずはない?』『いや、まさか』………まとまらない二つの矛盾した想いを表すように、夜空に浮かんでいた三日月が雲に覆い隠されてしまうのであった………。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 そして月が隠れ、夜の虫たちの鳴き声だけが聞こえる夜中の頃………初日を終え、温泉も満喫した陽太は床に入り、珍しくそのまま何もせずに静かに眠りにつく。

 

 

「……………」

 

 次に陽太が気が付いたとき、そこは泊まっていた旅館の純和風の布団の上ではなく、とある田舎町そっくりの世界であった。

 

 辺り一面の向日葵畑と、どこまでも続く青い空と燦々と輝く太陽があり、自分が寝ていた場所のほど近くに煙突付きの民家があるため、彼の心に故郷への懐かしさを感じさせる…………のだが、今回はちょっとだけ様子が違ったようであった。それは………。

 

「だから、ボクの最初の意見通り『ナンバー01<白騎士>姉さん』にもう一度コンタクトを取ってもらって!?」

 

 ―――メロンパンを頬張る、布地の少ない白装束を身に纏ったシャルそっくりな陽太の相棒の少女―――

 

「私も『ナンバー27<ブレイズ>』の意見に賛成だ。いつまでも待っていては手遅れになる」

 

 ―――串にささったみたらし団子を食べるのは、腰にいくつもの刀を差した紅の袴に身を包んで襷掛けをし、茶色い髪をポニーテールにした武士系女子―――

 

「我(わら)わも『ナンバー120<紅椿>』と同意見じゃ。それに速き事は勝利の近道じゃからな!」

 

 ―――古風な話し方と気丈そうな面持ちとは裏腹に、外国人そのものの金髪と青い騎士甲冑に身を包んだ紅茶を飲む美女―――

 

「でも『ナンバー109<ブルーティアーズ>』? 無理強いして回線を遮断してる人に、まるでカギのかかった私室のドアを無理やりこじ開けるような真似をするのはどうかと思うけど?」

 

 ―――黒いコートに身を包み、黒いマスクを被った銀髪のショートヘアがシャープなイメージを感じさせるボーイッシュな女性が、気にもたれながら注意をする―――

 

「『ナンバー106<シュヴァルツェア>』におね~さんも賛成かな。ヒグッ………誰にだって覗かれたくない時だってあるでしょ? ヒグッ」

 

 ―――ボディコンな紫の衣装を着た妖艶な美女が、一升瓶をラッパ飲みしながら反対意見に賛同する―――

 

「『ナンバー15<甲龍(フェイロン)>』、お酒臭いよ………人の夢の中で飲酒しちゃダメだよ」

 

 ―――白いワンピースを着た長く白い髪をした少女が鼻を抑えながら外見上は年上ながら、年下の妹に注意する―――

 

「み、みんなさん! ヨウタさんが起きられてます!?」

 

 ―――唯一この世界(夢)の主が目覚めていることに気が付いたオレンジ色の長い髪と瞳をした白いワンピースを着た少女が慌てた様子で必死に伝える―――

 

 ―――そして最後に、白い甲冑を纏った手に剣を携えた黒い髪の女性がゆっくりと瞑想から目覚めるように立ち上がり、オレンジ色の少女の頭を優しく撫でる―――

 

「『ナンバー468<ヴィエルジェ>』、わかっているよ………そして『ナンバー7<暮桜>』、たまにの飲酒ぐらいは許してやってくれ」

 

 

「許せるかボケェェェェッ!!!」

 

 今まで呆気に取られ状況についていけずに静観を決め込んでいた陽太の突然の激高に、すべてのISの先駆けたる『ナンバー01<白騎士>』は体を震わせちょっとだけ半泣きで驚いてしまう。

 

「おのれら、何勝手に人の明晰夢で女子会しとんじゃっ!?」

 

 断り無しに女子会会場にされた身としてはたまったものじゃないと激怒した陽太は、自分の相棒である『ナンバー27<ブレイズ>』に詰め寄る。主の予想外の怒りに、ちょっと驚いた表情となった少女は自分のメロンパンを胸に抱きしめながら強気な表情を作って反論するのであった。

