IS インフィニット・ストラトス 〜太陽の翼〜   作:フゥ太

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さあ、亡国機業幹部の実力を見せ付ける今回、まずは先手はセイバーさんからです!



PS

あとがきは今回後編で全て一括して書くことにしました。前編の際の発言、撤回します


閉ざされる世界の輪(中編) サイド・セイバー

 

 

 

 

「やっと出てきましたな?」

 

 EU系の中佐と思われる士官が中央に表示されたディスプレイに示されたマーカーを見ながらそうポツリと呟く。

 

 砂漠地帯よりも数百キロ離れた軍事基地に集められた各国将校達による仮説本部において、上空に巨大な機影が現れ、その直後に亡国機業(ファントム・タスク)所属と思われるオーガコア搭載ISの出現という報が届けられる。

 色や階級を表すバッジが違う者達が一同に集められたこの連合軍本部において、この一報はようやく退屈な『演習ごっこ』から、本格的な『狩り』が始められると皆意気揚々と楽観的な笑みを浮かべていたのだ。

 

「ふん……しかも出現位置が陸上戦車部隊の正面とは…ずいぶんとこちらも舐められたものだ」

「大方ISがあれば単独でも撃破できると思っているのだろう………見ろ、それ以外の出現した戦力などGSが高々二十数機ではないか?」

「10年前ならいざ知らず、すでに『IS』をむこうが持っているということが判っている側が、それに対応した策を展開するとは考えていないようだな」

「しかもこちらにも虎の子のIS部隊がいるというのに………」

 

 各国の将校たちにしてみれ、亡国機業側が奇襲を仕掛けてくると考えていただけに、正面切って戦いを仕掛けてくるなど予想を外された形になり、敵側の指揮官の無能ぶりを隠すことなく笑い飛ばしていた。

 

「所詮、元来が妄執に囚われていた女が作ったテロ組織。便利な道具を持ったら神の使徒にでもなったつもりでいるのだろう?」

「平和という幻想に取り憑かれた亡霊の成れの果てだ」

「そうだ………もはや我々には導き手の英雄も、我々を影で脅かしてくるテロリストも必要でない」

 

 ここにいる将校達の多くは10年前の白騎士事件の真相を知っているだけに、英雄『アレキサンドラ・リキュール』がいない亡国機業になど何一つ怯えず、忌々しい記憶を今度こそ完全に抹消しようと一丸となっていたのだ。

 

「今度こそ消え果ろ亡霊。お前達など誰の記憶にも残らぬ偶像となってしまえ」

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 ―――剣と百合が彫刻された黄金の両肩のサイドアーマー―――

 

 ―――白いマスクに覆われた素肌からでた金色のポニーテールは太陽の光を反射して輝く―――

 

 ―――胴体と両足には重装兵の様なアーマーが備え付けられ―――

 

 ―――重い機体でありながらも軽快さを感じさせるように高出力なバックパックを背中に背負い―――

 

 ―――青と黄金のエンブレムを刻まれた鍔を持つランスは深い黒を持っていた―――

 

 

 白と黄金が強調されたカラーリングの装甲と手に黒光りするランスを持ち、砂漠の大地に仁王立ちする亡国陸戦隊総隊長のIS………遥かなる昔、ヨーロッパの果ての島において英国が誕生する遥か以前、優れた騎士達を従えた至高なる円卓の王が振るった聖なる剣の名を持つIS、白兵戦特化機『エクスカリバー』は、前方から土煙を上げ大地を埋め尽くす量で向かってくる戦車部隊に一騎で果敢に斬り込む。

 

「ハァァァァァァッ!!」

 

 背中のバーニアが点火すると同時に、凄まじい加速で一直線に斬り込んだISは戦車の主砲が己に向けられるよりも早く肉薄し、加速によって得られた速力を斬撃に転換し砂漠を滑りながら横一閃で振るう。

 

「!!」

 

