IS インフィニット・ストラトス 〜太陽の翼〜   作:フゥ太

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盆休み真っ只中の更新! 最近遅延気味だからペース取り戻せるか!?



さあこの章最後を飾る今回は、ほぼギャグ一色! そしてお色気も満載!



そして最後に衝撃発言!!です!




交わる気持ち

 

 

 

 

 

『後で話がある。私の部屋に来てくれないか?』

 

 あの後、簡単な報告を済ませた一夏は、各自の部屋に戻り今日はそのまま就寝ということになった。途中、箒は千冬に呼ばれ2、3と言葉を交わしていたが、すぐに開放されていたようだった。そして簡単に食事を取り、部屋に戻ると明かりがついていなかったことを疑問に思い首をひねるが、すぐに理由を思い出す。

 

「あっ、そういえば陽太は報告書作成の途中とかだったっけ?」

 

 マドカの襲撃にいち早く気がついていながら、ラウラに信用されていなかったことに酷く腹を立てていた陽太は、あのあと散々ラウラと真耶にグチグチと文句を垂れていたのだが、流石に途中で涙目になってきた真耶を見かねたシャルが、

 

「もう、それぐらいにしてよヨウタ? だからちょっと言葉も態度も厳しくなっちゃうけど、皆も私もホントはキミだけが頼りなんだからね……お願いだよ?」

 

 と、上目遣いの潤んだ瞳で言われたものだから、すぐに言葉を引っ込め、妙にかっこよさげな表情を作ると、心なしか上機嫌でスキップしながら帰路についたのだった。

 

「男ってアホよね。救いようがないぐらいに」

「ええ、まったく」

 

 という鈴の言葉と、冷たいセシリアの視線、そしてニコニコと笑うシャルロットを横目に、男の哀しい習性が理解できていない一夏は。何があったのか分からずに首をひねるだけだったが………。

 

「とりあえず、もうちょっとだけ待ったほうがいいのか?」

 

 後で来てほしいと言っていた以上、部屋についてすぐに行くのは気遣いが欠ける。とさっき近くで話を小耳に挟んでいたシャルに言われた一夏は、10分少々時間をつぶすためにテレビでも見ようとリモコンに手を置き………スイッチを押すことなく、何も映っていない画面をじっと見つめる。

 

「マドカ………千冬姉のクローン」

 

 自分の命を狙った年下の少女。それが実の姉のクローンであったと言われた一夏の受けた衝撃は計り知れなかった。

 

 クローン………よくいう『複製人間』などの言われ方もされるその存在。陽太曰く『歳の離れた一卵性の双子だろ?』と簡単に言っていたが、姉とも妹ともつかない三人目の血縁の存在、そして彼女を生み出した悲しい研究の存在を知った一夏は、大きく息を吸い込み、そしてゆっくりと吐き出しながらつぶやいた。

 

「俺って………本当に何も知らないんだよな」

 

 姉のことも、姉と瓜二つの少女のことも、ISのことも、そして幼馴染の少女のことも何一つ知らずに今までの日々を過ごして来た。おそらくISに関わらなければ一生そのままで過ごしていたのだろう。だが今はもう何も知らずに生きていくことはできない。

 

「皆が、何かを背負ってるんだ」

 

 自分が尊敬する姉(千冬)が、信頼する戦友(陽太)が、そして幼馴染の少女(箒)が、皆がいろいろな物を背負いながら、それでも歯を食いしばって現実と戦っているのだ。

 

 ならば、自分は何を背負う? 背負って誰と何のために戦い続ける?

 

「俺は………俺が戦う理由は」

 

 皆を守りたい。それもある。

 姉の名を継げるほどに強くなりたい。それもある。

 

「……………」

 

 だが、今の一夏の心の中には、もう一つのほのかに灯された小さな炎の存在を無意識に感じ取っていたが、思考の海の中を泳ぐ彼の耳元に、すっかり馴染んだルームメイトのだらけた声がドアの向こうから聞こえてきて、そちらのほうを振り返る。

 

「あ゛あ゛ぁ~~~………いつのまにか悪女に覚醒したシャルさんの巧みな話術によって、心清らかな少年である俺が、騙されて報告書をまじめに作成しちゃったよ……」

「おかえり………って、一応言っておくけど、それが普通だからな陽太」

 

 意外に早い帰還に驚きながらも、時間がそろそろ迫ってきたことを確認した一夏は、軽く陽太に挨拶をしつつ、部屋を入れ違いに出て行こうとする。

 

「陽太、ちょっと俺出かけてくるから」

「ん? どうした、夜這いか?」

「断じて違うっ!」

 

 色ボケにも律儀に返すも、部屋に備え付けの冷蔵庫からジュースを取り出しつつどこか落ち着かない様子の一夏を不振な表情で見る陽太だったが、次の彼のセリフを聴いた瞬間、開けようとしていた缶ジュースを手から落とすほどに衝撃を受ける。

 

「いや、何か箒の奴、話がしたいみたいでさ………部屋に来てくれって」

「ッッッッ!!!!!?」

 

 何故だか雷に打たれたかのように強いショックを受けた陽太は、ヨロヨロと自分のベッドまで千鳥足で歩き、ワナワナと震えながら激しく動揺する。

 

「そ、そんなっ! 冗談で言ってみただけなのに……………ちくしょうっ! お前が俺の先を行くというのか!?」

「はっ? えっ? あ、いや、陽太、何言ってんの?」

 

 そして何故だか一夏を恨めしそうに睨みつけること十数秒………大きく深呼吸をすると、意を決したかのように起き上がり、自分の棚の引き出しを漁り始める。

 

「チッ………よもや貴様が俺より先にこれを使うことになるとは………だが、男としていつかは避けては通れぬ道、ここは快く応援してやろうではないか」

 

 何を突然言い出してんだコイツは?

