IS インフィニット・ストラトス 〜太陽の翼〜   作:フゥ太

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さあ、親方様との直接対決第二編


彼女が語る理想世界とは?

そして、陽太と親方様の差……どれほどのものなのか




ではお楽しみください


その名は『暴力』

 

 

 

 

 

「どうやら、今のところ何事もなさそうだね」

 

 わざわざ保健室から持ってきたコーヒーメーカーと豆で作ったコーヒーを入れたカールが競技の監督役兼対オーガコア部隊指令代行の真耶にコーヒーの入ったカップを手渡す。

 

「何事もないならそれが一番ですからね!」

 

 一時間以上画面と睨めっこをしていたため、肩が凝ってきたのか、首をコキコキと鳴らしながらそれを受け取った真耶は、彼の淹れてくれた絶品のコーヒーの味に、しばしの休息を味わいながら、各モニターに写る隊員達の姿に目をやった。

 

「皆さん、真面目にお仕事がんばってますね~」

「千冬がいなくなる事に意味を自覚しているんだろう………いつもの問題児ですら、ほら?」

 

 全員、怪しい人物がいないかチェックをしたり、迷った人に親切に案内する図が写る中、画面の真ん中に写っていた陽太が、アリーナの試合を見つつ周囲の警戒を行っていた………と見せかけ、上の段にいる応援でヒートアップする女生徒のスカートの中を見ようと目を凝らしているのを目の当たりにした二人は、呆れを多分に含んで言い放った。

 

「……………後で、デュノアさんに報告しておきましょう」

「……………致し方ない」

 

 阿鼻叫喚の地獄絵図と、土下座しながら命乞いする陽太の姿を同時に想像した二人。自業自得ですね、とうんうん真耶が頷く中、背後の自動ドアが開き、千冬が入ってくる。

 

「静かなところを見ると、今の所目立ったトラブルはなさそうだな?」

「小さなトラブルなら今起こったよ?」

「何だ?」

 

 カールが涼しげに答え、真耶が苦笑いしながら画面を指差す。鼻の下を伸ばした陽太の顔が映る映像を見た千冬が、溜息をつきながら呟く。

 

「……………後でデュノアに報告だな」

「やっぱり」

「ですよね~」

 

 中央に映る陽太の犯罪行為を見た千冬が、二人とまったく同じ事を言い出す辺り、自分達が怒るよりもシャルに叱られる方が陽太には効果的だと思われているらしい………陽太とシャル以外の人が聞けば間違いなくそうだなぁと答えそうなのだが。

 

「?」

 

 『いい加減に人間としての成長を私に見せてくれないか?』と若干哀しみに暮れかけていた千冬達だったが、その時、モニターの向こう側の陽太が微妙に緊張した表情で通信を入れてくる。

 

『真耶ちゃん、何か変わったこと起こった?』

「陽太君!? せめて山田先生と言って!!」

 

 生徒に『ちゃん付け』で呼ばれることに激しく抵抗を感じる真耶が抗議の声を上げるが、それをばっさりとモニター越しに切り捨てられる。

 

『皆に愛されてる証拠だろ、真耶ちゃん?』

「うううう~~~………私だって…これから織斑先生の代わりに、なろって……グスンッ………カッコいい大人の女性になろうってがんばってるのに……グスンッ」

「(本気で凹んでる)」

「(そんなにあっさり折られても)」

 

 威厳という言葉からまだまだ遠い真耶の姿に、手術の日にちを考え直そうかと思った千冬が、とりあえず陽太に先ほどの覗きの件を叱っておこうと口を開いた瞬間だった………。

 

 ―――深海の水圧のような濃厚で強烈な殺気の塊―――

 

「!?」

 

 研ぎ澄まされた感性が確かにそれを捉え、そして千冬は不思議なほど落ち着いた気持ちで、誰にも聞こえないように囁いたのだった。

 

「やはり来たな」

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 アリーナ観客席の異常なざわめき、VIP席で観戦していた高官達の驚愕、それらが合わさってパニック寸前になりそうな内部の状況において、彼女がただ言葉を紡ぐ。

 

「お集まりの弱者の諸君!!」

 

 漆黒に染まった全身装甲のISから発せられた声が、先ずは観客達の時間を凍りつかせ、ざわめきが瞬時に収まる。

 

「私の名前は、アレキサンドラ・リキュール!! その名前を魂の隅まで刻んでおけ!!」

 

 その名を聞いた時、何人かの政府高官達と軍上層部の人間の顔色が明らかに変色する。それは彼女の名前が意味すること、意味しているが故の根源から湧き上がってくる『恐怖』を隠せずにいたのだ。

 

「偽りの世界、ぬるま湯の希望は終わりだ」

 

 10年の時を経て『亡霊(英雄)』が蘇った………と。

 だが、そんな会場で密かに動き回る者達がいたのだった。

 

「アレが太平洋艦隊を単機で潰した、噂のオーガコアIS………」

 

 ブルーのショートヘアの少女が、その髪の色と同じカラーリングのISを身に纏い、アリーナ最上部の屋根の上から身を隠しながらハイパーセンサーで黒いオーガコア搭載ISを観察し続ける。

 

「(固定武装、背中の大型対艦刀二刀のみ………シールドエネルギーのゲイン………第二世代ISの40倍以上!?)」

 

 対暗部用暗部の一族を取りまとめる長であり、IS学園最強の称号を持つ『生徒会長』更識楯無は、突如IS学園に飛来した7機のISのうち、そのリーダー格と思われるISが発している尋常ではないエネルギーに戦慄を覚えずにはいられなかった。

 

「(何度索敵しても、確かにISの内部にコアの反応が4つなのは変わらない!?)」

 

