IS インフィニット・ストラトス 〜太陽の翼〜   作:フゥ太

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リアルが忙しすぎて二ヶ月ぶりの更新になってしまい、大変申し訳ない!

あと最近色々あってまた次が遅れるかもしれませんが、なんとかかんとかがんばって生きたいと思います!

ではお楽しみください!


研究所にいこう

 

 

 

 

 

 曇り空によって日差しが隠れていた陽太と楯無の決闘の翌日。

 先日は打って変わった晴天に恵まれた休日の午後、対オーガコア部隊の一行は奈良橋と真耶がそれぞれ運転する車に乗せられて、ある場所へと連れて行かれていた。

 

「…………」

「らんらんらんっ♪」

 

 奈良橋の車の助手席に載せられている女性が鼻歌を歌いながら膝を叩いてリズムを刻む中、後部座席に乗っている陽太は一言も話すことなく、ボコボコになった顔で窓から見える空を眺めていた。

 

 事の顛末はこうである。

 

 

 

 ―――互いに大声を張り上げて珍妙な構えを取る両者がしばし睨み合った後に―――

 

 

「きぃぃぃさぁぁぁぁぁまぁぁぁぁぁぁらぁぁぁっ!!」

 

 顔中から汗を垂れ流し物凄い剣幕でこちらに向かって走ってくる奈良橋を見た二人は同時に叫ぶ。

 

「「変質者だ、とっつぁん(奈良ちゃん)!! 捕まえろ(て)っ!!」」

 

 互いが自分達を棚の上どころか大気圏外まで放り投げた発言をしたことで、二人は『なんでこいつはとっつぁん(奈良ちゃん)のこと知ってるの?』という疑問が過ぎりお互いを見合うが、そんなこと二人の首元に両腕を目一杯広げた奈良橋のラリアットが直撃し、昏倒としている隙を突き、二人に同時にヘッドロックをかますのだった。

 

「きぃ、さぁ、まぁ、らぁはっ!!」

「「ギブギブギブギブギブギブギブギブギブッ!!?」」

 

 二人して奈良橋の腕を高速でタップして降参の意思を示すが、怒り心頭の彼には通じない。余計に力を込めて説教前のお仕置きの苛烈さは増していく。

 

「やかましい!!」

「「臭いッ!  臭うっ!? 凄く臭うッ!!? 息できないっ!!!」」

「お前達のおかげで風呂に入る暇すらなくダッシュしてきたおかげだ!!」

 

 中年男の脇の下から発生する超兵器の威力によって、二人は酸欠状態で痙攣しようやく大人しくなる。口から泡を吹いて失神する二人を地面に放り投げ、奈良橋は急いで連絡を入れ、二人の回収作業に当たったのだった。

 その後、案の定いの一番に顔を最高潮に真っ赤にして走ってきたシャルのシャイニングウィザードが、意識を取り戻して呆然となっていた陽太の人中に直撃し、痛みで悶えている所に更なる追撃(踏み付け)を加えていた中、もう一人の変質者が意識を取り戻し、泣きながら奈良橋に自分への仕打ちを訴える。

 

「ヒドイッ! あまりにヒドイぞ奈良ちゃんッ!! それが恩義ある元上司にむかってすること!?」

「恩を感じさせたいならせめて学園に無断で忍び込んでくる前にしてください!! 研究所の人間が慌てて連絡してこなかったら、今頃貴女は警察に突き出されるところだったんですよ!!」

 

 最もな言い返しをされて、元上司を名乗る水着の女性は拗ねた様な表情となって彼にブーイングを浴びせ、自分に対しての説教を非難する。

 

「ブーブー!! 奈良ちゃんはいつだって堅すぎるぞ~~。そんなんだと再婚はまだできてないな~?」

「今は関係ない上に大きなお世話です、篝火(かがりび)所長ッ!!」

 

 スクール水着の胸の部分にひらがなで『かがりび』と書かれた篝火ヒカルノという名の女性は、尚も不服そうにしながらも、シャルの踏みつけに対して猛然と抗議する陽太の姿を楽しそうに眺めながら、奈良橋にまるで面白い玩具を見つけた子供の表情となって彼に話しかけた。

 

「そうかそうか………あれが噂の天才君ね。いや~~、やっぱり『誰かさん達』の姿によく似てるね」

「………所長」

「奈良ちゃんも大変な生徒さんを持ったものだ。気を付けて見守ってあげないと、彼、『こっち』に『戻って』これなくなるよ?」

「!?」

「私の『同級生』も三人ほど………いや、一人はギリギリ留まってるけど、二人ほどは『向こう』に自分から行っちゃったしね」

 

 表情とは裏腹の冷たい温度を宿した瞳が訴えかけてくるものの正体が掴めずに戸惑う奈良橋の肩を叩きながら、ヒカルノは『さあ、飲もう飲もう!』と勝手に宴会を開くことを宣言したのだ。

 

 

 そして現在………。

 

「さあ、着いたよ対オーガコア部隊の皆さん!!」

 