 と、不振な瞳で陽太を見つめる一夏だったが、そんな彼に対してお目当てのものを見つけた陽太は、何故だか物凄くいい表情でそれを差し出す。

 

「いいか、一気にグビッといけ」

「?」

 

 差し出されたものは、なぜか英語で書かれた栄養ドリンクであった。しかもどう考えても卑猥な男性のシンボルが書かれたその外装に、一夏が飲むのを躊躇するが、そんな彼に向かって陽太の怒鳴り声が響く。

 

「男らしく早くいけっ!!」

「わ、わかったよ」

 

 急かす声に後押しされ、彼は怪しげなドリンクを一気に飲み干す。

 

「!!………うげぇっ! な、なんだよこの味?」

 

 だが口の中に含んだ瞬間、吐き気が一気に湧き上がる不快感と後味最悪のダブルコンボが一夏に襲い掛かるが、何とか吐き出さずに根性で耐える。

 そんな一夏に対して、腕を組んだままの陽太はしれっとした表情で、こう言い放つのだった。

 

「ああ、それは性欲増強ドリンクね」

「!?」

「あとは、これだ」

 

 そして彼は一夏にとあるものを差し出す。

 

「こ、これって………」

 

 差し出されたものを手に取り、一夏が呆然としてしまうが、段々と表情を赤く染めつつ、激しく陽太の方に振り返った。

 

「いいか! お前たちは初めて同士だ! そんな二人がイキナリ素人テクニックで相手を絶頂に導こうとかムリ! 絶対ムリ!! まずは落ち着いてムードを大切にしろ! 間違ってもがっつくな! そんで無理して暴発させるな! どうせならそこのトイレで一発処理してもいい。あ、ただし後でちゃんと匂い消しておけよ」

「な、な、ななななななな………」

「一ダースあるから気兼ねするな。いくらお前が若くてドリンクに頼っても、二桁とかはムリだろう………では、成功を祈っているぞ。ぐっどらっく」

 

 親指を立てて、爽やかな笑顔を作り、快くルームメイトを送り出そうとする男………陽太の致命的な勘違いに、一夏は手に持った『ビニールに風をされたゴム状の避妊具』を手に持ちながら、叫ぶのだった。

 

 

 

 

「お前ッ!? 俺が何しに行くと思ってんだよ!?」

「何ってナニしにいくんだろ? ほら、『俺の雪片が展開装甲起動。箒ちゃんのはじめて(絶対防御)を貫きます』って」

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

「なっ………なっ!!」

 

 自室の脱衣所において、箒は濡れた髪を拭う事もできず、バスタオル一枚を体に巻いた状態で完全に硬直していた。

 

 時間は少し遡る………。

 IS学園に戻り、彼女は簡単な事後報告を千冬に行い、彼女に頭を下げる。

 

「申し訳ありませんでした………本日は戦闘中に取り乱してしまい…」

「………自分を律するだけでは息が詰まるということがわかったようだな」

 

 頭を下げた彼女に、そう告げて背を向けた千冬に、顔を上げた箒を見て、千冬は微笑んで言う。

 

「束にも今のお前の姿を見せてやりたいよ。きっと喜ぶぞ、アイツは」

 

 そう告げて場を後にする千冬に、もう一度だけ礼をした箒だったが、そんな彼女の背中に、突然抱きついてくる人物がいた。

 

「きゃあっ!」

「えへへへへへっ~~~!!」

 

 にやけた表情で腰に手を回して箒の背に顔をうずめる本音の姿に、一瞬だけ驚いた箒だったが、すぐさま穏やかな表情となり、彼女の頭を撫でながら、昼間の無礼を謝る。

 

「申し訳ない本音………昼間は、その…」

「別にいいよ~~~。またこうやってほーちゃんが『本音』って呼んでくれただけで~~~」

 

 心底嬉しそうにしている本音の姿に、自然と箒の表情も緩みだす。

 

「そうか………」

「だから、今日は謝るの禁止だからね~~~」

 

 そして彼女を連れ立って、部屋に向かう箒は、途中、一夏に会う約束をしていることを思い出し、それを何気なく本音に告げるのだった。

 

「ああ、本音。後で一夏が部屋に来る。少し話をだな………」

「ッッッッ!!!!!?」

 

 ドアノブに手を掛けながら笑顔で振り返った箒が見たのは、何故だか雷に打たれたかのように強いショックを受け、ヨロヨロと千鳥足で歩き壁にもたれかかり、ワナワナと震えながら激しく動揺する本音の姿であった………どこかで見たことがあるような光景である。

 

「そ、そんなっ! ほーちゃんがまさか既にそこまでいっていただなんて!!………だけど、こうしちゃいれないよ~!!」

 

 何か勝手にショックを受けて、何か勝手に立ち直った本音は、心配そうに自分を見つめる箒の腕を引くと、急いでドアを開き、彼女を脱衣所に押し込める。

 

「ほーちゃん! そんな汗だらけじゃ失礼だよ~! 早くシャワー浴びて~~! 念入りに身体を洗っておくんだよ~~~!」

「え? あ? いや?」

「早くして!!」

 