 10年の歴史の中において、一機のISの中に複数のコアを搭載して出力を劇的に高めようとした研究は何度か行われてはいたが、それが成功したという情報はただの一度も発表されたことはない。『ISコアに存在する自我が、一機のISに複数の自我を共存させることを拒んでいる』という研究論文がとある国家機関から発表され、最近ではそれが半ば公式見解と化していたのだった………唯一の例外であり、ISの生みの親である篠ノ之束が自ら手掛けた最新鋭第四世代である『白式』という存在が明るみに出るまでは………。

 

 だが、目の前にいるオーガコアISはツインドライブどころの話ではない。

 通常コアでさえ、共存させることが困難極まりないISコアを、しかも尋常ならざる自我と支配力を持つオーガコアを四つも積む等、常識外れもいいところだ。機体がコアの出力に耐えられずに自壊する可能性も大であり、それに機体が耐えられたとしても、今度は四つのISコアによる搭乗者への計り知れない精神汚染に苦しめられ、数秒と耐えられずに搭乗者の意識が崩壊するに決まっている。

 

「こんな化け物がこの世にいるなんて………」

 

 楯無には、視界に見えるアレキサンドラ・リキュールという存在が、あれは人間が兵器を纏っているというよりも、人間の姿に近い神話の世界の怪物が現れたと言われる方がまだ説得力を感じてしまい、心の中でとある人物に毒づいた。

 

「(フィーナ! 『次元が違う』とかどうして誇張表現じゃないのよ!?)」

 

 元友人の言葉が、実は負け惜しみでも脅しでもなんでもない可能性が濃厚になってきたことに背中に嫌な汗が止まらず、どう攻め立てるか、作戦を決めかねていたのだ。

 

 

 一方、重力と落下の加速度を利用したとはいえ、ISの常識から考えても範疇の外にいるほどの質量で半径10数メートルのクレーターを作り上げて着地したアレキサンドラ・リキュールとそのIS『ヴォルテウス・ドラグーン』は、朱色に光る瞳を左右に動かし、自分に向けて闘気を放ってくる存在を見つける。

 

『早く開けろって言ってんだろうが!?』

「………やはり君はいい子だな」

 

 彼女の視線の先………アリーナ観客席の出入り口付近で、ISを展開した陽太が通信越しに吼えている姿があった。恐らく、瞬時に上がった保護用のシャッターを下ろして、自分を内部に入れろと言っているのだろう。

 

「千冬っ!!」

 

 逃げる気配はない。明らかに自分と戦うつもりでいる陽太の姿勢に答えるため、彼女はアリーナのどこかから自分を見ているはずの、袂を分かった親友に向かって叫んだ。

 

「10分やる。虫ケラ共を下がらせろ。それ以上は一秒も待たないと思え」

 

 彼女が自身で思う最大限の譲歩を提案し、それを受けた千冬と陽太が同時に表情を歪ませる。

 

「オイ、今すぐ隔壁上げろ!! 完璧に舐めてるぞ、こっちのこと!?」

 

 頭から湯気が出そうなほどの怒りで沸騰する陽太に対して、内心同じぐらいに怒りに燃えている千冬は、それでも抑えながらこの状況で最善の行動を起こすためにマイクをひっ捕まえ、敵の行動どおりにしないといけないことに腸が煮えくり返りながらも叫んだ。

 

『アリーナにいる全ての人間! 今すぐ出口から外に出ろ!』

『あ………お、落ち着いて行動してください皆さん! 近くの先生方は誘導をお願いします!!』

 

 言葉が足りなかった千冬に間髪入れずにフォローを入れた真耶のおかげで、観客席の生徒達が一斉に出口に向かって走り出し、何とか怪我をさせないように教師陣が誘導をし始める。そしてVIP席の人間達も外に出始めたとき、陽太は改めて千冬に通信を入れ、隔壁の開放を求めた。

 

「早く壁を開けろ!」

『今は待てっ!? それに今バリアを一部でも開放すれば、敵がそこから…』

「見てなかったのか!? アイツはアリーナのバリアを力技だけでこじ開けてきたんだぞ!? その気になったら、いつでも好きに外に出れるんだよ!」

『っ!?』

 

 陽太が己の目で見ていた事実を突きつけ、彼女も思わず言葉を詰まらせる。確かに彼女もその目でアレキサンドラ・リキュールがバリアを腕を組んだ状態で突破してきた映像を目の当たりにして、思わず度肝を抜かれてしまったのだ。

 

「俺がアイツを止める。どうやら向こうさんもそれがリクエストみたいだ」

『………できる限り戦闘になっても時間を稼げ。決して一人で先走るなよ!』

 

 念を押すようにそれだけを伝え、観客席とアリーナ内部を別つバリアを解除する。

 

「……………」

 

 開放されたバリアから、アレキサンドラ・リキュールが放つ猛烈な闘気を受けるが、それに怯まず陽太は跳躍し、アリーナ内部の彼女の前20mの地点に降り立った。

 

「やあ、千冬が強情で君も随分と苦労してそうだね?」

「………そりゃどうも」

 

 何気なく世間話をしてくる彼女を見つめながら、内心ではアレキサンドラ・リキュールのISがどれほど異常な仕上がりになっているのかを、オーガコアと長年闘い続けてきた陽太は一目で見抜く。

 

「(コアの反応四つ………それでゲインが40倍……近接型か?)随分ハデなISだな、オイ」

 

 基礎ポテンシャルからして他のどのISとも一線を隔した性能がある。直感でそう見抜いた陽太の考えを知ってかしら知らずか、リキュールは機嫌よく自分のISを紹介し始めた。

 