 ここ、倉持技研第二研究所に真耶と奈良橋に連れて来られたのだった。

 駐車場に車を停め、約40分ほどのドライブから開放された陽太が大きく背伸びしていたところ、昨日から色々あったために機嫌が悪いシャルと目が合う。

 

「………」

「………」

 

 ―――プイッ!―――

 

 明らかに目が合った瞬間に機嫌を悪くしたという表情で視線を外したシャルに対して、陽太も頬っぺたを引き攣らせ、彼女の態度に腹を立たせると大きな声で叫びながら歩き出したのだ。

 

「さあっ! 早く行こうぜ!! じゃないと誰かさんがまた勝手に機嫌悪くしそうだしなっ!?」

「!?」

 

 誰かさんが誰を指しているのか隠しもしない陽太の言葉に、シャルが案の上激しい怒りを見せ、彼に詰め寄ってくる。

 

「勝手に機嫌を悪くした!? ちょっとヨウタ? それはどういう意味なのかな?」

「さあぁ? ワタクシはシャルロットさんのことなんて一言も言っておりませんが? 勝手に勘違いされたのではないでしょうか? あ、シャルロットさんは人の言うことを聞かずに勝手に怒り出して暴力を振るう癖があることにご自覚がお有りでしたのね?」

「!?」

 

 明らかに最近のシャルの態度を批難している陽太の言葉に、シャルは一旦大きく深呼吸をすると爽やかな笑顔になって、こう切り返した。

 

「そうだね。早く行きましょう火鳥隊長。他の皆を待たせるのはいけないですからね………あ、でも火鳥隊長は別に困りませんか。なんせ『自称』天才ですし、きぃっっっとそうやって適当に回りに文句を言って、迷惑かけて、自分で後始末もしないでも大丈夫だなんて勘違いされてますから!!」

「!?」

 

 こっちもオブラードに隠さずに言い返したものだから、ただでさえ沸点が低い陽太が簡単に怒りメーターを振り切って彼女に猛然と怒鳴り散らした。

 

「どういう意味だっ!?」

「さあぁっ!?」

「そうやって可愛くない態度しやがって………あの『爆乳(おんな)』より可愛くないぞ!!」

「!!・・・それどういう意味よ!?」

「さあね?」

「自分を負かした相手にまさか一目惚れでもされちゃったかな!?」

「!!・・・言って良い事と悪いことがあるだろが、このバカシャルが!!」

「誰がバカだっ!? このバカヨウタ!?」

「バカって言ったほうがバカなんだよ! バァ~~~カッ!!」

「明らかに自分のほうが言ってる回数多いでしょう!? バカッ!!」

 

 もう完全に子供のケンカである。これには他の隊員達が同時に顔をしかめ、延々と続きそうなこの口ケンカを止めるためにようやく仲裁に入るのだった。

 

「あーあー、ちょっとそこのお二人さん。いい加減にしましょうね」

「あ、こら、邪魔スンナっ!」

「あーハイハイ」

 

 陽太の腕を無理やり引っ張ってシャルから遠ざける鈴と、彼女の反対側からラウラが今度はシャルの腕を取る。

 

「!?」

「き、気持ちはわかるがシャル………今は一応任務の時間だから勘弁してほしい」

「………わかってるよ!」

 

 鋭い眼光で見られて一瞬だけ押し黙ってしまうラウラだったが、何とか副隊長としての役目を思い出してシャルを引き離すことに成功し、抵抗せずに歩いてくれるシャルに内心で感謝する。その後ろで鈴と一緒に陽太を宥める一夏、幼馴染二人の様子を羨ましそうにハンカチを咥えて悔しがるセシリア、そして唯一落ち着いた様子で箒がため息を付く。

 

「……………」

「……………」

 

 ―――ハンッ!!―――

 

 お互いがそっぽを向き合い、幼子のように頬を膨らませあうのを見た奈良橋は、病気の身体でありながらこんな問題児たちを一手に引き受けながらも弱音一つ漏らさずに仕事を行っていた千冬を心の中で褒め称え、やっぱり彼女の病気悪化の一旦はコイツ等にあったのでは?という新たなる疑問を思い浮かべたのだった。

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

『倉持技研』

 日本政府の直轄する法人機関であり、かつては『ある』第三世代ISを開発していたのだが、目標に掲げたコンセプトの実現があまりに難しく、結局そのISを手放した経緯がある。だがそのISは非公式の取引で法外な値段でコアごと引き取られ、倉持技研は開発失敗の責任追及をされることもなく、現在もそれ以前に開発された第二世代IS『打鉄』のメンテナンスや武装開発やOSのアップデート、また新規の第三世代機開発のために運営されていたのだった。

 だがこの時、日本政府は一つの誤解をしていた。

 非公式の取引でISをコアごと引き取った人物がIS開発の生みの親で、そのISが想わぬ形で日本国内に持ち込まれてしまったことを彼らが後から気が付いたとき、そのISは自分たちが国内で唯一手が届かないIS学園にあったことに。

 

「さあ、対オーガコア部隊の諸君!! これが我が研究所のコネを色々使って集めれたこのヒカルノさんの『私物』だっ!!」

 

 ―――静止する時間―――

 