 何故か必死になって自分に言い聞かせる本音に圧倒され、とりあえず頷いて脱衣所で服を脱ぎ始める。そんな中でも、本音は大急ぎで掃除機を掛け始めると、何かゴトゴトと出し始めながら時折箒が理解できないことを言い始めるのだった。しかもたまに何か『ガッチャンッ!』という金属をはめ込む様な音まで鳴り響く。

 

「もう少し早く聞いていれば部屋のセッティングも完璧にできたのに~~~! あっ、とりあえず着る物はこれにして、あとは………おりむー若いけど、三ダースもあれば足りるよね!」

 

 そして箒が首をかしげながらシャワーを浴びている中、脱衣所のドアを開き、本音が声を掛ける。

 

「ほーちゃん! 下着と着替えはここにおいて置くよ~!」

「ああ、済まない」

「それと、私、席を外しておくからね~~! 時間は気にしないで、おりむーと仲良く『する』んだよ~!」

「あ、ありがとう」

 

 そこまでする必要はないのだが、確かに本音に見られたままで胸の内を一夏に伝えられるのかと聞かれれば、躊躇してしまう自分がいるのも事実。ここは本音の好意に素直に甘えようと決めた箒が、シャワーを終え、バスタオルで身体を拭きながら時間を気にしていたとき、ふと、彼女視線がとある物を捉える。

 

「?」

 

 脱衣かごの綺麗に畳んで置かれていたものなのだが、どうやらこれが本音が置いていった着替えのようなのだ。

 だが、普段から彼女はパジャマのようなものを着ることはせず、部屋着といえば剣道着か浴衣なのだが………不審に思った箒が、それを手に取り、そして………。

 

 

「なっ!」

 

 

 完全に硬直した。

 彼女の手の中にあるもの………それは世間一般でいうところの『ベビードール』という名の衣類であった。

 しかも今彼女が手にとっているものは、明らかに普通のものではない。

 ピンク色の透けて見えそうになるほどの薄い布地で、大事な部分だけは何とか見えないようにされているだけの、もはやパジャマとしての機能を完全に忘れている代物であった………(箒は知らないことだが、ベビードールはそもそも分類上下着なのだが)

 

 手にとって十数秒………ショックから立ち直った箒が、そのベビードールの下のもう一つの存在に気がつき、手にとって見るが………。

 

「ふざけるなっーーー! 本音ッーーー!!」

 

 やっぱりルームメイトの親友に向かって叫んでいた。なんせ手に取ったショーツが、レースをあしらって何処か可愛さを醸し出しているが、明らかに面先が少なすぎる同色のTバックだったためである。ベビードール着て、これを履いて後ろを振り返れば100%うら若き箒のお尻が丸見えである。

 もしこれを履いてベビードールを着て、一夏を出迎えようものなら間違いなく痴女か何かだと勘違いされてしまうと、急いで脱衣室を飛び出て、普段の自分のものを出そうとするが、備え付けの棚の前に来た時、彼女に思わぬ強敵が立ち塞がる。

 

「な、南京錠だと!?」

 

 引き戸にいつの間にかかけられた南京錠が、彼女の行く手を遮ってくる。しかも錠の太さが明らかに通常のものではなく、駐車違反の車にされるようなサイズが大きいものだった。とても人力で破壊できそうな感じではない。

 

「ぐっ! このっ!」

 

 だがパニックに陥った箒は、なんとかそれを手の力だけで引き千切ろうとするが、びくともしない………そのうち、肩で息をしながらとりあえずそっちの方を諦めた箒が、部屋の中を見回し、上に羽織るものを探すが、制服もISのスーツも本音の手によって外に持ち出された後であったようで、何一つ存在していなかった。

 

「ま、まずいっ!」

 

 このままでは一夏が来てしまう。

 自分から来いと言った以上、居留守を使うわけにもいかない。というか居留守を使っても助けを呼ぶには部屋を飛び出す必要がある………こんな格好で?

 

「出来るわけがないじゃないか!!」

 

 どんなに叫んでも時間は刻一刻と流れていく。そして自室に半ば閉じ込められた今の彼女に与えられた選択肢は三つだけであった。

 

 ・ベビードールとTバックを履いて一夏を出迎える。

 ・バスタオル一枚を巻いた状態で一夏を出迎える。

 ・どちらもいやなので全裸で出迎える。

 

「まともな選択肢がどうして一つも用意されていない!?」

 

 頭を抱えて、地面に蹲ってしまった箒は、もはや一番マシな状態であるベビードールを纏うしかないのかと半ば諦めかけるが、その時、ふとあることを思い出す。

 

「そうだ! 昨日出した浴衣! 色落ちしないように別に洗おうと!?」

 

 バスタオル一枚で再び脱衣所に駆け込んだ箒は、すぐさま洗濯籠の中にあった浴衣とを見つけ、天に感謝する………同時に、一夏と話し終えた暁に、ちょっと親友の顔面を握り締めてやろうと決意して拳を硬く握り締めたとき、部屋のドアをお目当ての人物がノックする。

 

『箒、俺だよ』

「一夏っ!?」

 

 笑顔で一夏を出迎えようとする箒だったが、今の自分の姿を見て、慌てて着替えにかかる。

 

「本音………後で覚えていろよ!」

 

 非常に癪なことであるが、今は下着はこの本音が用意してくれたものしかない………不承不承ながら、彼女は出来るだけ意識しないようにTバックとベビードールを身につけ、急いで浴衣を着て帯を巻く。