 現行戦車の複合装甲を豆腐に包丁を入れるかのように用意に切断し、砲身とキャタピラ部を切り離したリリィは足を止めることをせず、ひたすら前へ跳躍して敵を斬り裂き続ける。

 元々戦車は地上においてでもISと比べられれば亀とライオンほどに運動性も機動力にも差がある。しかもISのサイズは戦車よりも遥かに小さく、固定物や足の遅い物体を狙い撃つように作られている戦車砲では捉えることは極めて困難。そして周囲は敵ではなくリリィを除けば全てが自軍で、味方撃ち(フレンドリーファイヤー)を恐れた砲撃手はおいそれと撃つ事すらもできない。

 

「撃つ気がないというなら、とっとと下がるほうが懸命だぞ!!」

 

 そう言い放ち、二台の戦車の間に飛び込むと素早く槍を振るい戦車のキャラピラを斬り裂く。

 下は砂地、キャタピラが斬り裂かれれば戦車は動くことができない。これならわざわざ内部の敵を殺す必要も機体を大破させる必要もない。無用な殺生などこの場面では不要なのだ。

  秒単位で戦車を行動不能にしていくリリィによって、戦車の搭乗員達は何もできないままに機体を捨てて脱出していく中、エクスカリバーの上方に黒い影が複数躍り出る。

 

「……………」

 

 彼女はその存在を確認することもなく槍を無造作に回転させ、来ることが分っていたかのように降り注ぐ弾薬の嵐から身を守り続けた。

 上空から降り注ぎ続ける機関砲の雨の中、静かに顔を上げたリリィは自分に向かって対地ミサイルとロケット弾を発射してくる戦闘ヘリとGSを捉える。どうやら戦車部隊では埒が明かないと彼らがリリィを仕留めようと火力を結集して弾幕を張ってきたようだ。

 

「ッ!!」

 

 上空の四方八方から放たれた対戦車用のロケットとミサイルが着弾し火の手をあげる中、炎を切り裂いて上空に躍り出たエクスカリバーは、切っ先を上空の敵に向けると黒槍の青と黄金のエンブレムを刻まれた鍔の部分から金色の粒子を放出させ、リリィは高々と叫んだ。

 

「秘剣・飛翔斬り(クラッシュ・ドーン)!!」

 

 叫ぶと同時に背中のスラスターを全開稼動させ、黒槍の刀身の部分の切れ目から溢れ出た金色の粒子がフィールドのようにエクスカリバーを包むと、ISそのものが矢そのものとなり、上空の敵をすれ違いざまに貫きながら破壊していく。

 

「ハァァァァァァァァァァァァッッ!!!」

 

 回避運動が間に合わずに成す術なく右翼とプロペラを捥ぎ取られる戦闘ヘリ、向かってくるエクスカリバーに恐れをなして手持ちのアサルトライフルを撃ち続けるがまるで通じず、慌てて近接用のナイフを取り出そうとした瞬間に胴体を貫かれるGS達………。

 重力から解き放たれた光の矢は、やがて地面に突き刺さるかのように着地すると、黒い刀身に纏わりついた粒子を振るい落とす。

 

 ―――同時に上空で花火のように爆発していくGSと戦闘ヘリ達―――

 

 まるで彼女の技を演出するためだけにいたかのように、次々と同胞が落ちていく姿に息を呑む連合軍兵士達であったが、逃げ腰になっている兵士達の間を『何を恐れるか!』と一喝するかのように三機のGS達が彼女に向かって突進してくる。

 

「ふむ」

 

 彼女自身も恐れを知らずに向かってくる敵というのは有り難いもので、恐怖に引きつっている相手を追い討ちするかのような真似はしたくはない。『逃げる者を敵にはしない』という彼女自身が課している信条に従い槍を構えるリリィであったが、その時、彼女の頭上を一瞬だけ黒い影が通過する。

 

「ぬ?」

『一人で突っ込み過ぎ!!』

 