 第二研究所の一画の建物に収められている、ISの武装の数々を『私物』として集めていたヒカルノのぶっちゃけには、流石の陽太もツッコミを入れることなく固まってしまう。武装一つで億単位がかかるものも珍しくないISの武装を、しかも試作品ということはほとんどが流通していない一品物のはず。それを自腹で全て購入できるはずもない。

 恐る恐る一夏が彼女に聞いてみる。

 

「冗談ですよね?」

「ハハハハッ………お姉さんは君のそういう所が好きだぞー!」

「(はぐらかしてきた!?)」

 

 横領か? 研究所のお金を私的に流用して横領したのか? 聞きたくない大人の影の事情が見え隠れし、なんだか自分がとんでもない犯罪の片棒を担いでいるかのような感覚を覚える一夏だったが、そんな一夏のある部分をヒカルノは見つめて、懐かしそうに声をかける。

 

「あんたもお帰り『白式」」

「えっ?」

 

なぜ自分のISに『お帰り』などと言ったのか? 不思議そうに見つめる視線にヒカルノは笑いながら答えた。

 

「あら? 織斑君は知らなかった? 白式は元々この倉持技研が開発していたISなのよ」

「!?」

「でも途中で色々難航しちゃってね………どうしようか、あれよこれよとしているうちに、急にISをコアごと買い取りたいって人物がいるって政府から言われてね。金食い虫扱いされてた白式を売り払おうって動きを私も止めれなくてね」

「そんなこと……!!」

 

 自分の相棒が金食い虫扱いされていたということに強い不快感を覚える一夏を見たヒカルノは、我が子のように思っていたISを託された者の真摯さに感謝の念を覚える。

 

「白式を買い取ったのは篠ノ之さんの使いの者だよ」

「!?」

「きっと彼女はこのISのコアがファーストISの『白騎士』だったことを知ってたんだね。しかも織斑さんの所在不明にされてたIS『暮桜』のコアまで後から移植して………気をつけなよ少年。私の超人同級生二人の願いがこのISには込められてるんだらね」

「ど、同級生!?」

 

 初めて聞くその事実に目を白黒とする一夏だったが、そんな様子を面白そうに見つめるヒカルノが更にもう一つの事実も物のついでという態度で告げてくる。

 

「そしてもう一人………言わなくても誰かわかるわよね?」

「………あの女か」

 

 側で聞き耳を立てていた陽太の搾り出したかのような声によって、一夏の脳裏に『暴龍帝(彼女)』の姿がよぎり、奥歯を強く噛み締めるが、ヒカルノは肩を三度叩くと苦笑しながらも一夏に無言で『力み過ぎは良くない』と注意してくれたのだった。

 

「負けて悔しいのもわかるんだけど、だからこそ色んな方法で強くなる事模索しなきゃね」

「………ハイ」

「へぇ~………」

 

 悔しさを忘れはなしないが、しかし先走ったりもしない。適度な緊張とリラックスを無意識に行った一夏の姿勢に少し自分の方が彼を見くびっていたのかもしれないと態度を改めたヒカルノは、一夏の肩に手を置きながら改めて今回の研究所訪問の目的を高らかに宣言する。

 

「さあIS学園の精鋭の皆ッ!! 今日は出血大サービスだ、好きな武器持って帰ってくんなっ!!」

 

 ―――倉持技研の対オーガコア部隊への全面バックアップ―――

 

 千冬が入院してから間もない日、学園長へと打診されたその提案は、正式な整備施設を持たない対オーガコア部隊にはありがたいもので、本来頼るべき国際IS委員会と亡国機業との裏の関係が懸念される中、本格的な整備施設を陽太達は手に入れたことになったのだ。

 法人団体とはいえ個人が筆頭株主を勤めている倉持は、事前の徹底した調査によって亡国との繋がりはないと判断され、また元倉持職員である奈良橋による助言もあり、高度な整備技術を要求される対オーガコア用ISのオーバーホール及び中破以上の修理の際に施設を全面的に使用させてもらえる意向となり、今回はその第一歩として最近問題視されている『ISの性能向上プラン』の一環として、第二研究所所長のヒカルノが管理している武装を無料で提供しようというなんとも太っ腹な提案をなされ、今日は部隊全員でこの場所に集まった次第であった。

 

 敷地の中に展示されている武装の数々を興味深そうに眺める隊員達は、基本的に如何なる武装を使用するのかその隊員の意向が第一に優先されることを聞いており、各自真剣な表情で、自分に今何が足りなくて何が必要なのかを必死に考えながら武装のチョイスを行っていた。

 

「…………」

 

 イギリス代表候補生で部隊における狙撃とビットによる支援攻撃を主にしているセシリアは、初めて見る試作型の武装を見つめながら、せわしなく自分のISのデータと照らし合わせ、ある武装をその瞳に止める。

 

「これは………」

 

 ―――通常のIS用ハンドガンよりも一回り半ほど大きな試作型レーザーハンドガン―――

 

「ああ、そいつかい? 御目が高いお客さん!!」

「篝火………ヒカルノ…所長」

 