 お尻の辺りがスースーして落ち着かないことこの上ないが、これ以上一夏を待たせるわけにはいかないと、意を決してドアを開いて彼を招き入れるのだった。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

「あ、一夏………すまなかった」

 

 若干頬を赤らめながらドアを開けた箒を見た、一夏だったが、普段見る時は明らかに違った様子で彼女を見てしまっている自分に気がつく。

 

「あ、ああっ!? いや、その………ごめんなさい!!」

「??」

 

 何でか謝ってしまう。

 なんせ部屋に来るまでに、陽太がしつこく『いけ一夏! 股間の零落白夜で箒を屈服させろ!! 何ならあとコンドーさん二ダース追加するか?』とか言う物だから、いやでも箒を意識してしまうのだ。鈍感大王の異名でIS学園に君臨する一夏だが、彼も人の子男の子であるのは疑いようがない。

 しかも、今の箒は、普段の毅然とした学生服姿でも、凛として紅椿を装着した姿でもなく、普段のポニーテールを下ろした腰まで伸びる長い黒髪と、薄い朱色の浴衣姿といういでたちである。その普段とのギャップが、嫌でも一夏に彼女を一人の美少女として見せてしまうのだ。

 

「(なんか、いつもと違って………その……色っぽい)」

 

 うなじの部分が嫌に艶っぽく見える。そして何よりもここ最近ドタバタしていて、思い返すこともしていなかったが、幼馴染の少女の発育具合がどうにも今の一夏を刺激して止まないのだ。

 

「(てか、箒の奴、えらく発育が………そういえば陽太が『アレは絶対にFカップ以上はある!』とかいってたけど、だとした千冬姉と同じぐらい? 15歳で?………やばい)」

 

 思春期の一夏君を、若さゆえの動悸・息切れ・体温上昇が襲う中、箒の方もお尻の辺りの感触が慣れないのか、時折腰の辺りを気にして手で下着の位置を調節しようとする。だが、その仕草がまた一夏の本能を刺激する。

 

「(う、箒………胸だけじゃなく、腰周りも………いやいや! 今はそういうことじゃない!!)」

 

 鋼鉄の理性で無理やり本能中枢からせり上げて来る声を押し殺した一夏と、一夏にベビードールとTバックの存在を気取られないようにしようとする箒は、部屋の中で互いにベッドの上に腰を下ろし、互いを見詰め合う。

 

「……………」

「……………」

 

 が、互いを見つめあった瞬間、二人はで出しの言葉が思い浮かばず、黙り込んでしまうのだった。

 

「(やっばい………なんて話し掛けよう?)」

「(ま、まずい!?………一夏に今の私の気持ちを伝えるだけなのに、すごく緊張してきた!!)」

 

 そして互いを見詰め合うこと、数分少々………。

 

「あ、あの!?」

「あ、あの!?」

 

 同時に出てしまい、再び口を閉じてしまう。

 傍から見てももどかしい二人のそんなやり取りだったが、その内、先に意を決した箒が話を再開する。

 

「とりあえず………昼間は………ありがとう。その………色々と」

「い、いや! 気にする必要はないぞ」

「気にするに決まっている!! 私はお前に命まで助けられたんだぞ!!」

 

 ズイッ!と近寄る箒と、近づかれた分後ずさる一夏………無論、一夏が理性を保つための後退なのだが、そんな一夏の様子を理解できていない箒は、彼の様子を不審がる。

 

「ど、どうしたんだ一夏? どこか具合が悪いのか?」

「!? いや、ホント大丈夫っ!! 大丈夫だから!!」

「そうなのか?」

 

 とりあえず誤魔化しに成功した一夏が、お茶を濁すように話を続けようとする。

 

「そ、それにさ! 昼間のことなら、本当に気にする必要ないぞ! むしろ俺の方こそ色々と勉強になったから」

「………勉強?」

「ああ」

 

 そうして、一夏は昼間に会った物言わぬ少女のことを思い出し、それを箒に告げたのだった。

 

「昼間………のほほんさんと婦長さんに連れられて、簪に会った」

「!?」

「凄いな………俺、心の底から凄いと思ったよ………力がなくても、彼女は戦ってた」

「………一夏」

「力がないと戦えないとか思ってた。少なくともIS学園に来るまで、俺は何の力もなかったし………だけどそれって結局自分に言い訳して、何もしなかっただけなんだよな」

 

 彼女はその命だけでも戦うことができたのだ。ならば五体満足な自分が戦えないわけがないのだ。そう。その意志と命があれば、人はなんだって出来るように生まれているというのに、そのことを理解できず、千冬に甘えてしまっていた自分を、一夏は戒める。

 

「だから改めて思った………強くなりたい。みんなを守れる自分になりたい………力がなくても何かをしようとしている人達が、理不尽なことで悲しい思いをしないでいいように………俺は…」

 

 箒のほうを振り返って、彼ははっきりと告げる。

 

「強くなりたい。俺が俺として」

「……………そうか」

 

 そして、今度は箒がその胸のうちを見せる番である。彼女は一夏の方を穏やかな表情で言葉をつむぐ。

 

「私はな………剣になりたかった」

「………箒」

 

 悪を、悲しみを、理不尽を断ち切ることが出来る『剣』になろうと、この二年間を必死にもがいていた箒は、自分が今日の昼間にみせた復讐の心を、穏やかに受け入れ始める。

 