 高機動用の装備に換装されている秋水のGSである。

 バックパックにミサイルポッドを内蔵させた大型の増加スラスター四基を搭載し、両手にアサルトライフルとショットガンを装備したGSが彼女の援護するために三機のGSに砲門を向ける。

 

「沈めッ!」

 

 リリィのような突出した技量も運も度胸もないと自負する秋水は敵に対してもっとも無難な回避不可能な距離からの包囲攻撃を選び、一基8発、計32発のミサイルの弾幕を放つ。三機のGSは突然現れた敵軍のGSに戸惑いを覚え反応が遅れたせいで迎撃が間に合わず、ミサイルを数発受け爆散する。幸先よく相手を撃墜した秋水であったが、対して連合軍の方はIS相手の時とは打って変わり、テロリスト如きが駆るGS一機が調子に乗るなとばかりに、GS達による反撃を開始した。

 

「チッ!!」

 

 目の前に映る大量のターゲットサイトと攻撃を知らせるアラート。数えるのも面倒な敵機のミサイルの弾幕。

 『度胸がない』と自重しながらも秋水は開始と同時にその中へ向かってスラスターを全力で噴かして機体を突撃させる。両手に握られたライフルとショットガンを機体の向かう進行方向へ向け、狙いを付けずにトリガーを引く。

 弾薬をケチらないフルバースト。自分の周囲を覆うミサイルのどれかを選ぶ必要は無く、満遍なく弾薬をばら撒くことで広い範囲をカバーするためだ。二挺の銃が薬莢を吐き出しながらミサイルに着弾、誘爆を繰り返しながら光と爆発音が砂漠の空を覆う。

 更にバラバラと落下するミサイルの破片を無視して砂の地面スレスレを猛スピードで滑るように飛行し、後を追ってきたミサイルが何発か地面に誤爆するが、それでも生き残った数十発が秋水へ目掛け殺到する。そこに更に敵戦車による秋水の進路を妨害する敵支援砲から発射される砲弾が秋水の周囲へ着弾し、砂煙あげる。 直接当たる可能性は低いが、常に周囲を囲うように落とされる砲弾が秋水の軌道を制限し、速度を一定以上引き出させないようプレッシャーをかけてゆく。巻きあがる砂で一時的な視界不良になりターゲットサイトが上手く機能しない。

 

「(ヤバイッ!!)」

 

 ミサイルに追いつかれるか、戦車砲に自分から当たりに行くか、周囲のGSや戦闘ヘリの重機関砲の蜂の巣にされるか、待った無しの絶望への選択肢が秋水に突きつけられ、彼の脳裏が死を感じ取った瞬間………。

 

 ―――鋼鉄の機兵と併走する黄金の騎士姫―――

 

『無鉄砲はどちらだ?』

 

 通信越しに聞こえてきた凛々しい声と共にいつの間にか低空を飛ぶ秋水のGSと併走していたエクスカリバーが、黒き槍を回転させながらその刀身から再び金色の粒子を撒き散らし始める。だがその姿は先ほどまでの全身を鎧で固めたフルアーマーなものとは違い、両腕、両脚、胴とバイザーに最低限の装甲がPICによって身体に張り付いているだけの軽装なものに変化していたのだ。そして先程よりも最も異なっている部分、それは彼女が『黒馬』に跨っているということだ。

 

「ケイロンズ・スィエラッ!!」

 

 高速で回転させた刀身から放たれた金色の粒子が剣風となり、それが次第に膨らむことで小型の竜巻となって秋水に迫っていた砲弾やミサイルを巻き込んで誘爆させ始めた。援軍のはずの自分があっさりと彼女に守られているという事実を段々と理解し歯軋りし始める秋水であったが、そんな彼の心境を理解しているのかいないのか、彼の操縦するGSの上に降り立った鋼鉄の黒馬に跨るエクスカリバーは、黒槍を振るう半径を徐々に大きくしながら金色の旋風をより強大なものにしていく。