 

「な、なんだよ!? 突然…」

「突然もクソもあるか!! こりゃ何の騒ぎだ? なにゆえに人の夢の中に勝手に他のISさんたち連れ込んでらっしゃいますのよ!?」

「操縦者の皆の臨海学校が楽しそうだったから、いつものコア・ネットワークじゃ物足りないってことで、今日は特別に君の明晰夢(ココ)を特別にお借りして…」

 

 そのセリフを聞いた瞬間、陽太はどこからか取り出した緑色のスリッパで少女(相棒)の頭をはたく。

 

「痛ッ!」

「俺の夢の中でお前が寝言いうなっ!」

「なにするんだよっ!?」

「お仕置き(返しの一撃)ッ!」

「イタイィッ!」

 

 もう一発頭をはたき、肩を震わせる程に怒りを抱える陽太と涙目で睨み付けるブレイズがデコを擦り合わせながら睨み合う中、二人の喧嘩を白騎士と暮桜が仲裁に入るのであった。

 

「二人とも、す、少しだけ落ち着いてくれないか?」

「「あ゛あ゛んっ?」」

「ヒィッ!?」

「姉さん、気圧されない気圧されない」

 

 二人の鋭い剣幕に再び半泣き状態になる白騎士をフォローする暮桜………どうもどこか押しが弱いというか、一夏の前だけ凛々しいキャラを作っていたのか………それでいいのか最古のIS。

 対して妹機の暮桜は、二人の争いを楽しそうに見つめながらもキチンと自己紹介を始めるのであった。

 

「初めまして火鳥陽太君。私はナンバー007の暮桜。千冬の元二代目相棒で、今は一夏君のパートナーかな?」

「………おう」

 

 第一回モンド・グロッソを圧倒的な強さで全勝し、第二回も結果的にアクシデントで決勝を欠場したとはいえ下馬評で優勝候補筆頭を誇っていた自分の師匠の相方が、まさかこのような幼女だったとは………ちょっとだけ不思議な気持ちになりながらも、暮桜が差し出した右手を掴み握手を交わす。

 稼働しているコアの中では古参扱いされている暮桜としても、自分の元相方の弟子の少年というのは一夏同様に大変興味深い存在であり、妹のナンバー27の話に聞いてはいつかこうやって対面してみたいと常々思っていたのである。

 

「(コイツがかつて、『剣聖』『剣王』『人斬り包丁』『白の魔王(ディアボロス)』『妖怪女首置いてけ』『ぶっちゃけ刀持って光線吐かない空飛ぶゴ〇ラ』と言われた頃の千冬さんの相方、暮桜………)」

「うん。今、相当失礼なこと考えてるでしょうキミ?」

 

 初対面の相手に心の中とはいえここまで言える陽太に呆れと怒りと、ちょっとだけ物怖じしない頼もしさを暮桜は覚える………ホンの僅かであったが。そして二人が手を解くと、その隣から金髪の青い騎士甲冑を纏った美女が陽太に話しかけてくる。

 

「姉君との挨拶は済んだようじゃな………我が奏者の戦友よ、ワラワの名はブルーティアーズ。ナンバーは109………いずれ、姉君達を抜き去って最強のISの称号を得る者じゃっ!」

 

 天の太陽に指をさして声高々に宣言する姿に、話し方は古風だがなんとなく彼女の操縦者(セシリア)との共通点を見出し、これには思わず苦笑いしてしまう。

 

「ナンバー109の『アレ』は毎度のことだよ」

「シングルナンバー相手でも気が強いから………お姉さん、ちょっとああいうところに肝を冷やしてるわ」

 

 黒いマスクをつけた銀髪の女性と紫色のボディコン姿のグラマーの女性は、ブルーティアーズの様子を説明しながらそれぞれも自己紹介をするのであった。

 

「ボクはコアナンバーは106番のシュヴァルツェア。操縦者はもちろんラウラ・ボーディヴィッヒだね」

「コアナンバー15、甲龍(フェイロン)よ坊や………う~~~ん、お姉さんの好みのタイプ♪」

「おっ♪」

 