「だけど、黒い全身装甲(フルスキン)のISを見た瞬間、私はそんな自分を投げ捨てて、そしてそれが終わった後、剣であることすらも投げ捨てようとした」

「……………」

 

 黙って箒の方を見つめる一夏には、今、彼女が自分の中にある弱さを自分に告げていることに気がつく。自分自身の弱さと向き合って、それを受け入れようとしている箒の姿に、一夏は黙って受け入れることにする。

 

「だけど………周りの人たちは、そんな私を受け入れてくれたんだ………そして、ようやく気がつけたよ」

 

 彼女を見ていた一夏が、思わず見惚れてしまうような笑顔で答えた。

 

「心まで剣にしてしまっていた自分に気が付けたんだ………馬鹿だな私は。心まで剣にしてしまっては、何も感じることが出来なくなって、結局大事な人をも傷つけてしまうというのに」

 

 大切な人の気持ちを感じる心までもを『弱さ』だと切り捨てようとしてしまっていたことに、箒は深く反省する。

 みんなが自分を支えてくれたから、あの日、簪が自分を抱きしめてくれたから、今の自分はあるというのに………それすらも忘れようとしていたのだ。 

 

「だから、私は受け入れるよ………たとえ、それを見た誰かが、『弱さ』だと言っても」

「ああ、そうだよな!」

 

 何かを感じる心を弱さだと言われても、『それでも』自分たちは、大事に持ち続けたい………そんな気持ちを共有出来ることを一夏と箒は互いに嬉しく思ったのだった。

 

「だから、一夏………私も………皆と一緒に戦いたい」

「ああっ! てか、もう何度も一緒に戦った仲間じゃないか!!」

 

 対オーガコア部隊に正式に入隊したいという意志を表明した箒を、一夏は暖かく迎え入れる。もっとも一隊員の一夏に彼女を入隊させる権限などないが、千冬も陽太も彼女の実力は知っていよう。必ず入隊は認めてくれるはずだと半ば確信した一夏が、浮き足立って立ち上がる。

 

「よっしゃあっ! そうと決まれば、まずは陽太に話して…」

「そんなに急がなくても、茶の一杯でもこれから………」

 

 が、急に立ち上がった一夏が完全に硬直したことに気が付く。

 

「どうした一夏?」

「……………」

 

 完全に硬直して箒のベッドの枕元を凝視している一夏の視線を追っていった箒は、なぜ一夏が急に黙りこけたのか理解する。そう、一夏の視線の先にあったものとは………。

 

『避妊は男の義務なんだよ、おりむ~~~(はーと)』

 

 ―――可愛らしい文字と共に置かれた合わせて三ダースになるゴム状避妊具―――

 

「本音ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 

 舌を出しながら悪戯大成功!といった風に喜んでいるルームメイト兼親友に向かって激怒しつつ、それを取り上げてゴミ箱に放り込みながら、箒は激しく動揺する。

 

「違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う!! これは本音の悪ふざけなんだ!! 全然全然これっぽちもお前とそういう関係になりたいとかじゃないんだ!!」

「あ、ああっ………わかった。わかったから」

「ああっ! そうだ!! お茶を入れないとな!!」

 

 文字通りお茶で濁そうとする箒が行き良いよく立ち上がり、部屋に備え付けのコンロにまでいくと、彼女はお湯を沸かそうとヤカンに水を入れ始める………が、

 

「うわあちゃぁっ!」

「箒っ!?」

 

 蛇口の勢いが強すぎてしまい、それが運悪く箒の手に当たって、水を被ってしまったのだ。慌てて箒に近寄る一夏だったが、彼は今の箒の姿を見て、思わず唾を飲み込む。水に濡れた浴衣が、箒の肌に張り付いていたのだ

 

「(ごくっ)」

 

 ―――豊満な胸の谷間、くびれたウエスト、そして大人びたショーツ―――

 

「一夏、どうし……………」

 

 そして水を拭いながら一夏の方を見た箒の視線が、彼の体のとある部分を凝視して固定されてしまう。

 

 ジーンズの上からでもわかる、男性の生理的現象………即ち、

 

 

 

 ―――股間の雪片、絶賛展開装甲起動中です!!―――

 

 

 

「!?!?!?!?!?!?!?!?」

「ほ、箒………!?」

 

 そして箒の視線に気が付いた一夏が、自分の変化に気が付き、慌てて体を逸らしながら事情を説明し始める。

 

「ち、違うんだぁぁぁっぁぁ!! こ、これには深い理由があってッ!! そ、そうだっ!! ここに来る前に陽太が俺に怪しげなドリンクを飲まされてだなっ!?」

「あっ………あっ……あああっ!」

 

 生まれて初めて見た、猛る男子の象徴を目の当たりにしたうら若き乙女の箒は、ヤカンの代わりに頭から湯気を噴出しながら、後ずさり始める。

 

「あっ!………ヤダ………そんな……」

「ほ、箒っ!!」

 

 だがこのままでは、自分は箒に欲情して襲い掛かった変質者という、未来永劫拭いがたいレッテルを貼られてしまう。それだけはなんとしても阻止しないといけない。そう考えた一夏が、部屋から飛び出す前に箒を取り押さえようと手を伸ばす。

 

「ヤダァ………」

「待ってくれぇぇぇっ!!」

 

 目じりに涙をためて、顔を完全に朱色に染め上げた箒が、弱弱しく首を振りながら後ずさり、一夏が必死に手を伸ばす。

 

「きゃぁっ!」

「うおっ!!」

 