「私の愛機の名前はヴォルテウス・ドラグーン………気難し屋なんだが不思議と馬が合ってね」

「コア四つも載せるとか、そのIS作った奴、頭イカレてるだろ?」

「御大のことかい? ああ、あの人は昔ながらの職人気質の人でね。中途半端な物を作るのが大嫌いなんだ………おかげで尖り過ぎて使いづらい物ばかりだとスコールもよく嘆いているよ」

 

 尖っているとかそういうレベルじゃないだろう………そうツッコミたいのを我慢しつつ、陽太は更に周囲の状況がまずい事を毒づく。

 彼女のISだけでも相当厄介なのに、彼女の親衛隊を名乗る四人………は陽太自身なら大したことはないが、千冬のクローンといわれる織斑マドカに、先日闘ったジーク・キサラギまで来ているのだ。戦力的に見ても相当劣勢なのは否めない。

 

「……………クソ忙しい時にきやがって、トリガラ野郎」

「ああんっ?」

 

 陽太の呟きをセンサーで拾ったジークが一歩前に出る。彼の心の中は織斑一夏と彼への敵愾心で燃え立っているだけに、軽い挑発といえども我慢ならなかったようだ。

 

「調子コイてると、超速であの世に送るゼ、クソガキ?」

「やってみろよ貧弱! 今度は三ヶ月はベッドの上から動けないようにボコボコにしてやらぁっ!!」

 

 互いに構えを取っていきなり闘おうとする二人だったが、そんな二人の間をリキュールが割って入って止めにかかる。

 

「よしたまえ。今日は私と陽太君達が戦う番だ」

「退けよッ! むこうから………」

「よ・し・た・ま・え」

 

 戦闘前ということで、闘気が溢れかえっているリキュールのプレッシャーに気圧されたのか、ジークはそれ以上何もいわずに無言で下がる。彼がおとなしく自分の言葉に従ってくれたことに感謝するように彼の方を軽く二回叩いたリキュールは、改めて陽太の方に振り返ると、ちょうどお目当てだった『もう一人』が来たことに気がつき、彼にもまるで友人に向かって話しかけるかのように気軽に声をかけた。

 

「やあっ!」

「!?」

 

 そして陽太の隣に降り立った、白いIS………白式を身に纏った一夏が降り立ち、彼に続くように対オーガコア部隊のメンバー達も集結する。

 と、同時に一夏を視界に入れたジークが、殺気を漲らせ彼に突撃を仕掛けようとするが、それを彼女の手が遮ってしまう。あくまで今日の主役は自分であって、ジークは観客に徹しろ。それをたった一動作で

彼に強制させるほどに、彼女が発している威圧感はいつも以上に常軌を逸していたのだった。

 

「ヨウタッ!」

「さっきの轟音はコイツの仕業なの!?」

「………このISは!?」

「気をつけろ皆ッ!! 解析された情報だけでも相当にとんでもないぞ!!」

「……………」

 

 シャル、鈴、セシリア、ラウラも続々とアリーナに着地し、最後に無言でリキュールを見つめる箒が降り立ち、この場に対オーガコア部隊と亡国機業の戦闘部隊が全員で対峙する形となった。

 

「…………」

 

 着地した時から無言でリキュールを見つめていた一夏は、厳しい視線で彼女を睨みつけ、雪片を抜くと、その切っ先を向けながら、よりにもよってとんでもない事を叫ぶ。

 

「今すぐ、俺と一対一で闘え!!」

「ほぉ~?」

「!?」

 

 『突然何を言い出す!?』とリキュールを除く全員が一夏を注目する中、鼻息を荒くした一夏は怒り心頭で彼女を睨むのをやめない。

 目の前の女は、五反田家の住人達に暗い影を落とし、厳を悲しませ、千冬を否定した上に命に関わる傷を負わせた張本人なのだ。

 

「俺は、お前を絶対に許さないぞ!」

「一夏ッ!!」

 

 隣に立っていた箒は、今にも突撃しそうな一夏を制する為に彼の腕を掴んで動きを抑制しつつ冷静さを取り戻せと彼の名前を叫ぶ。だが興奮は収まらず、彼女の手を振りほどこうと暴れる寸前担ったところで、場に似つかわしいぐらいの嬉々とした笑い声が響き、今度はそちらに方に全員が注目する。

 

「クックックッ…………ハッハッハッハッハッハッ!!!!」

 

 お腹を抱え、何かツボに嵌ったかのようにアレキサンドラ・リキュールは自分の膝を叩きながら、笑い続ける。

 

「て、てめっ!!」

「ちょっと黙れ」

「グフッ!」

 

 その様子に今度こそブチキレた一夏が箒を引きずりながらも飛び出そうとするが、そんな彼の鳩尾に陽太の肘が容赦なくめり込み、痛みと衝撃で地面に崩れ落ちる。

 

「コイツ(一夏)がおもろいのは十~分に理解できるが、何がそこまでツボに入ったんだ?」

「ハッハッハッ………イヤ、済まない。気を悪くしたのなら許してくれ」

 

 地面に崩れ落ちた一夏を特に気にする様子もなく親指で指しながら聞く陽太に、リキュールは顔に手を置きながら、まだこみ上げてくる笑いを抑えながら言葉を紡いだ。

 

「一夏君、君は本当に眩しいほどに真っ直ぐだな………千冬の弟だよ、本当に」

「そんだけがそんなに可笑しいのか?」

「いやいや………私自身の話だよ。決して悪気があったわけではないんだ」

 

 そしてようやく笑いが収まったのか、彼女はアリーナの電工掲示板の時計を見つつ、本題に入る。

 

「残り五分少々………手早く聞いておくが、この間の話、考え直してくれたかな?」

「!?」

 