 

「秋水、巻き込まれないようにしろ!?」

「誰に言うかっ!!」

 

 阿吽の呼吸とも言うべきやり取りで彼女の足場を防衛しつつ敵に気を配る秋水と、そんな彼を信頼してリリィは攻撃に全神経を集中することにした。勢いが増し、黄金の粒子によって周囲までもが輝きだす。

 

 ―――唸りを上げた金色の旋風が、やがてプラズマをはらんだ破壊の竜巻と化す―――

 

「ケイロンズ・ライト・インパルスッッ!!」

 

 振り上げられた黒槍が放つ金色の竜巻は、砂塵を巻き上げながら周囲にある物を飲み込み、戦場にいる誰もが見えるほどの巨大な渦となって天空に伸びていく。中東やアフリカなどで『ハブーブ』などという名で恐れられる砂嵐に似たこの竜巻は、ISのエネルギーによって引きこされた風速数百m以上という破壊的な超突風となり、空中を飛ぶGSやヘリは勿論のこと、空気力学的に竜巻でも飛びにくいと言われている地上にいる戦車達まではるか上空にまでたたき上げたのだ。

 

 そして、地球上の全ての物体は引力という鎖で地上に繋がれた存在でもある。

 

 ―――重さ数百tの戦車やGS達が重力加速度によって質量を増し、地面に落下し粉々になって爆発していく―――

 

 風速数百m以上の超絶的な暴風に煽られる事で天地上下左右を見失った上で、風が止み終えた時には数百m上空にたたき上げられていたのである。しかも竜巻の吸引力によって一箇所に集められたために、ホバー能力を持つGS達は姿勢制御をとろうとした瞬間、真上から降ってきた戦車達に押しつぶされ、その押しつぶされたGSの下敷きになったGSやヘリ達もまた押しつぶされるという玉突き事故のような有様になり、地上に落下した部隊は一機残らず大破していく。

 

「お前………相変わらず滅茶苦茶な」

『何を言う? この技は敵の多い場所でやるから威嚇と威圧になるというのに』

 

 馬鹿みたいな攻撃手段で戦車部隊とGS部隊の2割近くを一気に戦闘不能に追い込んだリリィに、賞賛したい気持ちを持ちながらも素直に口にできない秋水と、彼の微妙な心境が理解できないリリィのちぐはぐな会話が展開される。

 

「第一、なんで俺の機体の上に乗っかる!?」

『お前をドーナッツ分守るといっただろう。それにお前を巻き込まないように位置を考えたら真下にいてくれるのが一番やりやすい。そこが唯一の無風地帯だしな』

 

 微妙に胸を張りながらそう答えてくるリリィに、ホンの僅かな苛立ちが募る。どうやら適当な口約束ではなく、本気でこの戦闘中ずっと自分を守る気でいるリリィの様子に、それでは護衛としての自分の面目が丸潰れであることと、レオン達の『守れ』という言葉を果たせないではないかという気持ちがこみ上げてきたのだ。

 

「しかも………何度も言わせんな!? お嬢はいいが、その馬公はヤメロ!」

『ん? どうして『ドゥン』は駄目なんだ?』

 

 首を傾げるリリィに対して、『馬公』呼ばわりされて怒ったのか、『ドゥン』と呼ばれた鋼鉄の黒馬が激しくGSの装甲を踏み付け、見る見るうちに装甲に馬の足型がついていくのを見た秋水の目に涙が溜まっていく。

 

「がぁぁぁぁぁっ!! やめろって言ってるだろうが!!」

 

 秋水の渾身の怒りもそっぽを向いて受け流すドゥン。確かに人間の言葉を理解しているのだろうが、その仕草はどこか秋水を馬鹿にしているかのようで、ちょっと秋水をムカつかせる。