 だが、箒が途中足をもつれさせ、一夏もバランスを崩し、二人して床に倒れこんでしまう。

 

「いつつ………」

「………い、一夏」

 

 思わず目を閉じてしまった一夏が、箒の声で再び目を開く。

 

 ―――自分に右腕を抑えられ、着崩れてしまった浴衣を直そうと左手で抑える箒の姿―――

 

「あっ!」

「………その……私は」

 

 普段の一夏なら慌てて身体を引き剥がす場面なのだが、なぜか身体が言うことを聞いてくれない。まるで自分が自分でなくなってしまったかのような錯覚に襲われながら、一夏は徐々に顔を箒に近づけはじめる。

 

「い、一夏ぁっ!? そ……その…私は!?」

「ご…ごめん!! だけどっ!!」

「そ、そんなっ!? 急に!? わ、私はまだ………心の準備がっ!!」

「ホントごめんっ! だけどぉっ!!」

 

 真っ白いうなじから香る箒の匂いが、意識に靄をかけたかのように一夏の冷静さを奪い去る。徐々に近づき始める唇と唇に、一夏と箒が同時に眼を閉じ、黙ってその本能に身を委ねかけた時………。

 

 

 

「クシュンッ!」

 

 

 

 誰かのくしゃみが聞こえてくる。しかも一夏も箒もよく知っている人物の声である。二人が動きを止めしまう中、そのくしゃみの主に向かって複数から小声で注意をする声も聞こえてきた。

 

「馬鹿野郎! 今いいところなんだからよっ!」

「そうだよっ! 気が付かれたらどうすの?」

「ゴメンゴメン……つい~~」

「あそこまでいったら、後は流れに任せるだけで最後まで行きそうなんだから!」

「「「そうそうっ!!」」」

「こ、これは後学ですわ! オルコット家の次期当主として………その、わたくしの…」

「………すまん。何が起こっているのか見えないんだが?」

「お前に男女のまぐわいはまだ早い。ドイツにいる部下にでも後で聞いてろ」

「というか、鈴音は縛ったままでいいのか?」

「一夏が箒にパイルダーオンするのを止めようとするからだ。別に自分も後から一夏にしてもらえばいいだけだろうが」

「陽太っ! そんな………一夏に浮気を進める気!?」

「本気じゃないなら浮気じゃない! あ、あれだ…………一夏のことを、思い切ってバ〇ブだとでも思えばだな」

「ストップ!! それ以上言わないで!!」

「別にシャルに使えとか言ってないだろうが………………そんなもん使わなくてもだ」

「へへェ~~~! 『俺がデュノアさんを躾けてやる!』っていうのかな、火鳥君は」

「なっ!?」

「あんまりシャルを苛めるなよ。その手の話題に慣れてないんだから」

「そ、そんなことないもん! わ、私だって………」

「ええ? 何々?」

「篠ノ之さんに続いて、今度はデュノアさんまで!?」

 

 

 等々の声が聞こえてくる………無論、扉の向こうにいる人物達とは、

 

 

 ―――箒と本音の部屋のドアの前に集まる、対オーガコア部隊と箒に負の感情を抱いていない一年A組の面子達―――

 

 

 どうやら、一夏と箒の二人のやり取りを、デジカメでRECしながら面白半分で見ていた陽太と本音の姿を見たほかの女子達が、芋ずる方式で増えていったようである。

 ドアの隙間から中を除いて、皆が一夏と箒の『アレ』なシーンを今か今かと期待して待っていたのだ。ちなみに一夏に片思い中の鈴は騒ごうとした瞬間に陽太によって取り押さえられ、ロープでぐるぐる巻きにされて自室に放り込まれたようである。合掌………。

 

 年頃の女子であったがため、ある意味男子以上に、男と女の『アレ』に興味津々なお年頃。そういったことから、このような騒ぎになっていたのだが、しかし、世界とはそこまで都合よくできていなかった。

 

「まったく………」

 

 くしゃみをした本音に注意をし、陽太が再び視線とデジカメを開いたドアの隙間から中に向け、二人のあんなシーンとかこんなシーンとかを記念撮影してやろう。とした時、彼は目撃する。

 

 

 

 

 ―――額と頬に青筋を作り、般若の形相と化した箒―――

 

 

 

 

「……………」

「……………」

 

 眼が合った。

 そしてすべてを陽太は悟る。

 

 ゆっくりと、陽太が視線を外す。遅れてクラスメート達もそれに気が付き、ゆっくりと身体の向きを廊下に向け、大きく息を吸った陽太が叫んだ。

 

「ばれたっ! 逃げろぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

「きぃぃぃさぁぁぁぁぁっぁぁまぁぁぁぁぁらぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 全員が一目散でその場から退散する中、部屋のドアを粉砕して現れた、木刀を持ち完全に修羅と化した箒が、主犯格二人の追撃を行う。

 

「陽太ぁぁぁっ! 本音ぇぇぇぇぇぇっ!!」

「俺は直接お前に何もしてないだろうが!!」

「ごめんほーちゃぁぁぁん~~~!! だけどこれも、ほーちゃんのことを想ってのことなんだよ~!!」 

 

 陽太の脇に抱えられたのほほんが、必死に弁明するが、無論、面白半分でやったことは一切否定しない。

 

 木刀を持った箒と、そんな箒に追い回される陽太と本音、二人が終われば次は自分達だと恐怖するクラスメート、そしてクラスの面子に見られていたことにショックを受け、『もうお婿にいけない』と泣きながらのの字を書く一夏。