 この間の話………それは陽太と一夏が亡国に行くというものであるなら、この場にいるIS学園メンバーの全員が、意見を一致させていた。

 

「そのお話なら、この間、陽太さんと一夏さんがお断りしたはずです!」

「てか、常識的に考えてもありえないでしょうが!!」

「無理難題を吹っかけるのがテロリストだが、限度を考えろ!」

 

 セシリア、鈴、ラウラがそれぞれ手厳しく返す中、箒とシャルは別の方向から彼女に質問をぶつける。

 

「そんなことよりも答えろ!! お前が千冬さんと姉さんの友であるなら、なぜ亡国機業などにいるのだ!!」

「貴方達は、何を求めてオーガコアを使い、世界を混乱させてるんですか!? 目的を教えてください!!」

 

 そんな二人の言葉を受けてか、リキュールは、ゆっくりと空を仰ぎながら、こう切り出した。

 

「何が目的………か」

 

 彼女が目的としていること。組織が目指す場所………それが何なのか。二人の、いや対オーガコア部隊全員の質問に対して、リキュールは素直に答えることにした。

 

「だがその質問を答える前に、聞かせてほしい………陽太君。君は本当にこのIS学園側について、我々と敵対するつもりなのかい?」

「当たり前だ」

 

 迷いも戸惑いもなくそう言い切る陽太の背中に、シャルは一瞬だけ頬を赤く染めて表情を柔らかくしながら、彼が自分からどこか遠くに行かないでいてくれるという安堵を覚える。

 

「そうか………だがそれは本当に君のためになるのかな?」

 

 その安堵がほんの僅かな時間で、彼女の心の中で途轍もない不安に変化するとは知らずに………。

 

「何が言いたい?」

「簡単な話だよ。陽太君………君は元々何者で、何のためにこの学園に来た?」

 

 何を突然聞き出すんだ? IS学園メンバーの脳裏に疑問符を浮かべさせるが、リキュールはそんな陽太を人差し指で指しながら、とある事実を指摘する。

 

「君は本来なら私達と同じテロリスト認定を受けているはずだ………世界中の軍事施設からオーガコアを強奪する『ミスターネームレス』としてね」

「だからそれがr」

「聞きなさい。そして考えたまえ………そんな君がこの先、この学園で在籍しながら私たち亡国機業と戦い、よしんば勝ったとしよう………その後、どうなる?」

 

 リキュールは人差し指をゆっくりと陽太からシャルに変え、彼女に問いただしてみる。

 

「おい小娘………お前が答えてみろ。学園上層部が、IS委員会が、世界が………我々を滅ぼした後に、陽太君をどう処理するんだ?」

「そ、それは………ヨウタのことを……皆が…感謝して」

「感謝? そうだな………勝った直後は皆が感謝してくれるだろう。『ありがとう』『君こそが英雄だ』と、持てはやしてくれるだろう」

 

 言葉尻が切れたシャルに向かって、彼女の次の言葉は痛烈な批判と、そして起こり得る未来として語ってみせる。

 

「だが、その後………世界は陽太君をすぐさま表舞台から蹴落とすだろう。理由などいくらでもつけられる。彼は元々テロリストだ………世界は掌を返し、必ず君を理不尽で醜い差別と迫害を受けさせ、そして我々と同じく処分する!」

「違うッ!」

「違わん。それにお前のその否定の言葉はごく個人的な執着からくるものだ。そんなもので世界は動かん」

 

 断じて自分の言っていることが正しい。リキュールの言葉の強さがシャルの不安からくる言葉を一刀で切り捨てた。

 

「賭けてもいい。君は私たちに仮に勝っても、この学園から、そして守ったはずの世界から、居場所を失うだけだ」

 

 ―――!?―――

 

 全員の視線が彼に降り注ぎ、何一つ言葉を発しようとしないでリキュールを見つめる陽太は、ただ沈黙を続けるのみ。それゆえに、彼女の言葉は止まる事はなく、この場にいる全員に、通信で話が聞こえていた千冬達にも突き刺さる。

 

「私はね、そうやって自分達が守ってもらう事が当然だと思っている『弱者(ムシケラ)』共がこの世界で息をしていることが許せないのだ。そしてそういう輩を際限なく着け上がらせる、千冬のような考えがな!」

「!?」

 

 すぐさま一夏が彼女の言葉に反発を覚えるが、彼のその反応すらも楽しいといわんばかりに話を続けた。

 

「私が何を目的にしている………そう聞いてきたな小娘。ならば教えてやろう」

 

 アレキサンドラ・リキュールは両手を広げ、己の全身で世界に向かって叫ぶ。

 

「私の目的は今の世界構造の破壊。そして真に価値のある者が生きる世界の再創造だ」

「!?」

「価値ある者、つまり優れた才能を、時間と修練で磨かれた努力を持つ『強者』が世界を動かす。男だ女だ生まれだ家柄だ社会的地位だなど一切関係ない。ましてや女尊男卑などという馬鹿な考えではない」

 

 彼女は拳を強く握り締め、高らかと宣言した。

 

「私は真のものしか認めない。真の価値あるもの以外に存在するべきではない………『弱者(いつわり)』などは滅びてしまえ………それがアレキサンドラ・リキュールが真に望む世界!」

 

 拳を解き、その手を返して陽太に差し出す。

 

「君はその世界の申し子となれ、火鳥陽太………君ならば私の言葉を理解できるはずだ」

 

 それはまるで陽太の全てと通じ合っている。そう言いたげなリキュールの言葉であった。

 親を持たない、生まれた場所すら定かではない陽太の在り方全てを見抜いて上で、自分はそんな陽太の真の理解者になれる………全身装甲によって互いの肉眼を確認できない者同士でありがなら、二人の視線は、互いを見つめ合って離れずにいた。