 グラマラスな肢体に抱き着かれ一瞬で鼻の下が伸びる陽太と、それを見て背後で憤慨するブレイズ………しかし妖艶な女性に抱き着かれ悪い気がしない陽太であったが、彼女の名とナンバーをふと思い返すと、操縦者のことを思い出し問いかける。

 

「甲龍って………操縦者は鈴か?」

「そう~~よ。筋も才能も中々だけど、強情そうだからお姉さんも苦労してるわ♪」

 

 自分のスタイルに思い悩む仲間の相方がまさかこんなオッパイお姉さんだったなんて………絶対自由に意思疎通できるようになったらショックで灰色になっちまうな、と他人事のように思う陽太の首根っこをつかみブレイズが甲龍から無理やり引き剥がし、大層ご立腹な表情で睨み付ける。

 

「ほほ~~う? オッパイがあれば陽太君は誰でもいいんですね~?」

「何むくれてんだ?」

「!! べ、別に怒ってるわけじゃ」

「それにな、オッパイがあろうと誰もいいわけじゃない」

 

 『特にあの爆乳はな』………目に殺気が漲り額の血管を見たブレイズは、タイマンでフルボッコにされた事が忘れられない自分の操者に呆れてしまう。

 

「こういうところがあるからシャルロットちゃんが苦労するんだよ」

「シャル関係ない! 後、これは俺のプライドの問題だ!!」

「ハイハイ、プライドプライド」

 

 浮気の心配はなさそうだけど女心の理解には程遠い、この相棒(バカ)を想う彼の幼馴染の少女に心底同情したブレイズは、IS(身内)しか通用しないブロックサインで最年少の妹(ヴィエルジェ)にさりげなくフォローしておいてと伝え、姉の頼みを受けた末妹は必死に『了解しました!』と首を縦に振り続ける。その様子を見ていた陽太はブロックサインの内容は理解できないまでも、仲の良い間柄を見てヴィエルジェに声をかけた。

 

「仲良いなお前ら………セシリア、ラウラ、鈴と来たから………お前はひょっとしてシャルの?」

「は、ハイッ!! ナ、ナナナナナナナンバー468の『ヴィエルジェ』です!」

 

 ペコリと緊張した面持ちでお辞儀をした少女に近寄ると、頭に手をやって珍しく優しい手つきで頭を撫でてやるのであった。だがその様子が面白くないのか、不服そうなブレイズが横やりを入れてきた。

 

「………ずいぶんお優しい陽太さんですこと? 年下に興味がお持ちで?」

「風評被害に繋がる言い方は止せ!! いつぞや、ちょっとだけ迷惑をかけたことを謝ってんだ!?」

 

 身内しかいないと思って人を好き勝手呼びやがってと憤慨する陽太のそばで、そんな彼の怒りを勘違いしたのか、涙目になったヴィエルジェが必死に謝罪し始めてしまう。

 

「ご、ごめんなさいっ………私がダメダメなISだから」

「いや、お前を怒ってない。怒ってるのはあの年上詐称の姉のほうだから………お前らISは作られて10年しかたってないだろうが」

「精神的にずっと陽太よりも年上だもん!」

「年上のくせに人の夢の中で好き勝手してもいいとか、そういう自己中なところがガキなんだよ!」

 

 またしても両手を組みあって力比べを行う二人を、木陰で様子を見ていた腰にいくつもの刀を差し襷掛けをした袴姿の少女が呆れ顔で吐き捨てる。

 

「つまりはどっちもガキということか」

「なんだよそれ!?」

「お前生意気だぞ、紅椿!!」

「!?」

 

 陽太に名を呼ばれ驚く紅椿。なぜ自己紹介していないはずの自分の名前がわかったというのか………消去法でいけば彼女が箒の専用機でしかないのだが、陽太は指をさすとそれとは違った理由で彼女の名を言い当てたというのだ。

 その理由とは………。

 

「そのボッチぽい振る舞いと、でも寂しがり屋っぽいところは箒そっくりだから」

「!?…………どういう意味だ!?」

 