 背後から声をかけてきたヒカルノの姿に一瞬声が詰まる。

 赤い半纏を着て『大特価セール!!』という旗を背中に指している姿に、セシリアはちょっとだけドン引きしかけるが邪険にするわけにもいかず、引き攣った笑顔を浮かべながら落ち着いて対処することにした。

 

「こ、このハンドガンなんですが………」

「元はセシリアちゃんの本国の量産型IS『メイルシュトローム』が装備するように作られてた物さ。威力と連射性能のわりにサイズも抑えられてて、しかも銃身の下に近接時の打撃用のアックスを付けたことで敵とのインファイトにも対応できるってものさ」

「我が国のメイルシュトロームに?」

「た・だ・し………競技用のISじゃ燃費バカ食いな上に、精度は並みの武装と変わらないからこれ使うぐらいなら現行のものでも十分だって、結局採用はされなかったの………使い手次第で十分に威力発揮できると思うんだけどな私は」

 

 ヒカルノの説明に非常に興味が注がれたのか、実際に触れながら自分のISのスペックデータと照らし合わせ十分に自分のカスタムISならば運用に支障はないと判断して、ヒカルノに申し出る。

 

「すみません、少しこの銃、お借りしてもよろしいでしょうか?」

「あいあ~い。表の出入り口出て右にいったらIS用の武装試験場あるから、好きに使ってね。建物の人間には部隊の皆が来たら協力するように言ってあるから」

 

言うや否やセシリアが小走りで出て行くのを手を振って見送ったヒカルノは、次に部分展開して険しい表情で近接用の大型ハンマーを持ち上げている鈴に興味を示す。

 

「あらら? スペックデータじゃ甲龍の改良型は可変機だから一撃離脱戦がしやすい武装が好ましいんじゃなかったかしら?」

「!!」

 

 キッ!と険しい目で睨んでくる鈴だったが、ヒカルノは小首を傾げておどけて受け流す。このあたりは流石に年長ゆえの余裕であろうか、彼女の失礼な態度を特に気にした様子はない。そんなヒカルノの様子に一瞬だけ怒りを覚えた鈴だったが、喉元まで競りあがってきた気持ちを深呼吸して再び腹の内に納めると、落ち着いた表情でハンマーを元あった場所に戻しながら彼女に答えた。

 

「今一番部隊で攻撃力がないのが私よ。それにスピードだって通じない」

 

 暴龍帝が駆るヴォルテウス・ドラグーンには甲龍・風神が持つ衝撃砲も剣戟もまったく通用しなかった。そしてシュミレーションの上とはいえ審判の熾天使(カリュプス・ミカエル)の前には自慢の機動力も意味を成さなかった。

 どんなに低い確率でもワンチャンスある他の隊員たちと違い、勝てる確率が限りなく0の可能性しかないと鈴は感じ取ってしまい、誰よりも今は戦闘力の増強に焦っていたのだ。

 

「なるほどなるほどね」

 

 彼女の甲龍・風神は、操縦者のイメージ・インターフェイスを用いた特殊兵器の搭載を目標とした第三世代の中でも一際実験的な機構である『可変フレーム』を搭載していて、本来はそちらの有用性を確立するために作られたISなのだ。

 可変フレームによって他のISでは機能特化専用パッケージ(オートクチュール)を着けねば出せない速力を瞬時に変形することで確保できるISなだけに、火力の保持は最低限に押し進められたのかもしれない。このあたりは元祖設計者の篠ノ之束や実際に開発した中国の技術局が悪いというよりも、想定されている目標をクリアしてはいるが実際の戦場において有用性が発揮されるとは限らないという現状があり、この辺りのギャップの差に鈴が苦しんでいるのをヒカルノは感じ取る。

 

「だったらさ、こういうのはどうかな鳳君?」

「?」

 

 彼女が指差した先、そこにあったもの。

 

 ―――壁に展示されている砲門らしき部分と小型のスラスター部分が見えるユニット―――

 

「あれなんですか? 鈍重なもの着けて遅くなるのは勘弁願いたいんですが?」

「さっきまでハンマーみたいなもの振り回してたくせに」

「ぐっ」

 

 胡散臭そうな目で見ていたヒカルノの鋭いツッコミに言葉が詰まる鈴を尻目に、彼女は武装の説明を続けていく。

 

「アメリカのとあるISメーカーが自国の第三世代『ファング・クエイク』のパッケージとして開発を進めていたものの1つでね」

「あ、甲龍と同コンセプトで作られてたってヤツだよね?」

「そうそう。燃費と安定性が重視されているIS用に作られた『アタック・ブースター』さ。高機動用ロケットブースターとビームキャノンを内蔵してる。あいつはその時に作られた試作型の一機さ」

 

 専用で開発されたジェネレーター出力が想定よりも高くなってしまい、ビームの威力もブースターの推力も予想よりも高くなったのだが、肝心な安定性に支障をきたす結果となり、テストで負傷者を出して実際に採用された時には出力制限をかけたものとなった曰くがある代物なのだが、鈴はむしろ面白そうな表情となってヒカルノのほうに振り返る。

 