 

「……………」

「何を迷う必要がある陽太君? それとも君に縋り付いて利用することしかできない者に未練があるのかい? 言っておくぞ、君がそいつ等の中にいてもいずれ理解を失い、君は独りで苦しむことになる」 

 

 彼女には陽太の今の状況が不自然にしか映っていない。彼女は分かっていたからだ。陽太がISを手に入れるまで、手に入れた後に、今の世界の歪んだ理不尽を知らぬはずはないという事を。

 

「だが私は違う。私は君を一切否定も迫害もしない。ましてや理解を失うこともない………それは君が真に評価されるべき『強者』で、私もまた同じ真の『強者』だからだ」

 

 リキュールが、右手をジークに向け、続けざまに一夏にも向ける。

 

「いや、君だけではない。ジーク君や、一夏君にも同様だ。君達は本来、光の下に祝福されるべき存在だ………だがジーク君はともかく、陽太君や一夏君。君達は闇の中から抜け出すことができないでいる」

 

 そして右手を上げ、人差し指をアリーナの上層部、ちょうど千冬達がいる場所に向けると彼女は断固として忌むすべきという考えで、元親友を否定した。

 

「全てはお前が原因だ、千冬………弱気を守るために力を使え。貴様の教えが彼らの輝かしい未来を潰す………度し難い」

 

 かつては理解しあえていたかもしれない二人………だが10年という歳月はそんな二人の間を完全に別ってしまっていた。

 

「さあ、陽太君。選びなさい。そして自分が真に選ぶ道を」

「………選んださ」

 

 ここにきてようやく口を開いた陽太は、空を見上げながら深く息を吸うと、戦闘前の興奮状態とは打って変わり、一見非常にリラックスしたかのように言葉をつむぐ。

 

「勘違いしてるな……………俺は千冬さんに洗脳なんかされとらんし、周囲に絶望なんてしてない。てめぇーと違ってな」

 

 両手を腰に置きながら、なんとなく陽太は自分の後ろにいる仲間達を見回し、穏やかな声で胸の内を少し曝け出す。

 

「かといって、人間全部が素晴しいなんて思ってない。IS学園(ここ)が居心地のいい場所だっていうのは認めるけど………いずれいれなくなるかもっていうのもわかってるよ。なんとなく」

「………ヨ、ヨウタ?」

 

 震えるシャルが自分の名前を呼ぶと、彼はニカッと笑いながらいたって明るく、だけどホンの少しの寂しさと諦めを含んだ気持ちの言葉を口にした。

 

「………大丈夫。嫌われるの………慣れてっから」

「!?」

「冗談冗談、ジョークジョーク!! 俺がいないとこの隊、まともに動かんだろうが!?」

 

 と陽太は陽気に笑い飛ばす。今のはあくまでも冗談だ。お前達が気にする必要はない。そう言ったつもりだったのだが、仲間達は、シャルには伝わってしまった。

 

 ―――例えそうなっても、俺はお前達を責めたりしない―――

 

 仮にそんな未来が起こってしまっても、自分が選んだことだからお前らは気にするな………自分達にそう言っていることを理解できるぐらいの仲間意識を持っていた一夏達が爆発する。

 

「ふざけんなよっ! お前、今本気で言っただろう!?」

「!?」

「見くびるな!」

「このセシリア・オルコットが、命懸けの戦場を共にした人を売り渡すような真似をするなどと、本気で御思いなのですか!?」

「いや、だから冗談だって」

「アンタ、本気でぶん殴るわよ!」

「だから冗談r」

「世論に頭を下げて、自分の地位を守るためにお前を売るなどと………私のことをそんな恥知らずだと思っていたとはな………丁度いい。貴様にはオーガコアに操られていたとはいえ借りがあったな。今すぐ返してやる!!」

 

 本気でブチギレる一夏や箒、セシリアや鈴。そして滅茶苦茶な理由でラウラが背中のキャノンを展開して本気でぶっ放しにかかるのを感じ、慌てて陽太が飛び退こうとする中、シャルが泣きながら陽太の手を掴もうとする。

 

「………ヨウタッ!」

 

 腹立たしくて、ムカついて、でも陽太が諦めを抱えていることが悲しくて、そんな風に思う必要はない………そう伝えたくて、手を伸ばしたシャルだったが、突如、そんな彼女と陽太の間に暴風と共に一陣の風が割ってはいる。

 

「触るな」

 

 先ほどの、彼女がIS学園に降り立った時の数十倍の圧力はある威圧感が、その場にいる全員に襲い掛かった。

 

「………理解したよ陽太君。確かにこれは相当にまずい状況だ………早急に手を打つ必要がある」

 

 朱色に染まった瞳が一層の輝きを帯び、両足で降り立った大地のクレーターに亀裂が走り、漆黒の巨体から発せられた闘気とシールドエネルギーによって、アリーナ内部には突風と静電気が吹き荒れる。

 

「どうやら君の心をへし折る必要があるな………致し方ない」

 

 そして彼女は背中に二本装備した斬艦刀をパージし、地面に突き刺しながら、時間が来たことを告げる。

 

「10分だ」

 

 そう告げた最強のIS操縦者は、稀代の天才操縦者に対し戦いを始めようと、両腕を広げ、彼が信じるもの全てを粉々にする決断を下す。

 

 

 

「来い、火鳥陽太……………君が信じるモノが、如何に無力で価値のないモノか教えてやる」

 

 

 