 憤慨した紅椿が刀を抜き放とうとし、それを複数のISが同時に抑え込みにかかりしばし騒然となる。冗談か本気か知らないが、相手の一言一言に過敏に反応したり結構頭に血が上りやすい性質なところは実に箒のISと言える。

 そして一通りISに自己紹介をしてもらった陽太は、プリプリと怒りを露わにしながらも地面に座り込み、本題に入る。

 

「で、ブレイズ?」

「ん?」

「何話してたんだ? 俺の文句とか言ったら本気でキレるぞ」

 

 なぜ自分の夢の中で自分の悪口言われんといかんのだ? と理由を後に続ける陽太であったが、ブレイズの表情が一変し、彼にも微妙な緊張感を与えてくる。

 

「………ボクたちISは頻繁にコアネットワークでやり取りをしているんだけど、最近そのうちの一人と全く連絡が取れなくなってしまったんだ」

「?」

 

 表情が暗くなるブレイズに代わり、『彼女』が重い口を開く。

 

「ナンバー005『銀の福音(シルバーゴスペル)』………我々がゴスペルと呼んでいる者だ」

「白騎士姉さん!?」

「まだいたのかよ」

「ま、まだいた!?」

 

 陽太が口にした結構ひどい言葉に傷付き再び凹みそうになるが、一々中断していては話が進まないと脇から暮桜が『姉さん続けて続けて』とフォローを入れ、涙目を拭い去り再び説明を開始してくれる。

 

「本来我々ISのコアネットワークは、貴方方操縦者が広大な宇宙空間での相互位置確認・情報共有を行うために開発された超々大容量ネットワークシステムのことなんだが、それを表口と例えるなら我々コアのみが使用できる裏口が存在している」

「非限定情報共有(シェアリング)だろ?」

「うむ」

 

 この辺り、IS関連『だけ』に限定すれば陽太もそれなりに知識を持っていることに満足した白騎士は、力強く頷く。

 

「これは創造主(マザー)である篠ノ之束氏を持ってしても干渉できても遮断することはできない物なんだが、最近ゴスペルからの連絡が全く途絶えてしまったんだ」

「じゃあ束は関与していない………コアに何かしらの異常が発生したとかは?」

 

 陽太の仮定に白騎士は首を横に振る。

 

「いや、コアに関しては無事なのは私達には理解る………だからこそ、尚更におかしい」

 

 ISの全てを知り尽くしている束が関与していない。コアそのものに何か起こったわけでもない。確かによくよく考えてみればおかしいことであるため、陽太は顎に手をかけながら首を傾げて考え込む。

 

「中枢のコアをいじれるのは現状束だけだ。それにコアに何かしらの制御技術なんてロクでもないことすれば、アイツが感づかないわけがない」

 

 オーバーテクロノジーの塊であるISコアの内部構造を完全に把握しているのは陽太の知りうる限りは世界で束ただ一人。それに分解して解析しようにもコアは非常に強度が高いレアメタルで構成されており、外から破壊することは不可能な代物と言われている。

 

「ゴスペル姉さん………やっぱりこの間の戦闘のことで」

「………この間?」

 

 何の話だ? と陽太がブレイズに尋ねると、シュヴァルツェアが代わりに答えた。

 

「君も先の太平洋艦隊の話は知っているだろ? ゴスペルはその部隊のフラグシップ機だったんだ」

「………あの爆乳絡みかよ」

 

 世界の情勢にあまり興味を示していない陽太ですら、米国の太平洋艦隊壊滅の話は寝耳に水だっただけに、こうやって意識していないだけであの女一人に世界中が振り回されている錯覚すら覚え、無意識に拳に力が入ってしまう。

 

「ゴスペルお姉さん………『シングルナンバー』なのに、負けちゃうなんて」

「ナンバーの数など関係ないぞヴィエルジェ」

「…………でもでも」

「『シングルナンバーが特別』などというのは迷信だ」

 

 ヴェルジェの不安げな言葉にブルーティアーズと紅椿が厳しい言葉を投げかける中、陽太は操縦者の間で実しやかに囁かれていたある噂のことを思い出す。

 

 ―――ISコアのうち、最初期10個のシングルロットのナンバーには何か特別な力が宿っている―――

 

 いつ、何処で、誰が言い出したのかわからないその噂。

 実際にコアそのものには全くの差はなく、内部に宿っている個性ぐらいしか差異は見受けられないというのが開発者たちの見解なのだが、まさかIS達の間にもそんな噂が流れていたというのか?