「つまり火力もスピードも上がるってことよね!」

「その上サイズもコンパクトに収められてるから機体のバランスも崩さない」

「よしきた! 私にあれをちょうだ………い」

「うんうん、じゃあ今から君のISにつけるように調整………ってどうした?」

 

 先ほどからチラチラと鈴の視線がヒカルノのある部分に注がれていることに気がついた彼女は、その視線の先を追ってみる。

 

 ―――動くたびに揺れる自分の巨乳―――

 

「ああ、なるほど。だから不機嫌だったのね」

「!!」

「大丈夫大丈夫」

「あ、ああ………私は……別に」

 

 慌ててそんなこと気にしていないと訂正しようとしたが、ヒカルノはいい笑顔で親指を立て、将来性のある若い子にこう言って聞かせるのだった………。

 

「君の彼氏になる子は、きっと手に収まるサイズの君のコンパクトな胸だって愛してくれるさ!」

「ケンカ売ってるの、このバカ女っ!!」

 

 やっぱりコイツは好きになれない。今日一日の付き合いだったがそれだけは固く心に誓う鈴音であった。

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 研究所上空をアタックブースターを背中部分のハードポイントに装備した甲龍・風神がその機動力を確かめるように慣熟飛行をする中、失礼な発言をして頭にタンコブ1つ着けられたヒカルノはいたって上機嫌でその様子を眺めていた。どうやら年下に殴られたことにもあまり腹を立てない器の持ち主のようなのだが、デリカシーに欠けていることを直そうとも思わないタイプらしい。

 通常のスラスターの加速にあわせてロケットブースターを点火し、非常に良好な加速を得られることに満足したように次々と複雑な軌道を描きながら空を飛び交う中、双眼鏡で上空の様子を覗き込んでいたヒカルノに奈良橋が声をかけてくる。

 

「篝火所長!」

「………どうした奈良ちゃん?」

 

 双眼鏡から視線を外さすに声だけで返事をするヒカルノだったが、非常に困ったかのような声を出す奈良橋の様子のおかしさがきになって振り返ってみる。

 

「あの………その……所長からも説明してやってほしいんです」

「ん?」

 

 そして振り返った先に作業着を着た奈良橋と、そんな彼の隣に立ちながら敬礼してくるラウラの姿があった。

 

「あら………副隊長さん、どうしたの?」

「篝火所長殿。私のISのパワーアッププランを見てほしいのです」

 

 ものすごくやる気満々そうなラウラが目を輝かせて見せてきたある一枚のレポート用紙。そこに書かれていた子供のラクガ………自分のISのバージョンアップした図が描かれていた。

 

「ほうほう」

「皆には連携をと言いましたが、私自身も自分の研創を忘れるわけにはいきません。そして私のISの欠点もわかっています」

「これはまた凄いことになっちゃってるけどさ………奈良ちゃんはやっぱりこれだと機体バランスが取れないというわけね?」

 

 特に驚くことなくラウラの話を聞くヒカルノの様子を見て、奈良橋はいやな予感を感じながらも言葉をつむぐ。

 

「私は現場に出ていない人間ですので、出来うるならばコイツの意見を優先してやりたいのですが、いくらなんでもこれは『武装過多』もいい所です。拡張領域(バススロット)も無限にあるわけではありません。それにこんなに積んでしまっては機体の反応性(レスポンス)にも問題が出るだろ?」

「そのための『これ』です!」

 

 力強く絵のある部分を指差すラウラであったが、それでも奈良橋の表情の険しさを消すことはできない。彼も長年ISに関わってきている人間だ。いくら操縦者が優れた技術を用いても無理なものは無理であるということは整備士の彼にも理解できている。

 両者一歩も引かずに睨み合うラウラと奈良橋であったが、間に立っていたヒカルノは手に一本のサインペンを持つと、いきなりラウラが書いた図に罰印をつけた。

 

「何故なのです!!」

「致し方あるまいボーデヴィッヒ」

 

 涙目になるラウラと安心した表情で彼女を慰めようとする奈良橋の前で、ヒカルノは紙を裏返すと猛烈な速度で何かを描き出した。

 

「まずは『コイツ』を持ってきて、『コイツ』をこうして、『コレ』をこう変形させて………」

「オオッ!!」

「なっ!?」

 

 段々と図が出来上がる度に瞳が輝くラウラと、今度は逆に奈良橋が驚愕に固まりだす。

 

「コレをこうしちゃえば………どうだ!?」

「素晴らしいッ!! 私の案のまま………いえ、それ以上の出来になります!!」

「なっ………ちょっ…」

 

 完成した図を見せてドヤッと笑うヒカルノとそんな彼女を尊敬の眼差しで見つめるラウラと尻目に、プルプルと震える奈良橋は、ヒカルノの悪い癖が爆発していることに気がつく。

 