 もうそこには今までのアレキサンドラ・リキュールはいない。威圧感を秘めていても、猛烈な殺気を飛ばしてきても、闘う寸前で押さえ込んでいた彼女の様子はない。

 ここからは最強最悪の暴龍帝の、本気(暴力)と対峙するのだ。

 陽太は、背中に冷や汗をかきながらも、自分が密かに興奮していること………自分のありったけ全部をぶつけても勝てないかもしれない敵を相手することに、その実は楽しみにしていたことに初めて気がつく。

 

「(ハハハッ………コイツ、半端ねぇや。マジで死ぬほど強ぇぞ!!)」

 

 彼女が持つ闘争本能に引きずられるように、陽太の持つ本能が歓喜の声をあげるのを感じながら、陽太は一人で距離をとろうとする。

 

「ヨウタッ!!」

 

 そんな陽太を引き止め、自分達も一緒に闘おうと言い掛けたシャル。一対一で闘うことの危険性、未知数な相手に正面から挑む必要はないという理屈………その陰に隠れた『自分から離れてほしくないという気持ち』で、彼女は陽太の手を取ろうとする………が、

 

「来るな」

「!?」

「俺一人でいい」

 

 陽太が彼女を見ずに、短くそれだけ言うとその場を跳躍し、リキュールと一対一の状況を作る。

 

「………ヨウタァ」

 

 自分を見なかったことが、陽太が自分から離れていったことに強い衝撃を受け………そしてシャルの脳裏に彼女の言葉が響く。

 

『いずれお前達は彼の理解を失う』

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 一方、そんなシャルの涙にすら理解できないほどに目の前の敵に集中している陽太は、自身の心の中で相方に相談を持ちかける。

 

「(ブレイズ、リミットブレイクだ。プラズマコンバーターをフルドライブさせろ)」

『陽太ぁ!?』

 

 彼の精神に年頃の少女の驚愕の声が響くが、陽太はそれを怒鳴り声で押し潰した。

 

「(手加減できる相手かよッ!? 速攻秒殺!! フルパワーの連撃で叩き潰す!)」

『だけど、それじゃあ陽太にかかる負担が大き過ぎるよ!?』

 

 陽太が行おうとしている無謀な行動を止めようと、相棒(少女)が声を張り上げるが、目の前の女傑は腕組みを再び行いつつ、ポツリと言い放つ。

 

「陽太君の作戦が現状最善だ。黙って従えコアナンバー027」

「!?」

『!?』

「スカイ・クラウン持ちの特権、というやつだ。ただシンクロ率が上がって強くなるだけではない………第七感に目覚めることで、操縦者としての質そのものが変化するのだよ」

 

 操縦者とISとが明確に意思の疎通を行う………それを行える操縦者すら世界で一握りだというのに、前の前のリキュールにいたっては、会話すらも傍聴できるというのだ。だが本日何度目になるのかわからない驚きを覚える陽太に、彼女はとある提案をする。

 

「わかっていると思うが、君と私との間には明確で、埋めがたく、隔絶した実力差が存在している………そこで提案だ」

「………提案?」

 

 はっきりと『お前は私よりも弱い』と言われ、それだけでも頭にきていた陽太だったが、次の彼女の提案は、そんな彼の頭を沸騰させるには十分なものだった。

 

「一つ、私は一人で戦う。君は好きに援軍を呼べばいい……ここにいる仲間とやらは勿論のこと……例えば、そこにいる彼女」

「!?」

「?」

 

 リキュールがアリーナの頂上部を指差し、物陰に隠れていた楯無の存在をズバリ言い当てる。慌てて隠れ直す楯無だったが、完全に気配を殺していたにもかかわらず居場所がばれていたことに驚愕が隠せずにいた。

 

「この学園全ての、この国全てのISでかかって来てもいい。私はあくまで一人で戦うし、仮に私が負ければ部下達には無条件で降伏しろと言っている」

「………だと?」

「二つ、君の実力は知っているつもりだが、やはり直接手合わせしないと分からない事も多い。従って武器は使わないでおこう………安心してくれ、私は徒手だ」

 

 むしろ友好そうな雰囲気を醸し出しながら、彼女は最後の条件を口にする。

 

「そして最後の三つ目………最初の一分間、好きに攻撃してきなさい。私は逃げないし、防がないし、勿論反撃もしない。この間、ジーク君との戦いで君が見せた成長へのご褒美だ」

 

 ―――プッツンッ―――

 

 当然のことだったのかもしれない。

 

 ―――未だかつて、火鳥陽太はISを用いた戦いにおいて、特に一対一の戦いにおいては負けた経験がない―――

 

 これが訓練のことならば、師である千冬と手合わせした時に不覚を取ったこともある。

 だが、こと実戦において無敗を誇り、誰もが認めるほどの才能を持っている彼が………そう例えば、同じ土俵に上がることすら嫌悪する『不要に相手を陥れることしか知らない雑魚』に侮られていたのならば、そんな彼の一番強烈且つ厄介な部分に火を着けなかっただろう。

 

 しかし、アレキサンドラ・リキュールはそれを知ってかしら知らずか………否、あえて理解した上で、元々火の粉が燻っていた厄介な部分にガソリンを大量にぶちまけたのだ。

 

 ―――………結果―――

 

「コード強制解除、熱エネルギー変換炉(プラズマコンバーター)最大稼動(フルドライブ)!!」

『陽太ッ!?』

 

 ―――彼の『誇り(プライド)』を大炎上させる―――

 

「ほう?」

 

 機体各所に存在している熱エネルギー変換炉が、唸りを上げて空気を吸い込み出し、同時に純白の装甲を持つハズのブレイズブレードが、目の前で赤く染まり出すのを見たリキュールは、陽太が何を行っているのか瞬時に理解する。

 