 

「だけど、強ち全部間違いってわけじゃない………ある意味、特別って言えるシングルナンバーは一人いるぞ」

「「何?」」

「どういうことだよ?」

 

 ブルーティアーズ、紅椿、ブレイズがどういう意味かと問いかけると、陽太は真っすぐに白騎士のほうを指さし、こう述べる。

 

「少なくともお前さんは10年前の最も最初期に作られたISで、搭乗時間が10分もない一夏に自分から干渉したはずだ」

 

 陽太のその言葉の意味を理解し、ブレイズも顔色を変化させる。

 通常、コアとの密接な会話などは操縦者がシンクロ率を上げていく作業が必要とされ、天性の素質を持つ陽太ですらこうやって自由に話せるまで三年の月日が必要となっていたのだ。

 

「結構長い間操縦者やってきたが、自分から操縦者の意識領域に干渉できるISなんて聞いたことがないぞ? そいつは最初期ゆえの特権か? それとも10年もISやってりゃ自然とできる芸当なのか?」

 

 陽太の厳しい問いかけに白騎士は静かに微笑むと、何かを思い出すように、懐かしむようにこう穏やかに返す。

 

「………どちらかと言えば後者に近いとも言えるが………私が特別というのも間違いとも言い切れない」

「??」

「少なくとも、そういう意味では私と『アイツ』は特別と言える………火鳥陽太君、君はすでに理由を知っているはずだ」

 

 白騎士の問いかけに陽太はしばし考え込み、やがてある言葉を思い浮かべこう述べる。

 

「………スカイ・クラウンか」

「ああ。少なくとも私『達』は彼女達の覚醒と立ち合い、そしてその恩恵を受け取っている」

 

 操縦者が究極の領域に到達することで覚醒する第七感(スカイ・クラウン)は、どうやら操縦しているISにも変化をもたらすことができるというのか………改めてその力の凄さの一端を教えられた気がする陽太であったが、ふと白騎士の表情に微妙な憂いがあることに疑問を浮かべ、問いかけた。

 

「まだ何かあんのか?」

「ああ………いや、先ほどヴィエルジェが言っていたシングルナンバーのことだが。あれには微妙に語弊があるんだ」

「語弊だぁ?」

 

 まだ何か隠された真実とやらがあるのかよ、と若干うんざりとした表情になる陽太であったが、次に教えられた事柄は流石に無視できない物であった。

 

「正確に言うとシングルナンバーでも1~5と6~10では事情が異なる。6~10は白騎士事件後にコア内部で意識を覚醒させ、のちのコア達の安定制御の雛形になってもらったんだ」

「………おい、ちょっと待て」

「そして1~5と、その前の『ゼロ』は……事件『前』から意識を覚醒させていた」

 

 覚醒前と後………そして『ゼロ』

 微妙な表現の差と聞きなれないワードをつけた白騎士の言葉は陽太を大いに困惑させる。

 

「私達ISコアは操縦者との精神の同調で性格ともいえる性質を決定させる。私達を覚醒させた『人』は私達にメッセージを託してくれた」

「…………束、じゃないのか?」

 

 恐る恐る問いかけたその問いかけに、白騎士は首を横に振り、こうはっきりと答える。

 

「我々に意識(たましい)を与えた人の名はアレキサンドラ・リキュール………そう、カミサマにも等しい英雄にして………あのあどけなかった『三人』のお母さんだった人だ」

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 ――――燃える。世界が燃える―――

 

『救助艇を出せ! 一人でもいいから多くを救え!』

 

 厳格さと内心では起こってしまった『事故』の中、人でも多くの仲間を救いたいと願う『艦長』の声が、火の手を上げる『海原』の中で響き渡る。

 