「所長ッ!?」

「なによ奈良ちゃん、そんな顔して?」

「こんなもの認められるわけないでしょ!? 第一、使用するための『機体』、どこから引っ張ってくるんですか!?」

「あ、私、この間小型だけど高出力のジェネレーター買ったからさ。それ使って作ろうかと思うの」

「じゃあ運用のための『OS』は!?」

「奈良ちゃん、私の専門何か忘れちゃったの?」

「予算はどこから!?」

「対オーガコア部隊のIS開発及び整備に関しては特別予算枠よ。国とIS委員会から援助出たってこの間言ったでしょ? おかげで何の遠慮もいらないわ!」

「お一人で作ったら流石に完成まで時間が…」

「私のチーム、今暇よ。例の『アレ』に人手が中途半端に回されてるから………ISを一から作るなら不足しちゃうけど、『コレ』なら別に私とあと五人ぐらいいれば一週間ぐらいで運用実験まで乗り出せちゃうかな?」

「ホントですか!?」

「うん。ちょうどいい所にアメリカから仕入れたやつがあってさ。試作ジェネレーター乗っけて、あとは副隊長さんのIS用にちょちょいと改造しちゃえば………フッフッフッ、久しぶりに血が滾りよるわ!!」

 

 これから不眠不休でラウラの要望に応えるためにアメリカから仕入れてきたブツを魔改造するのだろう。開発の専門はソフトウェアのくせに、ハード部門にかける情熱は本業以上である。ではなぜ機体開発に行かなかったのか?

 その理由がこの発言に集約されていた。

 

「ある正義の味方を目指す少年は言った。『カリカリにカスタムされた偽物が本物に敵わないなんて道理はない!』とな」

「・・・その魔改造癖が祟って開発費を雪達磨方式で膨大にさえしなかったら、私も貴女を素直に尊敬できるんですがね所長?」

 

 『この女に機体開発なんてさせたら予算が吹っ飛んで借金まみれになるわ!』と首脳陣からのクレームによってソフトウェア部門の所長をさせられているこの女傑の悪い癖が今も直っていないことに、奈良橋の頭痛が更にヒドイ物になろうとしたとき、所在無くトボトボと歩く人影を見つけ、思わず声をかける。

 

「デュノア!?」

「!!」

 

 行く当てもなさそうに歩いていたシャルがびっくりしたように全身をビクつかせる中、次の獲物を見定めたヒカルノが全力疾走してシャルに迫る。

 

「カーノージョーーーッ!! 君はどんな改造させてくれるのかなーーーー!!」

「アンタはただ改造したいだけなんですか!?」

 

 なんやかんや言いながら趣味を第一優先するのかと嘆く奈良橋を尻目に、シャルに駆け寄ったヒカルノだったが、その時シャルが見ていた光景を目撃する。

 

 ―――ガラス越しに映る新兵装の訓練をするセシリアと、彼女にアドバイスを送る陽太の姿―――

 

 銃の取り扱いに関してはセシリアにも十分な知識があるのだが、ことハンドガンなどの高速の抜き撃ちや速撃ちに関しては陽太の方が断然スキルが高いために、彼にアドバイスを貰ったのだろう。隊員に頼られれば必要なことである以上隊長として陽太もそれに応えるのは当然である。

 そしてそんなこと判り切っているのがシャルなのだが、陽太がそうやって自分を見ずにほかの女性の方を向いてしまう度、胸のうちに鋭い痛みが走り、それ以外何も考えられなくなってしまうのだった。

 

「ふ~~~ん………ほうほう」

 

 シャルの表情と彼女の視線の先の光景を交互に見て状況を察したヒカルノが、彼女の隣に立つと世間話のような感じでいきなり核心に踏み込む。

 

「彼氏取られて面白くないか~」

「ブホッ!」

 

 予想もしていなかった言葉に動揺して噴出してしまったシャルをヒカルノが不思議そうに見つめ、彼女は問いかけた。

 

「あれ? ひょっとして彼氏じゃないの?」

「ち、ちがいますっ!」

「じゃあ旦那様?」

「もっと違いますっ!!」

「ご主人様とメイド!?」

「いい加減にしてくださいっ!?」

 

 何を聞いてるんだこの人は、と背後の奈良橋は呆れ返っていたが、彼女は尚も止まらずにギラギラと光る瞳で質問をシャルにぶつけまくってくる。

 

「じゃあさ、じゃあさ、あの天才君と君はどういう関係なのかな? あとISの武装何にするか決めた?」

「そのなにも………というか私は武装はいりません」

「なしてそんなお姉さんが悲しくなるようなこというとよ!?」

「(なんか急に訛っまった言い方に)い、家の方から新しいパーツが届く予定で………その…やっぱり私のヴィエルジェの武装のことは会社(いえ)の人間がよくわかってるはずなので」

「あちゃーー………またしても私に立ち塞がるかデュノア社ぁっ!! 打鉄のIS学園の保有台数のときも散々ラファールとの数で揉めたのを逆恨みしてーーー!!」

「いえ、たぶんそこはまったく関係のない所だと思うんですが」

 

 頭を抱えて一通り叫んだ後、ヒカルノは心底詰まらなさそうにほっぺたを膨らませた。

 

「ブーブー」

「ハハハッ………」

「じゃあさじゃあさ、やっぱり二人はどういう関係なの?」

「まだ聞くんですか篝火さん!!」

「あたりまえじゃない………私は気になるよ~~~。織斑千冬以来の天才操縦者とその恋人なんて………良い男を作るのは良い女だって相場は決まってるしね?」

「!?」

 