「(熱エネルギー変換炉で生み出したプラズマエネルギーを、機体のコンデンサーに限界まで溜め込んでいるな………流石だ陽太君。こちらのリクエストにしっかり応えてくれるようだね)」

 

 膨大な熱エネルギーが全身を駆け巡りながらハイパーフレーム内のコンデンサーに貯蓄(プール)されることにより、ブレイズブレードそのものが一つの炎の塊と化し、機体に収まりきらない熱量がアリーナ内部の温度を急上昇させていく。

 

「ヨウタァッ!?」

 

 ISのシールドバリア無しでは火傷しかねないほどの熱風を受けながらも、何とか彼の下に行こうとしたシャルだったが、その肩を掴んで止めに入るものがいた。

 

「危ないッ! 今割って入るのは危険だ!」

 

 この場において、IS学園側において、最も冷静さを保っていた箒だった。

 

「完全に陽太は目の前の敵にだけ集中している………私にはわかる。今ままでのように陽太が周囲をフォローしながら戦う余裕のある敵じゃない」

「だけどっ!?」

「………言いたくはないが、この勝負、おそらく…」

 

 武術に精通し、陽太に次ぐ実戦経験値を持つ箒の脳裏には、勝負の行方が完全に浮かんでいたのだ。それが自分のただの思い過ごしであってほしいという思いから、最後の言葉が出ずにいたのだが、箒の言葉が切れたしまったことが、逆にシャルの不安を増大させてしまう。

 

「………ダメだ」

 

 今戦ってはいけない。シャルの直感がそう告げる中、しかし二人の闘気と闘気、膨大な熱量と静電気の嵐が激しさを増して激突し、彼女の行く先を阻む。

 

「………来なさい。それが戦いのゴングだ」

「………前にも言ったよな」

 

 陽太が屈む。

 完全な攻撃特化の姿勢(クラウチングスタート)………そして音が鳴るほどに拳を握り締め、吼えた。

 

「見下した様なツラをやめろってなぁっ!!」

 

 ―――灼熱の弾丸が地面を砕いて飛翔した―――

 

「速ィ………あっ!」

 

 思わずその動きを見ていたジークすらも驚嘆するほどの爆発的な加速で、自身の1、5倍はあろう巨体の前に、一瞬で踏み込むブレイズブレード。

 

「!!」

 

 ―――更にそこから跳ね、ヴォルテウスの全長よりも高く飛んだ―――

 

 見ていたリキュールが、喜びのあまり破顔してしまうが、無論マスクの下の表情なんて陽太が知る由もなく、彼は己のありったけの怒りを込めた拳をプラズマ火炎と共に叩きつける。

 

 ―――顔が大きく後方に撥ねるリキュール―――

 

「!?」

 

 その拳から伝わってきた情報に、陽太が驚愕するが、ゼロコンマ数秒で考えを建て直して、怒涛の攻撃を繰り出し続けた。

 

「うぉらぁっ!!」

 

 宙空での回し蹴りで、ヴォルテウスの顔を更に弾き飛ばし、着地と同時にもう一撃、アッパーをあごに叩き込む。

 

「!!」

 

 後方にヴォルテウスが仰け反る中、体勢を低くした陽太は、今度はその巨体のボディー目掛け、プラズマ火炎を纏わせた拳を連続で叩きつける。

 

「がぁあああああああああっ!!」

 

 止まらない、止まる気はない、止めてはいけない………攻めれば攻めるほどにそんな嫌な考えが湧き出すのを払拭しようと、彼の拳が秒間数十発の速度でヴォルテウスの腹に突き刺さり続けた。

 

「はぁぁぁぁぁっぁぁぁっ!!」

 

 そして拳の連撃だけでは済まさず、フルスイングのボディブローでヴォルテウスを後退させ、距離が開く中、陽太は両手にすかさずヴォルケーノを取り、怒涛のプラズマ火球を撃ちまくる。

 

「ちょっと、アンタ!? その女殺す気!?」

「陽太さん、いくらなんでも!?」

 

 あまりの容赦がない陽太の攻撃に、鈴とセシリアが抗議の声を上げるが、当然陽太はそれを黙って聞き流す。確かに通常のIS相手なら、明らかにオーバーキルもいい所のダメージ量だが、陽太にだけは的確に理解できていた。

 

「(まだだ!!)」

 

 弾が切れると同時に、マガジンの交換を一瞬で行い、更に火球を連射し続ける。

 

「おおおおおおおおおっ!!!」

 

 吼えながら何かに取り憑かれたかのようにトリガーを引き続ける陽太の目の前は、すでに火の海となっており、アリーナの外からでも見えるほどの巨大な火柱が立ち込めていた。

 

「トドメッ!!」

 

 右手のヴォルケーノの最後の一発………彼はその一撃に最大限の力を込めるために、ヴォルケーノを高く掲げると………火の海と化していたアリーナ内部に異変が起こる。

 

 ―――ブレイズブレードの右手に集まる炎の渦―――

 

 アリーナ内部に存在していたすべての炎を陽太は右手の中にあるヴォルケーノに集中させ、臨海まで赤熱化したヴォルケーノをすでに黒く炭化していた瓦礫の山の中にいる相手に向かって、解き放った。

 

「ハイ・プラスマ(超烈火弾)!」

 

 陽太の声と共に放たれた、通常の数倍近い大きさの特大プラズマ火球は、放った陽太をも後ずさりさせ、一直線に瓦礫に埋まる黒い龍に向かって飛翔し、大爆発を起こさせる。

 

 

 ―――アリーナ内部から吹き上がる炎の柱―――

 

「!!」

「私の後ろに!!」

 