 

 騒ぎを聞きつけた千冬によって、全員即刻土下座して説教を食らうまで、彼らのやり取りはしばし続いたということだった。

 

 

 ちなみに………箒に向かっていきり立ってしまった一夏のあだ名を『ユニコーン一夏』と陽太が命名したとかは、また別のお話である。

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 日本某所・マンション15階

 

「……………おい」

 

 腹に開いた傷を突貫で塞ぎ、痛む身体を無理やり動かして敵地から相棒を救出したジーク・クサラギと、その救出された相棒の織斑マドカは、無事追っ手に追われることなく隠れ家であるマンションに辿り着いたのだが、しかし、そこで待ち受けていた事態に困惑する。具体的に言うと、目の前に差し出された物と、そしてそれを出した人物達に戸惑っていたのだ。

 

「なによ?」

 

 ぶっきらぼうに聞いたジークに対し、忙しそうにキッチンで動き回る割烹着にたすき掛けしたフリューゲルが返す。

 

「いや、こいつは………その………」

 

 ジークが帰ってきた瞬間に完全に硬直したのは部屋の内装だ。

 ちょっとした高級感はあるものの、至って普通の家庭的な内装だったはずの自分の部屋のキッチンが、気がつけばどこかの旅館の厨房と化していたのだ。

 リビングにおいていたテーブルはどこかに消え去り、代わりに移動式のガスコンロが一体化した専用のキッチンが持ち込まれていたのだ。

 しかも、冷蔵庫も消え去り、大型の業務用冷蔵庫が代わりに置かれ、隣にあったはずの食器棚も撤去されていた。

 

「(自分の部屋が帰ってきてトランスフォームしてたら、誰だって動揺すんだろ)」

 

 忙しそうに動くフリューゲルに、強く当たれないジークは黙り込んでしまう。

 

「フリューゲル!! 茶碗蒸しあがったぞ!」

「わかったわっ! フォル!?」

「山菜御飯は出来てる! お汁物ももうすぐ出来るよ!」

「メインはお前だ!? しくじるな!」

「誰に物言ってるのスピアー!? リューリュク!」

「はいはい! 今のところ、親方様の評判は上場よ!」

 

 同じく割烹着にたすき掛けしたスピアーとフォルゴーレが、プロの板前顔負けのスピードと手さばきで次々と懐石料理を作り、そしてリューリュクがそれをおぼんに載せて運んでいく。息が合った四人の動きにジークとマドカは戸惑うばかりである。曰く、

 

『史上最高最強の親方様が食されるものもまた、史上最高級でないといけないのよ! そしてそれらをご用意するのは、私たち龍騎兵(ドラグナー)の絶対優先事項!!』

 

 ということである。

 

 そしてそんな中、本日の焼き物・肉担当のフリューゲルが、改心の出来と言わんばかりに、切り終えた三色の野菜を盛り付けて言い放つ。

 

「出来た…………『牛肉の八丁味噌煮込み、三色の野菜和え』!」

「ほう………八丁味噌のあっさり仕立てか」

「この間のステーキは、親方様に不評だったからね………今日は失敗しないようしないと」

 

 三人が真剣な表情で討議しつつ、これをリューリュクに持っていかせる………そしてラストスパートといわんばかりに、残りのデザートに着手し始める中、ジークは視線を目の前に出された物に戻す。

 

 ―――薄緑の枝豆を使った豆腐、豚や蟹、烏賊や黒ゴマのムース仕立ての一品もの、鮎や里芋や獅子唐のテンプラ、鱧の湯引きに鯛やあおり烏賊の刺身、季節の野菜の酢物等々―――

 

 とても普段は手を出そうとも考えない高級感あふれる料理の数々である………これをいつもはグータラでニート寸前のあの四人が作ったとは、にわかに信じがたい。

 

「オイ二人とも。余った茶碗蒸しだ」

 

 スピアーがぶっきらぼうに差し出すと、あわててマドカがそれを受け取る。蓋をされていながらも、良い出汁の香りが実に食欲を誘う一品なのだが、スピアーとしては『これは失敗している』部類のものなのである。

 そう。今二人に出されているものは、彼女達がアレキサンドラ・リキュールに食されるには値しないと判断した『余り物』であり、四人が賄いとして食べるものをジークとマドカがご同伴させてもらっているのだ。

 

「二人とも、出さなかった肉でローストビーフ作るから、待ってなさい」

「山菜御飯と赤出汁のお味噌汁、すぐによそって上げるからね~~♪」

 

 どう考えても普段の自分が作る物よりも遥かに美味しい料理を作られているために、ジークはあっけにとられて首を縦に振るばかり………。

 

 一方、そんなジーク同様にあっけにとられていたマドカだったが、すぐさまIS学園でのやり取りを思い出し、表情を曇らせてしまう。

 

「(私は………織斑千冬に捨てられていなかった?)」

 

 家族になりたい………思いもよらぬ人物からその言葉を言われたマドカの心の内は、かつて無いほどに波立っていたのだ。

 彼女と織斑一夏を憎む気持ちを完全に失ったわけではない。だが千冬の『家族になりたい』という言葉は、かつての姉妹達が夢に描き、そして聞くことがかなわかった言葉であり、今、思い出しただけでも涙が出てきそうになる自分がいるのも事実で、そしてその事実がマドカにとあるもう一つの真実を築かせる。

 

「(私は………亡国機業(ここ)に愛着があったのか)」

 