 良い男を作るのは良い女。その言葉を聴いた瞬間に再び表情を曇らせたシャルの様子にヒカルノは先程まで陽気でおちゃらけた雰囲気を引っ込めて彼女の心の内側に再び踏み込む。

 

「自信がない? 彼の隣に立つ自信が?」

「!!………いえ、私は、別に………ヨウタの隣に立ちたいとかいうのは」

「でも正直あのままじゃ危険だよ」

「えっ?」

「………会ったんでしょ? 『今』はアレキサンドラ・リキュールって名乗ってる人に」

 

 自分とヨウタの間に割って入ってきた人の名前を出されたシャルであったが、思わず覗き込んだその表情は先程とはまるで別人かと思わせるほどに硬く、そして冷ややかな物であった。

 

「彼女とも知り合いさ。もっとも私はただのクラスメートだから特別仲が良かったわけじゃない。まあ言葉をちょっと言葉を交わしたことがある程度の間柄さ」

「そうなんですか?」

「だからこそわかる。今の彼は危険だよ………人並み外れた才能以上に、自分の目的を遂げれるためなら平然と『踏み越えちゃう』ところとかね」

「…………」

「それは意志の強さであり、人として本当は尊ぶべきものなんだろうけどさ………でもそれってホントに凄いってことなのかな?」

 

 冷ややかで硬い表情の隙間から漏れ出した言葉と熱が篭ったセリフに、シャルはなんとか自分の言葉を紡いでみる。

 

「………意思が…強いことは………凄いことだと思います」

「フフッ………私もそう思うよ。そう思うんだけどさ………だけどさ………見てて苦しくなる」

 

 ―――誰よりも先に走っていってしまったがために、周りに誰もおらずに取り残された子供のような天才の姿―――

 

「皆のためにって、走っていったのに………結局誰もついてきてくれずに、一人ぼっちにされてしまっているその姿………苦しいね、見てて」

「……………」

「一人ぼっちにしてしまった私達にも、何か責任はあるのかな?」

 

 どこか思う所があるかのようなヒカルノの口ぶりは、シャルの心に大きな波紋を広げていく。

 離れたくないフランスからやってきて一度は縮んだと思った陽太との距離が再び開きだしていることは彼女も感じ取っているだけに、『いつか理解を失くす』と暴龍帝の言葉が何度も頭の中をリフレインして止まらない。

 そんな不安を感じ取っているシャルの肩に手をかけたヒカルノは、再び明るい色をした笑顔を浮かべ、彼女の不安を取り除こうとした。

 

「大丈夫大丈夫、君がそうやって真剣に悩んでくれてることはあの子もわかってるさ!」

「………どうだかわかりません」

「おやおや? じゃあ止めちゃう? 諦めて天才君をこのヒカルノお姉さんに譲ってくれるかな?」

「!!」

 

 冗談のつもりで言った言葉に仰天して振り返ったシャルの表情に気をよくしたのか、ヒカルノがなおも小悪魔的な表情で言葉を続ける。

 

「手に負えないなら、お姉さんが最後まで面倒見てあげるわよ?」

「結・構・ですっ!!」

 

 そんなことは断じて許さんとキッと睨んできたシャルを見て、陽太に負けないぐらいの負けん気と意志の強さが彼女にも宿っていると感じ、安堵する。だからこそ彼女は直感した。

 今、彼女が悩んでいることはきっと後の人生を豊かにするために乗り越えるための『壁』なのだと。

 

「(そうそう、振り向かないならぶん殴って振り向かせるぐらいの強気があれば、彼のほうから放っとかないから!!)」

 

 怒り心頭で『やっぱり自分がどうにかするしかない!!』とブツブツと呟きながら歩いていく少女の後姿に、ほのかな頼もしさをヒカルノは見たのだった。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 そして最後になってしまった元クラスメート二人の弟と妹の姿を探し彷徨う。なんとなくだがあの二人と同じ血を引いている考えると、ヒカルノは少しだけ感慨深い思いを浮かべる。

 

 こう見えてもヒカルノも小学生時代はちょっとした天才少女として世間を騒がせそれを鼻にかけていた時期もあったものなのだが、そんな彼女の天狗の鼻を見事にへし折ってくれたのがあの三人の同世代の少女だった。

 小さい時から頭脳明晰でスポーツも優秀だったためか、勉強して偉くなる事だけが全てだった。同世代のみんなが外で元気よく遊び回ってるのを横目に見ながら机の上で勉強に打ち込み、スポーツや武道にも精を出した。

 なのに勉強してテストで一番を取るたび、運動競技で表彰されるたび、周りの人間全てが努力を放棄した卑怯者のように見えていつも何かにイライラして腹が立っていた。

いつしか誰にも心を開かない、自分しか信じないエゴの塊になりかけていた時・・・。

 

 ―――中学の入試で篠ノ之束にトップの成績を取られたのは―――

 ―――中学の体力測定で織斑千冬に全ての数値で上回れたのは―――

 ―――そしてその事を逆恨みしてケンカをしようとしてアリア・ウィルに指二本で失神させられたのは―――

 