 本来はエクスカリバーのバックパックとなっているが、変形と一部装甲と合体することで本機に陸上での圧倒的な機動力を持たせることができるサポートマシンである正式名称『ドゥン・スタリオン』は、独自の人工知能を有しており、戦闘時において彼女を逐一補助する役目も担っている。性格は主であるリリィに恐ろしく忠実であるが、なんでか秋水にだけはやたらと厳しい。

 

『ああ、それに………ここから見ると少しだけみんなの戦いが見やすい気がしてな』

「……………」

 

 ドゥンの太い首を優しく手で撫でながら語る彼女の視線の先に、秋水もメインカメラを向け、他の陸戦部隊の戦いの様子をつぶさに観察する。

 

 三機の亡国側のGS達が縦列に並びながら砂漠の真上を高速でホバーしながら、連合軍のGS小隊五機に突っ込んでいく。当然そのことに気がついている敵GS部隊がライフルの乱射で迎撃してくるが、巧みな蛇行でその攻撃を無傷で回避しながら、後方の一機がミサイルを放ち、前方の一機が敵小隊の目前を銃撃することで砂塵を巻き上げ視界を奪ってしまう。

 突然のことで一瞬だけ判断が遅れる敵部隊に、中央の一機がグレネードを放ち、隙を突いて一機を撃破、更に放れたミサイルを回避し損ねた二機がジェネレーターに直撃を受けて炎上し、仲間がやられた動揺が隠せない二機に対して、三機が駄目押しの近接戦闘を仕掛ける。

 GS用のヒートトマホークによってコックピットを両断される一機。そして最後に残った一機は果敢に銃撃で応戦するが背後を取られ逆に銃撃を受け、死に体になっている所にトドメと言わんばかりに高出力レーザーソードを突き立てられ、ゆっくりとその鋼鉄の巨体が砂漠に横たわり、二度と動くことがなかった。

 

 他のGS達も、近接特化された一機がまるで踊る様に対GS用の大型ビーム刃搭載型のランスで敵を突き刺し、薙ぎ払い、斬り飛ばし、遠距離特化された大型の手持ちキャノンを持つ一機のGSが放つビーム砲が一撃で三機を貫く妙技を見せつけ、他にも秋水同様に高機動パックを背負った一機が他のGSとは段違いの速度で敵をかく乱しながらミサイルをばら撒いて空に花火のような爆発を咲かせ、敵GSやヘリを大破や戦闘続行困難な中破にしていく。

 

 そしてGS達が無双を魅せる中、機動兵器を持たない生身の人間達は別の次元で連合の兵士達を恐怖させていた。

 

「おい、爺様。お次は右の部隊だぜ?」

「………チッ、副官殿(レオン)め。年寄りコキ使い倒しよって」

 

 秋水相手に、愛娘同然の上官への手出しはお前の死を意味すると大人げない発言をかましたレゲェ親父が操縦する戦闘ヘリが低空を高速で飛行し戦車隊が砲で狙いを定めてくる。そんな中で陸戦隊でも最年長と言われている『30年前からもうすぐ40歳』と自称する長い白髭とどんな時でも外さないボロボロの麦藁帽子を被った老人が天井から身を乗り出し、半生を共に過ごしてきた愛銃のモシンナガンを構える。どうやら初めての製造から100年以上たつライフルで最新鋭現行戦車を射抜こうとしているのだ。

 普通ならそんな行動は、正気の沙汰ではない、そんなものでは戦車の装甲にわずかな傷をつけるだけで逆にヘリごと爆散させられる。と声を高々に叫ばれる場面であったが、この老人のことをよく知る陸戦隊の隊員たちは彼の『神技』を信頼しきっていたのだった。

 

「ナイスミドルにそんな物騒なもんむけるでない」

 