 千冬と一夏の家族になりたいと考えた一方で、すぐに浮かんできたのは相棒のジークや、彼女を組織に導いたスコール、今日共に戦った龍騎兵の四人、道半ば倒れた戦友(マリア)の姿だった………そしてそのことが、彼女自身の変化を気がつかせたのだ。

 

「(私は、どちらにいくべきなのだろう?)」

 

 千冬の元か、今の仲間か………どちらに心を傾けるべきか迷うマドカであったが、その時、ふわりと自分の頭を撫でる手に気がつく。

 

「ジーク?」

「………どうせ、織斑千冬の言葉に悩んでんだろう?」

 

 ジークは相棒である少女の頭を撫でながら、不機嫌そうに鯛の刺身を一切れ口に放り込むと、噛みながらそっけなく言い放つ。

 

「行きたけりゃいけばいいだろうが? 別に強制しねぇーヨ」

「なっ!? そんな簡単な話ではない!!」

 

 あっさりと言われては、悩んでいる自分が馬鹿らしい。しかもこの男は、自分がいなくなっても何一つ困らないのか! そんな憤りを抱えたマドカがジークをにらむが、彼はそんな視線を何処吹く風よと受け流して、言葉を続ける。

 

「てめぇがどうあれ、俺の目的は変わらねぇー………第四世代ISを持つ織斑一夏はぶっ潰すし、火鳥陽太には必ず借りを返してこいつもぶっ殺す」

「……………」

「お前がいなくても、俺は一人でやってやらあ……………」

 

 そして視線を外したジークの微妙な態度の変化に、マドカはとあることに気がつく。

 

「(一人でも………!?)」

 

 そう、彼は『一人でも』と言っていたのだ。そしてそのことが、ジークのある本音をさらけ出していると気がついたマドカは、先ほどとは一転し、穏やかな表情でジークに問いかけた。

 

「私がいなくなったら、お前はどうするんだ?」

「だから………」

「安心しろ。私はいなくなったりしないさ! お前、私がいないと危なっかしいからな」

 

 そして珍しい、『年頃の少女』の笑顔を見せたマドカを見て、ジークも少し表情を和らげながら鼻で笑い飛ばす。

 

「言ってろバ~カ」

「なんだと!?」

 

 と、急にイチャつきだした二人をジト目で見ていたフリューゲルとスピアーは、『こいつらに料理食わせるの辞めようか?』と真剣に考え出すが、そんな二人を尻目に、一人黙々と動く者がいた。

 

「ジ~~~クん~♪ ちょっち味見して~~~♪」

 

 笑顔でジークに近寄ったフォルゴーレが、菜箸でとあるものを『ちょっとだけ』大目に(大さじ一杯山盛り)つまみ、ジークに近寄らせる。

 

「ん?」

 

 何気なく振り返りながら空けたジークの口に、フォルゴーレは『それ』を容赦なく笑顔で放り込んでみせた。

 

「味見してチョ。すり立ての、わ・さ・び?」

「ッッッッ!!!!????」

 

 瞬間、舌から発生した衝撃が脳みそを突き抜けて天高くまで湧き上がり、直後、ジークの絶叫がマンション中に響き渡るのだった…………。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

「あら? 犬の遠吠え?」

 

 そんな若い衆のやり取りとは打って変わり、最上階にある一般人が立ち入りできない特別フロアに設置された展望室全てを貸しきった宴会場で、中央に十畳ほど敷かれた畳の上に置かれたテーブル一杯に並べられた懐石料理を大いに満喫していたスコールがシレッと答える。

 

「さあな? 誰か発情して叫んでおるんじゃろ! ヒョッヒョッヒョッヒョッ!!」

 

 そしてスコールの向かい側に座ったヘパイトスが、鱧の湯引きを口にしながら、『これは京都の料亭に勝るとも劣らぬ!!』と絶賛する中、一人、杯に入った日本酒を遊ばせていたアレキサンドラ・リキュールは、展望室の窓から見える、雲ひとつ無い満月に思いを馳せる。

 

「(ジーク君を単体で退けた以上、次は私が直々に出向くしかあるまい)」

 

 陽太の実力、一夏の可能性、これらを引き出すにはジークをぶつけるのが一番だと思っていた彼女にとって、陽太が一対一でジークを退けた出来事が、嬉しい誤算となってくれた。

 

「(IS学園に私が赴く以上、お前も出てくるのか千冬?)」

 

 すでに戦える身体でないはずなのだが、あの頑固で意志を曲げることをしない千冬が大人しくしている訳が無い。半ばそう確信したリキュールは、杯を満月に向けると、微笑みながら心の中で考える。

 

「(それもよかろう。10年越しに、私が証明してやろうではないか)」

 

 その紅い瞳が一層の紅みを帯びる中、彼女はかつての親友と袂を分かった原因となる、『あの人』へと声無き意思で呟いた。

 

 

 

 

 

「(先生………貴女は、千冬ではなく、歴史に名を残す『英雄』として、私に殺されるべきだった………とな)」

 

 

 

 

 

 






と言うわけで、次からは親方様がIS学園に本格攻勢!?編になります。

と同時に、最重要キーワードとして浮上する、千冬さん、束さん、親方様三人の『先生』なる人物とは………?





親方様がいった、『英雄』
スコールがいった、『英雄』

果たしてこの二つの英雄とは、同じ人物を意味しているのでしょうか?
そして10年前………世界にいったい何があったのか?







ヒント………『白騎士事件』は、二重の意味で世界を揺るがした事件です

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