 ヒカルノは、三人に出会って、頭をかち割られた気分がした。

 

「(私はあの時、救われたんだ)」

 

 ―――自分よりも強い人間がいる。自分よりも努力した人間がいる―――

 

 ―――自分はひとりぼっちじゃなかったんだ―――

 

 なんだか無性に嬉しい様な、悔しい様な、恥ずかしい様な、むず痒くこそばゆい気持ちになったのを今でもはっきりと覚えている。

 きっと自分と同じように他の人よりも少しだけ『何か』が違って、でも自分よりもずっと頑張った三人だったのだろう。

 

 ―――ありがとう。私を救ってくれて―――

 

 きっとそんなこと言われてもあの三人は怪訝な表情なるのは目に見えてるから一生いえないかもしれないけど、いつかちゃんと面と向かって言ってみたい。そう考えてもう10年近くなり、今はここで篠ノ之束の作ったISに関する研究と開発を行う場所に自分はいる。とても数奇な運命だ。

 

「………とっ!?」

 

 懐かしい思い出に浸っていたヒカルノだったが、第二研究所内部をあらかた探し回り、最後に残ったISの調整や製造を行う作業所に差し掛かったとき、入り口に目当ての人物二人がいることに気がつき、こっそりと背後から近寄る。

 

「………なんであの人がここにいるんだよ?」

「………私も何も聞いていないぞ?」

 

 どうやら作業している人間が意外な知り合いだったらしく、一夏と箒も驚いていたのだ。

 そんな二人に釣られて中を後ろから覗き込んだヒカルノは、しばし考え込むと合点がいく。

 

 ―――作業着を着込んで薄い蒼色のカラーリングのISを調整する布仏姉妹―――

 

 年が若いが丁寧で柔軟な発想ができる若いIS整備士の二人のことかとヒカルノは納得すると、二人の口を後ろからすばやく塞ぎながら、彼女は説明してくれた。

 

「「!?」」

「はいはい、驚かない暴れない大きな音出さない。最終調整中だから中の二人が集中してるからね」

「「………」」

 

 ヒカルノの言葉をゆっくりと租借して納得した二人が、手を離されても何も言わずにゆっくりと彼女の方に振り返る。

 

「うちで作ってる最新鋭第三世代さ。正確に言うなら………貴方達のISのデータをフィードバックして作られた『第3.5世代』対オーガコア用ISだけどね」

「!?」

「それって………」

「ある娘から依頼があってね。設計プラン自体は前からあったんだけど技術的に難しい部分があってね。でも君達のISのデータのおかげでなんとか完成に漕ぎ着けたんだ。まあハードの組み立てはともかく、中のOSと武装の調整とかあの二人が頑張ってくれたんだけどね」

 

 その言葉を聴いた瞬間、あのISが誰が搭乗するものなのか箒は悟る。彼女の瞳が理解をしたということヒカルノに教えると、彼女もまた感慨深い瞳で説明を続けてくれる。

 

「研究所を間借りする間は迷惑かけられないからって、資材から資金から彼女の周りの人間が用意してね………凄いね、いや。ああやって彼女に頼まれなくたって周りの人間が真摯に行動してくれるって」

「…………姉さん」

「あんなの見せられて、まだ『凡人』なのか『天才』なのかって悩んじゃうのかな、彼女は?」

「それは!?」

 

 箒は誰が言われているのか理解し、なんとか弁明しようとしたが…。

 

「変わんないこともある。変わらずに待っててくれるんだから」

 

 ヒカルノのその言葉に何も言えなくなっしまう。彼女がただ単純に楯無の事を否定したがっているわけではない事が箒にもわかったからだ。

 二人のそんなやり取りを黙って見守っていた一夏だったが、突然腕の待機状態の白式からコールが聞こえてきた、あわてて通信に答えた。

 

「はい、一夏・」

『すぐに出撃だ一夏!!』

 

 隊長としての陽太の緊迫した大声が、一瞬で一夏を意識を戦士のものへと変化させ、また箒も彼の言葉を聴いて緊張感を一気に戦闘状態へと変化させる。

 だが出撃する場所がどこなのかと聞いた時、二人の思考が凍りつく。

 

「わかった! 場所は!?」

『鵜飼総合病院………千冬さんから緊急連絡が入ったらしいが、すぐにブチ切られて状況がつかめねえ!!』

 

 ―――!?―――

 

 自分達にとって大事な人間、姉と親友が今も重体で入院するその場所が再び標的にされたことに、二人は返事もままならずに我を忘れてその場から走り出したのだ。だがその音によって姉妹が自分達の存在に気がついたことを一夏と箒は気がつけずにいた。

 

「箒ちゃんに一夏君?………何かあったんですか?」

「所長さん!!」

 

 虚と本音が交互に聞いてくるが、そんな中でもヒカルノは笑顔を絶やさずに腕まくりをすると、彼女達が調整している機体(IS)に触れながら檄を飛ばしたのだった。

 

「きっとこの子(IS)が必要になる。さあ急ピッチで仕上げるよっ!!」

 

 

 

 

 

 





あとがきは今回はちゃんと書きます!w

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