 自分に向けられる戦車砲を見ながら、片目をつぶってスコープすら付いていないモシンナガンの引き金を引く老人。

 ライフルこそすでに骨董品レベルのものであるが、使用されてる弾は亡国の最新鋭技術で生み出されている特殊貫通弾で、老人は戦車砲が照準を合わせたその瞬間に戦車砲に銃口を向け発砲、発射寸前だった戦車の『砲弾』を狙撃したのだ。そして特殊な貫通弾によって砲ごと弾が貫通し内部で爆散したことで戦車はそのまま中の搭乗員を焼き殺す爆発を起こし、火葬場と棺桶を兼ねた鋼鉄の棺と化す。

 そして老人はライフルのボルトアクションを起こし、すばやく薬莢を排出して次弾を瞬く間に装填して同じ手法で次々戦車を破壊していく。70歳以上とは思えない俊敏な動きで高速リロードと正確無比な狙撃をしていく老人によって戦車小隊が全滅したころ、ようやく老人は痛みに悩まされる腰をポンポンと叩きながら、ヘリに備え付けられているトランシーバーに声をかけた。

 

「で? 次はどこを狙えと言うんじゃ老人虐待指揮官?」

『左の部隊だ。弾が続く限り墜とせ』

 

 寸分の間も置かずに返ってきた副官からの言葉に、老人は痰と皮肉をトランシーバー目掛けて吐き捨てる。

 

「ペッ! キサマの返答はいつ聞いてもつまらん! まったくもってつまらん」

『何を今更』

「何十年たってもそのボキャブラリーに欠けた言葉と態度は進歩せんから嫌いじゃ」

 

 レゲェ親父のパイロットも、何十年来のやり取りを飽きずに繰り返す両者にため息を漏らしながらヘリを今度は逆方向に向かわせたのだった。

 一方で、何十年という付き合いの仲間達から変わらぬ悪態をつかれながらも表情をまったく変えないで、砂漠でも機動性を殺さないように改造されたジープの後部席に揺られながら戦車部隊の補助である歩兵達と生身での戦いを演じていた。

 

「…………」

 

 ―――膝の上の3Dディスプレイに表示された戦局の様子、左手にトランシーバーを持ち、まったく周囲を見ずに右手のハンドガンで自分達を狙っていた兵士をヘッドショットする―――

 

 物のついでのような銃撃が驚くほど正確に兵士達を瞬殺していき、飛んできたロケット弾の弾頭を弾いて軌道を返しそのまま相手に打ち返したりするその様子…………戦隊総隊長のリリィが突撃兵として最前線に突っ込む中、実質的な戦隊の指揮官である副長のレオンもまた、恐ろしく高い能力を持った持った兵士であることを物語っていた。

 しかし彼自身はあまりこういう役目を好んではいないのだが、指揮官不在では部隊は成立せず、本来の指揮官であるはずのリリィが一向に考えを改めないために、苦虫を潰したかのような表情で彼はいつも皆に指示を送り出すハメになっていのだ。

 

『レオンッ! 指示を頼む!』

 

 そしてまた、上官であるはずのリリィが自分に指示を寄越せと言うものだから、一瞬だけ鉄火面が崩れ眉が動き、ため息をつく代わりに説教代わりの小言を言い放とうとする。

 

「総隊長………我々下士官はご命令を受ける側r」

『だから指示を頼むと言っているレオン。お前の指示は私達を必ず勝利に導いてくれる!』

 

 命令じゃなくて指示だからOK、ということで説教を一方的に打ち切られ、一段と渋い表情になるレオンを周囲の二人にもクスクスと明後日の方向を向きながら笑われてしまう。

 

「………ライダー・スコールからの作戦内容を踏まえ、総隊長はそのまま敵陣形を右翼から後退させることに専念してください。我々は手薄な左翼を狙います」

『了解した!』

 

 よし任せろ! と言わんばかりの元気な声を上げた上官が馬と従者を引き連れて再び敵勢に突撃を仕掛けるのを音声と遠距離のカメラから確認し、静かに溜息を漏らしながらも口元が僅かに綻ぶレオンであった。

 

 

 

 

 

 

 




続けてアーチャー編です

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