 怒号、悲鳴、破壊される音………浮上したものの、燃え盛る火の手が収まらない潜水艦と、辺りを囲う艦艇の中、一機の銀色のISが満天の星空を見上げながら空中をただ静かに佇んでいた。

 

 ―――壊れる。皆が壊されてしまう―――

 

 どこか虚空を見つめていたISはやがてゆっくりとある方向を向くと、転身して飛翔し始める。それを見た一人の女性………全身煤だらけでボロボロの軍服を着たまま先ほどの炎上する潜水艦から命かながら脱出し、救助艇に助けられた金髪の女性操縦者は、すぐさま乗り込まされた空母の内部を自身の最高速で疾走すると、空母の看板に要救助用に出され、整備を行っていたGSに乗り込み発進しようとする。途中でこのGSの正規の操縦者と整備班が血相を変えて発進を阻止しようとコックピットのハッチを開こうとするが、彼女はその一切を無視し、手慣れた手つきでOSを操作し、シートベルトをつけると外部スピーカーでこう怒鳴りつける。

 

『今すぐ退きなさい! コッチは一刻を争うのよ!!』

 

 彼女の怒声に押され、GS操縦者と整備班が一歩引いた隙を狙い、GSを跳躍させて空母から飛び降りるとバーニアを全開にし、海面に着水した衝撃に襲われながらもなんとか踏みとどまり、浮上しながら加速していく。

 

『ファイルス中佐! その行動はどういう了見か私が納得のいく説明をしてみせろ』

 

 途中、この艦隊の指揮官である男から叩き付けるような怒鳴り声で通信が入ってくるが、ファイルス……銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の正操縦者である『ナターシャ・ファイルス』は、表情を変えることなく冷静にこう返す。

 

「暴走したゴスペルを連れ戻します」

『正気と思えんな。すでに敵性(エネミー)として撃墜許可も出ているのだぞ!?』

「最高機密の塊であるISをみすみす撃墜なんてしては、それこそ今までの苦労が水泡に帰しますよ、艦長!?」

『………本音で話せナタル』

 

 既知であるこの人物は、今言った最もらしい理由でこのナタルという女が動いていないことぐらいはすでに理解している。

 そしてナタルもそんな艦長の腹の内を知り尽くしているのか、先ほどの厳しい表情とは一変して、笑顔を作ると通信機の向こうの相手にこう話しかけるのであった。

 

「命を常に預けてきた相棒を見殺しにするような真似、するとお思いですか?」

『やはりそれか!? それは機械なんだぞナタル!?』

 

 そう。軍人にとってISなぞただの兵器に過ぎない。それに暴走した兵器ほど性質の悪いものは存在しない。速やかに撃墜して安全を図ろうとした艦長の判断をナタルは何一つ責める気はない。

 

「貴方の判断は正解だと思います艦長。ですが私は軍人であるより前からIS操縦者でした………申し訳ありません」

『待て・』

 

 それだけ言い残してナタルは通信機の電源を落とすと、前方を高速で飛翔するゴスペルをレーダーで捉え、予想進路を割り出す。

 

「このルートをこのまま飛翔するなら………ゴスペルの予想到達ポイントは」

 

 手元のモニターが割り出した予想進路に、くっきりと浮かんでいる日本の姿を捉える。

 まさか自分が向かう予定だった場所にこんな形でいくことになるなんて………アクシデント中のアクデントの中で漏れた苦笑を隠すことなく、ナタルはこう叫んだ。

 

「ゴスペル………貴方のおかげで今日限りで軍人はクビなんだから………絶対に私に助けられなさい、いいわね!?」

 

 

 

 

 ―――ダメ………止めて! 皆を殺さないで………お願い、『兄さん』!!―――

 

 

 

 

 




息を吐くようにサラッと重大なことを言う白騎士姉さんは、たぶん天然組。そして豆腐メンタル疑惑

ツッコミ役は暮桜とブレイズ

ブルーティアーズ、シュヴァルェア、甲龍はどこかで見たことのある人だよね。私もあのオッパイ漫画好きなんです

武士娘の紅椿はある意味一番操縦者似

末っ子ヴィエルジェは皆に甘やかされてます


さてさて、こうなるとゴスペルはどんな感じになるのやら

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