 広域のバリアフィールドを張れるマドカと、ラウラの二人が、それぞれ仲間を守るように前面に出て、衝撃波から仲間をバリアで守り抜く。

 

 アリーナ内部で起こった大爆発は、なんとか遮断シールドが外部への被害を食い止めはするが、その威力の大きさに、アリーナの地面をめくり上げ、内部の地面をめちゃくちゃにしてしまった。

 

「ちょ………大丈夫なのかよ」

「うわ………過激……」

「し、死んだんじゃなくて?」

「………有り得る。というかそれが普通だな」

 

 

 第三世代最強の攻撃力を持つブレイズブレードによるフルパワーアタックを目の当たりにした対オーガコア部隊の面々は、流石にこれでは助からないかもしれないとドン引きしつつ、敵を倒した陽太を褒めようと駆け出す。

 

「陽太ッ!」

 

 色々言いたかった相手だが、陽太ならなんとか人殺しなんてせずに済ませているだろう。軽い気持ちになっていた一夏が走り出しかけたとき、そんな彼に向かって陽太の鋭い声が突き刺さった。

 

「来るなッ!!!」

「!?」

 

 全員がその剣幕に驚くが、彼の視線が目の前から吸い付いて離れないことに気がつき、未だ立ち込める炎の中をゆっくりと観察する。

 

 ―――ガラッ―――

 

 瓦礫が動く。

 

 ―――瓦礫が浮き上がり、粉々になる―――

 

 まるで悪い夢でも見ているかのように、粉々になった瓦礫の下から、『声』が響いてきた。

 

「大変素晴らしい」

 

 浮き上がってくるシルエット………炎よりもなお紅い瞳……そしてこの声。

 

「この攻撃力は『銀の福音』以上か………実に素晴らしいな、ヴォルテウスよ」」

 

 ―――GUOOOOOONッッ!!―――

 

 黒い龍の雄たけびが、炎を切り裂き、漆黒の巨体が地面を再び踏み砕く。

 

「バ、馬鹿な………!?」

「?」

 

 ラウラが最初にそのことに気がつき、そしてアリーナ上部で戦いを見つめていた楯無が、信じられないことを口にした。

 

「シ、シールドエネルギー残量…………変動無し……」

 

 奇しくもラウラも同じことを口にし、対オーガコア部隊のメンバー全員がその事実に凍りつく。

 

 ―――これだけの攻撃を受けても、目の前のオーガコアISにはダメージが通っていない?―――

 

「だが一分が過ぎたぞ!!」

「チッ!!」

 

 それはある意味、『死』の宣告に等しい。

 ブレイズブレードがフルパワーで仕掛けた攻撃が、まったく通っていなかったのだ。しかもリキュールはその間、一切の防御も回避も行ってはいない。

 

 ただ真正面から攻撃を受け続けたというのに………。

 

「………陽太君」

「!?」

 

 陽太の疲れきった身体がビクンッと跳ねる。最大速度の無呼吸で攻撃し続けたため、完全に息切れを起していたのだ。

 

「簡単に死んでくれるなよ?」

「クッ」

 

 

 黒い龍が屈む。

 完全な攻撃特化の姿勢(クラウチングスタート)………そして音が鳴るほどに拳を握り締め、彼女は叫んだ。

 

「いくぞぉっ!!」

 

 ―――凄まじい勢いで膨れ上がった黒い闘気―――

 ―――地面を爆発させ疾走するヴォルテウス・ドラグーン―――

 

 完全にそれに飲まれた陽太が棒立ちになってしまう。

 

「ヨウタァッ!!」

「!?」

 

 シャルの叫び声のおかげで、意識を取り戻した陽太だったが、すでにアレキサンドラ・リキュールが前面に踏み込んできた。

 

「!?」

 

 咄嗟に両手を十字受けの体勢にした陽太だったが、その黒い巨体が下側から見えた時、己の失策に気がつく。

 

「(ヤバッ、狙いはっ!!)」

「耐えろッ!!」

 

 このまま終わってくれるな………まるでそう言いたげな口調とは裏腹に、ヴォルテウス・ドラグーンが繰り出した拳は、空を切り裂き、大地を砕き、白い炎のISのどてっ腹に突き刺さる。

 

「ッ!!??」

 

 ―――暗転し、上下左右狂い出す陽太の世界―――

 

 攻撃を食らった陽太よりも、周囲で見ていた仲間達のほうが、彼がどうなったのか的確に理解していた。

 

 地面を砕き、空を引き裂く勢いで繰り出された拳は、ブレイズブレードの強化プラズマコーティングで覆われた装甲に拳型の跡をつけつつ、凄まじい勢いで彼をぶっ飛ばし、アリーナの地面を引き裂きながら隔壁に衝突し、遮断シールドを『ただの勢い』だけで突き破り、観客席の客席を砕きながら彼を頂上付近まで弾き上げたのだ。

 

「………どうした、これは戦いのゴングだよ?」

 

 誰もが呆然とする中、一人優雅に立つリキュールが、はっきりと告げる。

 

 

 

「お楽しみはこれからだ。ゆっくりと、君の中にあるものを一つ一つ踏み砕こう」

 

 ―――君達が大事にしているものが、如何に無力かを教えながらね――ー

 

 

 

 

 

 





壁があってよかったね。
イヤマジでw


今回、親方様が大分おしゃべりになっていましたが、今後の展開にかかわる重要なこともいっております。


特に親方様が陽太のあり方を、彼にではなくシャルに問いかけたのは一つのポイント


 お前は陽太君を理解し切れていないだろう?

そう言いたげな親方様でしたが、次回、更に彼女は踏み込んだ話をしてくれます





PS、てか主人公死んじゃったかな?w

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